3-55 精霊祭 六日目〈Ⅸ〉
「「「陛下万歳っ!!」」」
「おうおう。分かったから配置に戻れ。ここが最終防衛線だ。全員踏ん張れ!!」
アマツマラ城壁上。一万五千のモンスターと対峙する戦士たちは二人の英雄の帰還に沸いた。その中をミカロスは掻き分け、テオドールの方へと駆け寄った。
「陛下!」
「おう、ミカロス。随分と待たせちまったな」
「いえ、それは戦略上、致し方ありません……それよりも撤退はしないおつもりですか!?」
ミカロスは口早にこちらの戦力が減少している事、せめて防壁を展開して戦線の再構築を具申した。しかしテオドールは首を横に振って意見を却下した。
「なぜですか! 陛下!」
「それはだな―――」
「―――グリュウウウウウガアアアアアア!!」
説明しようとするテオドールを遮るようにアマツマラ全域に狂おしいまでの絶叫が響き渡った。誰もが一度は耳にし、脳髄まで染み込んだ恐怖が蘇える。
全員の視線が発生元、扇形の街の頂点を仰ぐ。テオドールたちも近場の兵士から借りた双眼鏡を覗きこんだ。
そこにあるはずの城の先端は崩れ落ち、赤い物体が鎮座していた。宵闇でも煌々と燃えるかのような鱗を持ち、口元から涎のように吐き出される火の粉。この距離からでも分かる圧倒的なプレッシャーは前回と比較しても遜色は無い。それどころか増してさえいた。
「ゴアアアアアア!!」
己の存在を誇示するように赤龍は吼える。城壁上の戦士たちの士気を削ぐかのように。遠目からでも禍々しき角は天を突く様に伸びている。そんな中で一カ所だけ、変化した点がある。全身赤一色だった鱗にくっきりと黒い縞のような物が走っているのだ。唯一、赤龍と対峙したことのあるテオドールには見覚えがあった。
「なるほど。そっちが来やがったか……それも本気のようだな」
誰もが絶望に囚われそうになる中、ミカロスの耳はやけに冷静なテオドールの声を拾った。振り返れば双眼鏡を外し、オルドと並んで睨むテオドールたちに動揺も恐れも無かった。目の前の残酷な現状をそのまま受け入れている。
「ミカロス。見ての通り、俺たちは後方を敵に取られた。これで戦線を後退して防壁を展開するって作戦は白紙に戻すぞ。このまま後ろに下がれば挟み撃ちされちまうからな」
「へ、陛下! それは……まさか、こうなる事を予期しておいででしたか?」
平然と構えるテオドールの姿にミカロスはありえないと思ってしまう。しかし、テオドールはあっさりと頷いて肯定してみせる。
「まさか赤龍が来るとは思っていなかったが、後背を突こうとするのは予想できた。何せクリストフォロスの影は自由自在。それこそ街のど真ん中にモンスターを投入することもありうると危惧していたからな」
テオドールの懸念はミカロスにとって想像すらできなかった事象だった。だが、言われてみればその可能性もありうる。もしかすると、街の中腹に防壁を作ろうとした本当の目的は後方にモンスターを出現された場合に備えた防波堤だったのかとさえ思えてきた。
このスタンピードにおいてクリストフォロスの打ち出す奇手のことごとくをミカロスは予測すらできないでいたが、目の前の王はある程度まで予測していた。ルルスが冗談交じりで言った王と思考が似ているというのはあながち間違っていなかった。
「それでは……この先はどうすればいいのでしょうか。赤龍を放置しておくわけにはいきませんし、ここも残った戦力で守り切るのは……」
「むう。クリストフォロスが送り込んだのが赤龍だけとは限らんが……どっちにしろ、あれが空を飛び始めたら俺しか相手できない以上、俺が行こう」
「でしたら陛下。下の方は俺が行きましょう」
オルドが一万を超えるモンスターの群れを前にして、こともなげに言った。気負いのない姿に力んでいる様子は無い。だが、逆にそれが恐ろしかった。普通にしているだけなのにミカロスを圧倒する覇気が男の体から放たれていた。ゲオルギウスの血による強制レベルアップは確かに成功していた。
「随分と強気だが、ちゃんと使いこなせるのか。急激なレベルアップに合わせて能力値も上がっているだろ」
テオドールの指摘にオルドは獰猛な笑みを浮かべて自分の胸筋を力強く叩いて見せた。
「御冗談を。この体との付き合いは昨日今日ではありやせん。指先一つ。毛一つだって俺のもんです」
「……いや、お前、禿げだろ。つるつるだろ」
「例え話ですよ! それにこれは剃っているだけだ!!」
この不利な状況で軽口を言い合う二人を目にしてミカロスは胸の内に勝機を抱いている。彼だけでは無い。この場に居る全ての者が二人の英雄を勝利の証のように眩しそう見つめていた。
―――だから全員が二人の傍に出現した闇よりも暗い不吉な影に気づいた。希望を刈り取る絶望を。
「……陛下! オルド殿!!」
あっという間の出来事だった。突如空中を縦に引き裂くように現れた影から伸びた鎖が、二人の体を絡めとる。そして瞬時に二人を影に引きずり込んだのだ。ミカロスが止める間もなく城壁上から二人の姿は消えた。
クリストフォロスの影による転移だと気づいたのは全てが終わってからだ。まさに希望という華を手折るかのような行為だった。消失してしまった二人の行方を追おうとしてミカロスたちが周囲を見回していると、轟音が城壁の外から響いてきた。
振り返るとモンスターたちが集まっている地上から数メーチル程度上空に皹が入っていた。まるで黒い糸くずのようなひび割れは二度三度と轟音が続くと広がっていき、遂に耐えきれなくなって割れた。夜の暗闇の中でも三人の人影がもつれる様に落ちて行ったのが見えた。
モンスターの群れの中に落ちたのはテオドールとオルド、そして黒髪に黒檀の鎧を着込んだ男、クリストフォロスだった。
三人は着地するなり、互いに距離を取った。各々武器を手にし、殺気を放つ。互いの放つ殺気がぶつかり合い、彼らの間の空間が歪むほどだ。常人が踏み込めばショック死しかねない圧力がせめぎ合う。
「まったく! 信じられない事をするな、そっちの人間は。まさか転移中の空間を物理で割るとは」
「随分と脆い空間だったな」
オルドがクリストフォロスに向かって得意げに大斧を見せた。大斧は月明かりを受けて鈍色の光を放つ。
彼らは城壁から八十メーチル程度離れた場所に降り立っていた。モンスターの群れのど真ん中だ。オルドとテオドールの二人の行く手を阻む様にクリストフォロスが立ちふさがる。下半身を吹き飛ばされたはずなのに、放たれる圧力は過日の戦いから衰えた所は無かった。
その中で先に動いたのはクリストフォロスだった。手にした悪趣味な杖を振りかざしてテオドールへと躍りかかった。テオドールは動くことなく青白い光を放つ魔刀で迎え撃つ。幾度の剣戟が交わされ、杖と刀が鍔迫り合う。
「その武器……随分と懐かしい匂いがするな!」
クリストフォロスは刀を金色の瞳で見つめていた。鳴動する青白い刀を見て楽しそうに嗤う。
「この気配は……はっはっはっ! ゲオルの気配か! なんだ、アイツ、まだ生きていたのか! いや、それとも死体でも見つけたのかな?」
問いかけに無視するテオドールが刀で相手を押し返し、僅かに開いた隙間を斬るように刀を振り下ろした。クリストフォロスは振り下ろしの一撃を、ステップを刻む事で後方に下がり、指を鳴らした。
「《鎖よ、起これ》!」
クリストフォロスの技能によって何もない所から鎖が三本姿を現すと、意志を持ったかのように城壁へと向かうオルドに向かって伸ばされた。オルドは迎撃するために足を止めざるを得なかった。
「すまないが、貴様らはまだ赤龍と戦ってもらう訳にはいかないのだよ」
「まさか、貴様自らが足止めをするとはな。舞台袖で黒幕ごっこをするのにも飽きたのか?」
「そんな所だと思ってもらっても構わないよ。だから申し訳ないが、私の相手をしていてくれよ。無論、私が飽きるまでね」
表情を険悪にするオルドとテオドールに対してクリストフォロスは余裕を崩さない。前に戦った時、テオドールに下半身を吹き飛ばされたというのに。その不気味さに二人は足を止めざるを得なかった。城壁まで距離にして僅か八十メーチル程度。しかし、二人にとっては途方もない距離に思えた。
その時、オルドが違和感に気づいた。彼の視線は左右を隈なく見て、違和感に気づいた。
「おかしい。……赤龍が居るのに、モンスターの動きに乱れが無い」
テオドールもオルドの言葉で違和感に気づく。モンスターたちは三人に対して意識を向けずに城壁を落とそうと戦いを繰り広げている。前に赤龍が襲来した時、上級以上のモンスターは案山子のように立ち止まっていたはずだ。中級モンスターも制御を外れた様に夕暮れを越えても戦いを続けていた。
テオドールたちは過去の資料などから、この現象が起きた理由は赤龍を戦闘中も支配下に置き続けるために他のモンスターを放置しなければならないのだと推測していた。
なのに、モンスターたちは赤龍襲来前と変わらずに戦いを続けていた。テオドールはその光景から一つの答えを導きだした。
「クリストフォロス。貴様、何処かに角を設置したな」
角とはかつてクリストフォロスが人間と魔人種の戦争の時に利用した増幅器のような物だ。これを使う事でモンスターを支配下に置いているのは資料を調べた結果明らかになっていた。テオドールの指摘にクリストフォロスは意外そうな顔を浮かべた。
「ほう、意外と見てくれに似合わず知識を持っている様だな。正解だ。この地から一番近く、なおかつ魔力の豊富な場所に角を植えつけた。これによって赤龍だけでなく全てのモンスターを支配下に置いたのだよ」
「この地から一番近い……まさか、てめぇ!」
オルドはクリストフォロスの持って回した言い方に不吉な悪寒を感じた。そして、なぜか娘の顔が浮かんだ。
「迷宮に。アマツマラの迷宮に何をしやがった!?」
クリストフォロスは何も言わずにただ笑みを深くした。
「現状の確認をするよ」
アマツマラの迷宮、入り口。セーフティーゾーンに集まった者たちは総勢六十名ほど。多くは階下からのモンスターの進軍によって広間を放棄した冒険者や鍛冶師、鉱夫に予備兵役たちだ。それと近場の各広間のリーダーが集まった。他の者は今も進軍してくるモンスターの足止めの為に広間に残って罠や防衛の下準備を行っている。その中でファルナが指揮を執る事になったのはレベルとランク。何より所属しているクランのネームバリューが大きかった。
彼らは車座に集まって大き目の羊皮紙に描かれた変成後の迷宮の構造に目を落とす。彼らの居るセーフティーゾーンは正方形の形から六角形の形に変化した。そのうちの五辺からそれぞれの方向に広間が連なって伸びている。そして、中央の通路の内、奥の三つは赤くバッテンが描かれている。
「今の第一階層を上から見れば、こんな形になっている。そしてこの中央の連なった広間の先に下の階層へつながる階段があって、そこからモンスターたちが大挙して押し寄せている。……つまりアマツマラの迷宮もスタンピードが発生しているわけだ」
ファルナの言葉に集まった一同は改めて顔色を青ざめた。自然と地上への出入り口から反対にある通路へと視線を向ける。その先に中級や上級。はては超級モンスターが地の底から這い上がって来る光景を思い浮かべてしまう。
「そして、こっちの地上への出入り口には……コイツが居る」
彼女の細い指が赤い石を地図の上に置いた。これが何を指しているのか、誰もが理解しているが言葉に出せなかった。出せばその存在と否が応でも向き合う必要があるからだ。その中でレイが口を開いた。
「赤龍が居るんだね」
この中で唯一、古代種の赤龍を知っていたシアラによって全員が自分たちの行く手を阻む怪物の名を知っていた。もっとも聞いてから余計に顔色を悪くした者も居る。
「ああ、そういう事さ。後ろからはスタンピード。前には赤龍。まったく随分とゴキゲンな状況だよ、クソったれ!」
語気を強めたファルナが拳を迷宮の床に叩きつける。絶望的な状況に誰もが押し黙ってしまう。地上に向かって偵察と救援を呼びに行った者達の唯一の生き残りが証言するには、出入り口傍の城の先端に赤い龍が待ち構えるように鎮座していた。それに気づかずに城壁に沿って走っていたら、上からブレスが降って来た。目の前に居た仲間はあっという間に飲み込まれて、運よく最後部に居た自分だけは龍のブレスから免れた、と。
事実を裏付けるように赤龍が時折雄叫びを上げ、吐き出されたブレスの衝撃や、熱気が地下に流れ込む。アマツマラの迷宮の入り口は岩肌をくり抜いたような洞窟の奥まったところに下に下る階段がある。構造上、ブレスがここに直接来ることだけは無さそうだ。
「……いま、この中央の広間にモンスターが簡単に突破できない様に足止めを作ってもらっている。だけど、稼げる時間は三十分か四十分程度だろうね。それまでにアタシたちがどうすればいいか、考えがある奴はいるかい?」
ファルナが問いかけると集まった人々は隣にいる者の目を見て無言の会話を交わす。そのうちの一人がおずおずと手を挙げた。全員の視線が向かう中で気弱そうなメーリアが意見を述べた。
「えっと、無理に地上に行かずに、ここで待っているのは駄目なんでしょうか
?」
「駄目じゃないが……あまり良い手では無いぜ。何しろこの迷宮で起きてる異変を知らせる手段が無い」
隣に座るギャラクがメーリアの意見を否定する。
「本来、迷宮入口まで伸びている伝声管も変成の影響か戦闘の影響かどことも繋がっていない。ここがこうなっているのを地上の奴らは誰も知らない。いくら待っても救援なんか来ないぜ」
その言葉を皮切りに車座に座る人々の中かから意見が噴出する。
「やっぱり外に出て救援を呼ばないと」「でもよ。龍がいる内は脱出もままならないぞ」「だからといってここに籠っていても、じきにモンスターがあそこから押し寄せてくるだけだろ」「それも俺達なんかが相手できないような高レベルのモンスターばかり」「でも、スタンピードの群れなら一目散に地上へ向かうはずだ? だったら残りの四本の通路に立てこもっていれば大丈夫なんじゃ」「そいつは甘い。今回のスタンピードは例外だらけだ。ここのも、通常のスタンピードという保証はねえ」「そうよ。それに、そんなモンスターを地上に出したら目も当てられない被害になるわ」
喧々諤々。会議は踊る。
出る意見はどれも状況を逆転できる可能性は低かった。ファルナは内心落胆してしまうがそれも仕方がない。迷宮に送り込まれた冒険者たちは全員D級以下の冒険者。こんな過酷な状況に対応できる経験値は無い。それ以外は予備兵役や鍛冶師、鉱夫などの戦闘を生業としていない。この状況で活路を見いだせるものは居なかった。
その中でファルナの氷のような瞳は一人の男を見ていた。黒髪のなよっとした顔つきの少年。レイだ。突然自分たちの広間に飛び込んできたと思ったらモンスターの襲撃を言い当て、更に超級モンスターを相手にたった一人で足止めをした少年。なぜモンスターが来ることを知っていた。どうして自分の広間と下に繋がる階段が繋がった事を知っていた。聞きたいことは幾らでもあったが、今はその時では無いと自分に言い聞かせていた。それでも視線だけは少年に釘つげだった。
当の本人はファルナに見つめられているのに気付かず、忙しなくあちらこちらに視線を送る。運び込まれた物資が広間に積まれ、変成前からあった鉱山のなごりが隙間を埋めていた。彼はひとしきり周囲を見渡すと、議論を続ける人々に向かって拳を振り下ろした。どん、と無造作に振るわれた拳によって論争は止まり、天井から落ちる雫の音が聞こえるほど静かになった。
「……まず、やらなくちゃいけないことが三つあると思います」
「具体的には何だ、レイ」
ファルナは他の誰かが口を挟む前にレイの名前を口にした。無名の冒険者がこのような事をやっても周りの反感を買うだけだから、彼女が場を取り成す意味で先を促した。集まった者達が声を潜めてレイの事を尋ね合う。
「一つ目は救援要請。誰かが城壁上で戦っている人たちに援軍を呼びに行く。二つ目に、ここの防衛。下の階層から上がって来る敵はもちろん、スタンピードが行われている最中でも、もしかしたら他の広間でモンスターが湧くかもしれません。ですから、増援が来るまでの間、避難民を守る必要があります」
そこまでは特に意見は出なかった。むしろ、目的が明確になっていくため、誰もが黙ってレイの言葉に耳を傾けた。
しかし、次の一言で怒号と動揺が広がる。
「三つ目が……赤龍をあの場から動かす事です。アイツが居る限り、迷宮に増援を迎える事も避難民を連れて脱出なんてできません」
ファルナの耳は最初、痛いほどの静寂を捉え、次いで爆音じみた人々の声を聴いた。誰もが口々にレイを非難した。あまりに無謀だ、と。死に行くようなものだ、と。その言葉の嵐をレイは黙って前を見据えて聞いていた。
そして、人々が言い疲れた時を見計らって口を開く。
「だったら、この穴倉で、死ぬ時を迎えるまでじっと待つのですか? そんなの僕は御免です。……この戦いは誰かの悪意で引き起こされたって聞いています」
D級以下の冒険者たちは混乱を避ける情報規制の為、真実を知らないでいた。しかし、人の口には戸が立てられない。噂話程度だったが確かに今回のスタンピードが人為的に引き起こされたというのは周知の事実だった。
「どこかで、ほくそ笑んでいる黒幕気取りのクソったれのせいで多くの人が死に、ここに居る一万の避難民たちも死ぬかもしれない。……僕は彼らが、自分が、何もできずに死ぬなんて絶対に嫌です」
少年の言葉は真剣だった。この場に居る誰もが思っていた事だ。理不尽な出来事に友を、仲間を、家族を奪われ、今や自分の命すら奪われようとしている。そんな横暴がまかり通ってしまってもいいのか。少年は彼らにそう突きつけていた。
「でもよ……俺達なんかに出来る事があるのかよ。ここに居る奴らは全員、龍のブレスをくらったら即死だぞ!」
車座の中の一人、ホラスが声を大にして言う。同意するように数人が頷いた。しかし、レイはホラスの顔を真っ直ぐ見て口を開いた。
「それでも、それでも黙って死を待つなんて僕にはできない。人間は理不尽に屈するために生きてるんじゃない!」
「―――……ああ、そうだね。まったく、アンタって奴は。本当に」
ファルナは言葉にできない思いを抱いていた。少年と出会って一ヶ月も経っていない。日を追うごとに心身ともに成長する少年に自分の父親を重ねていた。困難を前にして家族を奮い立たせ、理不尽からその身を持って皆を守ろうとする『岩壁』と。
「アタシは乗ったよ。あの龍をあそこから引きずり下ろして、黒幕気取りの鼻を明かしてやるよ! 皆はどうだい? 折角の祭りだ。死ぬにしてもこんな穴倉で死ぬよりも、伝説の怪物に挑む方がよっぽどカッコイイと思わないか!!」
すると、ファルナの言葉に続くように車座に集まった者達から賛同の意を示す者が現れた。一人、また一人と立ち上がると熱が広がっていく。気が付くと全員が口々に己を鼓舞する。まるで、精霊祭初日のオルドの檄で戦う決心をした冒険者たちの光景とそっくりだった。
「それで、レイ。アンタの事だ。策も無しにこんなことを言い出したんじゃないんだろ?」
「うん。とりあえず、思いついたことがある。これを全員で検証したい」
レイはそう、前置きをすると、脇に置いてあったアマツマラ全域の縮小地図を広げ、作戦を説明する。それは驚きを持って迎え入れられた。反対意見が特にリザから噴き出したが、レイは断固として譲らなかった。
ファルナも反対したかったが、これ以上の奇策は思いつかなかった。口を噤んでいる間に、鍛冶師であるマエリスや魔術師のムスタス、アマツマラ在住のメーリアからレイの奇策を補強するようなアイディアが飛び出してくる。瞬く間に、まるで集まった者達の熱意を糧にしたかのように奇策は形を成していき、わずか数分の間に作戦は決まった。ファルナは運び込まれた時計を見て覚悟を決めた。
「……これ以外の作戦は無いようだね。……これより、アタシらは三つの目的の為に動く! 各自、自分の役割を確認し、速やかに準備を始めな。十五分後。午前零時になったら作戦を開始する。……こんな穴倉で死ぬんじゃないよ、アンタら!!」
「「「応っ!!」」」
覚悟は決まった。あとは突き進むだけだった。
読んで下さって、ありがとうございます。
次回の更新は12月14日を予定しております。




