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試行錯誤の異世界旅行記  作者: 取方右半
第3章 精霊祭
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3-56 精霊祭 七日目〈Ⅰ〉

 午前零時数分前。必要な装備と道具を揃えた僕らは迷宮の出口、つまり地上に至る唯一の階段前に集まっていた。セーフティーゾーンではモンスターを迎え撃つ最後の砦が着々と行われている。あと二十分前後で十の広間を越えたスタンピードの群れがここに辿りつく。それを防ぐために他の広間の冒険者や王宮魔術師、鍛冶師、鉱夫、戦奴隷たちも集まり、ここで決戦を迎えようとしていた。


「さあ、荷物を持って上に行こうか」


 階段を上るメンバーはファルナを先頭に冒険者から僕、リザ、レティ、ホラス、マクベ、メーリア、ギャラク、他D級の冒険者八名。最後の仕上げの為に鍛冶師からニコラスとマエリス。王宮魔術師からムスタスだ。そしてシアラだ。彼らは僕の提案した奇策の為に名乗りを上げてくれた人たちだ。総勢二十名の決死隊が階段を駆け上がる。


 誰もが鼻をつく匂いと熱気に顔をしかめた。熱気は分かる。龍のブレスによって街がもえているのだろう。しかし、この鼻をつく匂いに心当たりがある者は少なかった。


 その中で、僕は心当たりのある方だった。この匂いは一度嗅いだことのある匂いだ。


 階段を駆け上がり、地上部分へと戻ってきた僕らを待ち受けていたのは―――龍のブレスで燃え盛る街並みと、黒焦げのナニカだった。


 バルボア山脈をくり抜いた横穴。迷宮の入り口から十数メートル先に赤龍のブレスを浴び、原型を留めない程燃えた死体が横たわる。生臭い突風が吹くたびに人だった残骸が風に削られ、朽ちていく。誰かのくぐもった悲鳴が聞こえた。


 だけど、引き返そうと言い出す者は居なかった。誰もがその言葉を心の奥底にしまい込んだ。


 一歩踏み出そうとするファルナを僕は引き留めた。


「何だよ、レイ! 今更止めようなんて―――」


「―――言うつもりは無いよ。見て、あの死体。この天井の切れ目より少し先にある」


 僕が天井を示すと全員の視線が上に集まった。山脈の山肌をくり抜いた為、迷宮に潜る階段の周りは一種の洞窟のようになっている。そのため、僕らの上に傘のような洞窟の天井が掛かっている。龍のブレスに焼かれて死んだ人たちの死体はその傘の外にあった。


「ここにはブレスが届かない。今のうちにここで最後の準備と確認を始めよう」


「……ああ、そうだね。……全員、傾注!」


 びしり、とファルナの掛け声に反応して全員の意識がファルナに集まった。


「作戦の手順は全員頭に入ってるね。まず、一番手は……レイ。アンタだよ」


「分かってるよ。精一杯、時間を稼ぐ。なーに、さっきも出来たから今度も自信はあるよ」


 場の空気が重くならないように軽い調子で言ってみたが生真面目なファルナとリザにはお気に召さなかったようだ。リザはともかくファルナも意外と根は真面目な子だった。


 ファルナはため息を吐いて次の面子に視線を向けた。


「頃合いを見計らったら、次はリザ。そしてギャラクが率いる遠距離部隊の出番だよ」


 名前を呼ばれたリザ。そしてギャラクさんたちが頷いた。遠距離部隊は読んで字の如く遠距離で戦える人達の部隊だ。生粋の弓使いや魔法使いだけでなく、新式魔法の使える冒険者もこちらに加わっている。


「リザ。街の地図は頭に叩き込んだかい?」


「ええ。メーリア様から裏路地に至るまで全て教えてもらいました。今なら目を瞑ってでも行けます。ありがとうございます、メーリア様」


「そ、そんな。お礼を言われるような事じゃありません。……それに、この戦いの間で通行止めになっている所もあるかもしれません。だから、気をつけてください」


 リザがメーリアさんに向かって力強く頷いた。そんな姉の姿をレティは心配そうに見つめていた。


 そしてファルナの視線は地面に魔方陣を刻んでいるムスタスに向けた。


「そっちは大丈夫かい?」


「愚問ですね。この程度の魔方陣、刻むのなんて簡単ですよ。問題は変換にかかる時間ですけど……本当に五分で良いんですね、シアラさん。時間は短い方が相当きついですよ」


「構わないわ。あまり、うちの主様に無茶はさせられないもの」


 不敵に笑うシアラに僕は頼もしさを感じていた。ムスタスは躊躇いながらも、魔方陣を完成させようとする。


 この二人の……いや、シアラの出番は最後だ。問題は一人、青ざめた顔のままのマクベにファルナは視線を向けた。彼女が「マクベ」、と何度か呼んでも少年は気づかない様子だ。隣に立つホラスが肩を小突いてようやく呼ばれたことに気づいた。


「な、何ですか、姐さん」


「……マクベ。やっぱりアンタ、降り―――」


「―――降りません!!」


 降りろ、と続けようとしたファルナの声を遮ってマクベは震えた声で告げる。


「オレが、オレが拾ってもらったのはこの日の為だと思えたんです。俺だけがおあつらえ向きの技能スキルを持ってんです! だから、オレ、やります! 俺だって『紅蓮の旅団』のメンバーッス!!」


「でも、お前。手が」


 ファルナが指摘するとマクベの右手が固く握られたまま震えている。少年は解そうと空いた左手で指を引っ張るが動かない。やはり、彼には荷が重かったか。僕がそう言おうとした時、ホラスが少年の背中を力強く叩いた、


「―――っう! ……ホラスさん?」


「姐さん。こいつは大丈夫です。……オレが必ず守りますから」


 静かな、だけど確固たる信念が籠った言葉だった。思わずファルナが目を見開いて瞬きを繰り返す。頼もしそうに兄貴分を見上げるマクベの右手はいつの間にか解けていた。


 次にファルナが急ピッチで秘密兵器・・・・を仕上げに掛かっている鍛冶師二人を訪ねている間に僕はホラスに視線を向ける。すると、ホラスの鋭い瞳とぶつかった。


「何だよ、F級」


「……別に。ただ、少し変わったなって思っただけだよ」


「けっ。何分かったようなこと言ってんだよ」


 若干、険悪な雰囲気になる僕らの間に挟まれたマクベが泡をくった表情を浮かべてしまう。しかし、ホラスは弟分に気を使わずに言葉を継いだ。


「今だってな。恐怖で体が固まりそうになるんだよ。……でもな、胸の奥が疼くんだよ。お前の言った理不尽、って奴に負けたくねえって吼えるんだ」


 ホラスは自分の胸に拳を当てる。


「くっそ。何、こっぱずかしい事、口走ってんだ、俺は」


 気恥ずかしそうに呟くとホラスはそのままそっぽを向いた。表情は伺えなかったがランタンの淡い光でも耳が真っ赤になっているのが分かった。


「死ぬなよ、ホラス」


「……そっちもな……レイ・・


 僕らは顔を見合わせないまま、互いの無事を交わした。マクベはほっとしたような表情を浮かべて、僕から荷物を預かると頭を下げて準備に取り掛かった。


 そして、僕はこちらをじっと見つめる六つの瞳と向き合う事にした。入り口の片隅でリザ、レティ、シアラが集まっている。周囲の人たちは最後の打ち合わせと準備をしており、僕らに注意を向けていなかった。


「ご主人様。本当にこのような作戦を決行なさるおつもりですか?」


 リザが意を決したように言う。


「いくらなんでも、これは命を無駄に捨てる行為です! まだ、超級モンスターの群れと戦う事の方が生き残れます!」


「……リザ。何度も説明しただろ。赤龍を野放しにすれば増援は来られない。増援無しだと迷宮は確実に血の海になる。それだけじゃない、街にだって被害が出てしまう」


「でも、ご主人さまが最初の役目をやる必要は無いよ。ご主人さまが死んだらあたしたちも死んじゃうんだよ」


 今度はレティが服の裾を引っ張る。今の僕は作戦の為、身軽になるべきと判断して鎧を外している。


「僕よりレベルが高い人は居なかったから、仕方ないだろ」


 これは事実ではあるが、本心では無い。マエリスさんが持つ受動的パッシブ技能スキルによって僕のレベルを確認してもらった。セーフティーゾーンに集まった者達で一番レベルが高かったのは僕だった。


 本音は一番死亡率の高い最初の役目を誰にも譲りたくは無かったのだ。こんな命がけの奇策に皆を巻き込んだ責任が僕にはあった。


 だから志願した。それが一番、成功率が高いと判断した。だけど、レティは納得できない様に駄々をこねた。


 そんな彼女たちを優しく引き剥がしたのはシアラだった。リザとレティの手を取るシアラは優しく告げた。


「いつの時代も、男は自分勝手で向う見ずで無鉄砲な馬鹿なのよ。……でもね、そんな男の我儘を許してあげるのも女の器量よ」


 年不相応な……いや、実年齢だと年相応なのか? 妖艶な女性の雰囲気を醸し出して二人を窘めたシアラが僕の方を睨む。


「そして、男の役目は待っている女の涙を拭うことよ。……だから、絶対生きて帰って来なさいよ」


「……了解」


 その時、ファルナが時計に目を落として言った。


「時間だよ」


 ―――午前零時。自分の中で、かちり、と音が聞こえた気がした。《トライ&エラー》によるセーブポイントが発生した合図なのか、もしくは、戦いが始まる合図だったかもしれない。


 ファルナが振り向いた。顔は引き締まり、覚悟を決めた戦士の顔になっていた。集まった僕らを見据えて彼女は口を開いた。


「ここから先は地獄の入り口かもしれない。全員、覚悟は出来てるね。……ただし、死ぬ覚悟なら捨てちまいな。誰も死なない事がこの不条理に対する唯一の勝利だと思っているよ。だから、生き残る覚悟を胸に抱きな!」


 集まった十九人は無言を貫いた。だけど、ランタンに照らされた全員の顔にはファルナと同種の覚悟が浮かんでいた。ファルナは何も言わずに黙って頷いた。もう、言葉は要らない。ここから先は全員が自分の持つ力を全部出し尽くさなければ突破できない戦場。


 精霊祭、七日目午前零時。D級以下の冒険者主体による作戦が決行される。







 城の先端を踏みつぶしていた赤龍は自重によってさらに深く沈む。四肢を使い、これ以上の沈下を防ぎつつ、街に向けてブレスを吐き出す。


 赤龍の自我は完全に体のコントロールを奪われていた。抗う事もできず、植えつけられたクリストフォロスの分身に乗っ取られていた。テオドールとの戦いのように意識が表層に現れるのは独力では不可能なほど深い所に沈められている。


 赤龍にできたのは視界を盗み見るぐらいしかない。人が紡いで来た営みを無残に壊す己が肉体を黙って見ていた。


 クリストフォロスの意識の分身は命令を愚直に守っていた。命じられた内容は単純だった。この場を動かず、手当たり次第にブレスを放て。たったそれだけだった。


 だから、分身は街並みを破壊するブレスを放つ。結果、街の至る所で火災が起き、建物は崩れていく。無事な場所はどんどん少なくなっていく。


 一方で避難民の収容されている施設には耐火結界が施されており、火を弾いている。街のいくつかの場所でぽっかりと火に飲まれない空白地帯があった。


 それと皮肉な事に、城の周囲は。さほど被害は少なかった。角度の問題で、足元にブレスを吐くのはバランスを崩す恐れがあった。それでは本体からの命令を守れないと判断し、一発を除いて放っていなかった。着地の際の城の瓦礫が城壁を砕いている程度の被害しかなかった。


 その左隅で何かが動いた。


 赤龍は首を動かしてそちらの方を向いた。分身は左手の山肌をくり抜いた先にアマツマラの迷宮が存在したことは知っていた。先程も、そこから飛び出してきた人間にブレスを放ったことも覚えていた。ゆえに同じようにしようと口を開く。


 溢れた火の粉が風に舞った時―――赤龍の目を灼く閃光が巻き起こった。


 赤龍の網膜は夜の闇を押しつぶす白い光で視界が潰された。しかし、赤龍の回復力は瞬時に傷ついた網膜を修復した。元通りになった視界で深く沈む赤龍の意識は一つの存在に気づいた。


 瓦礫の積み上がる通りを走る少年の姿を。驚いたことに何一つ武器も、防具も、道具も持たない弱そうな少年を。


 少年は城門まで来ると、城にて鎮座する赤龍を見上げ、足を止めた。黒色の髪が風になびいて揺れたのを赤龍の意識は興味深そうに見つめていた。








 城の先端から見下ろす赤龍の姿は、前に見ていたのと確かに違っていた。


 シアラの言葉通り、鱗に黒い縞がはしり、威圧感を増していた。満天の星空を背にした赤龍の姿はいっそ神々しくさえあった。


 すると、龍の口元から火の粉が舞ったと思った次の瞬間、人を飲み込むようなブレスが落ちてきた。


 両足に力を込めて、横に向かって飛んだ。僕の居た場所にブレスが落ち、爆風が吹き溢れる。僕の体は押されるように二転三転とした。


 みっともない形だったが、一発目は避けられた。躱す事ならできると手ごたえを感じた時。


 ―――世界が速度を失う。


 ぎくり、と。


 頭の芯から貫く悪寒に従い空を見上げると、岩のようなブレスがゆっくりと降ってきていた。それも一つでは無く、二つ三つと続けざまに。スローモーションの世界で避けようとした僕だったが、世界が速度を取り戻すと同時に、飲み込まれてしまった。



 ★



 気が付けば煉獄の中に居た。


 一面に広がる炎がまるで手の様に伸びてくる。全身の皮膚を引きちぎり、筋肉を直接焼く。口を開けば酸素の代わりに炎が飛び込み、肺を突き破って体の内側を燃やす。すでに体で燃えていない箇所はどこにもなく、眼球は蒸発と再生を繰り返し灰になるまでの工程を見届けさせようとする。


 もっとも、灰になった所で終わりなんか来ない。巻き戻しのように瞬時に肉体は再生し、煉獄で焼かれて灰になるまでを何度も味合わせる。赤龍のブレスによって一瞬で死ねた分を取り戻そうとするかのように念入りに痛みを加え続ける。煉獄の炎は鎮まる事は無い。


 何処までも続く痛みによって意識の境界線が曖昧になっていく。それこそ、思考すら燃やそうとしている。


 しかし、僕は煉獄の中で意識だけは切らさないように堪える。


 もう一度、赤龍と対峙する為に心だけは負けないように、しがみ付いた。



 ★



「時間だよ」


 ファルナの声を聴いて、意識が唐突に解放された。薄皮一枚下を高熱の蛇が這いずり回るようなイタミを堪えながら、意識を保つ。


 赤い龍のブレスを浴びて死んだ僕は《トライ&エラー》によって戻って来られた。代償にイタミを抱えて。


 それも特大のイタミだった。正直、立っているのも奇跡のようなイタミが全身を、魂を削り取る。いままでの死に戻りの中でゲオルギウスに殺されたイタミに次いで二位といえる。前回、赤龍に殺された時のイタミよりも厳しい。これは本気の状態だという証なのだろうか?


 でも耐えられないイタミでは無い。ゲオルギウスの時のように数回で精神が消滅してしまうほどでは無い。


 当時の僕はレベル21。たいしてゲオルギウスは心臓を二つ潰されたとはいえ推定レベル六百オーバーの怪物。あれに三度殺されれば、魂ごと消滅していたかもしれない。


 けど、今の僕はあの時と違い、イタミに慣れ、レベルも多少なりと上がっている。なにより、今の僕は一人じゃない。僕のただならぬ様子に気づいて視線を向けた三人が居る。リザ、レティ、シアラ。戦奴隷として契約を交わしたから、僕が死ねば彼女らも死ぬ。今までは《トライ&エラー》による死に戻りで僕の死は無かったことになっている。でも、僕が戻れなかったら、その時は彼女たちが死んでしまう。


 僕の命は僕のだけでは無い。彼女たちの命でもある。だから、絶対に生き残る。その意思が死に戻りのイタミを耐える勇気を僕にくれた。


「ご主人様、もしかして……」


 ファルナの檄が飛ぶ中、リザが僕のただならぬ様子を見て、何かに気づいたような顔を浮かべている。僕は脂汗の浮かぶ口元を、無理やり引っ張り笑みを浮かべてみせる。


「大丈夫。まだ、持つよ」


「やはり、貴方は時を!? まさか、成功するまでやり―――」


 彼女は最後まで言えなかった。僕が彼女の口を手で押さえつけたからだ。


「ああ、やっぱり気づいていたか。……気づいたから、僕のやろうとしていることは、僕のやっていることは分かるだろ?」


 口元を押さえつけられているリザは口に出さなくとも目で返答する。晴れた青空を思わせる瞳は若干の怒りを帯びている。それも仕方ない。僕も立場が逆なら殴ってでも止めようとする。


 だけど、僕にはこれしかない。彼女たちを、皆を助けるためにこれしか思いつかなかった。だからやり切るしかない。賽は投げられた。戻すことはできない。


 僕はリザの口元を押さえた手を放し、引き留めようと伸ばされた手をするりと躱して、走り出す。


「ファルナ! 頃合いを見計らって作戦を次の段階に進ませてくれよ!」


 迷宮入口から外の様子を伺うファルナに声を掛けて、くり抜かれた洞窟から満天の星空の元に飛び出した。


 途端に、巨大な生き物からのプレッシャーを肌に感じた。すかさずマクベ特性の閃光玉を足元に向かって投げる。小さな魔石を削り、コードを刻んだ簡易閃光玉は冒険者なら誰もが簡単に作れる、一種の魔法工学の品物らしい。直視すれば超級モンスターも怯ませると豪語したマクベを信じた。


 破裂する瞬間、眼を瞑って自分は回避する。破裂音の直後、瞼越しにも強い閃光が見えた気がした。同時に龍からの視線も切れたかのように圧力を感じない。僕は視界を開いた。


 アマツマラの城。権威の象徴と最後の砦を兼ね備えた城壁は緩やかなカーブを描く。龍のブレスが直撃した迷宮出入口付近はタイルが砕け、残火がくすぶっている。ブレスの余波と赤龍の着地の衝撃からか、城壁の至る所が崩れ、瓦礫が散乱している。その隙間を縫うように走る。ちらりと見上げれば城の先端から街を見下ろすように赤い龍が鎮座している。


 遠目からでも分かる圧倒的な威圧感。生物としての格が違うといわんばかりの態度で君臨していた。


 全く、正気とは思えない事を思いついたと、自分に呆れかえってしまう。


 城壁の切れ間。ひしゃげた城門を前にして僕は足を止めた。ここはアマツマラの城壁の正門から大通りを真っ直ぐに進み、途中にあるギルドを迂回して、更に真っ直ぐに進み、工房街を進んだ場所。ちらりと振り返れば夜とは思えない程空は赤く染まり、街は燃えていた。幾つか存在する空白地帯は結界による延焼防止が取られている建造物だろう。


 赤龍はすでに視力を取り戻しているのか黄色の瞳を僕に照準を合わせる。もしかすると、この物理的な圧力は赤龍の持つ技能スキルなのかもしれない。体に重たい鎧を押し付けられたかのように鈍さを感じる。リザを除いた決死隊の面々では、満足に動くこともできないだろう。やはり、僕以外この役目は出来そうにない。


 作戦の第一段階は囮による時間稼ぎだ。


 龍のブレスも、爪も、牙も、尾も。全て躱して他の人達が配置につくまでの時間と安全を稼ぐために意識を引きつける。


 一番能力値パラメーターが高い僕にしかできない役目。


 《トライ&エラー》で死に戻れる僕にしかできない役目。


 他の誰にも任せる訳にはいかない。


 武器も、防具も、道具も、何も持たない身軽な状態の僕は赤い龍を睨む。


「さあ、悪いけど、僕の我慢比べに付き合ってもらうよ!」


 人語を理解したのかどうか知らないが城の先端に君臨する赤い龍は口元を開き煌々と輝くブレスを降り注いだ。



 ★



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 ―――などと勢いよく、豪語できたのも最初だけだった。


 リトライ二百五十六・・・・・回目。


 精神も、肉体も、魂も、《トライ&エラー》も。何もかもが限界を迎えようとしていた。


 

読んで下さって、ありがとうございます。


私事で恐縮なのですが、明日の夜から二日間ほどパソコンに触れられません。

投稿は予約するので問題ないのですが、その間感想の返信が出来ません。ご了承ください。

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[一言] 世界が理不尽すぎる。神への不信感は募るばかり
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