chapter 10-4
お待たせしました。(。・ω・。)まだ、ラスボス登場まではもうちょいかかります。
──ウワアアアア!!!……
悲鳴。
それは突如として起きた災害によるものだった。
ズズズ……ゴゴゴ……と不気味な地響きを起こしながら、ファンテリム帝国の首都、帝都コンスタンブールの街並みが地中へと引き摺り込まれるように呑み込まれたのだから。
当然、そこには人の生活がある。営みがある。生きるために、活動し、働く人々がいた。
だが。
理不尽にもそれらは引き裂かれた。青天の霹靂とも言える未曾有の事態に、誰もそれを予見することも、対処に動こうとすることも出来なかった。
災害とはそういうものだ。古来より神の畏怖を表す、人には抗えない事象。
雨は凌げる。火事は消せる。突風もやろうと思えば避けられる。だが大地の力は、どうやっても人の身では翻弄されるしかない。
建物の瓦礫が地響きと共に崩れ落ち、空には砂塵と煙が渦巻く。
叫び声、泣き声、そして破壊の音が混ざり合い、街全体がまるで怒れる獣に呑まれるかのようだった。
人々は逃げ惑うしかない。だが、足元の地面は揺れ、亀裂が縦横に広がり、逃げ場は次々と奪われていく。
だが、この破壊は、まだ序章に過ぎなかった。いや、ようやく動き出したというべきだろう。
◆◇
「なんだ、これは……!なんなのだ、これは!!!??」
アンナリーベが目の前で起きている現象に、震えた声を張り上げる。
その言葉にはクローディンは大いに賛同した。「くそったれ、まさにその通りだ」と。
あまりの出来事に、突っ立っている事しかできないクローディンの背後から、マイアが切羽詰まった声が聞こえる。
「殿下!危険です!こちらに!」
「っ、すまん!アンナリーベ!こっち来い!!!」
ハッと我に帰ったクローディンは、アンナリーベの身体を脇に抱え、必死に彼女の小さな体を支えつつ、マイアの指示する方向へ駆け出した。
「くっそっがぁぁぁぁぁぁ!!!!」
生まれて初めて出会う生命の危機の前に、アドレナリン全開になったクローディンは地面の亀裂を飛び越え、瓦礫の間を縫うように進む。
砂塵が目に入り、咳き込みながらも、後ろを振り返る余裕はない。帝都の中心部がまるで生き物のように裂けていく様は、言葉を失うほどに異常だった。
「くそ……!まだ揺れてる……!」
地面の一部が崩れ落ちるのを見て、クローディンは咄嗟にアンナリーベを抱き直し、背後から迫る瓦礫の雨から守る。そして、ようやく少し広く開けた通りに出た瞬間──
ゴゴゴゴゴ……!!!
地鳴りが再び強まり、通りの舗装が波打つ。亀裂が街路を横断し、建物が倒壊する音が連鎖のように続く。
「はぁ、はぁ、はぁ……!!!ぐおっ!??」
「殿下っ!?」
脇目を振らずに、ひたすら走り続けたクローディンだったが、ズンっ!という揺れに足を取られてしまう。
マイアの悲鳴を聞きながらクローディンはあっという間に足元が崩れて奈落の底へと落ちていく────はずだった。
(あ、死んだわ)
「クローディン!!!」
走馬灯のように、何もかもがスローモーションになっていく中で、不意に頭上から聞こえた声。
同時に身体が軽くなったと思い、声がした方を向くと。
逆光の中、こちらに手を伸ばす『女神』の如き存在が彼の網膜に焼き付いたのだった。
伸ばされた手に、抱えた腕とは逆の腕を精一杯伸ばして────
◆◇◆◇
『今のままでは、世界が滅ぶ』
(マリウス……!あいつは何を考えて……!)
いきなり現れては意味深な言葉を残して、突然姿を消した大魔法使いに対して、エストレアはかの魔法使いの意図を掴めずにいた。
もう一度、問い詰めてやろうとエストレアは眼の力を行使しようとした、その瞬間だった。
カタ、カタ、カタ………
「!?」
微小な振動が、部屋全体を包んでいる。否、それは部屋に留まらず、空気さえ振動し、部屋を揺すっている。
(拙い!!!)
そう判断したと同時に、エストレアは急いで部屋のドアを蹴破って廊下へ転がり出る。
「お姉様!?ご無事なのですか!?」
「ジェシカか!イルナとイザルナは!?」
「え?え?あのお二人ですの?まだ、宿で寝ていると思いますわよ?」
ギリッと歯噛みする。揺れが、振動が徐々に強くなっていることに、エストレア以外誰も気づいていないのだ。
「逃げるぞ!ここは───危ない!!!」
「お、お姉様?───きゃぁあ!!??」
話は後だ、と強引に切り出すとエストレアはジェシカの手を引っ張って窓から飛び降りる。
ガシャアアァン……!とガラスが割れて、宙に飛び散っていく。周りが何事か、とどよめいているが、今はそれどころではない。
彼女が外に出たと同時に、それは起きた。グラグラと立つことが難しいほどの揺れが発生する。
あらゆる建物が、波打つように左右横、上下共に揺さぶられていく。
そして、ビシッと地面に亀裂が走ったかと思えばあっという間に揺らされていた建物はその基礎ごと地面の底へと押しつぶされるように沈んでいく。
『“知っている”というより……もう、動き出してるって言った方が正しいかな』
その光景に、息を呑む二人。エストレアは直前にマリウスが残した言葉が蘇る。
「お、お姉様……!い、一体何が……、何が起きているんですの???」
「分からない。まだ確証がない」
今は悠長に動いている余裕はない。マリウスの言葉と今起きている事の正合性がまだ掴めていないから。
───けれど。
「ジェシカ、イルナ達を連れてクローディン達のところへ行け」
「お、お姉様は?」
ズズン……!と再度発生する揺れの中、エストレアは妹分に向けて優しげな笑みを浮かべる。
己の魔力を解放し、黄金の鎧を纏う。太陽の神アールヴ・アグルの力を纏う神威霊装を展開したエストレアは、黄金色の炎をふかしながら帝都の空へ飛翔した。
その姿を見届けたジェシカは、我に帰ると自分たちの仲間であるダークエルフの双子を迎えにいくべく走り出したのだった。
「なんだ、これは………!?」
焔を迸らせて、帝都上空を飛翔するエストレアは、眼下で起きている事態をみて戦慄を隠せなかった。
帝都コンスタンブールは三層からなる円型の都市。中央の宮城と貴族街、市街地、スラムと続く構造なのだが………帝都の約三分の一が大きく口を開けた大穴の中に、消えていたのだから。
しかも、まだ揺れは続いているのか、その端からボロボロと建造物ごと崩れていく光景も見られた。
さらにエストレアの心に追い打ちをかけるように、崩れゆく大穴の淵から更に人が、建造物が、動物が落ちていくのを見てしまう。
───その中には発生した大穴の中へ落ちていく無辜の人々の中に、見知った顔があった。
それを見たエストレアは、考えるよりも先に身体が動いていた。
「間に合えッ─────!!!!」
願う。間に合えと。
願う。時よ、止まれと。
我が願意に応じよ、とエストレアは叫ぶ。星の娘、世界の器が乞い願う、我が求めに応じよと言霊を乗せて魂の咆哮が刻まれる。
──二人とも犠牲にはさせない。
溢れ出る黄金の魔力に形を与えると、それは黄金の炎を纏う戦車と、焔の立髪を持った戦馬となる。
だがそれでも救えるのは、目の前のこの二人だけだろう。如何に魔王の娘、星の娘だとしても。人という枠組みの中にいる限り、その手で掬い取れるものは多くないのだから。
「クローディン!!!」
「乗れ!!!」
戦車の荷台に彼らが入るようにスピードと仰角を調整しつつ、エストレアはクローディンとアンナリーベの二人を救出することに成功した。
彼らを助け出すことは出来た。だが、その時エストレアは見てしまう。
(あれは………?)
帝都に発生した大穴は、とても深い。エストレアはその大穴の底から、何かが、いや蒸気と思しきものが噴き出しているのが目に入った。その発生源からは、ドロリとした“赤い粘性”を持ったーーー大地の熱、赤き血潮。
「まさか………。こんな浅いところで!?」
前世含めて、こういう事の知識はあまり詳しくはない。
だが、それを踏まえてもあり得ない事だということは理解できた。
“地表スレスレのところにまで溶岩の流れが見える”ということを。
更に隣国であるベル・クラウディア帝国では、集落の一つが丸ごと地中へ渦に巻かれるように消えたという報告があったのは、その後すぐのことだった。
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