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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第9章 故郷
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9-39 今度こそ

 区界の関所では拍子抜けするほどあっさりと、簡単に通過する事が出来た。拷問じみた尋問や、容赦無い取り調べなどは一切なかった。不法入国と窃盗と傷害を侵したヨシツネに対する政府役人からの判断は、集落を出る前にミエリッキが語った内容とほぼ一致した。


 対応に出た警備隊は、ヨシツネに対して事務的に速やかな出国と一年間の入国禁止を告げるに留まった。出国の際に必要な書類も直ぐに発行してもらえたのだ。


 審判官が出てきて、真実かどうかを見極めるような事も無く、簡単に関所を抜けてしまった。


 後ろを振り返って遠ざかる関所を見ても、不審者が追いかけてくる気配も無い。


 もちろん、それには理由があった。狼人ヴォルフ族の大長が、便宜を取り成してくれるように嘆願書をミエリッキに持たせていた。それも役に立ったが、一番の理由はレイミクリヤ猫人カッツェ族の集落を救った事が大きい。


 こことは別の警備隊と共同で異常行動するモンスターを排除をした事は、広く伝わっていたらしく、最初から好意的に接してくれた。レイの稚拙な作り話も頭から信じ込み、そんなヨシツネの身元引受人を務めるレイに称賛の言葉すら送っていた。


「主様のお人よし性格が、回り回って自分たちを助ける事になるとはね。こればかりは、私の目をもってしても見通せなかったわね。善行も積んでおくべきなのかも」


 褒めているのかけなしているのか分からないシアラの感想は脇に置いて、憂うべき問題が一つ片付いた馬車は西へと進む。


 カプリコル北西部分は、まだモンスターの異常行動が活発ではないらしく、警備隊が他地区の状況を受けて警備を強化している事もあって比較的安全であった。戦闘らしい戦闘も無く、もめ事らしいもめ事も無く、旅は順調そのものだ。


 遅れていた旅程を予定表の通りに戻す事も出来た。


 気になると言えば、ミエリッキの事だ。


 兄を死なせ、間接的とはいえ故郷に甚大な被害を出した姪であるエトネに、どす黒い憎悪を滾らせた彼女ならば、この旅の間に何かしらの行動に移ると警戒していた。


 そのため、《ミクリヤ》の中で対人に特化しているヨシツネに、エトネの護衛を頼んだ。二つ返事で了承した彼は、四六時中とまではいかないが、エトネの傍を離れずに行動していた。それをエトネは不思議に思わず、むしろパーティーの新入りに先輩風を吹かせていた。


「なるほど。モンスターも獣と似通った部分があるため、毒の餌などを用意できれば効果があるのでござるか。いや、勉強になり申す」


「ふふん。エトネに、なんでもきいてよね」


 戦闘行為よりも諜報や潜入が得意だと言っていた割には、護衛の任務を彼は見事にこなしていた。常にエトネとミエリッキの間にそれとなく体を入れ、馬車を停めて休憩する時は辺りに不審物が無いかどうかを確認していた。


 それを見ていたリザは、


「どうやら、彼は護衛の役目をこなした事もあるようですね。修道院で私やレティの護衛をしていた元騎士も、同じことをしていました。出入りの業者が不審な行動を取らないか目で追いかけていたり、修道院の周りに馬の蹄や不審者の足跡などを探していた時と立ち振る舞いが似ています」


 と、ヨシツネの無駄のない行動を評価していた。


 ヨシツネという護衛が居たからなのか、あるいは国境門が近づくに比例して人の数が増えていったからなのか。そのどちらなのかは不明だが、道中のミエリッキは静かだった。


 淡々と、あくまで案内人としての分を越えず、かといって礼を失した態度を取らず。それでも此方に対しては距離を取って、どこか機械的ともいえる対応に徹していた。


 不気味な静けさの旅路はようやく終わりを迎える事になった。


 旅程表の末端、最後の一行に書かれた場所に期日通りに到着したのだ。


 カプリコルの西の国境線。内陸湾から外海までを一本の線で繋げるように伸びた、国境門に馬車は辿り着いた。








 その威容は、前日から視界に入るほどだった。


 石造りの分厚い門は、北から南へと真っ直ぐに築かれ、威風堂々とした姿を日の下で晒す。カプリコルが鎖国的な政策を取る原因とも呼べるこの壁こそ、国境門だ。


 昨夜の就寝前、珍しく近づいてきたミエリッキが国境門についての軽い解説をした。


「人間戦争の頃に築かれた壁は、以来三百年。何人もの魔法使いによって魔法を重ね掛けされた、この世で最も固い建造物と謳われています。国家予算の一割以上を、二つの門の補強費として費やされています。シュウ王国で暴れた赤龍の吐息ブレスですら受け止められたでしょう」


 ここにコウエンが居れば憤ったであろうことを自慢するように言うが、裏を返せば他国からの侵略を恐れるがゆえの過剰な防衛策だ。


 それに絶対の盾は存在しないと古事にある。


 帝国の有する飛龍部隊ならば上空を軽々と飛び越えられるし、極端な例ではあるが魔法工学の結晶である『機械乙女ドーター』ボラリスの破壊力や、概念を破壊するゲオルギウスの槍など、破壊かあるいは回避する手段は簡単に思いつく。


 やみくもに、防衛に金を回すのは無駄とは言わないが、健全とは言い難い。現に、エトネの故郷は復興の支援を満足に受けられていない。


 もっとも、それはこの国の問題であり、この国に住む者が考える事。通り過ぎるだけの旅人には関係ない。


 南北に延びる壁には、等間隔で門が設置されている。レイ達は、その中で学術都市に近い門を選んだ。


 そこは出国待ちの馬車や荷車で混んでいた。


「これは、中々時間がかかりそうだな」


「仕方ありません。中央大陸の西側でもっとも栄えているのは学術都市。そこへと陸路で行くために、多くの商人や旅人がカプリコルを通過します。そのため、この門に人が集中して混むのは自然な事だそうですよ」


 動かない列を前にぼやいたレイに、買い出しから戻って来たリザは昼食と共に差し出した。この状況を知っている地元民によって、出国門の近くは屋台が軒を連ねている。香ばしい肉の灼ける匂いや、カプリコルでしか取れない染料による布など置物、食品や植物など、多岐に渡っていた。


 レイは受け取った昼食にかぶりついた。


 楕円に焼いたパンの中心に切れ目が入り、そこに野菜やモンスターの肉がこれでもかと詰め込んである。噛めば肉から汁が溢れ、パンの旨みを引き出す。


「こっちはレティ、こっちはシアラで、エトネ。そして五本がヨシツネでしたね」


「かたじけない」


 両手に抱えるように持ったヨシツネは、口元を覆う長布を下ろしてサンドイッチをむしゃむしゃと食べだした。早食いという訳ではないが、一定のペースでパンが飲み込まれていく様は少々不気味だ。


「……確実に、うちの食費は上がるわね、これは」


 道中でも何度も見た光景だが、衝撃が薄れる事は無い。サファ程ではないが、それでも薄い体の何処にこれだけの食料が収まるのか不思議だ。《ミクリヤ》の財政を預かるシアラが頭痛を堪えるようにこめかみを揉んだ。


 忍者らしからぬ大食漢ぶりを発揮しているが、彼の特殊ユニーク技能スキルは代償として膨大なカロリーを要求していた。


 逆に言えば技能スキルを発動しなければ、食事の量はそれほど必要ではないのだが、それでもいつ何時使う事になるのか分からない以上、いざという時に備えておく必要があった。


 見ているだけで腹が膨れそうな食いっぷりから目を逸らして、レイは動かない列に溜息を吐く。


「このままだと、出国は夜頃になりそうだな」


「まあまあ。とりあえず、気長に待とうよ。ミエリッキさんが言ってたけど、この門の向こうにも、街があるんでしょ。出国した人向けの宿場町が。抜けるのが夕暮れとかだったら、今夜はそこに泊まろうよ」


 手綱を握るレティの言葉は予言となって的中した。


 何故なら、出国の段取りが全て整ったのが、日がどっぷりと沈んだ頃だったから。






「では《ミクリヤ》のレイ殿。この書類に署名を」


 差し出された羊皮紙にうんざりした。出国の作業として役人が持ってきた羊皮紙の束は、積み上げれば膝頭まで届きそうだ。


 内容は多岐に渡り、最初に提出した旅程表通りに進めなかった事の理由や原因を問われ、その間に接触した人物の名称を思い出せる限りに書きだす羽目になった。それも、仲間全員分。続けて、猫人カッツェ族の集落へと向かった経緯や、そこでの戦闘内容、報酬として獲得した素材や魔石などの数まで事細かに聞かれ、更にはモンスターの種類と数まで尋ねられた時は軽く呻いてしまった。


 鎖国的な国柄というべきか、国内で起きた事の全てを政府が把握しようと躍起になっていた。そのため、一人一人に尋問とまではいかずとも、念入りに話を聞いて、荷も検めるために出国に時間がかかるのだ。


 その事を、身を持って思い知りつつ、レイは最後の羊皮紙に自分の名前を記した。


「これで出国審査は以上となります。彼方に見える白線を越えた瞬間から、門を出るまでは戻ってはいけません。ですので、その前に済ませておきたい用事があれば、お早めにお願いします」


 慇懃に頭を下げると、役人はレイが指先に豆を作りそうな程書いた羊皮紙を抱えて去っていた。後に残されたのは、同じように大量の羊皮紙を書き終えたミエリッキだ。


 歩兵がにらみを利かせている白線の手前では、旅人と案内人が別れの挨拶をしていた。


 名残惜しそうにする者も居れば、あくまでも仕事の付き合いだと淡泊に言葉を交わす者も居たが、大概が穏やかに別々の方向へと歩いていった。


 自分たちとは大違いだ。


 ミエリッキは近くに居た別の役人と二言三言交わすと、レイ達の方へと歩き出した。途端に、警戒を露わにした彼らに、ミエリッキはあえて距離を取った。武器も無いミエリッキではレイ達の脅威になりえないが、それでもエトネを一番後ろに置いた。


「レイ殿。申し訳ありませんが、お預けした武器などを返してもらえませんか?」


 距離を置いているため、僅かに大きくなる声に周りは不審そうにするが、レイは気にせずに応じた。


「ああ、分かっている。リザ、彼女の所持品を僕に」


「それは、危険では。彼女が何かを狙っているのならば、ここが最後の機会。ここは私が行きます」


「なおさら駄目だ。僕なら、どうなっても大丈夫だ。だから、荷物を」


 レイが重ねて言うと、リザは馬車から下ろしたミエリッキの荷物一式をレイへと託した。受け取ると、レイはミエリッキの方へと近づいていく。


 ある程度近づいた所で荷物を置いて、一歩二歩と後ろへ下がった。それを合図に、今度はミエリッキが近づいてくる。レイの背後で様子を見守っていたリザ達の緊張は、二人の距離が近づくにつれて高まっていく。


 地面に置いた荷物へとしゃがみ込むと、ミエリッキは没収されていた武器などを点検しつつ装備していく。ナイフや毒の入った子瓶などを腰に吊るし、エトネと同じ形のクロスボウを腕に装着し、弓の弦を指で弾いた。


「礼を言うつもりはありません」


 びん、と乾いた音に紛れてミエリッキが呟いた。レイは一瞬、なんのことか分からずに首を傾げた。


「出国の際に提出した報告書の件です。貴方がたは、私に関する事を一言も告げなかった。告げれば、私は旅人を襲った案内人として裁かれたはず。そうなった方が、貴方がたも安心できるはずなのに、そうはしなかった。……私を助けて恩を売ったつもりですか? それで改心するとお思いでしたか?」


「アンタは、まだそんな事を。……役人に告げ口しなかったのはエトネから頼まれたからだ。アンタが罰せられないように、秘密にして欲しいと」


 その申し出に皆は難色を示した。特にシアラは頑として受け入れなかったが、それでもと食い下がったエトネに折れたのだ。


「……なるほど。私は最期まで、あの娘に」


 ぼそりと呟いたその横顔に、レイは違和感を覚えた。煮えたぎるような憎悪に汚れている訳では無く、むしろ余分な感情を削ぎ落したかのように精彩を欠いていた。あれだけエトネに向けていたむき出しの憎悪は微塵も感じられない。


 レイが口を開くよりも前に、ミエリッキは荷物を背負い、背を向けた。


「それでは、これで私の業務は全て終了となりました。旅の無事に、貴方がたに13神のご加護があらん事を」


 心にもない事を一方的に口にしたミエリッキは、そのまま雑踏へと消えて行こうとする。だが、それを止めた者が居た。


 事もあろうに、彼女の手を引いたのはエトネだった。


「エトネ! 何をやっているんだ!」


 後ろに庇われていたはずの少女はレイ達をすり抜けて、ミエリッキの手を掴んでいた。その両足には精霊の力が宿っていた。これでは止める事も出来やしない。同様に、掴む手にも力が宿っている。能力値アビリティで劣るミエリッキには振りほどけなかった。


「……何を、しているのですか。離してもらえませんか」


「やだ。ぜったいに、やだ」


「何故ですか? 私は貴方を殺したいほど憎んでいるんですよ。こうして触れているだけで虫唾が走り、今すぐにでもその細い首に手を掛けたい衝動に駆られそうです。そんな人間を捕まえて、何がしたいのですか」


 彼女の疑問はレイも同意だ。力無く、どこか虚ろな言葉の羅列にエトネは眉を下げて尋ねた。


「こうしないと、しんじゃいそうだから。……しぬつもり、なんでしょ」


 迂遠な言い回しも無い直球な問いかけに、ミエリッキは否定しなかった。その反応がエトネの推測を正しいと証明していた。


「……ええ、その通りです。もう、思い残す事はありません。粛々と、終わらせようと思っています」


 どこか自虐的な笑みを零したミエリッキ。考えてみれば、エトネ同様に彼女もまた苦しんでいた。


 血を分けた肉親の死に、故郷に起きた惨事。どちらもエトネたちが居なければ起きなかった出来事だ。ミエリッキの生い立ちからすれば、里に対する恩義は強く、同時に強い責任感が絡み合って反転したのが異常なまでの憎悪なのだ。


 自らに課した責務として幼いエトネへと殺意を向けたが、彼女に敵わず、故郷へ連れて帰れば住民の一部に彼女を許すべきではないかという意見が出てきた。


 それはミエリッキにとって許容できない結果なのかもしれない。それだけで死を選ぶことは愚かしいかもしれないが、個々人にとって価値観は違う。彼女には彼女の譲れない物があったと言う事だ。


 集落を出てから、不気味なまでに静かだったのは武器や策が無かったからではなく、エトネを殺す事を諦め、死を望んでいたからだと今になってようやく気づく。


 ヨシツネに守られている間、エトネはミエリッキの変容に気づいていたのだろう。だからこそ、彼女の去り際に感じた違和感を明確に言葉に出来たのだ。


「貴女には喜ばしい事では? 命を狙う邪魔者が一人消える事になるんですから」


「そんなことないよ。エトネは、あなたにいきてほしいと、おもってるよ」


 その言葉に誰よりも驚いたのは、向けられたミエリッキ本人だろう。


「……何故ですか。何故、貴女は、私を助けようと。何を企んでいるんですか」


 殺意を、憎悪をぶつけられてもなお、自身に生きてほしいと口にしたエトネを理解できないのか、ミエリッキは苛立ちを隠そうせずに睨み付けた。その視線を真っ向から受け止めたエトネは毅然と言い返した。


「おしえてほしいことが、いっぱいあるの。おとうさんから、ならえなかったかりのしかた、えもののおいかた、しとめかた。みんな、あなたはしっているでしょ」


「兄の? いえ、父祖伝来の技を私に学びたいと、そう言っているのですか」


 問いかけにエトネは頷いた。


 これこそが、ミエリッキを庇った理由だった。エトネは狩人としての教育を受けたとはいえ、それは年相応に出来る事、学べる事の程度に留まっていた。言ってしまえば、洞窟の入り口から幾らか進んだ所で止まってしまったようなものだ。先導するはずの教師タノは居らず、暗闇に取り残されたようなものだ。


 だが、ここに同じことを学んだ人間が居る。ミエリッキだ。


 エトネの父であるタノの妹ならば、彼女は兄から薫陶を受けている。事実、毒の種類やクロスボウなどは、タノと同じ物を使っている。エトネは、彼女を将来の教師と見込んでいた。


 だが、それは彼女にしてみれば侮辱に等しかった。


「ふざけるな! 憎悪をぶつけてくる相手に教えを請おうとするなんて、馬鹿にするのも大概にしなさい! それだけ、貴女にとって、私は御し易い相手ですか。取るに足りない相手ですか!」


 ミエリッキは真剣だった。


 責任を問うには幼すぎる子供が相手でも、尋常ならざる憎悪をぶつけると言う異常を真剣に抱いていた。なのに、エトネはそれを意にも介さず、気にも留めず、障害とすら認識していなかったように言って来た。


 全身の毛が総毛立ち、先程までの虚ろな表情が嘘のように激情に塗り替えられた。


「いいでしょう。確かに、現状の私では貴女に敵いません。ですが! 次に会う時は、今度こそ貴女を殺してみせます!」


 口が地獄と繋がっているのではないかと疑うほどの唸り声をさせながら、一方的に告げるとミエリッキは手を振りほどいて大股で歩き出していった。遠ざかる背中から熱気が立ち昇り、雑踏は彼女を見て避けていった。


 あっという間に遠ざかった背中を寂しそうに見つめるエトネへと声を掛けた。


「行っちゃったね」


「……うん。……ねえ、おにいちゃん。だいじょうぶかな、ミエリッキさん。しなないよね」


 唯一残った肉親の未来を不安がって、今にも大粒の涙を零しそうなエトネの頭に手を当てて、レイは大丈夫だと返した。


「彼女も言っただろう。―――()()()()、って」


 去り際の一言。それが、ミエリッキが本心から口にしたのかどうかは知らない。


 でも、それが咄嗟でも飛び出したと言う事はどういう事なのか。エトネは理解すると、一縷の希望を掴み取った様に何度も頷いた。


「さあ、僕らも行こうじゃないか。まずは門をくぐって、そしたら宿を探して食事にしようか」


「うん!」


 元気のいい返事をしたエトネと共に馬車へと戻った。レイ達が乗りこむのを確認すると、キュイが動き出し、白線を越えた。レイは幌の切れ間から後ろを振り返った。


 いずれ、エトネがこの地に戻って来た時、彼女がどんな形であれ、エトネの前に現れる事を祈った。


「……あれ?」


 ふと、エトネの不思議そうな声に意識が引っ張られる。振り返れば、馬車の中央でエトネが首を傾げていた。他の者は、門を通るための準備に追われていた。


「どうかしたのか、エトネ」


「うーん。なんでもないよ。たぶん、エトネのかんちがいだとおもう」


 そう言って、彼女はモンスターの卵を鞄の中に戻した。


 レイは深く考えずに納得すると、リザに呼ばれ代表者として役人に対応する。


 だから、布でくるまれ大事そうに仕舞われたそれが、仄かに輝いている事に、誰も気が付かないまま、馬車は門を通り抜けたのだった。


読んでくださって、ありがとうございます。


次回で9章本編最終話となります。

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