chapter10-8
お待たせしました!二章ラスボス、起動!
ま、起動しただけで被害はまだなんですけどね(。-_-。)
溶岩から放たれる熱気と噴出を背景にして、エストレア達はかつてない窮地に立たされていた。
『魔剣使い、錬金術師、双子の太陽の影。バランスが取れているではないか』
赤い外套をたなびかせ、それはゆっくりと地面に着地する。同時に、そばにいた禍々しい大剣を携えた青年も降りてくる。
「てめえら、なにもんだ。ここで何してやがった」
ネロが牙を剥き出しにして、唸るように威嚇する。既に魔剣に魔力を滾らせて、すぐにでも攻撃に移れる態勢だ。
「それをお前たちに答える必要はない」
答えたのは禍々しい大剣を持った青年。黒髪に赤いメッシュのようなものが混じる精悍な身体。
「へぇ、答えないって事は疾しいことがあるってことだよな」
───パリィ………!!!
一触即発。ネロは豹のようにしなやかに身構えるが、外套を纏った人物は一歩引き、代わりに禍々しい大剣を携えた青年が青眼で迎え撃つ構えをとった。
「けっ!どうせ怪しげな事してたんだろ、とっ捕まえて吐かせるに限る!」
「やってみるがいい」
次の瞬間、ネロの足元が爆ぜる。一瞬の踏み込み。一呼吸で、目の前の敵の眼前にネロが迫る。
「オラァッ!!!!」
ズガァアアァアアンンッッッ!!!!
轟音。目の前で落雷が落ちたと錯覚するほどの雷の力。世界を壊す最強種、嵐の竜王 ズツァニッグの残滓を残した魔剣。
「ぐっ!はぁっ!!!」
大上段から振り下ろされたネロの一撃を、禍々しい大剣で滑らせるようにいなす。
「ちぃっ!」
「ならばこちらの番だ!応えよ、獄剣ダインバルドッッッ!!!」
一撃をいなされたネロは後方に引かざるを得ない。だが、それを一呼吸で詰めてくる。ネロがやったのと同じように、禍々しい大剣──獄剣ダインバルドを横薙ぎに振るう。
「しゃらくせぇぇぇぇぇッッッ!!!」
バキィィィィィンンンンン……!!!
「キャアアアアアア!!!」
咆哮と共にネロが魔剣で相殺しにかかる。大気を焦がす電熱が、溶岩の熱と相まって凄まじい衝撃波を伴う熱空間と化す。
少し離れた場所では暴威に晒されたジェシカの悲鳴が聞こえたが、今のネロにそんな余裕はない。
「おいエレン!!!手を貸せ!こいつぶっ飛ばす!!!」
「あぁ!分かった!」
舌打ちをしつつネロが言葉を発すると同時に、エストレアは敵の背後に瞬時に回り込む。
気配を察知したと同時に背後のエストレアと視線が合うが既に遅い。
「くっ!!!」
ドンッッッッ!!!!
咄嗟に禍々しい大剣を盾にして防御しようとするが、エストレアの強烈な前蹴りが炸裂する。
鈍く、重いその蹴撃。踏ん張り、大剣を盾にしても錐揉みになって吹き飛ぶ様からその威力がどれほどか言うまでもない。
「ナイスですわ、お姉様!」
「なにっ!?」
ようやく止まったかと思えば、頭上に影が差す。それは周囲の岩石を集めたジェシカが作り上げたゴーレムの影であった。
「柘榴になりなさいなっ!!!」
頭上から落ちてくる岩石でできた質量攻撃。デカくて重いものが落ちてくる。それだけで十分脅威の一撃になる。
さらに言えば、ジェシカが周囲から集めた岩石は赤熱化した溶岩である。赤く煮え滾る岩塊が熱波を伴って落ちてくるのだから、尚更だろう。
「ッッッ!!!」
避けようとするが、左右から飛び出したダークエルフの双子がその怪力を生かし、踏ん張る大地を砕いたことでバランスを崩す。
その直後に、ゴーレムによる一撃がフロア一体を大きく揺るがす轟音が響き渡る。
「やろう……、場慣れしてやがんな……?」
「気を抜くな、何者かも分からないからな」
土煙と溶岩の熱気、そして爆発的な轟音が鳴り響く中、エストレアとネロは警戒心を解かず一点のみを睨んでいた。
土煙が晴れると、そこには煤に塗れていたが傷らしい傷はない青年の姿が。
彼がとった行動は一つだけだった。背後を蹴って大きく後退。間一髪、鼻先スレスレで躱すことに成功していたのだから。
エストレアとネロは再び構えを取る。いつでも仕掛けられるように四肢に力を込めた。
───だが。
『……何をしている、【メドラウト】。その程度の相手に苦戦されるような柔な調整はしていないはずだがな?』
「ッッ!申し訳───!」
『それとだ。メドラウト、貴様は時折、【何もないところを攻撃しているな】?透明人間でもなかろうに、頭でもおかしくなったか?』
「何ごちゃごちゃ言ってやがる!てめえもとっとと降りてきやがれ!!!」
ネロが叫ぶが、エストレアだけは違う。違ってしまった。
(皆、【何も無いところに意識を向けている】。いや、私だけなのか?)
事実。外套の人物とエストレアは双方共にお互いを認識できていない。見えないだけならともかく、そこに何かあるという疑問さえ持てないほどに認識できない。
だが、しかし。それがなんなのか、理解する前に事態は動き出す。
ゴゴゴゴゴ………!!!!!!
「なんだぁっ!?」
「地震……?噴火か!?」
フロア一帯が大きく揺れだし、真っ赤に焼けた岩石が砂埃と共に落ちてくる。
『………。時間切れだ、ここには、我らが求める久遠の聖槍はなかった。惑わしの夢魔が何かしていたようだが、もはや無意味。行くぞ、メドラウト』
「待ちやがれ!」
「ネロ、逃げるぞ!崩落に巻き込まれる!!!」
ネロが叫ぶものの、メドラウトと謎の外套の人物は崩落の影に紛れて姿を消した。
残されたエストレア達は直様この場所を去ろうとするが─────
「お姉様!入り口が、塞がれておりますの!!!」
「何っ!?」
逃げ場はない。熱気と崩落する空間に閉じ込められたエストレア達は───────
◆◇
「ごふっ!!!」
激しく吐血する。永き時を生きているこの身でも、この時の痛みは、苦痛は想像を絶するものだった。
「ふ、ふふ。けど、ある程度は誤魔化せた、かな?」
口元から絶えず血を流しつつ、それでも手に持つ杖に込める力を絶やさない。
不可の魔法使いにして現在を見渡す惑魔、マリウス・シオンは口角を釣り上げて笑う。
「さて、彼女達に伝えないとね」
魔力を振り絞り、小さな白い蝶を飛ばす。これから起きること、これから何をすべきかを導とするために。
◆◇
「くそっ、出入り口が!」
ネロが瓦礫を蹴り飛ばす。だが、崩れ落ちた岩盤はびくともしない。赤熱した岩石が間から覗き、近づくだけで肌を焼く熱を放っている。
「閉じ込められたか」
エストレアはつぶやくものの、そもそもの話としてこのフロアを去ったとしても地上に出られるわけでは無い。噴火から逃げるために洞窟内に逃げ込み、そしてこの場所に辿り着いたのだから。
「退路はねえ、ってか」
ネロが舌打ちをし、焦げた空気を吐き出す。天井からは今なお小さな岩片がぱらぱらと落ち、地鳴りは止む気配を見せない。
「このままじゃ、蒸し焼きですわ……」
ジェシカが額の汗を拭いながら周囲を見回す。溶岩の赤い光が洞窟内を不気味に照らし、影が歪んで揺れていた。
絶対絶命。地上に出られる保証もなく、かといって留まっていても命の保証もない。八方塞がりのこの状況。
(どうする……!神威霊装を起動させて無理やり脱出するという手もあるが……どのような悪影響を齎すか………!)
エストレアは歯を食いしばり、周囲を睨め回す。
崩落は続き、溶岩は確実に迫ってきている。時間は――ない。
だが、その時だった。
───ひらり。
「……?」
白いものが視界を横切った。それは、熱と煤の中では不自然なほどに清らかな、小さな白い蝶。
「蝶……?」
ジェシカが思わず呟く。
蝶はふわりと宙を舞い、エストレアの目前で静止すると、淡い光を放った。
次の瞬間――
「……聞こえるかい、エストレア」
眩い光を放ちながら、実体を伴って現れたのは。
「マリウス?」
「正解。残念だけど、長話はできない。なので、要所だけ伝えておく」
「これから君たちは、いや君は大いなる力と戦うことになる。君の存在を証明するため、そしてこの世界を維持するため、君はこれと戦わなくてはならない」
「今、まさに目覚めようとする世界終焉を齎す終末装置。その一欠片」
「原初の魔獣、或いは罪架の獣。星の娘たる君が打ち倒すべき悪。星の娘よ、世界の器の君よ、己が持つ全霊を持って、獣を打倒する。それが、君に課せられた試練であり、使命である」
マリウスがそう言うと、エストレア達の身体が淡く光り始める。
「マリウス!」
「僕の力で、君たちを地上に送り出そう。万全の状態で来るといい。それまでは僕が食い止めておく」
有無も言わさず、エストレア達の姿は光に包まれて、この場所から姿を消した。
残されたのは、魔力で編み込まれたマリウスの分身のみ。
「もっとも、どこまでやれるかは───未知数だけどね。起動は免れないけど地上に地獄を齎すには時間は稼げそうだ」
ログイン?!認*証……
終◾️システム《◾️◼︎◾️◾️◼︎◾️◾️◾️》よりデータインストール開始………
パ◼︎ケージ解凍中…………
コン◾️◾️ールシス◾️ムより、ミッション確認中……
………
……
データインストール完了。
ミッ◾️ョン:《世界の破壊。地上の生態系と文明を閉ざす》
活動躯体にエネルギー源供給………
《システムより活動躯体に通達》
エネルギー源供給完了、規定に従い、行動を開始してください。
繰り返します、行動を開始してください。
《地脈焼却型:対界殲滅躯体【イズバザデン・アポクリフォート】》は活動を開始してください。
火山の奥底で眠るソレが目を覚ます。人では抗いようのない暴力が目覚める。
大魔法使いが、全霊を込めて刻んだ魔法を次々と砕きながら、それはゆっくりと動き出す。
ソレは巨大だった。黒々と黒曜石のように輝いていて。
蜘蛛のように八つの腕を持ち、夜空のように爛々と輝く八つの目と尖った耳、オオヘラジカのような大角を持っている見上げるような巨大な巨人だった。
【ミッション、受諾】
その音声と共に、周囲のマグマが地上に向かって噴き上がる。
岩壁に八つの手がかかり、その巨体がマグマの海から引き揚げられる。
鈍重、されどそれは確実に上へ、上へと登ってくる。
地上の全てを煮え滾るマグマで満たすべく、巨神が動き出す─────!
【???】
夢見る世界、明けない夢を見る女神様。けれど、いつか夢は覚める。夢の世界を破って貴方はここに至る。
灰の砂嵐に塗れた、終わってしまった世界を貴方は見る。器を失った私たちの罪の始まり、その末路を。
夢のテクスチャは剥がされる時、灰の大地は罪を晒し、虚底の世界を維持するためにあなたの骸は穢されることを貴方は知る。
これなるは信じるべきものを手折った醜罪。
【放棄の罪ーー開廷】
「始めましょう、【世界を創る物語】を」
黄昏の楽園にて、魔女は告げる。手がけた絵画を見つめながら、震える手で、乾いた画面を撫でる。
その震えは────慚愧によるものなのだから。
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