chapter10-5
お待たせしました!あと2、3話くらいの予定で二章ラスボスと対峙する予定です。お楽しみに!٩( ᐛ )و
ズズズ……ゴゴゴゴゴ……!!!!!
「崖崩れじゃぁああぁ!!!」
「もう無理だ、諦めろ!!!」
「娘が!娘がまだ中に、中にいるのよ!!!」
ベル・クラウディア帝国南西のとある村落では、突如起きた地滑りにより、集落の半分が山肌ごと押し流されていた。
家屋は悲鳴を上げる間もなく潰れ、土砂と岩に呑み込まれていく。
昨日まで人が暮らしていた痕跡は、濁流のように流れる土の下へと消えていた。
「近づくな! 二次崩落が来るぞ!!」
兵士の叫びも虚しく、足元の地面が再び不気味な音を立てる。
ズ……ズズ……ッ
「――くるぞ!!」
次の瞬間、さらに大きな岩塊が剥がれ落ち、救助に向かおうとしていた男衆数名が慌てて身を引いた。
「くそっ……!」
助けられない。目の前に人がいると分かっていても、踏み出せば今度は自分が巻き込まれる。
「お願い……お願いだから……!」
母親と思しき女が、崩れた斜面に向かって泣き崩れる。
「中にいるの……まだ、生きてるの……!」
誰も、否定できなかった。だが肯定もできない。
突如として起きた災害の前に、人は無力だった。
だがこの悲劇は、ここだけに限った話ではない。
ある場所では有毒ガスの噴出に人々が巻き込まれ、またある場所では、大きく隆起した大地に家屋が引き裂かれた。
或いは、井戸水が飲むことも出来ないほどの異常な高温を示す地域もあった。
【テトラルキア戦争】。その戦争の終わりに連鎖するように、ベル・クラウディア帝国とファンテリム帝国を擁するカルデラ内部で、災害が相次いで発生していた。
◆◇◆◇
「被害状況はまだまとまらんのか!」
「各地で災害による被害が相次いでいます!数が多すぎて……まとめきれません!」
怒号と報告が飛び交う、石造りの広間。元はファンテリム帝国侵攻時にかろうじて残っていた砦を、二つの帝国の関係者によって急ごしらえの臨時対策本部となっていた。
「ベル・クラウディア帝国南西部の村落で大規模な地滑り。生存者の確認は――」
「まだ出来ておりません! 二次災害の恐れがあり、救助が難航しています!」
「我がファンテリム帝国東部は?」
「有毒ガスの噴出です!直前に中規模の地震があり!風向き次第では被害拡大の恐れがあります!」
次々と読み上げられる報告書。それらは、もはや戦況図よりも多くの赤線で塗り潰されていた。
帝都コンスタンブールで起きた大規模災害を皮切りに、まるで連鎖するように数分から数十分おきに舞い込んでくる被害の報告の数々。
臨時に置かれたこの対策本部。別室ではクローディンをはじめとした重要人物たちが円卓を囲んで向かい合っている。
その中には、エストレアもいた。
「ふむ。戦争が終わったと思えば、今度は災害か。まったく、忙しないな」
円卓に肘をつき、上座にいるアラン第一皇子が低く唸る。その声には苛立ちよりも、計算する者特有の冷静さがあった。
「しかもどれも規模が大きい。局地的な不運、では片付けられんな」
「しかも、原因は不明ときた」
報告役の文官が円卓に資料を広げ、クローディンはそれをみながら指をトントンと苛立ちを隠すようについていた。
「地滑り、有毒ガス、地盤隆起、地下水温の異常上昇……いずれも単独なら説明はつくが、同時多発かよ、なんの冗談だよ……!」
「これらについて、共通項は一つだけです。全てカルデラ内部のみに収まっていることですが……まだこれしかわかっていません」
その横で、クローディンのそばにマイアと一緒に控えていたエストレアは黙りつつも、遠目で地図を見つめていた。
赤く印された被災地点のそれらは無秩序に散らばっていたが、しかしエストレアの目には、別の光景が見えていた。
(……?いや、まさか)
「エストレア、どうした?」
不意にクローディンが振り向いて尋ねてくる。エストレアは自身が思ったことを告げる。
───同時に起きた災害は中央に向かって収束しているように見える、と。
それを聞いた一同は、特に学者だと思われる人々は地図を広げ発生した時刻を書き出していく。そして、それらを円で繋いでいくと──正に中央に向かって収束していくように見える大小の円を浮かび上がらせた。
その中央とは───
「ラグナ山……!」
「……。なるほど、先生方のご意見はあるか?」
円卓を囲む学者たちは一斉に顔を見合わせ、次々と推論を口にする。
「中央に向かうように災害が収束……ということは、自然現象の偶然では説明できません。やはり何か――“発生源”があると考えるべきでしょう」
『その通りだとも』
「誰だ!?」
突如として、どこからともなく声が聞こえてくる。円卓を囲んでいた全員が咄嗟に立ち上がり、辺りを見渡して警戒しだす。もちろん、エストレアも例外ではなかった。
護衛の兵士たちは即座に剣へと手を伸ばし、厳戒態勢のなかでそれは明らかになる。
周囲の大気が揺らぐと同時に魔力を伴うポリゴンが無数に集まり形を作り出し、人型へと変化していく。
「マリウスか」
その名を口にしたのは、エストレアだった。意味深な言葉を残して、去っていた記憶があるからその声音を間違えるはずもない。
ポリゴンの集合体は、やがて完全な人型を成す。
長身で、魔法使いらしいローブと杖を携えた胡散臭さも感じられる爽やかな笑顔を浮かべた男。
「やぁ、エストレア。さっきぶりだね」
不可の魔法使い、この世界で最高位の魔法高いの一人に数えられるマリウス・シオンが再び姿を現したのだから。
◆◇◆◇
「やぁ、エストレア。さっきぶりだね」
その場の空気を読まない、あまりにも気軽な口調。この場において、場違いの雰囲気を漂わせる男こそ、この不可思議な災害現象を知っているかもしれない人物だった。
「何しにきた」
エストレアの声は、感情を押し殺した静けさを帯びていた。
「冷たいなぁ」
マリウスは困ったように笑いながら、しかし視線は最初から最後までエストレアから外さない。
「君に会いに来た。それだけだよ」
「……ふざけるな」
「本気さ」
その言葉だけが、不自然なほど重く落ちた。周囲の視線など、最初から存在しないかのように、マリウスは一歩踏み出す。
「君がここにいることで、手間が省けたよ。助かった」
「マリウス。この状況を知っていて現れたのなら、回りくどい真似はやめろ。もう一度言うぞ、何しにきた」
周りの人間が、ヒッと声を漏らすほどの圧を撒き散らしながら、それでもエストレアは鋭い眼差しをマリウスに注ぎ込む。
「そんな怖い顔しないでくれ、可愛い星の娘よ。事実を言っただけだよ」
マリウスは肩をすくめ、あくまで軽い調子を崩さない。だが、その目は笑っていない。その冷徹さえ感じられる琥珀色の瞳は、並々ならぬものを発していた。
「この災害は偶然じゃない。戦争の後始末でもない」
視線は、まっすぐにエストレアだけを射抜く。
「君が、ここにいるから起きている」
空気が、凍りついた。淡々と告げるように、ただ事実を述べるように。
「……何を、根拠に」
「簡単な話だよ。君達は"現象”を見ている。けど僕は違う。視点が違うからね、僕は“反応”を見ている」
ゆっくりと、言葉を選ぶように続けた。
「地脈が、魔力が、世界そのものが───君を感知して、過剰に応答している。力を得た君を、『記録』を垣間見た君を見て、動き出した」
エストレアの喉が、わずかに鳴る。もはや、この場にはエストレアとマリウスしかいない。他の人たちは置物と化した。
「ふざけた理屈だ」
「分かるよ。そう思いたいのは分かる」
だが、とマリウスは続けた。
「事実として、君がこのカルデラに入った瞬間から、災害の発生頻度は跳ね上がっていた」
「君達から離れたのはそれが理由だ。クローディンの元へ君達を送ったのも、君を狙う聖罰隊から隔離も狙いだが、第一にいずれ起動するであろう、厄災を少しでも遅らせるために専念したかったからだ」
沈黙。誰も、割り込めなかった。いや、割り込もうと言う気も起きなかった。
「…………」
「止められるのは、君だけだ」
マリウスは、はっきりと言い切る。
「君が“原因”だからじゃない。君が“鍵”、いや『星の娘』だからだ」
「厄災の起動はもう秒読みだ。もう僕の力では抑えきれない」
その言葉に、エストレアは初めて視線を伏せた。
だが次の瞬間、再び顔を上げる。
「……それで?」
声は、揺れていない。全能に近しい【全と一の瞳】を有する目も揺るがない。その瞳で、現在(今)を見渡す権能を有する大魔法使いを見据えて問う。
「私に、どうしろと言う」
マリウスは、ほんの少しだけ笑った。ズズン、とまた大きく揺れが襲うが、今はそれどころではない。
「行ってほしい。ラグナ山へ」
「そして——」
その続きを、はっきりと告げる。
「君は、君の行く末を決める戦いを目の当たりにするだろう」
「『星の骸より生まれし落し子』よ。その足で、その目まで確かめるといい。世界の器たる君よ、君の選択に幸あれ」
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