8-10 エルフのお守り
石造りの室内に剣戟の音が反響する。交わされる白刃の煌めきが松明と混じり合って影を生む。
室内でリザとレイが争っていた。
さして広いとは言えない控室で、二人は立ち位置を変え、激しく武器を打ち鳴らしていた。
「主様にリザ。それぐらいにしたら。そろそろ時間よ」
時計を見たシアラが投げかけた声で剣戟の音がぴたりと止んだ。もうそんな時間かと驚くレイの姿は、いつもと変わらず龍刀を提げている。ところが、相対しているリザは獲物が違った。左右の手に二本の槍を携えていた。槍といっても穂先が丸くなっている、訓練用の槍だ。
リザは青い瞳に憂いを帯びさえ、申し訳なさそうに俯いた。
「やはり、槍は上手く扱えません。これでは仮想の相手役として力不足です。むしろ、決闘前に調子を崩されたりしませんか」
リザは剣士だ。
帝国の大貴族の娘として生まれた彼女は、幾つかの事情が重なり後になって生まれた妹と共に修道院へと送られ、そこに護衛として派遣された騎士から剣術を学んでいた。帝国にとって剣術は貴族の嗜みであり、こと武門で名を馳せたウィンドヘイル家ならば、女といえど習得するのは当たり前の風潮があった。
一方で槍に関しては基礎的な訓練しか施されないでいた。帝国において槍は一般兵士の持つ兵器という考え方が主流であり、槍術が一段低くみられていたからだ。
ましてや、奇形の構えといえる二槍流。
リザはゲオルギウスの戦い方を知らず、彼女なりの二槍流を考えながら模擬戦を行ったが、返ってレイの集中を乱したのではないかと不安がる。
しかし、レイは頬に浮かんだ汗を拭いながら、
「ううん、そんな事ないよ。こっちから頼んだことだし、何よりゲオルギウスの代役なんて、誰にも出来やしない。でも、僕の戦い方を知っていて、それに合わせてくれるのはリザしかいない。だから、助かったよ。ありがとう」
感謝の言葉にリザの表情は幾らか和らいだ。
祭儀場に用意された控室。そこまで入って来れたのは《ミクリヤ》のメンバーだけだった。それもダリーシャスが無理やり、強引に、捻じ込むように手配してくれたからだ。《神聖騎士団》の面々は作戦の為にすでに別行動をしている。
もし、この場に《神聖騎士団》の誰か―――例えば槍使い―――が居たとすれば、案外それなりの二槍流を披露してくれたかもしれない。しかし、それでは意味がないのだ。
現在、帝国将軍のふりをしているゲオルギウスは、戦う相手の能力値に合わせるという魔道具を身に着けている。これから舞台上で争うゲオルギウスの能力値はレイと同等という事になる。
レイよりも高位の冒険者で構成される《神聖騎士団》の面々では力過剰となってしまう。その点においても、同程度の能力値を持つリザは仮想相手として十分に項目を満たしている。
「……それで、付け焼き刃の特訓で、上手く行きそうなの」
辛辣な言葉を投げかけたのはシアラだ。思わず、リザやレティが鼻白むがレイは気にせずに、
「勝算はあり、とだけ言っておくよ」
と、不敵に笑ってみせた。それが空元気なのは、この場に居る全員には直ぐに察せた。一様に押し黙った少女らを前にして、レイは困った風に頭を掻く。
「正直に言えば、自信は無いかな。何しろ相手はゲオルギウス。歴戦の魔人だ。僕のやろうとしていることをあっさりと看破するかもしれないし、看破しなくても力ずくで粉砕するかもしれない」
同程度の能力値だというのに、互いの技量は大河よりも広く、クレバスより深い差が存在していた。
「でも、僕は僕の力を信じるんじゃなく、この作戦を立てたマクスウェルを信じる事にしたんだ。ローランさんが一目を置いている彼を信じる」
「……その事だけどさ。ローラン様の事、信じても大丈夫なのかな」
「どういう事ですか、レティ」
おずおずと喋り出した妹にリザが青い目を見開き尋ねた。エメラルドの瞳に疑念の色が渦巻いていた。
「気にしすぎかもしれないけど、あの人。あたし達に何かを隠しているような気がするの。だって、ゲオルギウスの事をご主人さまに話さなかったり、その割にご主人さまを死なせないように旅の道中気を使っていたんだよ。なんだか、行動がちぐはぐで」
「信用できないって訳ね。まあ、レティの言う事も一理あるけど……主様はその辺り、どう考えるの」
エトネが差し出した布で汗を拭っていたレイはしばし考え込む。
「ローランさんの事を心から信用できるかどうかは、僕自身答えは出しあぐねている。確かに、あの人が僕に、もしくは『招かれた者』に対して何かしらの考えを腹に抱えていてもおかしくない」
法王庁の起源が冒険王と共に旅をした仲間にあるというのなら、彼らが世界崩壊について何かしらの情報を掴んでいても不思議ではない。事実、シュウ王国のテオドール陛下や、《紅蓮の旅団》団長のオルドも世界崩壊について知っており、独自の行動を計画している。
世界に教会を作り、情報網を構築している法王庁がその事を知らないというのがむしろ不自然である。
「でも、あの人には悪意がないよ。ゲオルギウスやエレオノールみたいな、相対しているだけで、魂が侵食されそうな悪意を、僕は感じない。君達はどうかな」
「うん。ローランさま、すっごくいい人!」
両手を上げて、ぴょんぴょんと跳ねるエトネ。短めの頭髪がその度に揺れ、顔に喜色を浮かべながら親切にされたことを口にしていた。
「おかしもくれたし、えものをしとめるわなのつくり方もおしえてくれたよ。あと、かっこいいけり技とか」
「子供は単純で良いわね。……まあ、主様の言う通り、ローラン様が悪意を持って接しているなら、それを隠していたとしても、おちびが気づきそうよね」
「おちびって言うなー!」
一転して頬を膨らましたエトネに皆が笑みを零す。山育ちのエトネは人の善悪について妙に鋭い所がある。特に殺意や敵意に対しては顕著で、モンスターだろうが人だろうが直ぐに察知する。そんな彼女でさえ、ローランは善人だと言うのだ。
「レティの懸念も筋が通ります。ですが、今はそれを確かめる術も、暇もありません」
「リザの言う通りだ。ローランさんが何を考えているのかは、この戦いが終わったら考える事にしよう。それでいいかな、レティ」
「……うん。ごめんね、ご主人さま。こんな時に変な事言っちゃって」
気にするなとレイはレティの頭を撫でた。栗色の細い髪が指先をくすぐり返した。
和やかな空気にレイの中で緊張が抜けて行くのを感じていた。
それでようやく、自分が緊張していた事を自覚する。
六将軍第二席ゲオルギウス。
単なる強敵では収まらない存在。死の神タナトスが持ちし、概念殺しの権限を宿してしまった男は、今やレイの、《トライ&エラー》の天敵だ。
これまでに戦って来た怪物達と比較しても、頭一つ抜けた存在であるゲオルギウスとの戦いを前にして、体が冷たい不安に蝕まれていた。その事に気がつけないほど、自分は追い込まれていたのだと改めて自覚する。
まだ、心の奥底にこびり付いた泥のように不安や緊張といったマイナスの感情は残っている。しかし、もう大丈夫だ。
「勝ってくるよ。勝って、皆の元へと戻ってくるよ」
すんなりと出た言葉はレイの正直な気持ちだった。
リザはきょとんとした後に頬を緩ませ、レティは見る見るうちに満面の笑みを浮かべ、シアラは何を当たり前の事をと呟きながら口角を吊り上げ、エトネは尻尾をぐるりと喜びで回し頷いた。少女らはレイの言葉を何ら疑っていなかった。
すると、そんな《ミクリヤ》の温かい時間を邪魔するかのように扉が叩かれる。遅れて開けられた扉の向こうには案内係の兵士が顔を覗かせた。レイが彼と会うのはこれで三度目だ。
「そろそろ時間となります。レイ殿は私と共に。それ以外の方は観客席の方へとお戻りください」
「随分と野暮な事。ちょっとは空気を―――」
「―――分かりました。いま、支度を終えます」
唇を尖らせるシアラを遮ってレイは言うと、外していた防具を身に着けた。ニコラス作の胸当てを身に着け、炎鉄の手甲をブレイブサラマンダーの手袋の上から嵌めると感触を確かめ、最後に脚甲の紐を止める。リザが手早く、手慣れた風に防具の状態を確かめ、太鼓判を押した。
レイ自身、腰に差したダガーの位置調節や、サイドポーチの中身を確認する。
ふと、視界の中に白色が飛び込み、レイはそちらの方を向いた。
視線の先で黒色の瞳を向ける自分が居た。それは部屋に備え付けの鏡だった。磨きの足りない歪んだ鏡像の中で、やけに目の下の傷がはっきりと映る。
フィーニスが施した聖印だ。
作戦会議の席において、レイはこの聖印についての説明を出来なかった。
シアラやコウエンですら知らない、謎の傷。ゲオルギウスはこれを六将軍の証と口にしていた。その事を法王庁に明かせば最後、自分も神敵として処理されるかもしれないという恐れがあったからだ。
―――いや、それは単なる言い訳に過ぎない。
本音は、これが恐ろしいのだ。あのゲオルギウスが、この聖印に対して見せたあの執着。自分がこれを持っていることに対する嫌悪感。そのくせ、一戦目では様子見とばかりに手加減をしていた。
(あいつは、これが僕に何かをしていると判断した。その何かはもうじき発動する……らしい)
これまでの戦いにおいてゲオルギウスが漏らした情報を頼りに、レイはそのような仮説を立てた。この聖印は時限爆弾である。爆発した時、どうなるのかは全く不明で、それをフィーニスは望んでおり、ゲオルギウスは期待半分、嫌悪半分の感情を抱いている。
つまり、自分は非常に危ういバランスの上に立っているのだ。深い、底が見えないほど深い崖の両側に張られた、細いロープの上に居るかのようだ。足がロープを離れれば最後、深淵へと落ちて行く。
(落ちてたまるか。神前決闘が終わって、ゲオルギウスが死んだら、その功績を代価に全員の身の安全を法王庁からもぎ取って、それからこの聖印について打ち明けよう)
ゲオルギウスから聞きだすという案はあり得ない。あれはこれが作動するのを心待ちにしている面もあるのだ。正直に話すとは限らないのだ。
(つまり、どちらにしても僕に残っているのは神前決闘を勝って生き残る事しかないという訳か。分かりやすくていいじゃないか)
ダリーシャスを王にし、ゲオルギウスを倒し、法王庁に貸しを作り、聖印の謎を解く。それら全てを叶えるためには、神前決闘を勝つという以外の選択肢は無いのだ。
「……ちょっと待って、主様」
レイの様子を伺っていたシアラが何を思ったのか、レイを呼び止めると自らの髪を一本、引き抜いた。紫がかった黒髪を摘まむと、レイの右手小指に巻き付け、結んだのだ。
「これって、何の呪いなんだ」
「無事に帰って来れますように、っていうお呪いよ」
魔人種にとって、髪とは己が年を表す物差しとして大事に扱われていた。そのため、切るにしても毛先を軽くそろえる程度しかしない。だからなのか、人龍、人魔戦役において友が、恋人が、家族が戦場に向かう際にお守り代わりに自らの髪を差し出すのが流行していた。
そっぽを向いた横顔が赤く見えたのは、決して松明のせいだけではないはずだ。
「失礼、レイ様。私のも」「あ、あたしも、あたしも!」
それを見ていたリザが、己の黄金を溶かしたような明るい頭髪を抜いてレイの小指に巻き付けた。続けて、レティが栗色の頭髪を抜いて、薄く目を涙で濡らしながら同じように巻きつけて結ぼうとする。しかし、シアラやリザと違い、あまり長くないレティの髪は結ぶのが難しく、何度かの失敗を経て、ようやく成功した。
レティの頭髪の長さでこうなのだ。それよりも短く、更には少し癖のあるエトネの髪では余計に難しかった。
「むぅー」
エトネの口から不満が噴き出した。頬を膨らませた少女は懸命になって、結ぼうとするが上手く行かなかった。
咳払いが二度三度起きる。扉を開けたままの兵士が早くしろと急かしているのだ。
「ちょっと待ってなさいよ。今から、うちの主様は命懸けで、この国の王様を決める戦いに出るのよ。つまり、この国の為に戦うのも同じ。そんな人間が仲間と触れ合うのを邪魔する権利がアンタにあるっていうの!」
時間を稼ぐためにシアラが口早に責めたてると、途端に兵士は廊下へと逃げ出してしまう。口程も無いわねとふんぞり返るシアラにレティが拍手を送った。
「エトネ。そろそろ、いいんじゃないかしら」
リザが優しく言い聞かせるように肩に手を当てる。シアラの口撃で一度は退いた兵士だが、時間が迫っているのは事実だ。あまり王族達を待たせる訳にもいかないとリザは言う。
エトネは悲しそうに顔を伏せると、自らの胸元にぶら下がったネックレスの存在に気が付いた。
「おにいちゃん! これもってって」
首から提げていたネックレスを取ると、エトネは幼い顔に喜色を浮かべて言う。
反対に、レイの顔に戸惑いが浮かんだ。
細い鎖の先端にある台座に嵌められたのはエルフの緑髪によく似た色の宝石だ。エルフの隠れ里を出発する際に、サファがエトネに渡したお守り。生活に困った時は売り払えと言っていた。
エトネはこれを寝る時も離さずに身に着けていた。
「これは君が大事にしている物だろう。そんなの受け取れないよ」
「でも、エトネもなにかおまじないがしたい」
子供ならではのストレートな物言いに、レイは困ったなと呟いた。
ゲオルギウスとの戦いが激しくなれば、当然この宝石が砕ける可能性はある。そうなれば、エトネに対して申し訳が立たない。だが、彼女は彼女なりに自分を心配しているのだという事は、レイにも痛いほど伝わっていた。だからこそ、エトネの申し出を無下にする訳にはいかなかった。
どうするべきかと逡巡するレイの脳裏に、ある閃きが舞い降りた。
「エトネ。指切りを覚えているかな」
「……うん。おぼえているよ」
かつて、エルフの隠れ里がある森で出会った時、世間知らずだった山暮らしのエトネにレイは指切りを教えた。エトネはちゃんとそれを覚えていた。
「よし。それじゃ、指切りをしよう。約束するよ。絶対に、生きて帰ってくるってね」
エトネを安心させる為にレイは言う。三人の少女が髪を結んだ小指をエトネに向けて差し出した。エトネは嬉しそうに笑みを浮かべて、自らの小指を差し出し、絡めた
「「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本、のーます」」
指切った、と。二人は同時に指を離した。
エトネは自分の指先に感じた温もりを嬉しそうに眺めつつ、忘れないようにとエルフのお守りを首から提げた。
これで四人分の思いがレイの指に宿った事になる。
それは果てしなく重く、大事な事だ。
さながら、闇の海に泳ぎ出した時、帰る場所を教えてくれる灯台のように、レイの心に光を与えてくれた。
「ご主人さま。さっきの兵士さまが戻って来たよ」
レティの言葉通り、案内役の兵士が困り果てた表情をレイに向けている。
流石に、これ以上の遅延は許してはもらえなさそうだ。
「それではレイ様。私達は観客席に」
「ああ。……あとは、手はず通りに頼むよ」
後半を声を潜めたレイにリザ達は頷いた。そして、少女たちは控室を後にした。そして、レイもまた案内役の兵士に連れられて石の舞台へと歩き出した。
人々の熱狂が渦巻く祭儀場。神前決闘を今か今かと待ち構えている観客の前で、レイは鎧の男―――ゲオルギウスと並んでいた。
王の演説が終わり、神官の言葉が祭儀場を震わす中、レイは不思議な感覚に陥っていた。
すぐ傍に、ゲオルギウスが居ると言うのに自分が冷静さを保てているのだ。
これまで、自らを内側から食い破ろうとしていた、真っ黒な獣のような憎悪が鳴りを潜めていた。とはいえ、憎悪が治まった訳ではない。
例えるなら、黒雲が空を覆い、暴風が吹き荒れ、稲妻が轟かせ、雨が散弾のように降り注ぐのを、対岸で眺めているかのようだ。
理由なき憎悪を自らの心と切り離せているような、あるいは破裂寸前の憎悪を前にした嵐の前の静けさとでもいうべきか。もしかすると、この小指で結んだ約束の効果なのかもしれない。
ともかく、これは幸運と言えた。
ゲオルギウスを前にして、憎悪ばかりが先行して、体が振り回されるという可能性がレイには恐ろしかった。折角、皆が水面下で動きだしている状況を自らの手で崩すような真似はしたくなかった。
今なら、自分の意思で、自分の体を意のままに操る自信がある。
人間というのは案外脆い。平時なら当たり前に出来る事だと言うのに、極限状態に追い込まれてしまうと体を動かす事も満足に出来るかどうか分からなくなってしまう。
「……随分と、落ち着いているようだな」
一瞬、誰が声を発しているのかとレイは疑問に思い、それが隣に立つ鎧の奥から発した声だと理解するのに時間が掛かった。
ゲオルギウスがこちらに対して声を掛けてきた。
「この地で遭遇してから何度目になるか忘れたが、此度は随分と落ち着いているようだな。それとも諦めたのか」
「まさか。諦めるぐらいなら、こんな場所に立ちやしないよ」
「そうか。ならば、良い。此方としても、戦意無き者を蹂躙するのは、それはそれで楽しみを見いだせるが、折角の出会いなのだ。心躍る戦いを望む」
戦意溢れる言葉にふと、レイは不思議に思う。ゲオルギウスと接した回数はそれほど多くは無いが、シアラにした事や、ネーデの振る舞いなどを見る限り、もっと残忍で加虐的な性格をした残虐性の強い人でなしを想像していた。
前回の時間軸ではアフサルを、貴賓席の王族ごと磨り潰そうとしていたが、その時も妙に武人ぶった面を出していた。
今もそうなのだ。
憎悪に頭が侵されていた時は気が付きにくかったが、ゲオルギウスの意外な面を見たなとレイは思う。
「……その呆けた面はなんだ」
兜の奥から呆れたような声を投げかけられ、レイは我に返って、慌てて言葉を紡いだ。
「い、いや。ま、じゃなく、帝国の将軍の割に随分と武人らしい事を言うんだなって」
レイは帝国の将軍がどれだけ卑劣な存在なのか知らず、かといって何も言わないのは怪しまれるかと思い本音が混じった事を口にしていた。
ところがゲオルギウスはさして気にした様子も見せず、
「……帝国の将軍らがどのような存在なのか知らんが、私は違うと言えるし、違わないと言えるな」
持って回った言い方に、レイは首を傾げた。どういう意味かと尋ねようとするも、それを制するように神官が背中合わせになるように指示を出してしまう。
しぶしぶ進行に従い、レイはゲオルギウスと背中合わせに立つ。
十歩の距離を歩く最中も、先程の言葉が喉に突き刺さった骨のようにしこりを残していた。
違うと言えるし、違わないと言えるな。
武人である自分を肯定しつつ、否定して。残虐である自分を肯定しつつ、否定しているようにも取れる言葉だ。
相反する二面性。
それはまさに、マクスウェルの見立て通りという事ではないか。
期せずして手に入った新しい根拠にレイは背中を押されたような力強さを感じた。十歩目を踏むと振り返り、龍刀を抜き放った。
「いざ、はじめぇ!」
神官の合図に合わせるように、龍刀が紅蓮の炎を纏わせ、三度目の決闘の幕が上がる。
読んでくださって、ありがとうございます。
次回更新は二十二日月曜日頃を予定しております。




