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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第二章 動乱の帝国 ベル・クラウディア
177/204

chapter9-8

お待たせしました。今回はちょっと胸糞かもしれない……(´;ω;`)ブワッ



「年貢の納め時だ。観念しろ、ニース・カヴァラ」



 その一言は、玉座の間全体を揺らすほどの重さを持って響いた。


──コツッ


 エストレアが一歩踏み込むと、ニースは一歩後ろに下がる。


──コツッ


 さらに一歩踏み込むと、ニースはもう一歩下がる。ニースの顔は血の気が引いて青ざめており、また極度の緊張からか冷や汗が滝のように溢れて止まらないようだった。


──コツッ


「く、来るなぁ!!!!がぁっ!?!!」


 3歩踏み込むと、ニースは顔を青ざめながらも懐から何かを取り出そうとする。


───だが、それを許すほど今のエストレアに容赦は存在しない。


 ニースが何か取り出そうと懐に手を入れた瞬間、ガキィン!!!と甲高い音を立てて何かが落下する。


 カラン、カラン……と床に落ちたのは、前世では海賊映画などで出てきそうな25〜30センチ前後の木製の轮發銃ホイールロックに似た魔道具。


 性能も見た目通りに違いないだろう。だが、それはエストレアが咄嗟に放った暗器によってその役目を果たすことはなかった。


「くっ、くぅう……!!!ば、化け物がっ!!!」


 ニースは悪態を吐きながら後ずさる。だが、ここにはもはや逃げ道と呼べる場所はない。


 玉座の間は広い——はずなのに、今は世界そのものがエストレアの足音と圧だけで満たされているかのようだった。


 エストレアは表情ひとつ変えず、ただ歩を進める。一歩、また一歩と着々とニースの元へと近づいていく。


「貴方たち、何を突っ立っているのですか!!!こ、殺しなさい!あの女を私に近づけてはならないのですよ!?!!」


 ニースの怒鳴り声が木霊する。


 だが───誰も動かなかった。動けなかった。


 スゥ、と細められたエストレアの冷徹な瞳。【全と一の瞳】の、淡く輝く【魅了】の機能によりニース以外の人間は身動き一つ取ることさえ許されなかった。



「無駄だ。何をしようともお前では私に対する手立てはない。おとなしく、国際の法に従いその罪を贖え」



 その言葉と同時に帝都の至る所から怒号や爆発音が高くなっていた。怒りに燃える民衆が、この城の内部に入り込んでくるのも時間の問題だろう。


 そして、これはエストレアによる最後の慈悲でもあった。


 悲しいかな、この男はあまりにも多くの罪を積み上げた。

 帝国の大地を荒らし、民を苦しめ、国の象徴にさえその毒牙をかけたその罪は、もはや言葉にするのも躊躇われるほどだ。


 生きる資格はない。この男は死しか許されない。

 今、この場で一歩踏み込んで黒い剣を振りかぶれば、その首を落とすことは造作でもない。


 だが、エストレアはいつのまにか沈黙していたニースに違和感を抱き始めた。


「ニース?」


 そこで——ニースの顔が、まるで別人のように歪む。まるで違法薬物に手を出した人のように、焦点の合わない目で、支離滅裂な言葉をブツブツと呟いていたかと思うと次の瞬間。


「ひ、ひひ、私が負ける?ふ、ふひ、ひ、許されるはずがない。一族の悲願が、帝国の斜陽を見届けることなく?死ねと?……るされない、許されない!認めるものか、認められるものかぁッッッッ!!!!」



「!?」


「あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ッッッッ!!!!」


 絶叫とともに、ニースの手には一振りのナイフが握られていた。

 絶望から一矢報いようとする――否。それは、ただの悪あがきでしかなかった。


「死ねぇぇぇええッ!!!」


 ニースは錯乱したままエストレアへ突っ込んでいく。しかし、それで遅れをとるほどエストレアは慢心もなければ油断もしない。


「遅い」


 所詮、素人の突撃などカカシも同然。突き出されたナイフを手刀ではたき落すと、踏み込みと共に返しの肘技でニースの身体を打つ。


 肘と体躯の体当たりが一瞬で融合し、轟くような衝撃がニースの胸郭を抉った。

 

「舎ァッ!!!!」


「ぐはぁっ!!?」


——【滅肘・獄突】。


 八極拳の頂肘を基礎に、シラットをはじめとする多体系の体当たり術を組み込み、破壊力だけを極限まで高めた紅流の武術のひとつ。本来ならば敵の肋骨を粉砕し死に至らしめる殺人技。


 本気で当てていたら、ニースの胸郭は砕け肺と心臓を破裂させていた。だがエストレアは肩と骨盤の角度をわずかに外し、衝撃の八割を“吹き飛ばす力”へと変換する。


 ニースは床を転がりながら数メートル先まで滑っていき、最後に豪快に跳ね上がっていた。


 結果、ニースは吹き飛んで床を転がり、肺の空気を失うだけで済んだ。


 そして──よりにもよって。


「えっ……きゃっ!?」


 玉座の柱の陰に隠れていた、ニース率いるニース派が神輿にしていた少女の足元へそのまま突っ込むように倒れ込んだ。


「かっ、はぁ………!!!」


 肺を押しつぶされ、泡を吐きながらニースは横目で心配そうに見つめる少女、リィラを見やる。

 


「……ああ……そうです…!まだ……まだ手はある……」


 自分たちが神輿にした、純真無垢な彼女にニースは真っ黒な焔を灯した。




◆◇◆◇




 ——怖い。


 玉座の間に響く金属音も、怒号も、外から近づいてくる民衆の足音も、ぜんぶ、遠くで鳴っているみたいだった。


 隠れるように縮こまっているリィラは、玉座の裏から覗き込むようにこの部屋を見やる。


 赤い髪の女の人が歩くたびに、リィラは世界が震えるように感じた。


 エストレア。


 その名を聞いた瞬間から空気が変わった。正確には、自分が慕うニースがその名を聞くたびに鬼のような形相をするようになったのを何度も見てきた。

 凍りつくみたいに冷たいのに、炎よりも熱くて、近づくのが怖くなる。


 誰が見てもわかる。反論とか、反抗とか、そんなのが成り立たないほどの差がそこにあった。


 ニースの部下たちが動けなくなった理由も、嫌でも理解できた。

 

 根源的な恐怖というものは、多分目の前にある存在だということを。


 そして——そのニースが、自分の足元へ転がり込んできた。


「かっ、はぁ………!!!」


「ひっ……!」


 ひりつく緊張。玉座の裏から出てきたリィラは心配そうにニースの元へと駆け寄る。


「に、ニース?大丈夫……?」


「り、リィラ……に、逃げなさい…!」


 言いながらも、その手はリィラの腕を弱々しく掴む。


───だが、それは逃がすための手ではなかった。


 引き寄せるための手。盾にするための手。リィラは気づかない。ただ心配で、必死で、震えながら彼に手を伸ばした。


 ニースの口元が、ほんの一瞬だけニヤリと歪んだことに気づかない。


「リィラ」


「ニース?」


「“せいぜい、役に立ってくださいね”」


「っ!!?ニース、お前、なにをっっ!!!」


 気づいたのはエストレアだけ。だが、駆けつけるには、止めるには距離が、タイミングが、何もかもが悪過ぎた。


───カシュッ


「え?」


 カシュッという音が聞こえた時にはもう全てが遅かった。ニースが握っていたのは小型の注射器。そして中に入っていたのは恐らく薬液。


 注射された箇所である首筋から広がるようにしてリィラの肌が赤くなったかと思えば。


 瞬く間に注入部を中心にボコボコと皮膚が、いや細胞が隆起する。


「ひ、ひひ、ひぃははははは!!!!!こうなってしまえば、どうとでもなればいい!リィラ、可愛いリィラ、貴女の無償の愛で、全て飲み込んでしまいなさい!!!」


「きっさまぁっっ!!!何をした!!??」


 エストレアが激昂し、ニースへ向かって突撃するが、変異したリィラの体組織が2人の間を阻むように広がっていく。


ガッシャァアァンンンン………!!!!


 急速に拡大していくリィラの体組織は玉座の間を瞬く間に覆い尽くしていく。


「う、うわぁあっっっ!!!」


「ひっ、ひぃぃっ、た、たすけっ」 


「あ、足が、足がぁ……」


 取り残されたニース派の者たちが、リィラの体組織に取り込まれるように埋もれていく。


「さらばです!せいぜい、足掻いてみせるといいでしょう!!!」


「なっ……!待て!!!」


 惨状に目がいっている隙をついて、ニースは崩壊した玉座の間から逃げ出していた。


「ッ……!すまない……!」


 エストレアは玉座の間から退却した。悔しさに歯を食いしばりながら脇目にも振らずただ外へと向かって走り出していた。

 背後からはズズズ……と重たげに増えていく重量感が未だ響いている。リィラの異形化した体組織は、玉座の間だけでなく、城の廊下や広間を押し潰すように拡がり、窓から外の広場へも侵入していった。


「エストレアっ!?」


 そして、城の外に出ると同時に待っていたであろうクローディンやジェシカ、イルナとイザルナを見るとエストレアは強く叫んだ。


「ッ!逃げろ、今すぐにだ!!!」


「はぁ?」とクローディンが言葉を漏らすと同時に。 泥のような、肉の塊のような、変異しきったリィラの体組織が城のあちこちから出現したのだった。









































パリィ…………!!!


「魔剣炉心、解放」



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これからも、この物語を見守ってくださると嬉しいです!


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