6-24 トトスの港町Ⅰ
港町の市場は活気付き賑わっていた。屋台に並べられるのは新鮮な魚介類に、他大陸の香料。複雑な幾何学模様をした反物に、甘い香りを漂わせた極彩色の果物に、珍しい動物が檻の中から人々を見上げていた。その横に首輪をつけられた労働奴隷用の子供も自分を買ってくれと視線で訴えかけていた。
並べられた品に負けない程、様々な人種が入り乱れる市場の一角でちょっとした事件が起きていた。
誰もが目を奪われ、意識すら絡めとられてしまう絶世の美女が市場を歩いていたのだ。歩くだけで、その女の前では男女の性別も関係なく、誰もが引き寄せられてしまう。胸元と背中の大きく開いたドレスが白い肌を露わにしている。
名をジョゼフィーヌ。そこに居るだけで魅惑を振り撒く悪女だ。良くも悪くも注目を浴びてしまう。
トトスの港町は近くに貴族等の別宅がある事から、彼ら向けの品を取り扱う市場が別に存在する。そこは遮光用の蔦の天井に覆われ、清潔さを限りなく保っている市場。
ジョゼフィーヌが歩いている市場とは雲泥の差だ。
庶民向けの市場において、彼女の美しさは目立つ。良からぬ企みを抱いた者が下卑た視線を送るのも仕方ない。
しかし、その視線を送った者は例外なく罰を受ける。
彼女が通った後、突然喉を掻き毟り倒れる荒くれ者が続出した。顔を青ざめ、口を金魚のように開けて意識を失う。死者は出ない物の、それが二度三度どころじゃない数続くと、誰もが気づく。
彼女に手を出してはいけない、と。
荒くれ者たちの失神にはちゃんとした理由がある。ジョゼフィーヌの傍に寄り添い、日傘をさしている男装の麗人。彼女の従者がしていた事だ。
「恐れながら、我が主。この様な獣がひしめく場所に、御自らが足を運ぶ必要はないかと存じますが」
袖口に仕込んだ針の補充を終えた従者は苦言を呈した。ジョゼフィーヌの補佐と同時に護衛を務める身としては、わざわざ危険の多い場所へと来てほしくないのが本音だ。
すると、ジョゼフィーヌは愉快げに口元を歪めた。
「なーに。貴女如きが私の行く先を決めちゃうわけ。偉くなったものね」
「―――っ! 申し訳ありません!」
腰が折れるほどの勢いで頭を下げた従者。主の不興を買ったと思い、この炎天下に置いて燕尾服を着込みながら汗一つかいていなかった彼女が、今では大粒の汗を流していた。
その様が面白いのか、ジョゼフィーヌはケタケタと笑う。
「冗談よ、冗談。ほんと、貴女って揶揄いがいがあるわね」
果たして言葉通り冗談だと受け止めていいのか、それとも実は本心で許していないのか。決して心の内を明かさない主に動揺しつつも、従者が顔を上げた。
もっとも、いまでもジョゼフィーヌをこの場に長居させたくないと彼女は考えていた。
なぜならこの場所―――トトスの港町全体から張りつめた空気を感じていたのだ。鉄錆の匂いや、弓の引き絞る音。そしてなにより、単なる荒くれ者とは一線をかく、冷たい刃の如き殺気が肌を刺す。
戦闘を前にした異様な興奮が街を包み込んでいる。
戦闘に特化した魔人種だからこそ、表面化していない戦闘のはしりのような物を感じ取れるのだ。
「貴女の心配事は分かるけど、この市場を抜けないと桟橋には着けないでしょ。それにほら、もうすぐ出口よ」
ジョゼフィーヌの言葉通り、市場の端を出て二人は船着き場に辿りついた。
湾曲した湾に沿って桟橋が何本も突き出ている船着き場には常時複数の船が止まっている。帆を畳み、出港の時を待っているのだ。
「えっと……ああ、あそこね」
ジョゼフィーヌが停船中の船の中から、目的の船を見つけた。海の方に向かって左手、桟橋の一番端にそれはあった。隣に並べられている船よりも二回りは大きく、厚みのある船が良く浮いていられるものだと感心してしまう。
シュウ王国海軍で正式採用されている軍船だ。貴重な火薬を用いる砲台を腹の中に抱え、13神の像を先頭に付けたその船の名はパトリオタだと従者は言う。
「船長の名をガイウス・モンデゴ。年齢は三十になったばかりではありますが、その手腕は確かとの事です」
スラスラとメモも無しに暗唱する従者。黒髪の下には、主の政敵であるスヴェンの交友関係が全て入っていると言っても過言ではない。
その軍船を少し離れた場所から二人は眺めていた。すでに荷物の積み込みは終わったのか、いつでも出港できるようにと船員たちが待機していた。
「誰かを……待っているのかしら?」
「どうやらそのようですが、一体どなたなのでしょうか。まさか、第二王子自らが国を離れるつもりでは」
「この時期に、何の理由があって。……でも、それはそれで面白くなりそうね」
決して華美にならない程度に赤く染まった唇が歪む。栗色の髪の下ではどんな策謀が生まれようとしているのか、従者には想像もつかなかった。そんな時だった。少し離れた通りの方が俄かに騒がしくなったのは。
二人がそちらの方を見ると、驚いたことに五十人近くの騎士達が桟橋に向かって突進しているのだ。馬が馬車道を占領し、人々を退け、物を蹴散らして進む姿は進軍と表現して間違いでは無い。その騎士達は中央に置いた馬車を守るかのように囲んでいた。
「なーに、あれ。何処の貴族……にしては草臥れた馬車ね。古めかしそうな馬車に、引いているのはニチョウじゃない」
「妙ですね。貴族がニチョウを使うことはまずありません。かといって、囚人の護送馬車のようにも見えませんが」
「ねえ。双眼鏡を出して頂戴」
従者が持っていた双眼鏡を渡すと、ジョゼフィーヌは馬車を追いかける。遠くから見られていることも知らずに馬車は軍船が停泊している桟橋の前で止まった。
そこから複数の人影が降りて行く。周囲を騎士に囲まれているため、細かい容姿までは見えないが、どれも若い少年少女の集団のように見えた。
「貴族じゃないわ。冒険者のようね。……うーん。ここからじゃ、よく分からないわ。ちょっと近づいてみましょう」
「……了解いたしました」
恭しく頭を下げて、主を先導しようと従者が歩を進めた時、甲高い悲鳴が二人の耳朶を震わせた。それも一つではなく、複数だった。
車輪が悪路の上で震える度に荷が飛び跳ねようとする。紐で固定されているとはいえ、緩まないとは限らない。その度にエトネやシアラが抱きついて抑えた。
「す、す、凄まじい、道を、走って、いる、な」
「こ、これでも、正規の道、らしい、けど、もっと、マシな、道は、ないのか!」
舌を噛みそうになりながらも振動に耐えていると、アスタルテに乗っているリザと御者台にいるレティが同時に叫んだ。
「道が終わります!」
「もうすぐ港だよ!」
二人の言葉通り馬車は騎士に先導してもらい、桟橋近くへと到着した。
ようやく荒れた地面が終わるというのに、ぐったりと休んでいる暇はレイ達には無い。馬車が停止するなり、各自動き出した。
レティは御者台から飛び降りると、キュイと馬車を繋ぐ器具を外す。エトネとシアラは必要な手荷物だけを外に放り投げると、先に降りて周囲を警戒しながらダリーシャスに降りるように言う。リザはアスタルテとキュイを桟橋の方へと誘導する。最後に馬車から降りたレイは馬車の中に誰も居ないのを確認すると、
「《リダクション》」
と、小声で告げた。すると、周囲を護衛する騎士と少し離れた場所で見学する野次馬の前で馬車が姿を消した。驚く人々とは別に、レイは縮小された馬車を地面から拾い上げると、荷物の中に放り込んだ。
「船上から失礼! お待ちしておりました。冒険者レイ殿とその御一行……でよろしいのですな」
空から声が落ちて来た。野太い声に顔を振り向くと、浅黒く日焼けしたがっしりとした体つきの男が軍船の甲板からレイの方に向けて手を振っている。
「そうです。貴方がガイウス船長ですか」
「いかにも。何時でも出港する準備は出来ております。さあ、どうぞ!」
スヴェンが手配した男は出来る男らしく、全ての準備を整えていれてくれた。船員もきびきびとキュイとアスタルテの乗船を手伝う。
「それじゃ、隊長さん。出港までは」
「分かっています。この桟橋は猫一匹通らせやしません」
護衛の騎士達はそれぞれ持ち場に着き、辺りを威圧するかのように睨みを効かす。そのせいで市民が怯えて後ずさりしてしまうが仕方ない。騎士と市民の間に空間が生まれた。
これでも近づいてくるような奴がいれば、それは間違いなく敵だ。
どちらが襲ってくるのか分からないが、正面切っての戦闘ならこちらに分はあるはず。その上に、レイは用心を重ねる。
「シアラ。影はどうだ」
軍船と桟橋を繋ぐ歩み板の方へと移動する前に、シアラの《ラプラス・オンブル》が見通す死の確率の事を尋ねた。彼女の金色の瞳が輝き、シアラは不吉な物を見たと言わんばかりに、
「全員の影が濃くなってる。襲撃は近いわよ」
「……やっぱりそうか。……船に乗るタイミングをずらすべきかな」
レイが気にしていたのは船の上での襲撃だ。
狭い甲板に揺れる足場などの不安定要素もあるが、一番問題なのは船の上に逃げ場がない事だ。陸地なら、状況が不利になったら逃げるという手が使える。それに陸地に居る間なら護衛の騎士達が居る分、数の上では勝る。でも、海に出ればそれらの利点が消えてしまう。
ここは一つ、船に乗るのを遅らせてでも、付近に居る襲撃者を先に始末するべきじゃないかと考えたレイが隊長に進言しようとした―――まさにその時だ。
レイの思考を読んだかのように異変は起きた。
街のいたる方向から悲鳴と怒声が発せられたのだ。
「な、何なんだ。一体」
姿なき異変にレイのみならず、騎士達も困惑した。すると、市民たちの口の端に乗っていくつもの被害報告が届き始めた。
「市場で火事が起きたってよ」「いや、馬が暴れてるそうだぞ」「家が崩れて、中に子供が閉じ込められてる。誰でもいい、手伝え!」「泥棒だ。泥棒が出たぞ、逃がすな!」「あっちで人が血を流して倒れているんだってさ。犯人はまだ見つかっていないそうだよ」
どれもバラバラの、正確性に欠く噂話。
しかし、一つの真実を浮き彫りにした。
この街で何か騒動が起きていると、全員が口にしていた。それがどこで、何が起きているのかまでは分からない。しかし、次第に大きくなっていく声は無視できない。
集まって噂話をする市民たちの目が徐々にではあるが騎士達に向いていく。助けをすがるような、あるいは詰るような視線が騎士達に突き刺さる。
「これは……まずいですよね」
「ああ。この空気、この流れ。確実に不味いな」
レイとダリーシャスは桟橋の上で、不穏な空気を感じていた。
「この空気は間違いなく作られた空気だ。作為的な工作をされたのだろうな」
「目的は陽動と……こちらの戦力の分散、ですかね」
相手の目的を口にしたレイに対して、護衛の隊長が決断を下した。
「レイ殿。申し訳ないが、兵を偵察に向かわせてもらいます」
告げられた内容にレイは口を挟まなかった。彼の心情は理解できた。普通なら、護衛対象が無事に出発するまで他の行動をとるなんて事はしない。命令違反と捉えられてもおかしくはない。
だけど、彼らは第二王子直属の騎士団。彼らの失態はそのままスヴェンの名に泥を塗る事になってしまう。五十人もの騎士が現場に居ながら、けが人やあるいは死人を出してしまえば、それだけで民衆の信頼は落ちてしまう。ここは騎士を動かして、『動いた』という証明が必要なのだ。
五十人の内、十人が護衛任務から外れ、街で起きている異変に対処するべく散った。
(さて、これで終いという訳じゃないだろ。次は何をするんだ)
ファルシオンを抜いたレイが桟橋から陸地の方へと睨む。まるで、そこに敵がいるかのように。
―――それは正しかった。
集まった群衆のさらに向こう側から矢が放たれたのだ。それも一本や二本では無い。三十を超えるであろう、矢の大群が騎士達に向けて曲線を描いて降り注ぐ。
「―――っ! 敵襲、敵襲!」
矢を防いだ隊長の声が戦闘の開始を告げた。姿を現した敵の数は三。それぞれ、建物の中や屋上から矢を引き絞っていた。射手の数以上に矢が飛んでいるのは技能か魔法の仕業だろう。
姿を見せた弓兵達は恐ろしく厄介な事をする。なんと、矢の先を突然の戦闘に驚き逃げ惑う群衆へと向けたのだ。止める間もなく、増殖された矢が群衆へと突き刺さる。混乱に拍車がかかり、右往左往する群衆は他者を押しのけ、踏みつぶして逃げ惑う。
「くぅ! いかん、全員前へ! 民衆を守れ! レイ殿。申し訳ないが、直ぐに船の中へ! そこなら安全です!!」
民衆を守る為に前進する騎士達。これで桟橋の封鎖は溶けてしまう。一度退いて立て直す猶予も残されていない。
(やられたな。選択肢がどんどん削り取られていくよ)
自分達が後手に回らされているのを実感して、レイは奥歯を噛みしめた。相手の狙いはレイ達の行動を誘導しているのだ。おそらく、自分達に有利な状況へと追い込みたいのだろう。
そう考えると、最初の出来事にも納得がいく。
街のあちこちで騒動を起こすことで、敵が街に潜んでいるという印象を与え、街に逃げ込むという選択肢を潰したのだ。護衛の兵士を削るのが狙いではない。
今も民衆に向けて矢を放つのは、護衛をレイ達から引き剥がすのと同時に、レイ達を船に逃げ込ませようという策なのだろう。
そこまで分かっていながら、レイ達には船に乗る以外の選択肢が残されていなかった。
「錨を上げろ、帆を張れ! 全速で港を離れるぞ!」
レイ達の乗船を確認した船長が指示を出す。彼の手足である船員たちは三々五々に散らばり、船を出す準備に追われた。
しかし、その手は止められてしまう。ロープを解こうとした船員が矢に貫かれて蹲った。いつの間にか、隣接する船の甲板上に弓を持つ敵の姿があった。横合いから放たれた矢は船員たちを狙っている。
「こっちにも敵が来やがったか。半分は出港の準備! もう半分は戦闘だ!」
「「「アイアイサー!」」」
威勢のいい返事に併せて、下から盾を担いだ船員たちが姿を見せた。長い板を用いて、向う側の船に乗り込もうともする。レティとシアラが杖を使い魔法で応戦する中、レイの指示が飛ぶ。
「リザ、エトネ! ダリーシャスを連れて下の船倉に。敵が先回りしていないとは限らないからな! 用心して!」
「分かりました。ですが、ご主人様も下へ」
ダリーシャスの腕を掴んだリザがレイの方にも手を伸ばそうとする。だが、レイはその手を払う。
「僕はこの場に残る」
冷たく聞こえる拒絶の意思。その中からリザはレイの真意に気づいた。再度伸ばしかけた手は戻され、
「……御武運を」
と、短く伝えるとダリーシャスとエトネを連れて船室へと避難をした。
(これでダリーシャスの方は良し。……あとは僕の方か)
レイがこの場に残った理由。それは敵の正体を知ることだった。この一連の騒動自体がガシャクラの一派なのか、あるいはデゼルト国の刺客なのかを確認する必要があった。その二つには大きな違いがあり、そこを確認しなければ、次に行けない。
―――この状況は詰んでいるのだ。
民衆に死人を出し、船員にも犠牲者を出し始めたこの状況。
敵に先手先手を取られ、思うがままに翻弄されている状況。
形成は既に決まっている。相手の勝ちだ。
ここから相手を撃退した所で、それはレイの望む勝利では無い。すでに敗北。だったらどうするか。
この状況自体を無かったことにするしかない。
レイはファルシオンを抜きつつも、周りの喧騒から離れるように移動する。レティもシアラも、船員たちも隣接する船からの攻撃を防いでいるため、誰もその動きを止めない。ごく自然に、孤立した駒のようにふるまう。
敵が自分を狙いやすい状況を作ったのだ。喰いつかないはずがない。
―――背骨を死神の冷たい手が掴んだ。
ぞぶり、と。
レイの痛覚が激痛を知らせたのは、ほんの数秒後の事だった。
「がっはっ」
真っ赤な血が甲板を染め上げる。口から吐き出された血が内臓の損傷を物語る。
しかし、それはおかしかった。
レイの全身はどこも外傷をおびていないのだ。膝を着いて崩れ落ちる間、口から吐いた血以外に流れ出た血は一滴も無い。
(痛いのは……中だ。内臓だけを……直接攻撃されたんだ……でも、一体誰に)
薄れゆく意識の中、抵抗できないレイの体が蹴り飛ばされる。自分の吐いた血に突っ伏していた状況から気が付くと空を見上げていた。
衝撃で一度だけはっきりとなる意識。夏特有の低い青空を見上げていると、二つの人影がレイを覗きこむ。
一つは顔の左半分に走る裂傷で目を開けられなくなった老人の顔。
もう一つは、黄色の髪をした若い青年の顔だ。その手には血の付いたナイフが握られている。
「儂の手で殺したかったのに。無様だな、小僧。……貴様の奇妙な技能を警戒した一撃だというのに、何の反応もせんとは。……このような塵芥に儂は腕を」
残った瞳から放たれる侮蔑の視線を脳裏に焼き付けながら、レイの意識は暗闇へと落ちた。
★
ずぶり。
音を立てて自分の体から内臓が勝手に落ちた。艶めいた血化粧を纏う臓器はまだ動いており、地面の上で身もだえしている。代わりに、体に空いた穴からは血がとめどなく流れていく。一瞬、その穴が塞がるも、それは新しい内臓が飛び出す為に潜り抜けようとしたからで、ぼとぼとと落ちた内臓が積み上がる。
左肺、右肺、胃、肝臓、膵臓、腎臓、小腸、大腸、そして心臓。
広げられた体の中身を見て、レイはよくもまあこんなに詰まっているもんだと、奇妙な関心を抱く。身動きの取れない体は、無くした物に比例してべっこりとへこんでいた。
すると、体から零れていた内臓が弾け飛んだ。
ぱしゃん、ぱしゃん、ぱしゃん。
規則正しく、リズミカルに音を立てて、血を吹きだすたびに、すでに体から消えているはずの内臓が潰れた感触が、激痛がレイを襲う。
残った臓器は六つ。次はどれが消えるのか。どれが潰れて激痛を与えるのか。
レイに見せつけるかのようだった。
激痛に襲われながら、レイは願った。
―――どうか、次は心臓を。一思いにやってくれ、と。
その願いが叶うのは音が六回鳴った後で、叶ったとしても地獄は終わらない。
★
「―――っう!」
起きた瞬間、死に戻りのイタミが全身を駆け巡る。久方ぶりのイタミに体が付いて行けない。皮膚と肉の間に刃を突きたてられるような、逃げ場のない激痛を必死に耐え凌ぎながら、レイは脳裏に焼きつけた瞳の主を口に出した。
「ガシャクラ。……アンタは僕を殺すのに、街の人を巻き込むのか。……だったら、殺さないと止まらないのかよ。アンタは」
読んで下さって、ありがとうございます。




