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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第6章 水の都
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閑話:受付嬢の艱難Ⅱ

 酒場の扉がけたたましく開かれた瞬間、冒険者の顔に警戒が走る。いくら酒を飲んでいても、その辺りの切り替えの早さは一般人とは違う。さらに言えば、この酒場はギルド近くにあるため、ほぼ毎夜冒険者の貸し切り状態だ。客の九割近い冒険者たちは手元に武器を引き寄せ入り口へと振り返った。


 入ってきたのは客と同じ冒険者風の男だが、様子がおかしかった。


 着用している鎧は砕け、衣服は赤く染まり吸いきれなかった血が床へと流れて行く。脂汗と泥で汚れた男の目は怯えと混乱で揺らいでいた。


 注目を浴びた男は数歩歩くと、ばたりと大の字になって倒れてしまった。


「どうやら、ただ事じゃないね」


 ファルナが呟くと、端の席に座っていた仲間のヒーラーに回復するように命じ、自分も水を持って倒れた冒険者へと近づいた。アイナも同行しようとしたが、ルリジオンとカーティスに止められた。これが彼女を狙った何者かの仕業という可能性もあるからだ。


 ヒーラーの回復魔法が男の体に降り注いでいく。傷口は塞がり、男の荒い息は徐々に収まっていった。危機的な状況は脱したようだ。


「アンタ、意識はあるかい? ほら、水だよ。飲めるかい?」


 ファルナが差し出したコップを震える指で掴むと、胃に直接流し込むかのような勢いで水を飲みほした。まるで砂漠を延々と歩いた末に見つけたオアシスに頭を突っ込むかのような勢いだ。音を立てて飲み干すさまを見て、水差しを店員から受け取ったファルナは、周囲で様子を伺っている他の冒険者に向かって、この男を知っている奴はいないか尋ねた。


 すると、何人かが答えてくれた。この街の冒険者ではないが、最近連日に渡って迷宮を潜っている冒険者の一人だと。ほかにも仲間は居たはずだとも目撃者は付け足した。


 アイナを押しとどめ、席を離れたカーティスは入り口の向こう側を覗いた。夕暮れを幾らか過ぎた通りには、男の歩いたと思しき道に点々と血が続き、様子を伺う人々が集まっているが、男の仲間らしきものは居なかった。視線を切ると、カーティスはファルナに対して首を横に振った。


「ねえ、アンタ。他の仲間はどうしたんだい? その様子だとモンスターにでも襲われたのかい」


 尋常ではない様子の男を刺激させないように空のコップに水を注ぎながら尋ねたファルナ。すると、男の動きは時が止まったかのように動かなくなった。それもつかの間の事で、男は肩を、いや全身を震わせる。器に入った水は嵐のように波打ち、男の手を濡らした。


「な、な、仲間は、し、死んじまったか、居なくなっちまった。お、俺達、と、と、とんでもない事を、しちまったんだ」


「とんでもない事? それって一体何なんだい? 落ち着いて話してみな」


 ファルナは辛抱強く、男から事情を聞きだそうとする。男は何度も繰り返し、仲間は死んだ、とんでもない事をしてしまったと繰り返していた。これではらちが明かないと眉を下げたファルナの横に膝を突いたのはルリジオンだった。白い両手が水と泥と血で汚れて震える男の手を包み込んだ。


「安心してください。ここは安らげる場所。迷宮とは違い、13神が見守る大地です。なにも恐れることはありません」


 一言、一言。力強く、はっきりと区切り、男を落ち着かせようとする姿は紛れもなく法王庁の神官だ。一種の宗教絵のような神秘さすらしており、ファルナもアイナも、ルリジオンの横顔に吸い寄せられるように見つめていた。男も同様だったのか、震えはいつの間にか収まり、ルリジオンの顔を正面から見据え、数回深呼吸を繰り返した。


「……どうやら、落ち着かれたようですね。それでは、お尋ねします。貴方と、そして貴方のお仲間は一体どう為されたのでしょうか」


 男はごくりとつばを飲み込み、血を吐く様な思いで告げた。


「俺達……魔法工学の兵器を……起動させちまったんだ」


 途端。


 酒場の中は張りつめた静寂で満たされた。身じろぎ一つすれば、死ぬかのように冒険者たちは動きを止め、それ以外の人たちは急な静寂に戸惑う。しばらくしてから、まだ衝撃から立ち直っていないファルナが震える声で尋ねた。


「……アンタ……悪いけど……もう一回……言ってくれないか」


 嘘であってほしい。聞き間違いであって欲しい。そんな風に祈るファルナだが、男は苛立ちすら抱きながら、絶望的な内容を再度告げる。


「だから! 魔法工学の兵器を起動させちまったんだよ!!」


 くらり、と。ファルナは目の前の景色が揺れたかのように感じた。残念ながら地震ではなく、ファルナ自身があまりの衝撃を処理しきれなくてよろめいたのだ。


 思わずカーティスの方を向くも、彼も驚愕と恐怖を混ぜ合わせたような表情を浮かべていた。






 魔法工学の兵器。


 それは人類の黄金期に生み出された数少ない汚点の一つだ。


 今のエルドラドの生活基盤となっている魔法工学。魔石と特殊な金属と魔法言語ヒエログリフの式を組み合わせた道具は様々な場所で使われている。闇を打ち払う街灯や、荒れ地や僻地に清らかな水を生成したり、食料品などを冷気で長期に渡って保存できる倉庫など、用途は多岐に渡っている。


 それらを生み出したのは黄金期の三傑が一人、『科学者』ノーザンだ。


 ノーザンは生活を豊かに、便利にする道具を生み出す一方で、人を楽に殺せ、一方的に殺せ、大量に殺せる兵器も開発していた。


『科学者』の生み出した兵器は、単なる対人兵器から、対軍、対城とスケールが上がっていき、最後には環境すら一変させる物までに到った。結果、人類にとっての黄金期が終わった原因はそれらの兵器の奪い合いとなり全面戦争の幕が開きかけた事だった。


 それを恥じたのか、ノーザンは魔法工学の兵器を壊す対魔法工学の兵器を作り上げてからこの世を去った。自殺とも、病死とも、他殺ともいわれているが謎である。


 重要なのは、彼の死後、残された魔法工学の兵器たちがどうなったのか。当時、世界中に散らばった兵器は対魔法工学の兵器である『機械乙女ドーター』によって破壊された。まるでノーザンの強い意思を体現したかのような対魔兵器は時に都市一つを滅ぼし、山一つをくりぬき、谷一つを埋めるような被害をあちこちで起こしていった。


 この凄まじい爪跡を目の当たりにした兵器保有国は兵器の破棄、もしくは封印を決定。地上からノーザンの生み出した兵器類は姿を消したはずだった。それが現代に姿を現すのは何故か。


 それはノーザンが当時所有していた兵器類をある場所に隠したのが原因だった。


 兵器を破壊するための兵器を生み出した男がどうして手元に残っていた兵器を隠したのかは永遠の謎だが、ともかくノーザンはある場所に兵器を隠して誰の手にも渡らないようにしたのだ。


 その隠し場所が問題だった。


 彼は兵器をエルドラドの大地を走る魔力の流れに埋め込んだのだ。


 大地を走る魔力の流れは精霊ですら容易に触れる事の出来ない、いわばエルドラドの大動脈だ。人では決して触れる事の出来ない領域。そういう意味ではノーザンの目論見は成功したと言えた。しかし、誤算もあった。


 彼の死後。そして『機械乙女ドーター』の猛威によって地上から兵器が消えてから少し経ったある時、世界中にある報せが出回った。


 迷宮から魔法工学の兵器が発見された、と。






「迷宮は魔力の流れと密接に関係している場所。言ってしまえば、迷宮のある場所は魔力が濃いといえるわ。魔力が濃いと地上部分は緑が多くなって農作物や動植物への影響が増して、収穫が増えるから自然と村や街が出来る傾向にあるしね」


「それと兵器がどう関係してくるんスカ」


 話が脱線した事をトリシャに指摘されたアイナは、逸れた話の流れを元に戻した。


「ノーザンの誤算は、魔力の流れに隠した兵器を、魔力の流れが異物として吐き出した事なの。彼が厳重に封をした兵器類は迷宮の宝箱から見つかるようになって、それを不用意に開けた冒険者によって、『機械乙女ドーター』が目覚めて迷宮ごと兵器を吹き飛ばす事例がいくつか続いて、ようやくギルドはこの異常事態に気が付いて一つの決まりを作ったの」


 彼女の手元には冒険者の手引書である、『冒険の書』が握られていた。彼女の個人的な持ち物であるのか随分と草臥れており日にも焼けて、想定の端に修繕された跡があった。その最後の方のページには冒険王の言葉とは別にギルドからの注意事項が記されている。その中の一つに、宝箱の中から見つかった木箱を不用意に開けるなと明記されている。


「つまり、あの冒険者とその仲間は不用意に木箱を開けただけでなく、魔石を入れて兵器を起動してしまった大馬鹿野郎って事だよ」


 先頭の方を歩くファルナが乱暴に纏めたのをアイナは苦笑いで受け止める。彼女の言っていることは乱暴だが的を射ている。


 酒場に倒れこむように現れた冒険者の話は纏めるとこうだった。


 男のパーティーはここ数日迷宮で寝泊まりしながら魔石集めとレベルアップを行っていた。新しく入った仲間との連携を高めるための合宿のようなものを行っていたのだ。何度目かの戦闘を終えた後、彼らは岩間に隠されるように置かれた宝箱に気が付き、興奮した面持ちで中を開き、出て来た木箱に戦慄した。彼らとて冒険者の端くれ。それが何かはすぐに分かり、伝説のアイテムに嬉しさ半分、困惑半分だった。どうするかは仲間内で話し合いがもたれ、ギルドに提出すると言う事で話は纏まった。


 事件は地上へと戻る最中に起きた。彼らの前に、ベヒモスが現れたのだ。


 本来ならボスの間ぐらいでしか姿を見せない上級モンスター。おそらく亜種だろう。兎に角、彼らは突然の強敵に浮足立ち、初手を間違えた結果、リーダーを失ってしまった。指揮する者が居なくなり、混乱した彼らは安易な方に流れてしまった。手元にあった最強の武器を使う事を決めたのだ。


 木箱に入っていた兵器に魔石を投入し、ベヒモスへと向け―――何も起きなかったのだ。兵器にもさまざまな種類があり、現代に生きる者でもそれがどのような使い方の兵器なのかは分からない場合がある。今回はまさにそれだったらしく、使えない兵器を取り出してしまった彼らは一気にパニックに陥った。そして男はあろうことか、仲間に背を向け一人逃げ出したのだ。


 パーティーにおける壁役を担っていた男はベヒモスの恐怖を肌で感じていたこともあり、余計に恐れてしまった。彼は足が千切れんばかりに走り、走り、走って、地上へと辿り着いた。周りには仲間はおらず、たった一人の帰還となった。


 涙と嗚咽で聞きとりづらかったが、話を聞いたカーティスは直ぐに行動を開始した。カバナのギルドへと向かい、開封された兵器が迷宮に取り残された事と『機械乙女ドーター』がこの街にやってくる事を警告し、住民を避難させるように要請した。話を受けたギルド長は事態を重く見て、二つの方針を打ち出した。一つは住民の避難。もう一つは冒険者による兵器の破壊だ。


 ギルド長は街長として『総動員令』を発動。カバナの街に居た冒険者たち、総勢五十五名に緊急クエストを出した。迷宮に取り残された兵器の破壊だ。男のパーティーが何時間前に兵器の封印を解いたのか。『機械乙女ドーター』があとどれぐらいでカバナにやって来るのか不明な状況だった。もしかすると、日の出と共に『機械乙女ドーター』が現れ、街と迷宮を吹き飛ばすかもしれない。そんな危険を承知で冒険者たちは迷宮を潜る事を決めた。


 その中にはファルナたちも居た。だけど、どういう訳だがアイナとルリジオンの姿もあった。


 ファルナとしては当初、アイナとルリジオンの二人には避難民と共に避難をしてもらう予定だった。ところが、アイナの頑固な反対と、ルリジオンの静かな反対によって彼女は自分の意見を諦めた。


 アイナとしては自分一人が安全圏に逃げ込むのは承諾できないという感情からの行動だが、ルリジオンまでが反対するとは誰も思っていなかった。だけど、ルリジオンにはルリジオンの事情というものがあった。


 彼女の任務はアイナを聖都まで連れていく事。しかしして、裏の任務はアイナとファルナ両名を聖都まで連れていく事だった。アイナ一人では駄目なのだ。ファルナも連れていく必要が彼女にはあった。そういった経緯もあって、アイナとルリジオンを含めた『紅蓮の旅団』ファルナ班はカバナの迷宮を潜る事になった。


 今回の『総動員令』において、スタンピードの時のように指揮する者は居なかった。理由としては、今回の目標が兵器の破壊という短期で完了させなければならない内容なのと、迷宮という指示が出しにくい場所の為だ。今回重要視されるのは横の繋がりでは無く、個々の速度。下手な連携や情報の共有によって足並みを揃えている時間は無かった。


 パーティー単位での迷宮探索が始まった。


 カバナの迷宮は上層十八階。中層二十四階の合計四十二階と下に深い迷宮となっている。反面、一階層辺りの広間、通路の数は少ないという傾向だ。問題は、この迷宮があみだくじのような構造となっている点だ。


 下に降りる階段が幾つも存在しているのに、正解のルートが一つしかないのだ。間違った階段を選び続けると行き止まりの広間に降りてしまう。厄介な事に迷宮の変成が起きてしまった。兵器が置き去りになった場所は広間だったらしく、変成で飲み込まれて消える事は無いはずだが、そこに繋がるルートが分からなくなった。唯一分かっているのは彼らが兵器を落としたのが十二階という事だけ。冒険者たちによる総当たり方式での探索が始まった。


「まあ、言ってしまえば手当たり次第に階段を降りるという力技なんですけどね」


「それを言わないお約束だと思うよ、アイナさん」


 ぼやくアイナにファルナが突っ込みを入れる。その言葉には気だるさが滲んでいて、いつもの覇気は無かった。迷宮の探索が始まって半日が経過していた。一行は行き止まりの広間に辿り着いてしまい、昇ったばかりの階段を引き返していた。


 休憩を挟みながらも可能な限り早い行軍速度を保っていたこともあり、すでに十一階に辿り着いていた。もっとも間違えたルートなので十階に戻る羽目になったが。階段を昇り切った一行の最後尾。殿を務めていたホラスは階段に張り付けてあった羊皮紙に斜め線を加えた。元からあった斜め線と交差するように書いた事でバツの字となった。これは情報の伝達が出来ない迷宮で時間のロスを減らすための仕掛けだ。降りる際に斜め線を書いて貼り付けして、間違ったルートだと分かれば戻った時にもう一本を加える。こうすることで後続のパーティーに教える事が出来る。


「どうやら、俺達が一番乗りのようですね、姉御」


「そりゃ、そうだろ。あの場に居た冒険者の中で一番人数が多かったのは俺達のパーティーだ。加えてこっちには姉御にカーティスの兄貴に魔人種のアイナさんに異端審問官のルリジオンさんも居るんだ。突破力で負けるわけない、って! な、何するんすか、カーティスの兄貴!」


 ごつんと音が響くほどの拳を落とされた少年は涙目になって後ろを振り返った。話を聞いていた少年も振り返ると、この二人が鏡に映したかのようにそっくりだと分かる。彼らは双子の冒険者。殴られたのが弟のカーメル。殴られなかったのがキャメルだ。


 殴ったカーティスがじろりとねめつけるように、


「油断、慢心はするんじゃねえ。忘れんなよ。兵器のある場所には上級モンスターのベヒモス。それの亜種が居るって事をな」


 比較的、年の若いファルナ班のメンバーが押し黙る。彼らもアマツマラのスタンピードを潜り抜けた戦士だが、所詮は裏方。比較的、危険の少ない場所での支援に近かった。その中でもホラスなどは赤龍討伐に参加したが、それでもこのメンバーで上級モンスターと戦わないといけないと考えると緊張が足元から広がって来る。


 特に盾役であるホラスは前線にて敵の攻撃から仲間を守らなくてはならない。果たして自分の盾は仲間を守れるのかと不安に思う。


 ―――だけど、彼の心には焼き付いて離れない男の背中があった。


 年は自分と変わらず、レベルだってそこまで離れていなかった。偶然が重なって一気にレベルは広がったが、赤龍と比較すれば自分とアイツの間にある差なんて無いも同然だ。


 それでも、アイツは。レイは赤龍の前に立った。いまでも鮮明に覚えている。全てが赤く染まった夜、レイは諦めるという事を知らずに挑んでいた。か細い、それどころか対岸に繋がっているのかどうかすら分からない綱を進み、アイツは生き延びた。


(レイの奴はいまもどこかで泥臭く、もがいて、足掻いているかもしんねえ。俺も負けてらんねえよ!)


 心中で気合を入れたホラスに応じるかのように、モンスターの集団が姿を見せた。


 体躯は小さく、まるで痩せた子供のようなモンスターだ。浅紫色の肌に、小さな蝙蝠の翼を背中から生やし乱杭歯を剥きだしに笑うのはヴァイオレットインプ。手にした三叉の槍と魔法が危険な中級モンスターだ。数は七体居る。


 ファルナの声が飛んだ。


「ホラス、前に! キャメル、カーメルは側面から追い込め! トリシャは集まった所を。ほか防御陣形で待機!」


 各々から了解の言葉が飛び、名前を呼ばれた四人は戦闘へと走り出した。ホラスが盾を打ち鳴らしながらヴァイオレットインプの注意を集める。インプが繰り出す牽制の攻撃を盾で叩き潰し、前へ前へと押す。その堅牢な構えを打ち崩すのは容易ではないと判断したインプは側面から攻撃をしようと回りこむが、それを阻むのは双子の冒険者だった。パルチザンを構えたキャメルがインプの腹を浅く斬り、ハンマーを振りまわすカーメルからインプは距離を取った。三方からの攻撃に押される形で七体のインプは自然と密集してしまう。そこをすかさず大回りで敵の後方に回っていたトリシャが身の丈の倍はあるハルバードを振り下ろした。


 ドワーフ譲りの強力な一撃はインプの集団を粉砕した。二体のインプがひき肉となり、二体のインプが掠めただけで腕や足がもぎ取れる重傷を負った。残り三体は無傷だが、戦意を失ったかのように足を止めた。すかさずホラス達が武器を振るい、残りの三体に止めを刺した。


 あっという間の早業にルリジオンは流石だと心の中で呟いた。驚くには値はしない。この二月の旅で、彼らのチームワークは何度も見てきたため、これぐらいの敵ならいとも簡単に倒せるとは知っていた。


 それでもこの先に待ち構えているのは上級モンスターの亜種。ここは自分も戦闘に参加しなければならないと考えて同行を申し出た。


 ヴァイオレットインプの出現にもほとんど動じることなく、ファルナたちは十二階へと降りた。今度は正解だったらしく、問題なく十三階への階段が通じる広間を複数発見した。その際にもまたモンスターが襲いかかってきたが、今度は仲間を交代して対処に当たった。十人ものメンバーを抱えたパーティーのメリットは、戦闘中でも待機できる仲間が居るという事だろう。連戦が続いたり、強敵と戦った直後は集中力も生命力も精神力も乏しい場合がある。その時に、無傷の仲間がいるだけで生存率は上がる。ファルナは仲間の状態を把握して、モンスターの構成から即座に最適な人選をして対処に当たっている。こういった面を見る度に、ファルナがオルドの娘だとカーティスは思う。


 こうしてファルナ一行は十二階の正解の階段を見つけて一三階へ降り立ち―――奇妙な物を見つけた。


 それは人の三倍か四倍はある大きなモンスターで、岩盤を削り出したかのような分厚い皮膚に覆われ、頭には重装騎兵が持つ馬上槍のような角が生え、短くも太い四本足は大地すら砕きそうだった。


 過去形なのは、彼らが見つけたのがベヒモスの亜種。それのだったからだ。


 人の三倍か四倍はある大きな体は地面に横たわり、岩盤を削り出したかのような分厚い皮膚に向こう側が見えそうな穴があり、頭には重装騎兵が持つ馬上槍のような角の根元しか存在せず、短くも太い四本足のうちで無事だったのは右後ろ足のみだ。


 踏み込んだ広間の中央に打ち捨てられたのはベヒモスの死体だけでは無い。冒険者と思しき死体も転がっていた。おそらく、ベヒモスとの戦闘で死んだのか、どの死体も原型をとどめていない。中には今まさに迷宮に飲み込まれようとしている死体もあった。


 迷宮が死体を飲み込むのは死んだ順である。冒険者が先に飲み込まれているという事はベヒモスが死んだのは冒険者が死んだ後という事になる。一体誰が、どうやってやったのかまでは謎だ。もっとも、ファルナたちにとってそれはさして重要な謎では無い。


 彼らが辿り着いた広間のどこにも、兵器らしきものが存在してなかった。あるのは、砕けた木箱の破片のみ。


「……これは、考えていた中でも割と最悪な部類の結果だね」


 ファルナの呟きが不吉な調べのようにアイナの耳を震わせた。


読んで下さって、ありがとうございます。


簡易人物紹介その2。


カーティス……二つ名持ちの凄腕冒険者。冒険者としては珍しく事務方、交渉事、後輩への指導役などを得意としておりファルナのお目付け役を任される。

ホラス……ファルナに気がある盾使い。初めはレイに対して反発心を抱いていたが、スタンピードを経て和解する。

キャメル、カーメル……スタンピードの際にリザと共に戦った双子の冒険者。

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