9-10 裏切り者
神々しか入れない、神の観測所。大理石を円形に削ったテーブルに着くのは、皆見目麗しい男神、女神たちだ。
その秀麗な美貌とは裏腹に態度は様々だった。落ち着きなく視線を彷徨わせる者、反対に瞼を固く閉じた者、あるいは不機嫌そうなのを隠そうせず、また別の者は口元を緩ませて締まりのない笑みを浮かべていた。
艶やかに咲き誇る花畑似た神々の中で共通しているのは一点。
不信だ。
互いを信じ切られない不信が、場の空気を硬直化させ、一触即発の火薬庫めいた雰囲気にさせていた。
そのような状況下で進行を自ら名乗り挙げるのは、相当な命知らずか、単なる馬鹿か。
魂を司るサートゥルヌスが、目元を青い髪で隠しながら集まった神々の前で口上を述べた。
「数百年ぶりの集結、誠に感謝が絶えません。前回、十三の神々が結集したのは暗黒時代と終わってから揶揄されるようになった、あの三つの戦役以来。凄惨で、残虐な人の子らの殺し合いに絶望して、それっきり姿を見せなくなった方もおいでになられた。それはつまり、今回の事がそれに匹敵すると、皆様が認識していることと存じます」
「長々と喋ってんじゃねえ。さっさと話を進めろ」
勿体ぶった口調に苛立ちを隠せなかった、火を司る神プロメテウスが怒りの拳で机を揺らした。隣に座る水を司るオケアニスや、風を司る神アネモイなどは彼の行動に眉を顰めていたが、短気な男神は気にしていなかった。
「これは失礼。では、まずは状況の説明から。遡る事十四日と十七時間二十八分五十六秒前、我らが管理するエルドラドにて時空震が観測されました。許可なき転移ゆえに警報が作動、観測所に駆け込んだ私を含めた複数の神々の前で、何者かが異世界転移をしたのを確認しました」
サートゥルヌスの報告に、場の緊張が一段と高まり、同時に空気が冷たくなっていくのをクロノスは肌で感じた。
彼が口にした内容は13神にとって信じ難い事であり、認める事は出来ない内容だ。だが、警報が鳴り響いてから今日に至るまでの調査で、それが事実だと認めるしかない。
「本来なら、これはあり得ざる事。何故なら、世界救済の為に世界崩壊から時を戻して以降、送られるはずの『招かれた者』は一柱に付き一人。そして我が妹であるクロノスが送り込んだ御厨玲を持って、その席は埋まりました。私を含めた13神は、それぞれの権限を行使して『招かれた者』を送った。……つまり今回送られたのは十四人目の『招かれた者』となってしまいます」
神々の遊技場、エルドラド。
そこは本来なら、他の世界の神々が、己がお気に入りの魂をエルドラドに送り込み、その者が紡ぐ物語を愉しんだり、あるいは神々同士で目標やルールを決めて競争させたりする娯楽場だった。
しかし、旧『七帝』らの誕生により世界は崩壊。それを食い止めるために時間を撒き戻した事で、他の神々らが送り込んだ『招かれた者』達でまで消えてしまい、彼らの怒りを買った。
結果として、13神はエルドラドへの直接的な介入を禁じられ、その上でエルドラドの修復をしなくてはならない。時を撒き戻しただけでは、いずれ旧『七帝』によって世界は崩壊へと導かれる。
13神が取った方法は、他の世界から『招かれた者』を送り込み世界を掻き乱す事だ。崩壊へと繋がる歴史の改竄。加えて、彼らは世界救済という大義を隠れ蓑に、自分たちだけの遊戯を始めた。
本来なら13神には序列などは無いのだが、世界救済に大きく貢献した『招かれた者』を送り込んだ者を、エルドラドを統括する神々の長としようと決めた。
かくして始まった世界救済は―――更なる混乱を生む事になった。
13神が選んだ『招かれた者』達の活躍によって、旧『七帝』の内、最期の時に現れる『正体不明』以外の六体は撃破された。
しかし、その空席を埋めるように新たなる『七帝』が誕生していた。その中には『招かれた者』として呼ばれた者や、彼らによって生み出された者も居たのだ。
歴史も大きく変化し、本来なら滅んでいたはずの種族が生存し、逆に生存するはずだった種族が全滅し、死ななくても良かったものが死に、生まれなくても良かったものが生まれ、混沌と戦乱の時代が長く続く結果となった。文明のレベルも平均的に見れば一週目よりも低い。
自分たちが選んだ『招かれた者』達に起きた悲劇、あるいは起こした惨劇、もしくは救うに値しない人間の歴史から目を背けるように、神々の中には座から顔を出さなくなった者も居た。
13神の多くが、世界救済は不可能であり、今のエルドラドを救うには文明を消去して新たなる文明を誕生させなければならないと考えるようになってしまった。
『七帝』によって滅びるか、神々の手によって滅ぼされるのか。
それが現在のエルドラドの状況だった。
そこに一石を投じるかのように起きた緊急事態。一石にしては余りにも大きく、衝撃で津波が起きたと言っても過言ではない。
「考えられる可能性としては二択。そこでまず、皆様方には他の世界を管理する神々と連絡を取り合ってもらい、エルドラドに『招かれた者』を送り込んだかどうかの確認をしてもらいましたが、結果としてそれは無かった、との事です」
観測所の天を埋め尽くさんとする星々。この一つ一つが異世界であり、それを管理する神々が居る。13神たちは、各々が持つコネクションを使い、エルドラドにちょっかいを出した神が居ないかを探したが、そのような者は居なかった。
「接触した神々は、どれもエルドラドの、正確に言うならば神々の遊戯の再開を心待ちにしています。だからこそ私達主導による世界救済を容認し、口出しせずにお待ちになっている。それを邪魔するような真似、今更するはずがありません」
ゆったりとした口調で口を挟んだのは、魔を司る神エリス。長い青髪で顔の半分を覆った神秘的な女神は、悠然と構えながら、
「それに、もっと前に送り込むならまだしも、世界崩壊まで五年を切った今になって、お気に入りの魂を送りこむなんて愚策。誰がするというのかしら。世界がやり直されれば、魂は消えると皆が知っているのですから」
「然り、然り。自らの大切な魂を無かったことにされた事こそ、他の神々の不興を買った原因である」
追随したのは獣を司る神パーン。プロメテウス以上の巨躯をした男神には大理石の椅子は少々手狭なのかもしれない。窮屈そうに何度も体を揺らしていた。
「御二方の仰る通り。他の世界の神々には、『招かれた者』を送るメリットは無い。ならば、考え得るのはもう一つしかありません」
空気が一段と重くなる。その場に居るだけで魂が疲弊していきそうな、そんな重圧の中でもサートゥルヌスは薄笑いを消すことなく、むしろ対立を煽る様に告げた。
「ずばり、13神の中にルールを違反した者。即ち、裏切り者が居ると言う可能性です」
それは当然の帰結だ。
外部に犯人が居ないとなれば、内部に犯人が居る。その道筋はどうしようもなく正しいというのに、それをああも簡単に指摘できる神経がクロノスには信じられなかった。
似たような事を感じているのか、土を司る神レアーや、生を司る神ヘメラが責めるような視線を兄に向けていた。
もっとも、向けられた本人は気にせずに、13神の顔を順番に眺めつつ、
「我らが招けるのは、一柱に付き一人。それを逸脱する事は許されざる行為である。……我らの遊戯が始まった際に皆で決めた約定、お忘れとは言いますまい」
「当たり前だ。どんな遊びでも、いや、遊びだからこそルールは厳守されるべきだ。何でもありなんて、神にとっちゃ詰まらんからな。ルールは裏を掻いてこそ、だ」
「あははは。流石はタナトス。遊び人気質は変わりませんね。だから、己の権能たる杖も置いていく羽目になったの、反省してないんですか」
「反省? そんな物、賭けの代償で無くしちまったな」
死を司る神タナトスは根っからの博徒だ。無神時代よりも前、エルドラドに直接降りられた頃は、人の子らを捕まえては賭け事をしていた。勝った時も、負けた時も清算はきちんと行う律義さがあり、その結果形無き者に死を与える杖を失ったという逸話がある。
今回、そのせいでレイが黄龍とぶつかる羽目になった事を考えれば、騒動を引き起こした遠因を作った男神である。彼を見るクロノスの視線に険が混じっても仕方ない。
「……あ、あの、サートゥルヌス」
か細い声に皆の意識が集中した。神々の中ではパーンやプロメテウスとは対照的に小柄な女神にとって視線が集まるのは重荷なのか、更に体を小さくする。
「おや、珍しいですね。貴女が自発的に発言するとは。どうぞ、レア―?」
「あの、その。ルールを破った神は、確かに悪い事だけど、それだけで、裏切り者呼ばわりは、言い過ぎなんじゃないかな」
「ああ! お前、何言ってんだ!?」
「ひぃい!!」
たどたどしい口調で意見を述べたレア―を威圧するのは人を司る神テミス。
明らかに苛立った様子の彼女は、粗暴な言葉遣いとは裏腹に、規律や厳格を重んじる彼女は問題点を浮き彫りにした。
「サートゥルヌスが問題にしてんのは、約定を破った事じゃねえ。あたしらの目を掻い潜って、何かをしようとしている奴が居るって事だよ。忘れたのか? 約定の際に、エルドラドに送り込むための鍵は一人一つまでしか持てない様に、互いの権能を拘束しただろう」
神々は世界に対する決定権や介入する力を持っている。それぞれが司る分野とは別に、共通して保持している物もある。例えば、世界を観測する為の『窓』やエルドラドに降り立つための『道』、そして『招かれた者』を送るための『鍵』もその一つだ。
「一柱に付き一人のルールを破らない様に、全員が『鍵』を生み出す権能を封印した。誰かが破れば、そいつは全員に知れ渡るようになっているが、破られた形跡はねえ」
「じゃあ、私達じゃないってこと、かな」
「馬鹿ぁが! 破ってないなら、ルールが成立する前に生み出した鍵を使ったてことだろうがよ。ちったぁ、物を考えて喋れよ。サートゥルヌスの言う、裏切り者ってのは、アタシらを出し抜くために鍵を隠し持ち、どのタイミングで使うのか虎視眈々と伺っていた。そんな奴の事なんだよ」
レア―の表情にも理解の色が浮かぶ。青い瞳は小動物のように彷徨い、最後には目の前の机と落ち着いた。
乱雑な物言いだが、彼女は事の重大さが何処に在るのかを明確にした。
裏切り者は13神の遊戯が始まる直前に鍵を隠し、周りを謀っていた。それがどのような目的なのかは不明だが、明らかに背任行為だ。遊戯においては敵対しているとはいえ、13神の思いは一致していたはずだ。
世界救済。
今ある文明を救い、『七帝』による崩壊を防ぐ。その志は同じだったはずだ。
だが、他の神々から鍵を隠し持っていた神は、明確に違う目的、違う意思を有している。それを指して裏切り者とサートゥルヌスは呼ぶのだ。
「私の言いたいことは、概ねテミスに言われてしまいましたが、まあ、そんな所です。十四番目の『招かれた者』を送り込んだ神が我らの中に居るとすれば、それは明らかに私達の世界救済への背信。許されざる行為かと」
飄々とした性格のサートゥルヌスであっても許せないのか、声にはっきりと糾弾する意思が込められていた。
神々の視線が鋭くなる。誰が裏切り者なのかと探ると激しい火花を散らせていた。だが、その中で一人浮かない顔をしていた者がいた。
時を司る神クロノス。
彼女は裏切り者に関する、もう一つの証拠を持っていた。
正確に言うならば、証拠では無く、可能性の段階でしかないが。
彼女が送り込んだ最後の『招かれた者』御厨玲。彼を追跡していた映像に偽装工作が施されている可能性が高い。本来の映像がどのような物なのかは不明だが、明らかに改ざんされた跡があり、それを実行できたのも状況からは13神の誰かなのだ。
この偽装工作と、十四番目の『招かれた者』を送り込んだのが同一なのかは分からない。少なくとも、一人、ないしは複数の神が怪しい行動を取っているのは確かだ。
しかし、それが誰なのかまでは掴めていない。
下手に映像の改竄を口にすれば、13神の間に漂う不信は決定的な物となり、疑心暗鬼と化す。最悪、神々による対立が起きてしまう。それを避けるため、クロノスは映像の事を口に出せずに胸に秘していた。
「ねえ、いつまで無駄な犯人捜しするの」
静かな声色に全員が音の方へと視線を向けた。陰気な雰囲気を背負った中性的な顔立ちの神が、皆から顔を逸らしつつ、サートゥルヌスへと尋ねた。
「証拠とか、手掛かりとかあるの、サートゥルヌス」
「残念ながら、皆無ですね。ところで、今の貴方は……エレボスですか」
「あら、見て分からないのかしら。この会話するのも億劫な感じは間違いなく、ニュクスでは無く、エレボスよ」
ヘメラが指摘するも、本人は視線をあらぬ方向に向けたまま、
「手掛かりなしじゃ、探しようもない。これ以上、雰囲気が悪くなるのも気分が悪い。……無駄な事に付き合うのはやだから、ニュクスに交代するよ」
「待ちたまえ! この状況でニュクスは荷が重い。私達のね! できれば、君のままを所望するのだが、駄目かな、エレボス」
「……めんどい。でも、頑張る」
頑張ってくれたまえと言葉を送ったアネモイに他の神々は称賛を送る。
闇を司る神エレボスは二つの人格を有している。倦怠感を隠そうともしないエレボスと、狂った愛情を撒き散らすニュクス。二つで一つの神は、どちらかといえばエレボスの方がマトモだ。気だるげな振る舞いしかしないが、会話が通じるだけずっとマシだ。
厄介な奴が登場しなくてほっとする空気を引き締めるように光を司るヘリオスが口を開いた。
「エレボスの言う通り、この状況で互いを疑い、潔白を主張し合うのは無意味と言えよう。しかし、裏切り者が居る事は明白だ。ゆえに、鍵となるのは十四番目の『招かれた者』だと私は考える」
重々しい口調は他を圧倒し、否という意見は出なかった。
誰が鍵を隠し持っていたのかを探る事が出来ない以上、残った物的証拠は十四番目の『招かれた者』だという理屈も正しかった。
「サートゥルヌス。あれを出せ」
「畏まりました。では、皆さま、お手元の『窓』を御覧に」
言葉と共に一斉に開いた『窓』。それが何を示しているのかエルドラドを管理する神には一目瞭然だった。
「エルドラドの地図ね。……もしかして、この光点が」
何かに気が付いたオケアニスが『窓』にて点滅する光の地点を指差すと、ヘリオスが重々しく告げた。
「十四番目の『招かれた者』の行方が判明した。場所は、中央大陸南部に位置する国、カプリコルである」
その国名に聞き覚えの無かった神々が首を傾げると、ヘリオスに代わりサートゥルヌスが手際よく新しい『窓』を開いた。
「付随した『窓』に詳細な歴史や特色が記されてますが、抜粋して申しますと獣人種の国ですね。人龍戦役が始まる数年ほど前に、統一を果たした帝国から脱出した獣人種が山間に隠れ住み始めました」
西方大陸を統一した帝国は、人間種至上主義を打ち立てた。それまで獣人種も人間種も同じ扱い、同じ地平に立っていたのが突如として生まれた階級制度によって底辺へと追いやられてしまった。帝国指導部は外敵が存在しなくなった集団を団結させる為に、少数派を敵としたのだ。
それまでは出自国家が違う同士でいがみ合っていた人間種達は、獣人種を迫害する事で過去の遺恨を乗り越え、団結を強固にした。その裏では多くの獣人種の血が流れた。
それを良しと出来なかった獣人種達は、帝国に対して反旗を翻すのではなく、逃亡を選択した。後に『解放者』と呼ばれる男によって率いられた数十の獣人種族は海を渡り、中央大陸に脱出したのだ。
「その集団が地元の民族とぶつかり、短命ながらも強靭な戦闘能力を持つ獣人種によって現地民族は滅亡し、小国カプリコルが誕生しました。本来なら中央大陸にある、他の国家に押しつぶされるか、飲み込まれるところでしたが、幸運にも人龍戦役、そして人魔戦役が彼らを救いました」
人龍戦役が勃発したことで、人々は龍に挑むために人員や資金、物資を集め、他国への戦争行為は自然と停滞した。世界の人々が結集した事もあり人龍戦役は人の勝利で終わり、しかしすぐさま起きた人魔戦役によって、今度は世界中が戦争の舞台とされてしまった。
正面からの戦争では分が悪いと判断した六将軍らは、戦い方を都市破壊に変更し民間人を多く狙うようになった。これによって各国は都市の警備に戦力を回す事になり、体力を消耗していった。
そして『勇者』ジグムントと『魔王』フィーニスによる壮絶な激闘の結果、中央大陸中心部分に大きな海が誕生した。大陸の中央部分が吹き飛び、内陸湾が出来たのだ。
南部にあった小国カプリコルは北を内陸湾、南を外海という地形的な守りを得て、人間戦役の頃は専守防衛を基本方針とした。東西に壁を建設し、ひたすら防御に徹したのだ。
それが功を奏したのか、カプリコルは三つの戦役を経ても国力を減らすことなく、むしろ健全な状態で暗黒時代を乗り切った。
「消耗しきった他の国家に対して、食料、物資などの輸出をして経済的に豊かになると、国の行政、司法、警備を発展。カプリコルは一気に大国とまでは行きませんが、それなりの国土を有した国家となりました。最大の特徴が、陸路からの入国を一切認めない鎖国制度ですね」
世界を映し出していた地図が拡大され、カプリコルの全体を映し出した。
ドーナツ状の中央大陸において、南部を占有するカプリコルは東西の大地に海から海まで届く壁を築いていた。
「これによって中央大陸は東西の行き来が非常に難しくなっており、鎖国を続けるカプリコルは独特な成長を遂げていますね」
「国の説明は分かったが、十四番目の『招かれた者』については何か情報は無いのか」
「生憎と。カプリコルに降り立ったという測定が出た時には、既にその場を離れています。ご存知の通り、我々の『窓』も幾つかの機能を封じられています。映像の録画がされるのは、『招かれた者』のみ。しかし十四番目の『招かれた者』は、こちらで把握できていない以上、映像を呼び出す事が出来ません。正直な所、今もカプリコルに潜伏しているのかどうか定かではありません」
「だとすると、私達が打てる手は一つしかないわね」
オケアニスが呟くと、サートゥルヌスは頷いて、
「現在、エルドラドで活動する『招かれた者』。レイかフィーニスのどちらかに事情を説明し、接触してもらうしかありませんね」
これ以上の調査が神の側で出来ない以上、そうする事しか出来なかった。
しかしクロノスにしてみれば、それは最悪の結論だ。
神々の中で、彼に対して明らかに悪意ある行動に出ている者がおり、それが送り込んだかもしれない十四番目の『招かれた者』とレイが接触するのは危険すぎた。だが、表立って反対すれば、映像の改竄を話さなければならない。
レイを守る為にどうすれば良いのか。
出口の無い迷路に閉じ込められたように、考えが頭の中でぐるぐると回る中、無情にも時間が過ぎてしまった。
「では、クロノス。そしてエレボス、ニュクスらに告ぐ」
ヘリオスの重厚な呼びかけにクロノスの背筋が伸び、考えが吹き飛んでしまった。厳格な眼差しで二人を見つめる男は、
「彼らが聖域に辿り着いた場合、速やかにこの事態を説明。対処するように命じる事。会議は以上とする」
その言葉を皮切りに神々は姿を消していった。中にはクロノスを気遣ったように声を掛ける者も居たが、呆然とした彼女は何も言えず地蔵のように立ちすくんでいた。
気が付けば、彼女を残して神々は全て退出した。
クロノスは新たな『窓』を呼び出すと、そこに映る光点を複雑な想いで見つめた。
南方大陸と中央大陸を阻む大海原を進む光点の正体はレイだ。彼は今まさに、十四番目の『招かれた者』が出現した国、カプリコルへと向かっていた。
「これも偶然なの。それとも誰かの思惑通りなの。……ともかく、玲様に知らせないと。でも、どうやって」
悪意ある者が待ち構えている可能性を知らせたいのに、その術がない。刻一刻と近づくレイ達にどうすれば良いのかと頭を抱えるクロノス。
そんな彼女を冷めた目で見る青い瞳に、彼女は気が付いていなかった。
読んで下さって、ありがとうございます。
補足:現時点で判明している、13神と『招かれた者』の組み合わせです。
時を司る神 クロノス 『緋星』レイ
魂を司る神 サートゥルヌス 不明
光を司る神 ヘリオス 不明
炎を司る神 プロメテウス 『英雄』イーフェ
水を司る神 オケアニス 『賢者』ウィルヘルミナ
風を司る神 アネモイ 『冒険王』エイリーク
土を司る神 レアー 『勇者』ジグムント
闇を司る神 エレボス/ニュクス 『魔王』フィーニス
生を司る神 ヘメラ 『聖騎士』イカロス
死を司る神 タナトス 不明
人を司る神 テミス 不明
獣を司る神 パーン 不明
魔を司る神 エリス 不明




