Chapter epilogue Ⅳ
お待たせしました!(=´∀`)
「それで、どうするんだネロ?」
重い沈黙の中、エストレアは壁に寄りかかるネロに問う。
その問いの重さは、決して軽いものではない。
もっと言えば、この問いに対してエストレア自体が部外者故にネロは答える義務はない。
だが、共にあの機械仕掛けの巨神と戦ったのだ。ならば、聞く権利くらいはあるはずである。
「…………」
だが彼女は沈黙したまま。晒しで封した魔剣をチラ見したものの、ネロは口を開こうとはしなかった。
だが、エストレアの『眼』は誤魔化せない。使うことさえ躊躇う『透視』を使おうかと考えていると──
「そこからは俺が話そう」
まるで霞が如く、突如として1人の男が現れる。
「レンヤか」
「久しぶりだな、エレン。ウルマトの上位竜の一件以来か」
レンヤ・ジウスティア。ネロの兄ということだったが、何故ここで彼がくるのだろう。
相も変わらず、黙り込むネロを一瞥しつつもエストレアはレンヤに視線を向ける。いつでもいいぞ、という意思表示だ。
「エレン、お前は二つの帝国が出来た理由はどこまで知っている?」
「それなら後継者争いによって分裂したというのが、公的理由だったはずだ。実際は違う、というのも暗黙でもあった、と」
唐突に告げられた言葉に、エストレアは模範的に答える。帝国の成り立ち、歴史はどの国であっても共通の認識だからだ。
「そうだ。帝国はかつてロマリスという大帝国だった。神祖バモレッド帝により始まり、討ち取った魔竜から得た魔剣を継承して、だ」
「魔剣は語らずとも、意志がある。それはバモレッドの血を引く人間の中で、『その時代に起こり得る災厄の超克できる人間』を選ぶ」
つまり、かつての帝国を統べる歴代の皇帝は魔剣に『お前の生きている間に起こる災厄を対処させる』ための装置であり、また国を維持させる機能でもあったということだ。
「魔剣を継承できなかった皇族は、その玉座に座る資格はない。故に事実上の最後の皇帝となったテオドラウス帝の崩御したあと、『次代を選ぶ魔剣が現れなかった』ことで、混乱が加速した」
アリスがクローディンを叱咤した時の言葉が蘇る。
『どれほど理想を掲げても、我らの手に魔剣はない』
本来、魔剣保有者が死ねば、魔剣は次を選ぶ。いつの時代でもそうであったのだから、次が現れないということが異常なのだ。
「だが、魔剣はすでに選んでいた。いや、選んだ先が予想とは大きく外れていた」
「帝国の皇族の誰かではなく。またはその親族でもなく」
「テオドラウス帝が継承争いから遠ざけるために国外に逃した妾妃が産んだ、生まれたばかりの赤子の手に」
レンヤの言葉に反応したのか、ネロの肩が僅かに震えるのを見た。
「じゃあ、ネロは……」
エストレアの言葉はほぼ確信に辿り着いていた。
「そうだ。ネロこそ、魔剣が選定した資格者。手にしたいと望んでいなかった彼女を、魔剣は選んだ。超克者として」
ブルブルとネロの肩が、体が震え始める。それはそれ以上聞きたくない、言わせたくないという感情だと、眼の機能である『透視』がはっきりと捉えていた。
「……やめろ」
「真名、ネレウス・ガイエウス・ドェル・ヴァン・ロマルナ。ロマリス大帝国第30代皇帝テオドラウス帝の妃が産みし娘、マリアン様が子であり、『我が忠誠を誓う』帝国の真の主」
「やめろよっ!!!!」
ここにきて初めて言葉を発したネロの悲しみに満ちた言葉が木霊する。
「お前からそんな言葉は聞きたくねえって言ったろ……!」
嗚咽にも似た感情の発露。認めなければならないが、認めたくないという感情が渦巻くのが見て取れる。
「いつかは向き合わなければならない。違うか?」
「そのためにこの大地に足を踏み入れたんだろう?ニースも、そして俺はいなかったが、火山に巣食っていた怪物も倒した。残る問題は、魔剣を手にしたお前が玉座に座るのかということだけだ」
「クローディンは、立ち上がった。アリスも理想を見つめ直した。死したアランは信念に殉じた」
レンヤはネロに周りは覚悟を決めたのだから、お前自身も決めるべきだ、と従者としての進言なのだろう。
ましてや、ネロは『地脈焼却式対界殲滅躯体イズバザデン・アポクリフォート』との戦いで『魔剣と真なる契約』を交わして竜魔人と呼ばれる存在になった。
既に次代の皇帝としてその資格を証明してしまった。
それ故に、『逃げ場はどこにもない』ことを暗に示しているということ。
エストレアはネロの姿を冒険者のネロという姿しか知らない。竜魔人としてのネロも、あの戦いの時しか知らない。
一介の冒険者として生きてきた彼女に降りかかる運命の重さは、エストレアには到底分かるはずもない。
「俺は……、皇帝の地位なんてどうでもよかった。いつかは向き合わなければ、って分かってた。でも、可能な限り、今のままがずっとよかったんだよ……!」
「あの酒場で笑って、依頼受けて……くだらねえことで笑ってる、あの時間が――」
「俺は好きだったんだ……!」
エストレアは、この時クローディンと同じように問いを投げたことを悔いていた。
何故なら、クローディンやアリスとは全く異なる──されど同じ深度の重さがあったから。
ただ単に結論を出すとのは訳が違う。文字通り、彼女自身の問題だ。
───その瞬間だった。
──ドクンッ
空気を震わす脈動が、魔剣から発せられた。まるで、催促するように。若しくは全く異なる選択をネロに教えるかのように。
「俺は────」
◆◇◆◇
外に出たエストレアは夕暮れになりそうな空を見上げていた。
(雨雲ばかりの空がないというのは、なんというのだろうな……)
ベル・クラウディア帝国もファンテリム帝国も、今までは酸の雨が降る地獄の土地だった。
(この帝国は、動乱そのものだったな)
水源も汚れ、作物はまともに育たず、飢えに飢えて死んだ人間の肉にすら齧り付くほどの極限圏。
神代からの怨嗟を連綿と受け継ぎ、帝国の大地を汚した一族の末路、己の未来を決める災厄の巨神、そして信じるものの向き合い方。
どれも想像を絶するものだった。そして、終わったからこそ、見えてきたものもある。
(ネロ……お前はどうする?)
結局の話、あの場所ではネロは結論は出さなかった。いや、出すことを決めていても言葉にするにはまだ早すぎると感じていた。
「お姉様ーーー!!!」
遠くからジェシカがゴーレムの肩に乗って手を振っているのが見える。そばにはダークエルフの双子の姿。
そして───
「あ、エストレア。またあった……ねぇええええええ!!!??」
エストレアは瞬時に間合いを詰めて、『何度も殺したいくらいには憎たらしい魔法使い』の腹に渾身の飛び蹴りを叩き込んだ。
「ふっ、ふふふ、マリウス、貴様に受けた屈辱、晴らさせてもらうぞ。覚悟しろよ?」
「えぇ!?あの時に顔面連打された時にチャラになったじゃないか!?理不尽すぎないか!?」
「理不尽?貴様の言えた義理じゃないだろう。貴様が帝国に行くことを勧めた癖に、勝手に奴隷に落とされた上に政治戦争に片足を突っ込んだんだ。馬乗り連打でも足りる訳がない」
「いや、それは深ぁ〜い理由があってだね……」
「問答無用!覚悟しろ!」
「ギャァアアァアアアァアアァアアァ!!!!!」
キャメルクラッチを極められ、絶叫するマリウス。さらに立て続けに関節技を決めていく。
・脇固め
・蟹挟み
・海老反り
と身体に過負荷を与える関節技を次々と憎たらしい魔法使いに極めていく。
「いい気味ですわ」
「「姫様流石」」
「君たち、見てない、で、助け、いたたたたたっ!!!?だって、そうしないと、君たちが危なかったんだ、から、さぁ!痛ぁい!!!!」
「黙れ!!三角絞めだ!!!」
「ウギャア!!!」
「死ぬ死ぬ!本当に死ぬから!」と喚き散らす馬鹿を無視しながら、積年の恨みつらみを晴らすが如く猛攻の手を緩めない。
おまけに「あ、いい匂い」などと戯言を抜かし始めた為に、逆十字を決めていく。
やがて泡を吹いて気絶したのを確認すると雑巾を投げる様に拘束を解いていく。その顔にはスッキリしたと言わんばかりの笑みが浮かんでいた。
「ふう、清々した」
パンパンと手を払いながら、ゴミを見る様な目で気絶した馬鹿を睥睨し、その足を掴んで引きずる様に帰路に着く。
引きずられていく男、マリウス。夕陽が長く伸び、その影を無惨に地面に映し出す。
「いい匂い」という最悪の失言に対する代償は、彼の関節に刻まれた。
泡を吹き、魂が口から半分はみ出したような顔で、彼は木に括り付けられる。
エストレアは満足げに手を払い、ジェシカや双子たちと談笑しながら去っていく。
その後ろ姿は、どこまでも凛として、どこまでも「清々して」いた。
その後、ボロ雑巾になったマリウスは木に縛り付けられて、夜風にさらされたそうな。
【酷いじゃないかぁ!】
その言葉はまさしく哀愁に満ちた叫び。だが、それが届くことはない。
───合掌。
「お母さん、あれなぁに?」
「シッ!見ちゃダメよ」
少しでも面白い、続きが気になると思った方は感想、評価、ブクマ、いいねをよろしくお願いします。
これからも、この物語を見守ってくださると嬉しいです!




