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紅の姫は紅煌たる覇道を血で染める  作者: ネコ中佐
第二章 動乱の帝国 ベル・クラウディア
175/204

chapter9-6

お待たせしました(。・ω・。)





「お、おお、オオオオッッッ!!!また。また貴様か!また、おまえなのか!!!エストレアあぁあァアァ!!!!!」




『轟け──【光芒の兆(アヴァーハン)()禍天より(ティエル)禊ぎ濯げ(・ルイノアストラ)】!!!!』



 手に持ったグラスを握りつぶし、血管が浮かぶほどに怒り狂うニース・カヴァラは天に浮かぶ魔導艦クオリアと共に、黄金の輝きを放つ少女の姿をその目に焼き付けていた。


 初めて出会ったあの時から歯車が狂っていた。ズガール共々地下遺跡に用済みとして葬ったはずだった。


 要所要所で必ず姿を見せる紅き髪を揺らす美しき姫。自身が持つあらゆる手を尽くして、あの少女を消そうと画策した。


 ──だが、届かない。


 まるで見えない何かが、少女を守るように弾かれる。


 そしてそんなニースの心情を逆撫でするように、魔道具が映し出すエストレアは明らかにニースに向けてこう言葉を発した。


『隠れんぼは終わりだ』


 ───パリィン……


 シャボン玉が弾けるように、その効力を失っていく結界を焼き付けながらニースは拳をわなわなと震わせていた。


 既に連合軍に帝都周辺は制圧され、結界は消えたことで各門から雪崩のように押し寄せてきている。


 あちこちに爆発や悲鳴が聞こえ、まさにニースが掌握したファンテリム帝国の首都は陥落寸前にまで陥っていた。


 至る所に連合軍の旗が翻っており、既に制圧されたことが伺える。


 帝都は自身の命令で改築増築を繰り返して、複雑な迷路にしたが、こうも早く制圧されるとは思ってもいなかった。


「に、ニース様、我々はどうしたら……!」


 その声には、戦況を理解する者の声からの焦りではなく、主人の指示がなければ一歩も動けない“飼い慣らされた犬”のような弱さと怯えが滲んでいた。


 彼らは自分の判断で動くことが出来ない。判断を誤れば、処刑される。そうやって処分された者たちを数えきれないほど見てきたからだ。


 故に彼らはただ盲目に従うしかない。それが、ニースの造り上げた“統治”の本質そのものであった。


 統制された組織としては優秀かもしれないが、だが同時に──これこそが彼と彼の派閥を追い詰める最大の要因でもあった。


「………これまでですか」


 ニースはポツリと悟ったように誰にも聞こえないような言葉を発すると、指示を待つ部下に視線を向ける。


 ようやく指示が来ると期待する部下にニースが下した判断は───最低なものだった。



 


◆◇





「閣下!結界が消滅しました!」


「既に第三層は6割が制圧され、貴族街も南側は制圧され、奴の派閥の人間は拘束されました……!」


 同時刻。帝都コンスタンブールのとある民家の地下室では黒いコートに身を包んだ男女数名が一本の蝋燭を囲んでいた。


「シドニス侯爵閣下、今が好機です!帝都内部にまで戦火が来てしまった以上、我々が立ち上がれるタイミングはここしかありません!」


「そうです!奴の宮殿には、我々の同志が数多くいます!やつの派閥の人間に背乗りされ消された貴族の誇りを取り戻すため、我々も持てる人脈を駆使してきたのですから!」


 彼らはこのファンテリム帝国の保守派貴族の生き残りである。ニース・カヴァラとその派閥によって、かろうじて残っていたこの国の封建制度は崩壊し、ニース・カヴァラという独裁的な存在になった。


 いや、単に独裁的であったならばまだマシだった。


 問題は──“誰が味方で、誰が敵か”すら分からない地獄へと変えられたことだ。


 貴族同士の諍いは昔からあった。だが、ニースが行ったのはそれとは異質だった。反抗する者はもちろん、反抗しそうな者、その疑念を抱かれただけの者すら、ある日突然姿を消す。


 そして翌日には、まるで何事もなかったかのように、“同じ顔をした別人”が席を埋める。


 声は同じ。話し方も同じ。しかし、魂のない操り人形のような笑みだけが違っていた。


「……背乗りされ、見知らぬ他人が立てられ、家名ごと奪われる。そんな悪夢を、我々は何度も見てきた。だが、今日この日を持って悪夢を終わりにする。もう一度問う。覚悟はできているな?」


 全員が、無言で頷いた。それは、ニース・カヴァラとそれに付随するニース派に対抗するために作られた抵抗組織──パルチザンである。


「ニース・カヴァラを討つぞ」


シドニス侯爵当主バートン・シドニス卿の決意とともに、地下室の暗闇の中に、わずかに灯った決死の炎が揺れる。


 失うものはもうない。だが、取り戻すべきものはあまりに多い。


「いざ往かん──取り戻すぞ、我らが誇りを」


 手に取った武器は短剣と心許ないが、彼らの瞳に畏れも嘆きもありはしない。ただあるのは純粋な、狂気にも似た覚悟の炎。死地に向かう戦士の炎であった。






◆◇






「進め!進め!進め!」


 入り組んだ帝都の街並みを、白銀の鎧で身を固めた騎士達が疾走する。


 先頭を走るのは、元白薔薇騎士団騎士団長を務めていたダリア・シュスペル。歳を重ねていても、その美しさは損なわれることはなく、凛とした佇まいを感じさせた。


「ダリア様!前方に敵30!瓦礫をバリケードにしてして進行出来ません!」


「心配要らん」


───ヒュンッ


 風切り音と共に、一瞬にして瓦礫と何人かの兵士が細切れとなった。


「寧ろこういう状況の方が私にとって戦いやすいからな」


 ダリアの手に握れているもの。それは魔力によりほのかに淡く光る無数の糸であり、『ミスリル製魔導合金ワイヤー』と言われるダリア専用の武器。


 ピアノ線の5倍の切れ味を誇り、魔力を纏わせることで、高い耐久性と更なる切れ味を実現させることが出来る。


 特に帝都の街並みのように複雑に入り組んだ場所では無類の強さを発揮することができる。障害物などでカバー出来ることは、ダリアの前では致命的でしかない。


 とある魔獣との戦闘により視力を失い騎士団長の地位を返上し、訓練官として就任した彼女だったが、視力を失ったことで逆に更なる高みへと昇華した。


ギギギギ…………!


「ふっ!」


『うわああっっっ!!!!!?????』


 無数のワイヤーが建物に巻きつくと、ダリアはそれを巧みに操り、巨大な質量を持った凶器へと変える。それをまるで軽々と振り回し、密集する敵の中心へ投げつけた。


「すごい………!」


  誰が呟いたかは定かではない。だが、『人形師マリオネッター』は衰え知らず。それは今でも語り続けられる生きる伝説であった。




◆◇



 一方で帝都上空に滞空していた魔導艦クオリアでは魔力で投影された帝都全体図が組員クルー及び艦長に公開されていた。


「最下層の約7割の制圧が完了しています。次の段階に移行すべきでは?」


 公開された帝都全体図にはどこにどの勢力がいるのかというところまで精密に反映されており、特に勢いが顕著なのがシェートリンド王国から派遣されてきた元騎士団長を務めたダリア・シュスペル率いる白薔薇騎士団の一部隊だった。


 その他にはダークエルフと思われる二人組が大勢の兵士相手に果敢に奮闘していたり、1人の少女が瓦礫を用いて無数のゴーレムを一斉に生成し、大暴れしているところもあった。


「……そうだな。第二層、貴族街へ進路を変更せよ。貴族街の兵士駐屯地を砲撃する。各員、備えよ」


「はっ!」


 クオリア艦内の指示が魔力の声として一斉に伝わり、魔導兵器の操作士たちは即座に各砲門の照準を再調整し、貴族街の重要拠点へ魔力投射を開始する。


 もはや雌雄は決した。どう転んでも、ファンテリム帝国───いやニース派に勝機はあり得ない。それはクルー全員が思うほどに帝都は燃えていたのだから。


「……嫌な空気だ」


 だが、投影された帝都をみたクオリアの艦長は胸がつっかえるような不安さを抱いたのだった。












 一方、ニース側の兵士達は混乱の極みに置かれていた。


 何せ各国の混成連合軍により、帝都はまるっと包囲され指揮所などの要所は真っ先に潰されたか制圧されたことで命令系統が滅茶苦茶になってしまっていたからだ。


 更にはあちらこちらに広がる戦火に逃げ惑う市民の混乱もあり、誘導する側も困憊していた。



《ファンテリム帝国の兵士諸君に告げる!勝敗は決した!武装を解除し、投降せよ!》



 随所から聞こえる投降を促す魔力拡声が、帝都全域を貫いた。だが、それを聞いたニース派兵士の反応はバラバラだった。


「な、投降……?投降しても、俺たちは……」


「そんなことしたら、家族が……!」


「だ、だけどこのまま戦っても死ぬだけだろ!」


 絶望、混乱、恐怖。その全てが絡み合い、兵士達は逃げることすら出来ない。


 彼らは“判断”を禁じられてきた。だからこそ、“生き延びるための判断”すら出来ない。


 そんな時だった。



『ガ、ガガ……、聞こえているか、ファンテリム帝国帝都の臣民よ。私の名はバートン。バートン・シドニスである』

 少しでも面白い、続きが気になると思った方は感想、評価、ブクマ、いいねをよろしくお願いします。

これからも、この物語を見守ってくださると嬉しいです!


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