chapter10-3
お待たせしました(=´∀`)人(´∀`=)
さらに同じ頃───
「悪いな、待たせた」
「ふん、既に報告は受けている。席につけ、愚弟」
重厚な扉が閉じる音が、石造りの会議室に低く反響した。
入室したクローディンは自身が一番最後だと認識し、形式上ではあるが非礼の禊を払った。
円卓を囲むのは、ベル・クラウディア帝国の第一皇子であるアランを中心とし、その支援をした各国の義勇兵代表達。
「あぁ、そうだ。話を進める前に、お前に合わせたい奴がいる」
入ってこい、とアランが指示を出すと、そこに1人の人物が入ってくる。
「お久しぶりです、ご無沙汰しておりました殿下」
「は?え?マイア???」
入ってきたのはエルフの女性。士官服を纏っているが、身体のあちこちから見える包帯から傷を負っていることが窺える。
マイアと呼ばれたエルフの女性はクローディンにとって右腕とも言える副官。ある事情により連絡がとれなくなり、さらには戦争による混乱の為に捜索さえままならなかった。
「なにやら勘違いしてそうだから指摘しておくが、彼女の傷はニース派による拷問の結果だ。帝都攻略戦においては我々とは別で行動していたようだがな」
「なんだとっ!」
突然の言葉に声を荒げたが、アランはどこ吹く風というようにまるで意に介さない。
「雑談はこれで終わりだ。マイア、愚弟の側につけ。愚弟、戦後処理の会議をするぞ」
「ちっ」
渋々といった感じで、席につくクローディンを見届けた後、アランは円卓を見渡す。
「さて、議題の前に現状の整理をしなければならない。ファンテリム帝国は、ニース派の首魁であったニース・カヴァラの死により、奴の体制は崩壊したと言っていい」
「これにより、各国の代表方は大義名分は果たせたと言っていいだろうか?」
「異論はありません、我々は貴国を支援する為に派遣された義勇軍です。異端である彼奴の死が確定した時点で我々は貴国とファンテリム帝国間の諍いには介入する必要がなくなりました」
――嘘だ。
クローディンはその言葉が建前に過ぎないことは理解しているし、それをアランも同じだと確信していた。
「そうだな。ここから先は、我々の内紛に関わる問題だ。だが、戦争という形で支援してくれた者たちに、何の報酬もないというのは筋が通らない」
だが、今回の戦争が各国にとっても利益、いや面子を保つ事であったこと、そして単なる二つの帝国の小競り合いですむ問題ではなかったことが肝だった。
(随分とデカい借りを作っちまったもんだな……)
「とはいえ、各国の代表といって差し支えない方々に、今この場で確約できる報酬といえば、我が国からは資金と関税程度だが……」
そこでアランは、言葉を切った。
「――いや。正確には、まず先に彼女の言葉を聞くべきだな」
視線が向けられる。
そこにいたのは、場慣れしていない一人の少女だった。
「アンナリーベ第六皇女殿下。我が国で亡命政権を立てた貴女だ」
「現時点において、ファンテリム帝国の正統な最高権力者は貴女だ。どうするか――その意思を、ここで示してもらおう」
円卓に、緊張が走る。
各国代表の視線が、値踏みするように皇女へと集中した。
◆◇◆◇
「う、うむ。妾は───」
アンナリーベは、思わず言葉を噛んだ。
数多の視線が突き刺さる。敵意、値踏みが入り混ざった、政治の目。
小さく息を吸い、皇女は背筋を伸ばした。勿論、彼女は幼くとも皇族。そういった意図を隠した視線や発言に覚えがないと言うほど無垢ではない。
だが、遮るようにアンナリーベの発言を被せるように発したのは、ペルア共和国の代表の男だった。
「戦後復興には莫大な資金が必要でしょうな。となれば、貴国が単独で賄えるとは到底思えない」
本来ならば、無礼。アンナリーベが今この場で無礼である!と発言すればその通りになるだろう。
「ええ、支援は約束いたしましょう。代わりに、港湾はファンテリム帝国にはないので交易優遇辺りを。場合によっては一部地域の管理権限などの条件が欲しいですな」
だが、アンナリーベは突然言葉を遮られたことで怯んでしまった。
政治の世界に、弱みを見せることは致命的。それは慣れ不慣れは関係ない。
“遮られて黙ってしまった”ことで、上下が確定したと言っていい。
(こいつ………!!!)
クローディンは内心憤っていた。それは、代表団の面々もそうだが、その矛先はアランへと向けられている。
(品定めかよ……!)
助太刀に入ってやりたいが、アランはそれを察してか、目線だけでクローディンに対して「何もするな」と牽制している有様。
(シェートリンド王国だけは静かだな。だが、がめついのはペルア共和国と……小国群の連中か)
「ご助力には感謝する。妾としても、今の国情では微力であっても支援はありがたい」
そこで、アンナリーベは一度言葉を切った。
「だが――貴方は“大使”ではない。此度の戦争において、各国から派遣された義勇軍の“代表”に過ぎぬ」
円卓の空気が、僅かに張り詰める。クローディンも、望外の展開に驚きを隠せない。
「その立場で、国家の運営や領土に言及するのは越権ではないか?もしそのつもりであるならば、それは介入であろう」
突き詰めればその通り。極端な話ではあるが、政治の世界の話というのは、ある意味裁判の口頭弁論に近いものかもしれない。
「む……失礼いたしました。我々は“急ぎ過ぎた”ようですな」
ペルア共和国の代表は、肩を竦めて一歩退いた。
「では、正式な交渉は然るべき時、然るべき人材が確定してからにしておきます」
クローディンは横目でアランを見やる。みれば、口角がわずかに上がっているのをクローディンは見逃さなかった。
「ふむ、皇女殿下の判断は妥当だ。少なくとも、この場で国家の運営に口出しを決める必要はない」
各国代表の視線が、わずかに揺れる。反論しようとした者もいたが、アランの次の一言がそれを封じた。
「主権侵害は、誰が受けても痛いのだからな。とはいえ、このままでは喧嘩腰でお互いに印象がよろしくない」
「そこで───」
アランが次の言葉を紡ごうとした、その瞬間。
カタ、カタ、カタ……!
円卓の上を飾る燭台が、食器が、そして何より円卓そのものが振動により揺れ始める。
「な、なんだ!?」
「地震か!?」
いきなりの事態に慌てふためく者がいたが、その揺れは次第に小さくなっていく。
「収まった……?」
誰が呟いたのかは分からない。が、それに違を唱える者がいた。
「……!ダメです!皆様、円卓の下に隠れてください!!!」
「マイアっ!?」
殿下!とマイアに頭を押さえつけられ、クローディンは強制的にテーブルの下に隠れさせられる。
クローディンがテーブルの下に隠れたと同時に。
ゴゴゴゴゴ…………………!!!!
ガタッガタッガタッ!!!!
「デカいぞ!」
その揺れは、今まで体験したことの無いほどに巨大なもの。円卓の天板の上で並んでいた陶器類が揺れに耐えきれず崩れ落ちていく。
ガシャンと音を鳴らして砕ける食器に意識を向けてはいけない。クローディンは、そう思った。
「壁から離れろ!テーブルを押さえろ!!」
円卓を押さえて必死に耐えようとする者たちが叫ぶ中、揺れが一際大きくなる。
ドォン!!!
もはや、立つことさえ困難なほどの揺れがこの場にいた者に、否、帝国の大地そのものを襲ったのだ。
そして、揺れが小さくなった時を見計らって外に出た彼らが見たものは────。
大地に走る亀裂を境に上下にズレて隆起し、さらには砂埃と轟音を伴いながら、帝都の街並みが引き裂かれて奈落の如き深き底へ落ちていく瞬間だった。
◆◇◆◇
「運命の砂時計は今、落ちる」
黄昏の空の下、エーデルワイスの花畑の中で絵画の魔女は一人呟く。
「目覚めは近く、炉は渦を巻くでしょう」
魔女は静かに目を閉じる。耳をすませば、無垢なる精霊や妖精たちの唄が聞こえる。
精霊は踊る。世界の裏側で、一枚絵の下の小さな隙間。精霊たちの故郷。
精霊郷に住む精霊たちの詩は、彼らの歌であり、既知であり、予言であり、終わっている。
水精霊はキラキラと。
風精霊はフワフワと。
火精霊はゴウゴウと。
土精霊はカンカン、トントン。
光と闇の精霊は手と手を取ってクルクル、クルクル踊る。
踊りながら、唄を歌う。
『積み上げた怨嗟は炉に落ちた』
『怨血は熱に溶け、竜の後継者は稲妻と共に力を振るう。されど、恨みは消えず、虚底の遠吠を聞け』
『人を呪い、都市を焼き、国を食う。罪深き獣が来るぞ、地平を閉ざす槍は何処にある?』
『あぁ、ペンドラゴン。星の娘よ。あぁ、ペンドラゴン、星の代弁者、世界の器のペンドラゴン。全知の眼で御伽噺を終わらせて』
『カーテシーお一つ、お嬢様。絡まる運命、赤い糸に気をつけて。闇の帷に心壊れる前に血を捧げてね』
「星よ、どうか我らを────裁かれよ」
──私達は断罪を望む───
──私達を、赦さないで───
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