chapter9-5
お待たせしました\( 'ω')/
突如として鳴り響いた轟音。
それは帝都コンスタンブール上空に出現した神聖国所有の魔導兵器【多目的制圧用航空魔導艦】通称【聖寵艦クオリア】が、同じくして魔導兵器【垂力運動地対彗星兵器】、通称【天墜杭ディアナプトラ】による砲撃を受け、その際に【聖寵艦クオリア】が障壁を起動させぶつかり合ったものであった。
「チッ……!厄介なことになったな!?」
吐き捨てるようにクローディンが悪態をつく。どのような事があったかは不明だが、先制はおそらくあちらだろう。
であるならばこの後に何が起こるのか。
───つまり、その答えは決まっている。
◆◇
多目的制圧用航空魔導艦【聖寵艦クオリア】内部では慌ただしくはあっても、内部のクルー達は混乱してはいなかった。
「魔力障壁、正常稼働中。損耗率94%」
「魔力機関に異常なし、航行支障なし!」
突然の出来事に当初はゴタゴタとしていたが、ほぼ何の支障がないことを把握すると艦長席に座っていた1人の女性が険しい表情で指示を出す。
「先に仕掛けてきたのは彼方だ。砲門展開!魔力チャージ開始!」
その言葉と共に、船内の乗組員達が各々の役割に応じて動き始める。やがて船体前方部に装着されていたブレード状の物がゆっくりと、展開されていく。
そしてその様子を見た艦長の横に立つ副官と思わしき女が、再び口を開く。
「───主砲発射準備完了。いつでも可能です」
そんな声を聞いたとき、艦長席に座る彼女が口を開く。
「主の思し召しである。秩序を乱す輩に雷火の鉄槌を────」
艦長の命を受け、主砲たるブレード状の砲口が魔力光を帯び始める。青白く輝く魔力の奔流はまるで光の渦、今にも放たんとする竜の息吹のようであった。
──そして。
艦首に集束する魔力は、やがて天をも焦がす光柱へと変わった。空気が震える。雲が焼ける。
そして艦内には、祈りにも似た静寂が広がる。
「神の御名において──我ら、聖なる恩寵を授けん」
艦長が右手を掲げる。その掌の印章が淡く輝いた瞬間、船体全体に展開された魔法陣群が共鳴を始め、無数の円環が重なり合い、光が奔る。
「──撃てぇぇぇぇぇッ!!!!」
閃光。
空を裂く咆哮と共に、青白い光を伴う砲撃が放たれた。
「着弾、今っ!」
──だが。
バチィィィィィッッッッ!!!!!
放たれた高出力の魔力の帯は、着弾が決まるその瞬間。帝都コンスタンブール全域に水面の波紋のような膜が展開され、着弾と同時に魔力のスパークを伴いながら破裂する。
「っ!?」
「命中!いえ、帝都全域に魔導障壁を確認っ!!!中和されています!」
「なんだとっ!?」
しかし驚いている暇はない。直後、別の組員から悲鳴じみた報告が届く。
「帝都中央より熱源発生!高魔力反応、収束していきます!これは………魔力変換式超高熱体圧縮発射砲による砲撃です!!!」
「くっ………!障壁を最大展開!全魔力を供給して展開を維持せよ!!!」
だが、追い討ちをかけるように艦橋には怒涛のように警報が鳴り響く。
「っ、さらなる魔力反応を検知!帝都周辺の攻略中の砦群……北西部と西部から魔導兵器が連続起動しています!!!」
「……何だと!?二つの制圧はどうなっている!」
「おそらく外部から遠隔で魔力介入を受けています! 照準──すべて我が艦、クオリアです!!」
「クソッ……艦にウルカヌスの砲撃を同時射撃する気か……っ!」
怒号と同時に、艦橋の照明が明滅する。
北西部砦と西部砦──二つの魔導兵器が、同時に砲口へ光を収束させ始めていた。
「照準ロック!魔力波形、敵砲門から発射準備段階に移行!発射まであと30秒!!!」
「っ……司令!このままでは──被弾は防ぎきれません!!」
「っっっ!!!プラン変更!障壁カット!全兵装展開!!こちらも同時に迎撃するぞ!」
「ですが!それですとウルカヌスの火力では!!!」
「構わん!受け身では全滅だ!」
彼女の叫びと同時、艦内の魔力ラインが一斉に臨界点へ達する。
艦長席から放たれる魔法陣が青く輝き、クオリアの魔導装甲が次々と開放される。
「魔導砲・全砲門展開!障壁維持、全エネルギーを集中!主砲・緊急リロード開始──発射準備まで25秒!!」
──そして。
北西部砦、西部砦、そしてコンスタンブール中央区画──三方からの魔力光が、同時に天空の一点を目指す。
「来るぞっ!!」
瞬間。
空が裂けた。
◆◇
パチ、パチ、パチ……
一方で、帝都コンスタンブールでは。闇に沈む玉座の間の奥。薄闇の中、部下が持ち出してきた魔道具に映し出された空飛ぶ船を見つめながら、一人の男が静かに拍手をしていた。
「くっくっくっ、お見事です。さすがは魔導艦。古の古文書に名を連ねるだけはあります。ですが、所詮は匹夫の勇───」
男の名はニース・カヴァラ。帝国の大地と皇帝バモレッドの血を永遠に呪う呪詛を背負ったカヴァラの末裔。
その瞳がわずかに細められ、魔道具の映像を舐めるように観察する。まるで料理を楽しむ美食家のように、彼は戦場に現れた『味』を吟味していた。
「いくら才能に秀でていようと、戦場においては基本的には質よりも数、なのですよ。どこまで抗えるのか、見せてもらいましょうか」
ニースは楽しそうに笑う。その姿はまるで、盤上の駒を弄ぶ棋士のようだった。
彼にとって、この戦争はただの通過要素でしかない。帝国そのものを滅ぼす悲願を達するための、エッセンスでしかないのだから。
だが、運命というものはどこまでも気まぐれで残酷だ。
何故ならこの世界は───たった1人のために用意された楽園なのだから。
◆◇
轟音が鳴り響く中、エストレアは制圧した砦の一番高い場所に立って、今起きている事を見つめていた。
今の彼女の瞳は鋭く、まるで獲物を狙う猛禽類のそれである。その瞳は魔導艦クオリアを見つめるのではなく、その先──宙に浮くクオリアに砲撃を当てんとする魔導兵器の起動を認めたに他ならない。
眼下ではクローディンが何やら意を決した表情でこちらを見ていたが、だが今はこれからやることに集中しなければならなかった。
「ふぅーーー、……陽光よ、我が手に熱を。原初の慣し、【比較】を与えし者。我はそれを手繰る者」
エストレアは虚空に手を伸ばし、徐に祝詞を唱え始める。エストレアの身体に黄金色の粒子が集まり始め、眩い光が一瞬世界を包み込む。
光が収まる時、そこには。
「借りるぞ、アグル」
黄金の鎧を身に纏うエストレアの姿が。それはシェートリンド王国で王都アントンを襲った事件に幕を引いた神の写し身。
原初の造神、熱を司りしエルフの祖、アールヴ・アグルの権能を降ろした姿。太陽神としての面を持つアグルより与えられた、大いなる力である。
さらにエストレアは虚空から一振りの武器を取り出した。持ち手の両端に剣が取り付けられた両刃剣。
【天穿ガラティーン】
この世界には【聖遺物】と呼ばれる人の手で扱える超兵器の類があるが。だが、これは違う。【創世器】と言われる原初の権能。
黄金の稲妻とは即ち、太陽の威光そのものである。
「我は天に恵みを乞い、地に満ち満ちる悪徳の一切を、赫怒の焔を以て討ち滅ぼさん。
去らば宿痾よ、黄金の陽光は万象を照らし、欺く影すら許さぬ。
古より連なる御名のもと、原初を駆ける熱の理たるアールヴ・アグルよ、汝が権能、此処に顕現せよ。
天を穿つ焔、我が身と為れ。汝は我が身に宿れ──」
祝詞と共にエストレアの手にある天穿ガラティーンはその形を変形していく。エストレアの身に纏う黄金の鎧の一部をパーツとして組み込んでいき、次第にそれは身の丈を大きく越える弓の形を取る。
灼灼とした熱を放つ核を搭載した黄金と純白のメカニカルな大弓。エストレアはその核に手を添え、矢を番えるように引き絞る。
「我、天焦がすブラフマン」
エストレアの瞳がどこまでも赤く、紅く、赫く光輝く。
「人の業は油泥の如く。畏れ、敬い、天を仰ぎ己が矮小さを知る。轟け──【光芒の兆、禍天より禊ぎ濯げ】!!!!」
その真名と共に天高く放つ。
天空で三つの光の柱がクオリアに直撃するよりも、エストレアが放った一筋の光が一条の軌跡を描きながら暗雲を引き裂いていく。
雲の切れ目から降り注ぐ薄明光線のように、クオリアの背後から降り注いだ光は、放たれたウルカヌスの灼熱の熱射をいとも容易く飲み込んだ。
黄金の輝きがまるで天を焦がす竜の咆哮のように炸裂する。
そして稼働していた魔導兵器はその金色の光に飲み込まれると、爆発を伴って跡形もなく消滅した。
「次」
そしてエストレアは今度はクオリアの船首に飛び乗ると再び、その大弓を構える。背後から神聖国の乗組員たちの声が騒がしいが、今はどうでもいいことだ。
「ニース・カヴァラ。かくれんぼは終わりだ」
終わりにしよう。そう意思を込めて、引き絞った力を放つ。
──パリィン………
その矢には稲妻も焔もない。ただ魔力を込めた力の塊を放っただけ。ただ、ただそれだけで、帝都コンスタンブールを覆っていた魔力障壁はガラスのように砕け散っていく。
砕け散った障壁の残滓が光の塵となって大気へ消えていく。その一瞬、戦場全体が凍りついたように静まり返った。誰もが理解したのだ。さきほどまで絶対的な防壁として天を覆っていたものが、たった一射で粉砕されたという現実を。
連合軍、帝都の兵らは息を呑み、誰かが喉を鳴らす微かな音だけが混じる。
それは畏怖か、歓喜か、あるいは理解を越えた“奇跡の目撃者”にだけ許される沈黙だった。
ある者は喜びと畏敬を漏らし。ある者は己が悲願を破綻する存在を改めて理解して発狂していた。
そして、帝都内部で密かに動いていた現政権に反対する勢力もまたこれに乗じて動くことを決めた瞬間でもあった。
そして。
一部始終を見ていた総大将のアラン第一皇子は勢いよく立ち上がり、声高く宣言する。
「──全軍、進撃せよ!!この好機を逃すな!!!」
その号令は力強く戦場に響いていた。




