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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第二章 動乱の帝国 ベル・クラウディア
205/210

Chapter epilogue Ⅵ

お待たせしました!(((o(*゜▽゜*)o)))♡

これにて、第二章帝国編は終わりです!









「お姉様、立ち会わずに良かったのですの?」


 ゴトゴトと揺れる荷馬車の中で、亜麻色の髪色の少女ジェシカが、真紅とも情熱とも言える赤色の髪をたなびかせた少女エストレアに問いかけた。


「ああ、必要ないからな」


 もうすぐ夏が近づく初夏の風を感じながら、エストレアは今は不毛の、けれどこれから先は緑豊かな大地へ向かう二つの国を想う。


 そこに、自分はもう必要ないのだから。



◆◇◆◇



 その日、人々は或る場所へと向かっていた。憲兵が一世帯ずつに通達を出したからだ。


 復興に向けて頑張っているにも関わらず、突然の招集。何を考えているんだ、と思いながらも、人々はそれでも従いながら示された場所に向かう。


 すでに指定された場所には何千人と人々が集まってきており、何かの行事イベントかと勘繰る人もいた。


 雲一つない快晴の空の下で、彼らの上から一つの影が指す。


 それと同時に、『晴れているにも関わらず、遠くから雷鳴が轟く』のを聞いた。


 ドヨドヨと不安がる中、その影は彼らの真上、切り立った崖の上から差していた。


『よく来てくれた、親愛なる帝国の民達よ』


 凛とした涼やかな声を発するその人物は逆光でその姿は見ることはできなかったが、けれどその者が手に持つ剣だけは見間違えるはずもなく。


 気がつけば、集まっていた人々は皆こぞって大地にその額を擦り付けた。


『魔剣だ……!』『帝国の主……!』など、所々から畏敬とも言えるような小声が聞こえ始める。小さな声は集まれば怒号にも近くなる。


『我が名はネレウス・ガイエウス・ドェル・ヴァン・ロマルナ。ロマリス大帝国第30代皇帝テオドラウス帝の曽孫であり、魔剣を継承した者也」


 ウオオオオオオ!!!!と声はさらに高くなる。それだけ人々は願っていた。時代の超克者こそ、帝国の主、皇帝なのだから。


 厄災去し後も、その後の未来を人々は不安を拭いきれない。導いてくれるものを求める。


 縋りたいのだ。帝国が二分してからというもの、毒の雨、作物育たぬ大地、汚れた水源。飢えから死体にも齧り付く不毛の冬の日々。


 世界に喧嘩を売った独裁者も、不毛とはいえ故郷を去らねばならないほどの厄災を乗り越えたと言っても、自分たちはまだこんなに弱いのだから、と。


 歴代の皇帝も、その魔剣の威光で導いてくれた。ならば、此度も我らを導いてくれるのだと、身勝手だと知りながら縋らざるを得ない。


 ボルテージが上がっていく。魔剣の継承者が何も言わないことをいい事に、その期待を超えた擦り付けに近い声が鰻登りになっていく。





「おうおう、すげえ歓声」


 ネロの横で見下ろしながら、軽口を叩くのはクローディンだ。


 ネロたっての希望で、クローディンとアリスは立ち合い人となっている。


「お兄様、邪魔をしてはなりませんよ?」


 そこへ嗜めるようにアリスが苦言をクローディンに投げかける。それでも、クローディンは肩をすくめながら右から左へと流すように聞き抜けていく。


「しねえよ。晴れ舞台をぶっ壊すほど人間出来てねえからよ。まあ、緊張は解けただろ」


 その返しにアリスは少し虚を突かれたものの、次の瞬間には朗らかに笑う。実はアリスもネロの雰囲気に飲まれかけ、その心因をシンクロしてしまうほどにガチガチになっていた。


「2人とも、ありがとうな。見てろよ、歴史を変える瞬間ってやつをさ」


 ネロは背後の2人に感謝しつつ、民衆に対して投げかける言葉を一句一句魂を込めていく。


『諸君』


『長きに渡る日々、その生きる日全てに我は敬意を』


『そして謝らせてほしい。我は魔剣を継承しながら、我はこの大国の大地にいなかったことを。この国ではなく、他国に人としての生を謳歌していたことを』


 ネロは語る。魔剣を継いでから、なぜもう一度戻ることを決めたのかを。そしてさらに語る。国民の凄惨さをなぜ見なかったのかも。


『こんなことを語って、何になると思うだろう。我も諸君らの輪に入っていたならばそう感じている』


『だが。我が諸君らに伝えたいことは、このような愚痴を漏らすためではない。我が今行おうとすることは、諸君らの期待を殺すことになる。しかし、これをしなければ我を含めた皆は『永遠に神話に縛られることになる』』


 途端に発せられた言葉に重力が加える。無理やり膝つかせるほどの圧力が降ってくる。それはこれから言おうとする言葉に反論させないがためとも言える。


『諸君らは幾度となく見たはずだ。国の窮地に現れる雷光の剣を。人々の安寧を齎す魔竜の牙を。そうして国を豊かに強く育てたのは間違いようがなかった』


『諸君らは魔剣に救いを求めた。歴代の皇帝もまた、この剣で帝国を守ってきた』


『だが、人はいつしか願ってしまった。苦しみを終わらせる英雄を。全てを解決する超越者を』


『そして、我ら継承者もまた、その願いに甘えた。応えねばと焦った』


 だが、それではダメだ、と。


 人が人として立つ未来を望むならば、いつまでも奇跡に縋ってはならないのだと。


 神話という古い蛹を脱ぎ捨てて、新しい未来へ飛び立つ気概がいるのだと。


『故に――』


 ネロは静かに、されど断頭台へ登る罪人のような覚悟を以て、魔剣を掲げる。


『我はここに、神話の終焉を!魔剣を大地に奉還することを宣言する!』


 シィ……ンと静まり返る。あれほど熱狂していた声がまるで凍りついたかのように止まっている。


『諸君らは、生き抜いた』


『毒雨を越え、飢えを越え、地獄を越え、それでもなお立っている。国が二分されようとも、混乱の渦に呑まれようとも諸君らは生きている。ならば、もう魔剣に縋る必要はない!』


 力強い声と共に、ネロは魔剣───魔剣ズツァニッグを引き抜く。


 ピシャアァアァン!!!と快晴の空に雷鳴が轟く。


「数千年の時を見守ってきたことを感謝しよう!人々の心に汝あり!故に魔剣よ!最後の仕事を汝に命じよう!」


 ズンッ!とネロは足元の大地に魔剣を突き刺す。


「魔剣よ、大地に還るがよい!厄災は去れり、人々は前に進める力あり!導く皇帝なくとも、取り合える力は心にあり!」



── 星の夢。時代ときの果て。人の形。宇宙そらの形。


── 微睡む君と積み上げた形に、一時の別れを。


── いつか、貴方(君)を必要とするその日まで、永久とこしえに見守ろう。



「魔剣ズツァニッグよ、汝を大地に奉還する!」


「神話は終わり、人は大地を行く! 皇帝の威光ひかりなくとも、我らの心に絆は潰えず!」


「眠れ、魔剣ズツァニッグ。───我が全霊を以て、ここに神話を大地へ返す時だ!」


 そしてそっと手を離し、ゆっくりと距離を取る。魔剣から、全盛期の威光が、そして彼女自身の魂の輝きが奔流となって溢れ出す。


 それは数千年の歴史に幕を引く、終わりの、そして始まりの光。


 神話の時代、バモレッドがズツァニッグを討ち、その体内から魔剣を見出した時から始まった帝国の物語は今ここで新たに踏み出す一歩になるのだから。



 大地に突き刺さった魔剣は力強く当たり一面に雷撃を撒き散らしていく。


 やがて突き刺さった大地から抵抗なく抜け出すと、光り輝きながら宙に浮かび始めた。




───そして。




───パリィイイイィイィィン…………



 ガラスが割れるような音と共に、魔剣は光の中へ消えていった。



──ありがとうな、ズツァニッグ。


──骸は大地に還る。それが世の常の理。だが、いつか必要になれば喚ぶがよい。


──そうならないようにするさ。


──さらばだ、我が契約者よ。





◆◇



光が晴れた時、人々は困惑の渦中にあった。


「魔剣が………」


「救ってくれるんじゃなかったのか?」


 仰々しい雰囲気の中で自分たちを救ってくれるのかと思いきや、目にしたのは魔剣が世界から姿を消す瞬間だった。


「なんで……なんでだっ────「お母さん!見て!お花咲いてる!!!」」


 誰かが苛立ちから怒りの声を上げようとした瞬間だった。


 遮るように小さな子供の無邪気なその声につられるように、人々は恐る恐る大地へ目を向けた。


 黒く痩せ細っていたはずの土。


 毒雨に焼かれ、何も育たなくなったはずの大地。


 そこには小さな花々が咲いていた。


 白。黄。薄紅。


 踏み締められた荒野の隙間から、まるで長い冬の終わりを告げるように。


 枯れた井戸からは吹きこぼれるように清らかな澄み水が溢れ出す。


 立ち枯れした木々は時間が巻き戻るように緑が生い茂る。


 黒く濁り、異臭を放つ水源は多様な生き物達が住まう楽園へと回帰した。


「すげえ。これが魔剣というか伝説の竜の力……!俺たちがどうすりゃいいのかって悩んでた一番の難関を1発で解決しやがった」


 クローディンの言葉が全てを物語る。死したアランでも、荒廃した大地をどう再生するのか、どれほどの年月を有するかと悩ませてもいたのだから。


「クローディン、これでお前の望む統治がやりやすいだろう?」


「あぁ?あったりまえだろうが!これで結果出なかったら、クソ兄貴に地獄で笑われるわっ!」


 そして彼は民衆がいるところまで駆け降りると、その無駄に大きな声で彼らに語りかける。


「おらっ!お前ら、政府から種籾を配るぞ!欲しいやつは並べ!!!あ、ちょと、押しかけないでくれる?おい、憲兵!俺を守れ!?」


 少しばかり軽率すぎて、パニックになる義兄を見てクスッと笑うアリス。そして、畏怖しつつも敬愛していた故アラン率いる派閥メンバーもいる。彼らの時代は明るいだろう。


 きっと何処かで暗雲が漂う時もある。それでも、彼らは未来に向かって歩みを止めることはない。


(もういいよな。エストレア、ジェシカ、イルナ、イザルナ。楽しかったぜ………)


 クローディンはポケットに忍ばせていた魔力に満ち溢れた魔石を嵌め込んだ指輪をそっと砕いたのだった。



◆◇






◆◇◆◇







「お姉様、見てくださいませ!大地が……大地にたくさんの花が咲いていますわ!」


「あぁ……」


 エストレアは荷馬車の縁に手を添え、風に揺れる草花を見つめた。

 

 環境破壊と毒雨に苛まれ続けたはずの大地に、いつの間にか柔らかな緑が広がっている。


 その先端には、ちいさな花弁が朝露を受けるように揺れていた。


「本当に……咲いていますの……」


 ジェシカが息を呑む。その声は驚きよりも、どこか安堵に近い。


「……ああ」


 エストレアは小さく笑った。それは勝利の笑みではない。長い冬の全貌がようやく終わったことを知る者だけが浮かべられる、静かな顔だった。


──パキッ


「む?」


「あら?あ……隷属の首輪が外れてますわ」


 そんな時、彼女達の首元につけられていた奴隷の証たる首輪が音を立てて砕け散る。


「クローディンめ……餞別のつもりか」


 食えないやつ、とエストレアは軽く笑う。その笑顔はあどけない少女のもの。この地の物語は終わり。彼女達が向かう先は何処になるのか。





「あの〜〜それにしても、いつになったら縄を解いてくれるんだい???」


「…………」


「無視は良くないなぁ、うん。ね、エストレア縄を解いてくれないか、蒸れちゃって痒いんだよ」


 穏やかな雰囲気をぶち壊すが如く、荷馬車の一角で、厳重に簀巻きにされて転がる大魔法使いマリウスが縋るようにエストレア達を見やる。


 だが、帰ってくるのは豚を見るような蔑みの視線。


「知らん。そのまま痒みにでものたうち回っていろ」


「謝るから!謝るからさ!もうあんなことしないから!お願い!ね?お願い!」


「…………」


「うわああああああー!!!!」


 




















































───星は二つ目を踏破した。紡がれし物語は三つ目の運命を迎え入れる事だろう。


帝国編スタートはなんと4年前。かかり過ぎるッッッ!でも、章はこれでおしまい。次回をお楽しみに♪






 少しでも面白い、続きが気になると思った方は感想、評価、ブクマ、いいねをよろしくお願いします。

これからも、この物語を見守ってくださると嬉しいです!

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