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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第二章 動乱の帝国 ベル・クラウディア
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Chapter epilogue Ⅴ

お待たせしました!W(`0`)W



【???】


──『まさか、この子に継承されるなんて……!』


 物心ついた時、自分の手には雷を放つ大きな剣がそばにあった。いつから、ということは分からない。


 ただ自分が自分であると確信した時には既にその手に握られていた。重さを一切感じない馴染んだ感触を覚えている。


 古い記憶を掘り起こせば、そんなもの。ただ母親が己の祖父の言葉を信じて急ぐように馬車を走らせていたことは覚えていた。


 その馬車の中に、自分はいた。大事そうに稲妻を放ち続ける大剣を握りしめて。


 母の嘆くような声は今でも覚えている。一緒にいた人達──今思えば侍従達もまた悲しげな顔をしていたのも覚えている。



『ごめんなさい、可愛い◯◯◯◯。私に貴女にできることはほとんど残っていないの……!』


『ああ、神様。貴方は残酷です。なぜこの子を、時代の超克者に選んだのでしょうか』


『奥様……!』


 彼らが言っていた言葉はほとんど理解できなかった。子供ながらに必死に反芻してもわからないものはわからない。


 ただまるで自分の一部と言える心地よさを、幼い私が握る大きな剣から感じていたことだけは覚えていた。


 ゴロゴロゴロゴロ……!と天に轟く雷鳴が私の瞳の中に映る。


 宙にうねるように地に落ちる様はまるで、絵本の中のドラゴンのように見えた。


───それはきっと、これから自分の人生が決定づけられたのだろう。




◆◇◆◇




「くそっ、思い出させやがって……」


 その日の夜、ネロは玉粒のような汗を浮かべて、目を覚ました。


 脳裏に蘇る、今日の出来事も相まって苛立ちも強まる。


 視界の隅に映る立てかけられた大剣を見つめながら、自分らしからぬ思考に沈んでいくのを感じ取っていた。


 魔剣ズツァニッグ。


 帝国の建国神話にその名を刻んだ超がいくつも付いた弩級のドラゴン。


 帝国の皇帝、その初代皇帝が打ち倒したドラゴンの体内から出てきた剣が、今自分が握りしめている『魔剣』そのものだと幼い自分に言い聞かされていた。


 帝国の大地を離れた自分たち家族は新天地としてシェートリンド王国に逃げた。成長し、体も大きくなってきたところで、兄として慕い従者としてきていたレンヤと共に冒険者として活動した。


 だが。


 魔剣は常に訴えていた。その力をお前の祖国でその力を振るえ、と。大地に脈動する大悪を討て、と。


──契約者よ、我が選びし者よ、お前の使命を忘れるな


 刷り込みのように頭に入ってくるというのに、気持ち悪いはずなのになぜか受け入れている自分が、怖かったのだ。


「くそっ、いざってなると尻込みしやがる……」


 決意を持って帝国に戻ったのは己の意思だ。


 祖国と言っていいのかはわからないが父祖の大地に踏みしめたのは事実なのだから。


 だがどうしてもその一歩が出せない。


 『魔剣を持つことの意味』を。


 二つに割れた原因である魔剣の所持者が実在した現実と『文字通り、玉座に座る資格』を持った自分の未来図を思い描けない葛藤から。


「あぁ、もうっ!くそっ!」


 ネロは『いつものように』壁に立てかけた魔剣を背負うと、火照る体を冷ますために夜風にあたるべく外に出た。


 ヒョオオオ……と頬を撫でる風はもののすぐに熱を帯びた体を冷やしていく。ただ、このまま戻るのもなんとなく嫌だったので、夜の道を散策することに。


「ほんと、すぐ復興するよな……」


 ランタン片手に散策を続けると、ランタンに照らされた復興途中の街並みが目に飛び込んでくる。


 この二つの帝国の存亡に関わる大災害、【地脈焼却式対界殲滅躯体イズバザデン・アポクリフォート】を撃破してから、それ以前まであった酸を浴びた猛毒の雨が降ることはなくなった。


 流石に毒が染み込んだ不作続きの土地が回復するのは自分が死んだとしても厳しいかもしれないが、ネロはこう思うのだ。






───『魔剣に選ばれた皇帝なんてなくてもいいのでは?』と。





 そんな時だった。


「あ?ネロじゃねえか。どうしたんだよ、こんな夜更けによ」


 気だるげに佇む1人の男。ほんの数刻前まで自分と同じように、在り方から逃げようとして立ち上がる意味を見出した男。


 クローディンが夜空を見上げながら、ネロの姿を捉えた。


『国の運営に国民の意思を反映させる民主的かつ平等』


 その理想を背負い直した男の瞳が真っ直ぐ純粋な意思で貫いたのを感じ取ったのだった。




◆◇




 奇しくも同時刻。


 山のように舞い込んでくる他国からの援助の書類決済を生き残った政治官僚達と共に捌いていた時だった。


「くあぁーー!やってやったぜ!」


 バキバキに凝り固まった筋肉をほぐしながら、クローディンは硬い椅子の上から大きく伸びをする。


「皇子、あとは引き継ぎますから休んでください」


「んあ?お前らがそういうなら甘えさせてもらうわ」


 微笑ましそうな表情でクローディンを見送る官僚達の好意を肯定的に受け取ると、満天の空の下をあてもなくフラフラと歩く。


「くあぁ……。いや、しっかしこんな空は珍しいもんだ」


 クローディンの言葉には、まるで夜の晴れ空なんて存在しないかのような言葉が紡がれる。


 それもそのはず。この二つの帝国の空は、巨大なカルデラの内にあり、そして酸性の雨が絶えず降り注ぐ不毛をもたらす空しかなかったのだから。


「あいつが来てから退屈しねえわ」


 クローディンの脳裏に浮かぶのは、意図せず己の駒となった【魔王の娘】エストレアの姿があった。


 彼女が来てからというもの、元々動乱の中にあった二つの帝国はさらに強く動き、まるで歴史の転換期のような騒動の日々。


 そして、帝国という建国の裏で存在した怨嗟の歴史カヴァラ一族の暗躍と帝国どころか世界そのものを揺るがしかねない厄災、追いかけ打倒するはずの兄の喪失と続き、クローディンは当事者として星空の下で思い出すかのように目を閉じる。


「もう俺の手には負えねえわ」


 その言葉は誰に向けたものか。それを知るものは彼しかいないだろう。


 そんな折だった。


 クローディンの向こうから誰かが歩いてくる。まるで自分と同じであてもなく歩いているようで、それでいて対極的な印象を受ける。


「ネロじゃねえか。何してんだ、こんな夜更けによ」


 クローディンが声をかけると、対面する人物──ネロと視線が交じり合う。


(なんか、すげーやつれてんな。兄貴が死んだって時に落ち込んだ俺みてえだ)


 どうも他人事には感じられない、言葉にはできない何かをクローディンは感じ取っていた。


「?クローディン、か」


 それはあちらも同じらしく、憑き物が落ちない顔色のまま、クローディンを見据えていた。


 王になる資格と使命を背負った少女と、王の血族であり、魔剣に選ばれなくとも国の明日に理想を目指そうとする男。


 2人の間に走るシンパシーはこの時の彼らにしかわからないだろう。


 


◆◇◆◇





「ふぅん?………苦労してんな」


 邂逅した2人。満天の空の下、瓦礫の一つに腰掛けながら、クローディンはネロの止まらない愚痴のような言葉に終始相槌を打ちながら聞いていた。


 ルーツを辿れば、2人は腹違いの兄弟だ。太祖バモレッドの血を受け継ぐ帝国の子。


 混乱の末に二つに割れたものの、帝国の大地は変わりはしない。あるとすれば、混乱から逃げた先で魔剣に選ばれた少女と、動乱の中で弱きもののために泥臭く戦う男なだけ。


 クローディンにとっては、ついさっきまで押しつぶされそうな自分を投影してしまうほどの、ネロの言葉に一切言葉を挟まずに聞き続けた。


「悪りぃ、変に言葉が出てきやがった」

 

「気にすんな。言いたいことあるなら今のうちに吐いとけ。一応、家族なんだからよ」


 嘘だ。クローディンの中にネロはいない。ただ血族なだけ。それでもどうしてそんな言葉を使ったのかは彼ですらわからなかった。


「魔剣か。俺にとっちゃ、どんなもんなのか、ってのはイメージ湧かなかったけどな。お前の話聞いたら、今の時代に、いらねえって思うわ」


「昔なら、多分選ばれるってのは名誉なんだろうよ。国を率いる王様の象徴だ。国民も、苦難を開いてくれる救世主だって信じてるやつもいる。でもな、『選ばれたお前をこんなに苦しませる』システムがあるってことが間違ってる、ってはよぉくわかったわ」


 クローディンの口から出た言葉は、ある意味帝国そのものに対する憎悪に近い感情だった。


 なんでかはわからない。少し前の自分なら、羨ましく思ったはずだと確信しているから。


「俺はよ。確かに王にはなりたかった。ベル・クラウディア帝国を民を尊重して、平等な権利を齎せる君主になりたいって思ってたわ。今でもそれは変わらねえ」


 ネロは答えない。クローディンの言葉を一句一句聞き漏らすまいと耳を傾ける。


「だからよ。お前もしたいようにすればいいじゃねえか。もう時代の超克は終わったんだ。なら、帝国のために尽くす必要はねえんじゃねえの?魔剣なくたって、これまで国は割れていても続いたんだからよ」


「……帝国のために、尽くす必要はない?」


 ネロの声は、夜風にさらわれて消えてしまいそうなほど細かった。


 幼い頃から、母の嘆きと共に、魔剣の鼓動と共に、呪いのように刷り込まれてきた「使命」。それを、目の前の男はあまりにもあっさりと、ゴミ捨て場のガラクタでも語るかのように否定してみせたのだ。


「ああ。少なくとも、剣に命令されてやるような仕事じゃねえ。国なんてのは、そこに住んでる奴らが勝手に幸せになるためにあるもんだ。誰か一人が血を吐きながら背負わなきゃ維持できねえような国なら、そんなもん一度ぶっ壊しちまった方がマシだろ」


 クローディンは鼻で笑うと、腰掛けていた瓦礫から飛び降りた。着地の際、軍靴がジャリリと音を立てる。その足取りには、先ほどまでの激務の疲れを感じさせない、確かな「地踏み」の強さがあった。


「選ばれちまったもんは仕方ねえ。だがな、ネロ。その剣をお前の『主』にするか、ただの『道具』にするかは、お前が決めることだ。……帝国うちの建国神話がどうだろうと、今のベル・クラウディアに、泣きそうな顔して大剣引きずってるガキの皇帝なんて必要ねえんだよ」


 クローディンはネロの隣を通り過ぎる際、その華奢な肩を、大きな手で一度だけ強く叩いた。


「もし、その剣がどうしても『大地を救え』ってうるさくて仕方がねえなら──その時は、俺が作った『新しい国』の庭掃除にでも使わせてやるよ。それくらいなら、その魔剣様も文句はねえだろ?」


「……っ、はは。……なんだよ、それ」


 ネロの口から、乾いた、けれど先ほどまでとは違う体温の宿った笑いが漏れた。


 「魔剣の主」でも「帝国の後継者」でもない。ただのネロという少女に向けられた、クローディンなりの、あまりにも不器用で傲慢な「家族」としての言葉。


「言いてえことはそれだけさ」


 風邪引くんじゃねえぞ、とクローディンは夜の向こうへ消えていく。


 1人残されたネロは背負った魔剣を引き抜くとその刀身に自らの顔を映す。そこには、憑き物が落ちたかのような、晴れ晴れした表情があった。


「決めたよ、ズツァニッグ」


 少女は決意する。そこには、迷いはない。


「お前を、あるべき場所に帰そう」



エストレア: Zz◟(๑ᵕ⌓ᵕ̤)◞。o○「新作スイーツ食べ放題、だとっ!?」





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