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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第二章 動乱の帝国 ベル・クラウディア
178/203

chapter9-9

先週に引き続き、筆が乗ったので今回も連続投稿!

失速しないか、心配:(;゛゜'ω゜'):


 それは一瞬だった。


 瞬く間に宮城は、ドロドロとした粘体の肉の塊───ニースによって変質させられた少女の成れの果てに隅々まで侵食されてしまった。


「予想外にも程があるだろうがよ……!」


 クローディンの呟きは、誰もが抱いた感想そのものだった。



◆◇◆◇




「退避、退避ぃ!!!!」


「押さないでください!押さないで!」


 ゴゴゴ……と重たげに増殖、拡大していくソレは、まるで肉の壁だ。


「う、わ……ッ」


「な……なんだこれ!」


「おい押すな!下がれって!」


「馬鹿野郎押すんじゃねえ!あ、ああ、やべえ、足が……」 


「た、助け───」


「ひいいぃいッ!!」


 悲鳴と怒号。そして助けを求める声。それらが混ざり合い、混乱は極致に達しようとしていた。


「お姉様、見覚えがありますわね……」


「ああ、『泥』事件と同じ人の魂の残滓───キュリアが使っていたものと同じだ」


 エストレアは肥大、増殖する少女の成れの果てをみて既視感を覚えていた。


 しかし今、目の前で広がるそれは――


「……広がる速度が違いすぎる」


 エストレアの視線の先で、肉塊は建物ひとつを包み込み、壁の形を残したまま、まるごと“飲み込んで”変形させていた。


「おい、お前の力でどうにかできないか?」


「……焼き払うだけなら可能だ。だが、全てを焼こうと思うと巻き込みかねない。それに───取り残されている可能性を考慮すると、尚更だ」


「っ……クソ……!」


 クローディンが拳を握りしめる。助けに行こうにも、一歩踏み込めば足元ごと飲み込まれる。剣も槍も意味を成さない。生半可な魔法なら逆に取り込まれるだけ。


 あまりにも、どうしようもない。


 どうしようもなさにエストレアは二の足を踏まざるを得ない。だが、肉塊の侵食は待ってはくれない。


 グチャ、ズルリ──と音を立て、あの“壁”はゆっくりと、しかし確実に外縁へ向かって押し寄せてくる。

 取り残された叫び声が、次第に掻き消されていくのが分かった。


「くそがっ!このままだと、被害は増える一方だぞ……!」


 絶望感とはまさにこういうことなのだろう。勝敗が決まる最後に起きたどんでん返し。


 最後の最後で突きつけられた、最悪の地獄。戦場にいる誰もが、心臓を掴まれたような感覚に襲われていた。



────だが。



───神は見放していなかった。




「招雷しろ」


「魔剣───ズツァニッグ!!!!」




ズガアァアアァンンンン………!!!!


 


 突如、押し寄せる肉塊を地を裂く轟雷が轟音と共に貫いていく。


 その威力たるや、周囲一帯を吹き飛ばしかねないほどの衝撃をもたらした。


「っ!!!」


 エストレアはこの感覚には覚えがあった。クローディンも、その稲妻を見て驚愕の顔を浮かべる。帝国の民がその轟を見て、あり得ないものを見たという顔をしていた。


 エストレアは瞬時にその方向へ顔を向けるとそこには雷光による逆光でシルエットしかわからなかった。


 だが、稲妻が一瞬だけ揺らいだ──そのわずかな隙間から、覗かせたその顔をエストレアははっきりと捉えた。


 紫電を纏う大剣を天に向かって突き出しながら、此方を睥睨する人物。


「ネロ………!!!」


 それは間違いなく、エストレアが知る人物であった。


 シェートリンド王国城塞都市シェアト冒険者ギルド所属の冒険者、ネロ・ジウスティア。


 否、真なる名はネレウス・ガイエウス・ドェル・ヴァン・ロマルナ。


 二つに分かたれし帝国は、今この瞬間。


───動乱の大地に、真の主が帰還する。





◆◇◆◇







「ネロ、どうしてここに……!?」


「……わりぃが、話は後だ。まずは……これを倒すぞ」


 ネロは軽く肩を揺らし、紫電を帯びた魔剣をしっかりと握り直す。今のネロには雷光に反射し、瞳には鋭い光が宿っていた。


「雷王鉄槌───砕けろ!!!」


 その言葉と同時に、ネロは大剣を振り下ろす。稲妻が飛び散り、肉塊の残滓が一気に断ち切られる。炸裂音と共に、焦げた瓦礫が舞い上がる。


 その圧倒的な破壊力に、誰もが目を疑った。それは民衆だけではなく、連合軍の目にも留まるのは必然であった。


『計器類オーバーフロー!観測魔力、測定値振り切れました!』


『ッッッ!世界を滅ぼす一歩手前まで陥れた魔竜。残滓とはいえ、これほどとはな』


 空中に浮遊していた魔導艦クオリアは砲撃による援護を加えながら、伝説に語られる魔竜の異能にクオリアの観測員は言葉を失う。


 戦場の中心で起きた異常事態――あの肉塊を一瞬にして断ち切ったのは、もはや常人の手に余る力だった。


 地上では、一般市民もまた目を見開いたまま立ちすくんでいる。瓦礫の間から必死に立ち上がる子供、泣き叫ぶ老女、倒れた兵士の間を駆け抜ける連合軍の指揮官……全員が、ただ一人の人物の出現に戦場の秩序が一瞬で変わるのを目の当たりにしたのだ。


 そう、この帝国の大地において稲妻とは――神話の象徴にして、その神威を振るう皇帝の証。


 遺伝子に刻まれるほどに焼きついた伝承の具現。


 だからこそ。


「……まさか……いや、あり得ん……あれは失われたはず……!!!」


「あぁ、太祖よ……!どうか、どうか我らをお救いください………!!」


「神祖よ、我らが偉大なる皇帝バモレッド陛下……!どうか、私たちに光を………!!!」



 戦場の至る所で、帝国の地に生きてきた者。民衆も兵士も敵味方の区別なく、息を呑んだ。


 誰もが幼い頃、教えられてきた。


 【稲妻を放つ竜の剣こそは、皇帝を示す印である】と。


 すでに失われたはずの血統。魔剣に選ばれるものがいなかったがために、国土が分裂して幾星霜。歴史の闇に沈んだはずの正当なる皇統の権能が、今、目の前の女から放たれている。


「エストレア!!!」


「わかっているっ!!!」


 クローディンの叫びに、エストレアは強く応える。一瞬にしてエストレアは黄金の鎧を身に纏い、黄金の陽光を讃えし両刃剣を構える。


 ネロとエストレア。両者は己が得物を構え、その力を高めていく。


「魔剣炉心、限界解放!!!ぶちかますっ!!!」


「天網恢々、疎にして漏らさず。無垢なる者、一切の衆生より解き放つ」


 両者の凄まじいエネルギーは、その余波で曇天の雲さえ吹き飛ばす勢いを見せる。


 ネロの雷撃によって組織を焼かれた肉塊は怒りなのか、その勢いをより強めて全てを飲み込まんと迫る。


「吹き飛ばせ、ズツァニッグ!!!【雷霆万鈞(ズツァニッグ)()竜鳴隕撃破インドゥラ・ヴァジュラム】ッッッ!!!!」


 大上段から振り下ろされた魔剣から、視界そのものを白く染め上げるほどの閃光が迸る。


 バチバチと稲妻が周囲に走り、轟音と共に肉塊を空の雲と共に真っ二つに断ち割った。


────ギィイイィィイイヤアァアアァイィィィィイイイイイイイイ!!!!!!!???


 悲鳴を上げながら凄まじい熱量によって蒸発と燃焼を繰り返す肉塊。だがそれでも、僅かに生き残る部分からすぐに復活を試みようとする。


 だがこの程度、想定内だとネロは眉一つ動かさず、再び魔剣に膨大な魔力を注ぎ込む。


「まだ終わらせねぇ。ズツァニッグ!!」


 ネロを中心に、巨大な放電現象が起こる。まるでネロを中心とした雷雲が発生するように、放電が起こり続けている。その威力は先ほどよりも上がっていた。


「もう1発、貰っとけ!!!」


───ピシャァアァアアァンンンン!!!!


 今度は横薙ぎに一閃。再び轟音が響き、肉が焼けるような音を立てながら、肉塊がのたうち回る。


 その姿をみた帝国人たちは皆一様に涙を流して跪き、祈るように言葉を紡ぐ。


「あぁ……神祖の威光……!」 


「皇帝陛下……我らが皇帝バモレッド陛下の再来……!!」  


「奇跡だ……!」


──そして。


「天を見よ、人の業より生まれ、果てし無垢。汝、一切の苦は空の一欠片に過ぎぬ。泡沫の夢より、汝の過ちを解き放つ」


 ネロの雷撃によって、その規模が小さくなった肉塊はやがて城内に引っ込むようになった。 


 それを見届けたエストレアは【天穿ガラティーン】をパーツ毎に展開。


 宮城を囲むように展開すると、黄金色の魔力がそれぞれを接続するように繋がり、展開された【天穿ガラティーン】は円を描くように広がり、一つの巨大な円状の鏡のような形に集約される。 


 そこから、一本の光の柱が放たれる。それは眩いばかりの光でありながら、決して肌を焼くことがない不思議な光景。


「博愛に罪はなし。【円環にて照らせ(スーリィヤス・サン)()天照らす浄ひの陣(ホルシーズ)】!!!」



その光が注がれると初めは抵抗していた肉塊は、やがてその光を受け入れるかのように徐々に崩れるように朽ちていった。









 少しでも面白い、続きが気になると思った方は感想、評価、ブクマ、いいねをよろしくお願いします。

これからも、この物語を見守ってくださると嬉しいです!


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