Chapter Prologue
お待たせしました!(╹◡╹)
照りつける太陽。磯の香りを運ぶ潮風、青空を優雅に舞う鳶の声。
穏やかという言葉がピッタリな世界で、星の娘は高らかに叫ぶ。
「お前達!出航の時間だ!」
「「「「アイアイサーーーーーー!!!!!」」」」
むさ苦しい海の男どもを従えて、髑髏の旗を掲げる。その中には、ジェシカやイルナ、イザルナも混じっている。
港には大量の木箱や樽が積み上げられ、船乗り達が怒号を飛ばしながら慌ただしく走り回っている。魚の匂い、酒の匂い、汗と潮の混じった独特の熱気が辺りを満たしていた。
そんな喧騒の中心で、エストレアは船首へ足を掛ける。
燃えるような紅蓮の髪を海風になびかせながら、腰に手を当てて特徴的な帽子を被って仁王立ちする姿は、もはやどこぞの海賊船長そのものだった。
「よーし! 積荷確認!」
「完了してまさぁ!」
「食料!」
「三週間分!」
「柑橘類は積んだな!?」
「五日分!」
「妥当だな」
「酒!」
「三日分でありやす!」
「hah?」
エストレアが勢いよく振り返る。
すると船員の一人が気まずそうに頭を掻いた。
「いやぁ……昨晩ちょいと盛り上がっちまいまして……」
「私に断りも入れずに酒盛りをした、と」
「へへ………───すいません!許してください!なんでもしますから!」
「よし、お前らスクワットしながら甲板掃除な」
「「「「「へっ?」」」」
「お姉様の指示が聞こえませんでしたの?さっさとスクワットしながらやるのですわぁ!!!」
「い、イエス、マム!姐さん!」
船員達の悲鳴に、エストレア達の甲板が笑いに包まれる。ジェシカも口元を隠して笑い、イザルナは呆れたように肩を竦めていた。
「悪くないだろ? こういうのも」
エストレアはそう言って海を見る。青い海で。どこまでも広く、穏やかな蒼。
数日前の帝国での出来事が嘘のように感じられる。だが、自分たちがなぜこんなむさ苦しい海の男達を引き連れて、大航海時代のようなことをしているのか。
『と、まあ。ドロドロ展開な国から、陽気で掟に縛られた海原というわけさ』
頬をベコベコに凹ませて、マストに縛られた大魔法使いマリウスはベシャっと肩にかけられたカモメのフンに顔を顰めつつ、新たな出会いの物語を紡ごうとするエストレアを眺めるのだった。
◆◇◆◇
海を恐れぬ者から死ぬ。
それは海洋連合において、子供ですら知る古い言葉。海は恵みを与える。魚を与え、航路を与え、富を与える。
だが同時に、荒波が、嵐が船を、人を、国家を、等しく飲み込む厄災にもなる。
そして時には、歴史そのものさえ変えることもあるだろう。
故に海の民は決して夜の沖を語らない。語れば、“向こう側”に見つかるからだ。
────故に、かねてよりすべて恐れたまえ。
海はゆらゆら揺れている。
浜辺でちゃぷちゃぷ、と。
波はざぁざぁ、と。
水面もきらきら、と。
精霊郷エヴァロンの片隅で、海色の精霊ウンディーネ達は足を揺らして歌っていた。
潮の匂い。
星の匂い。
過去を想う子守詩を遠い遠い、沈んだ国の匂いへと。
『お船がゆくよ、どこへゆく?』
『東へ西へ、南へ北へ!どこまでも!』
『でもでも気をつけて!』
『夜の海では下を見ちゃダメ!』
『だって深いところから見返してくるもの!』
精霊達はクスクス笑う。小さな手を繋いで、くるくる回る。
『沈んだお姫様がいるの!』
『沈んだ王様もいるの!』
『沈んだ神様、まだ起きてる!』
『起きてる、起きてる、ずっとずっと起きてるの!』
きゃはは、と歌うように笑った。そして一匹の妖精が、不意に空を見上げる。
『――あっ』
その瞬間。妖精達の笑みが止まった。
『来ちゃうね』
『来ちゃったね』
『星の娘がやってきた!』
『新しい御伽話だね!』
ゆらり、と海色の妖精が笑う。
まるで、“待っていた”とでもいうように。
──其は自由を謳う。
──陽気に笑い、隣人と酒を交わす。
──垣根はなく、故に心は自由だ。
──それでも、超えてはいけない領分がある。
── それこそが掟 ──
星の娘が紡ぐ第3の物語。自由の意味を識る渚の御伽噺。
夢を語れ。
地図を広げろ。
羅針盤は君の心の中にあり。
──星よ、君こそが嵐の航海者──
『さあ、始めよう』
第3章 海洋連合の夜明け
自由の航海者
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