閑話:冒険王 邂逅編 Ⅶ
薄暗い地下遺跡に極彩色の火花が飛び散る。
瓦礫の山を飛び降りた親父さんが生み出したのは空間を焼き尽くしそうな巨大な炎や、身震いするほどの冷気を帯びた氷柱や、直撃すれば骨すら残さずに消えてしまう無数の雷撃。それらを詠唱せずに、ただ指をくゆらせるだけで生みだし、エルフの剣士に向けて放つ。
どれか一つでも掠めただけで死んでしまいそうな魔法が、剣士へ迫って来る。普通に考えれば、恐怖で身が竦んでも仕方ない状況だ。
だというのに、エルフの剣士は親父さんを追いかけ瓦礫の山を蹴った。
細身の体とつり合っていない長剣を軽く振るい、恐るべき破壊力を持った魔法を切り裂いていった。巨大な炎は真っ二つに千切れ、冷気を帯びた氷柱はダイヤモンドダストのように塵となり、明確な形すら持たない雷撃は刃に押しつぶされた。その余波で遺跡は悲鳴を上げるように振動する。
常識外れの魔法を生みだす親父さんも大概だが、そんな魔法を剣一本で叩き切るエルフも大概だ。そして極めつけは、傍から見ても両者の戦いに余裕が感じられることだ。
どちらも余力を残している。
相手の真の力を探り、それを引きだそうと牽制し合っているに過ぎない。
ボクシングで言う所のジャブの打ち合いなのだが、傍に居る人間には大砲の撃ち合いに匹敵する。
「……なんですか、あれは」
サーコートの青年が震える唇でようやくつぶやいた言葉は、奇しくもエイリークと同じ感想だった。
「いまの雷撃、《ミリオンサンダー》? あの地面が隆起した魔法は《グランドアース》のような……いえ、それはありえません。単独で、それもあのように連発して放てる魔法ではありません。それを、ああも軽々と。……まさか、本当に『精霊の養い児』なのですか」
「ちょっと待ってくれ。その、『精霊の養い児』ってのは何だ。さっきのエルフも同じことを言っていたけど」
エイリークが尋ねると、サーコートの青年は親父さんとエルフの剣士が繰り広げる、言葉にできない壮絶な戦いを視界に収めながら語り出した。
「『精霊の養い児』とは、いわゆる魔法誕生に関する伝承の一つです。元々、魔法というのは精霊だけが行使できた、世界に働きかける力というのはご存知ですか。人間よりも世界、あるいは神々に近い精霊は、世界を構成する粒に命令を下せる力を持っています。いま、私達が使う魔法は、精霊だけに許された力と同一な物です」
サーコートの青年は明朗な喋り口で続けた。
「その魔法をこの世に誕生させたのが『精霊の養い児』と言われています。彼は赤子の頃に精霊に拾われ、精霊たちに育てられたそうです。ある程度成長した頃には精霊の扱う言葉、いわゆる精霊言語を理解でき、操る事の出来る唯一の人間となったのです。その人物は精霊の手から離れ、人の世へと戻り、幾人かの協力者と共に精霊言語を人間の言葉に翻訳する事に成功しました。それが、魔法を操る力ある言葉になったのです」
「その話、どこかで……ああ、そうか。採掘場で会った爺さんが話してくれたおとぎ話か」
「おとぎ話とされますが、『精霊の養い児』の伝承は広範囲に渡っています。年代や主人公である子供の性別など、細部は地域によって違いますが、これだけ広範囲に伝承が広まっているのは精霊が事実として広めたのではないかと推測されています。……そして、『精霊の養い児』の伝承は、こう締めくくられるのです。……精霊の言葉を人間の言葉に落とし込めたことで罰を受け、『精霊の養い児』は人の形を保てなくなり、人々の前から姿を消したと」
「人の形を保てなくなり……なら、そいつは間違っている。親父さんは人間だ」
言い切った直後、魔法と斬撃の余波で吹き飛んだ瓦礫が三人の真横を通り過ぎた。人間の三倍以上はあったジャイアントナーガと同じ大きさの瓦礫に冷汗が止まらない。
「……人間、のはずだ。そうだよな、オルタナ」
確かめるというよりも、そうであってほしいという願いがその問いかけには込められていた。だが、オルタナは小さな頭を横に振った。
「その人の言う通りだよ。父さんは、人の領域から逸脱した怪物……古の時代に『精霊の養い児』と呼ばれていた存在だよ」
淡々と告げられた内容にエイリークはショックを隠せなかった。人間の振りをしていた事でも無く、それを黙っていられたことでも無く、オルタナが父親の姿を見て怪物と躊躇いなく告げた事に心が騒めいていた。
旅の間、この奇妙な親子が心を通わせている瞬間を何度も見てきた。
野営をするとき、オルタナが風邪をひかないようにと剥がれた毛布をかけ直すところを。薬の作成に取りかかると食事も休憩も取らずに夢中になる親父さんを無理やり休ませるところを。一緒に食卓を囲めば、そこには何処にでもある、それでいて互いを思いやる親子の姿があった。
「ですが、貴方の父上は、どう見ても人間です。いえ、腕を切られ首を落とされて、何事も無かったように生きているのを人間という枠組みで考えていいのか定かではありませんが、ともかく、人の形をしています。これは『精霊の養い児』の伝承に間違いがあったという事でしょうか」
「ううん。伝承は確かに一部間違っているけど、父さんが人の形を保てなくなったというのは正しいよ。……父さんは、『精霊の養い児』はね、人間である自分が嫌で嫌でしょうがなかったんだ」
「それは、初めて聞く話ですね。……というと?」
「理由は色々だよ。精霊の世界と違って人間の世界って、ほら、権力欲とか、物欲とか、そういった汚い面がいっぱいあるでしょ。多感な思春期を精霊の元で育てられた父さんなんて、言ってしまえば温度も水質も完璧に清潔に管理された水槽で育てられたお魚だよ。それが突然海に放り出されれば、ショックを受けるよね」
オルタナの話が続く中、戦いも激しさを増していた。既に二人の戦いはエイリークたちが居る瓦礫の上から遠く離れた場所に移動していたが、爆音と剣戟の凄まじさは治まる所を知らない。
流れ弾が遺跡の壁や天井や床を撃ち抜いたり、切り裂いたり、消滅させている。そんな中で瓦礫の上だけは奇跡的に無事なのは、親父さんとエルフの剣士がコントロールしているからだろうか。
まさに荒れ狂う台風の目の中で、周囲が形を変えていくのを安全圏で眺められていた。
下手に動けば戦いの余波で吹き飛んでしまう状況下で、オルタナは話を止めない。
「だから、父さんは決めたんだ。嫌で嫌でしょうがない人間から、精霊になろうと。精霊になって、精霊と共に永劫を歩もうと。精霊言語を生みだしたのは、その過程であって、目標じゃないんだ」
「世界にこれだけ浸透している魔法という技術を生みだしたのが、精霊になるという目標の副産物だとは信じ難いです。それで、お父上の望みは?」
「見ての通り、失敗だよ。土台、人と精霊と神には越えられない存在としての壁があるんだ。上位の存在が下位に落ちる事はあっても、その逆はあり得ない。人が神に為るなんて……それこそ、天地を逆さまにしないと、理を逆さにしないとね」
「……オルタナ?」
物憂げな顔をしたオルタナにエイリークは違和感を抱いた。幼い相貌には不似合いな表情は一瞬で消え、いつもの柔和な微笑みを携えた物へと変わった。
「父さんの望みは失敗したと言っても、半分は成功したんだ。父さんは人という枠組みから外れ、そして精霊に為れなかった。理から外れ、世界にこびり付いた染みのような存在になったのさ。……いま、僕らの前で生きているように、人間のように振る舞っているのは、人の形をとった現象なんだ。暑い日に地面に水を撒けば陽炎が生まれる様に、寒い日に地面の水分が凍って霜が降りるのと同じ、そういった現象として世界に残っている」
「人では無く現象。ゆえに切られても、首を落とされても死なないという事ですか」
「そういう事みたいだよ。理外の存在になったとき、父さんにとって過去と未来は同一になった。普通の人にとって、時間の流れは変質を表しているでしょ? 一秒前の自分と一秒後の自分は同じ人物であって、全くの同一では無い。でも、現象として、世界にこびり付いた染みとなった父さんにとって、今も、過去も、未来も、等しく同じなんだ。未来に存在していることが確定した現象を、今どれだけ壊しても復元してしまう。だから、父さんは不死身だ」
頭がくらくらする。理解が及ばない話だった。
人の身でありながら精霊に為ろうとして失敗し、世界に存在する現象となったなど、到底信じられる話では無い。だが、現実として親父さんは、首を落とされても何事も無かったように元通りの姿に戻る。
未来に存在していることが確定しているから、現実が改変される。前半と後半の辻褄を合わせるために書き換えられる舞台の脚本のようだとエイリークは慄いた。
「まあ、理外の存在になって悪い事だらけじゃないって本人は言ってるけどね。過去と現在と未来が同一になった事で、未来の自分が知る情報を手に入れたり、人間だった時よりも世界に深く干渉できるから、ああして詠唱も無しに魔法を次々と発動しているんだ」
「精神力切れは起きないのですか?」
「起きないと思うけど……正直な所、僕が父さんに拾われてから、あそこまで追い詰められているのは初めて見るんだよね。あの剣士さん、本当に強いよ」
エスカレートしていく戦いにびっくりだと呟くオルタナだったが、ふと顔を上に向けた。親父さんが壊して空いた穴がぽっかりと覗かせる上層に厳しい視線を送っていた。
「どうかしたのか、オルタナ。まさか、上から何か降って来るのか」
遺跡に潜る前、この棄てられた寺院がモンスターの巣窟だと聞かされていた。ところが、実際に中に入ってみると、モンスターの居た痕跡はあるが姿を現さなかった。この階層で、ようやくジャイアントナーガに遭遇したのだ。
そんなモンスターが今更のように振って来るのではと警戒したが、オルタナは違うよと軽く言い、それよりももっと厄介な事を口にした。
「ああ、やばいなぁ。このままだと、この遺跡崩れるよ」
「なんだ、遺跡が崩れるのか……え? 崩れるの?」
「うん。あの二人の戦いで、もう限界寸前。あと数分もしない内に上から下までぺちゃんこになるよ」
オルタナの表現に、エイリークとサーコートの青年は大森林に突如として窪地が誕生し、そこに埋められてしまう自分たちを想像してしまった。
「多分、あの二人は無事に生還できるけど、僕ら三人は無理だろうね。ひっどい話だよね、彼らが原因なのに」
「何を簡単に言ってるんだ! 大変じゃないか!」
「そうですよ! ここにはまだ貴重な壁画や、宗教的美術品の類も多くある、素晴らしい価値を秘めた寺院ですよ!」
「いや、それは論点がずれてる。まずは、俺達の命が大切だろ。今から脱出しても間に合いそうもないか」
「無理だよね。生還するには、あの二人の戦いを止めて、安全地たちを作らないと」
「……簡単に言ってくれるな。あの嵐の中に飛び込めって言うのか」
詠唱も無しに繰り広げられる魔法と、空間ごと切断しそうな斬撃の応酬はエイリークの理解を越えていた。もう、親父さんとエルフの剣士が何処に居るのかすら見当もつかない。
オルタナが言っていることは、二つの渦潮がぶつかり合い複雑な流れを生みだす海面に向かって命綱も無しに飛び込めという事だ。
だが、少年は穏やかな口調で言う。
「うん、君がするんだ、エイリーク」
「……オルタナ?」
どこか超然とした雰囲気を纏った少年は、父親と激しく戦うエルフの青年と、そして自分たちの傍に居るサーコートの青年を指で示した。
「あの人と、そしてこの人。この二人は、君の未来にとって不可欠な存在となる。此処で失えば、君は君の願いを果たす機会を失うだろう」
「……どうしてそんな事が断言できるんだ? 未来予知か? それとも―――」
「勘だよ。ただの勘。でも、僕の勘はよく当たる、それは君も知っていることだろう」
柔和な微笑みを浮かべる少年にエイリークは仕方ないとばかりに溜息を吐いた。
「おい、其処のアンタ」
「は、はい! 何でしょうか?」
指名されたサーコートの青年に、オルタナを引き渡した。
「この子の傍に付いていてくれ。それで、この子の指示に従って行動してくれ。そしたら、アンタも生き残れるかもしれないし、さっきの失言もチャラにするよ」
無茶苦茶な事を言っていると自覚はあった。見ず知らずの男から、命の瀬戸際という状況下でこんな事を頼まれても受けるはずが無い。
ところが、青年は力強く頷いた。
「了承しました。ご武運を」
「止めるなら、父さんじゃなくてエルフの青年。彼の気を逸らすと良いよ」
「本当に軽く言ってくれるな。それじゃ、ちょっと行ってくるよ」
そう言い残して、エイリークは死が濃厚に感じられる嵐へと向かって走り出した。
厄介だな、とエルフの青年は心の中で毒づく。
剣を握った手は休みなく斬撃を振るい、足は常に動き続け的を絞らせず、萌黄色の鋭い視線は目まぐるしく変わる状況を一瞬の見逃しも無くとらえ続けていた。
戦況は全くの五分だった。
エルフの剣士が次々と繰り出される魔法を悉く切り伏せ、刹那の間に生まれた隙間に刃を捻じ込んだところで、『精霊の養い児』にダメージは与えられない。腕を切っても、肩口からわき腹へと切断しても、頭部を縦に割っても、次の瞬間には何事も無かったように復活を果たしていた。
命を失い、世界にしがみ付く染みとなった事で、逆に不死性を得た。未来に存在する以上、現在も存在しなくてはいけないという屁理屈のような理に生かされる理外の存在。
海を相手にしているような気分だった。どれだけ斬っても、相手に消耗はあり得ない。
常に不変。
常に同一。
疲れる事も、倦む事も無い存在。
「……だが、無敵という訳では無い」
「何だと?」
頭の上半分が何処かへと置き去りになり、鼻から下だけというショッキングな姿にも関わらず、変わらない様子で喋った『精霊の養い児』に器用だと感想を抱いた。
「完璧な不死のようでいて、無敵では無いと言ったのだ。不変だと聞いたが、耳は老いたのか? それとも耳が何処かへと吹き飛んだから聞き逃したのか」
「面白い事を言うじゃないか、『守護者』。一つ、この老体にご享受してもらおうか」
いつの間にか頭の上半分が元に戻り、帽子を被った『精霊の養い児』が余裕ぶった口調で尋ねた。
エルフの剣士は、聞き覚えの無い二つ名を訝しみつつ、剣を構えて答えた。
「貴様は確かに不死で不滅だが、無敵では無い。例えば、この次元以外の場所に吹き飛ばされたら、此処に出現する事は難しいはずだ」
「……まあ、確かにその通りだ。俺という個体は、あっちからこっちに瞬間的にいどうするなんて、精霊のような移動は出来ない。だが、見た所剣士のお前にそんな高難度の術式が発動できるのか?」
「無論、出来ん」
彼は自信満々に答えたが、しかしその直後に恐ろしいことを呟いた。
「出来んが、似たような事は出来る」
その言葉の意味を理解するよりも前に、青年は動いた。自分の前にある何もない空間に向けて剣を振るい―――世界に傷を付けた。
世界という枠組みに穴が開き、此処では無い何処かに誘う口がぽっかりと覗く。
「な、なんて出鱈目な奴だ! 剣だけで、空間を開きやがった!!」
『精霊の養い児』は信じられないと叫ぶも、その叫び事、空いた傷口に向かって吸い込まれそうになった。瞬時に、雷、氷、風、毒を混ぜ合わせた強力な魔法を展開し放つも、傷口に飲み込まれるだけだ。
何処とも知れない何処かへと消えた魔法を飲み込んだ途端に傷口は勝手に閉じた。周りの圧力に耐えかね、押しつぶされたように。
「消え、たのか」
「ああ、消えた。まだ未熟だからな、出せて数瞬なんだよ、今のは」
呆然とした呟きに答えたのは、すぐ傍まで踏み込んでいた剣士だった。斜め下から振り上げた三連撃は、そのまま『精霊の養い児』を四等分の塊へと変化させた。
空間斬撃は溜めの必要な一撃だ。
言葉を交わす事で一瞬とはいえ戦闘中に隙を稼げたから発動できた斬撃であり、おいそれと連発は出来ない。
一撃目で飲み込まれれば話は終わっていたが、やはり期待した通りには行かなかった。だから、彼は相手を行動不能に追い込み、それから空間斬撃を至近距離から放とうとしていた。
だが、『精霊の養い児』にとってそれは、取るに足らない攻撃だった。
無事だった右腕が膨れ上がり、紫色の塊となって破裂した。
毒の魔法だ。
触れた箇所から肉が腐り落ち、汚染された空気は肺をも爛れさせる。
しかし、エルフの剣士は飛び散った毒素を、一瞬の内に振り切った十の斬撃で霧散させてしまった。剣に毒素は付着しておらず、恐るべき切れ味だけがそこにあった。
人外の剣技を称賛するものは居ない。ひたすらに警戒する存在が背後に迫っていた。
人の形を作り直したオルタナが両手を回すと、遺跡の天井と床の一部が一気にせり上がった。エルフの剣士を飲み込む形で生まれた土柱は分厚く、その間に挟まれた生命が押しつぶされるのは容易に想像できた。
しかし、土柱は内側から走った斬撃に細切れにされた。剣士は一切のダメージを負ってない。
辛うじて残った足場を蹴り、一気に距離を詰めようとする。途端、『精霊の養い児』の全身が光り輝く。
地下だというのに、真夏の太陽から発せられるような強い光に、剣士の網膜は白く焼かれた。
視力は零。攻撃を仕掛ける事は不可能だ。それどころか、普通なら相手の行動を警戒して防御姿勢を取るべき状況だ。
だというのに、剣士は力を溜め、着地するなり反転して『精霊の養い児』を斜めに切断した。
もちろん、視界は蘇っていない。彼は目では無く、僅かに聞こえた足音や、空間を移動した際に起きた風の揺らめきを追いかけて切ったに過ぎない。たったそれだけの情報しかないというのに、正確に切り裂いたのはエルフの剣士が持つ技量が異常と呼ぶ以外無かった。
目くらましが全く効果をもたらさなかった事に、『精霊の養い児』は嘆かなかった。こうなるだろうと漠然と考えており、背後に出現させた光の球体から幾筋もの熱線が音も無く放った。
眼が使えず、音も、風も起こさない魔法なら仕留められると考えたのだ。数百度を超える熱線は触れた物を一瞬で蒸発させる。肉体を掠めれば、あっという間に骨まで到達する致命傷だ。
そんな『精霊の養い児』の目論見は甘いと言わざるを得ない。
エルフの剣士は、目が見えないのに、音も、風も起きていないのにただ嫌な予感がしたという理由だけで熱線を躱し、躱し切れない熱線を切り裂いた。
「……種を守るためなら土地に住まう民すら根絶させた『守護者』。なるほど、十分に恐るべき存在だな」
「貴様に褒められても嬉しくは無い。……やっと目が見え始めたな」
視力を取り戻し、『精霊の養い児』の姿を確認する。と、同時に彼は自分たちに向けて走って来る存在に気づいていた。
先程相対した人間だ。
一応は気を使って流れ弾がそちらに向かわないようにとしていた瓦礫の山から下り、何故か自分たちの方へと駆け寄って来る存在に気づいていた。
気づいた上で放置していた。何故なら、一瞥した瞬間に互いの力量差は確認済みだ。あの人間が加勢した所で、何ら脅威にはならない。肉の盾にすらならないと判断して放置していた。
視界を遮らなければ捨てておいたものが、こうして近づいて来るのを不快に思いつつも、しかし無視をする。
『精霊の養い児』に意識と神経と集中を向けて―――
「―――ハーレム要員にエルフ娘が欲しいんで、紹介してくれ!!」
「アアッ!!」
それらは一気に噴き出した殺意に押し流された。
読んでくださって、ありがとうございます。
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