湖
森をしばらく進むと今度は湖へと出た。
反対側が見えないほどの大きな湖、迂回するには相当の時間が必要であり、ジョンはまたしてもそこで立ち止まる。
すると湖の中から長い首を伸ばし、かつていたとさせる恐竜のような見た目の生物がその牙を静かに覗かせ迫ってきた。
「待て待て、待ってくれ食べないでくれ!」
こんなやり取りも続いた為、今では自然にこちらから話しかける。
「う~ん?」
その生物の伸びた声が聞こえ、長い首を傾げ、見えた牙を閉じる。
「私はこの湖を渡りたいだけなんだ」
「へぇ~、そうなんだ~、じゃあ頑張ってねぇ~」
物分かりの良い生物はそれだけ告げて踵を返し、湖の中へ潜ろうとした所、ジョンは大声で引き留めた。
「待ってくれ、私は人間だ! 君の名は何て言うんだ?」
「ぼく~? ぼくはネッシーだよ~」
(ネッシー? 確かUMAとされる未確認生物であったか)
ネッシーはジョンの言葉に首だけ振り向き会話を続ける。
「ネッシー、私を向こう岸まで運んでくれないか?」
「う~ん? いいけど~」
ここの者達は揃いも揃って疑う事を知らない、良い奴らばかりだ。
「じゃあ首に乗って~」
ネッシーは警戒心なく当たり前のように首を下げてくる。
ジョンはネッシーの首に乗った、初めはその高さに恐怖したがまるで雲を掴めるような位置までいく気分は悪くなく、とても風が気持ちいい。
(このまま進むとまた草原になるのか)
高い位置から様々な場所が確認でき、草原の中にある小さな家も見える。
(まさかあれが宇宙人の家だったりするのか?)
そこにあったのは草原の真ん中にポツンと立っている三角屋根の四角い一軒家。
ジョンは宇宙人の見た目とのギャップを想像し少し可笑しくなった。
そんな事を考えているうち、ある事に気付く。
「おい! なんか下がってないか?」
「う~ん? そりゃ中心に進めば深くなるからねぇ」
「深くなるってどのくらい?」
「ぼくの身体が沈むくらいには深くなるよぉ」
「待て待て、じゃあ中心を通らずに迂回してくれ!」
「なんでぇ?」
「なんでって君が沈んだら私はどうするんだ!」
中心で溺れる自分を想像しジョンは大声を上げて反論する。
「そしたらぼくが下から支えるから泳げば良いんじゃないぃ?」
「何を言ってるんだ! 迂回して運べば良いだけだろう!」
「…なんでそんなに怒ってるの? なんで自分中心で考えるの?」
「いや、別に怒ってるの訳ではないが…」
「ぼくを何だと思ってるの?」
ネッシーの言葉はジョンの心に突き刺さった。
今まで出会った者達は当たり前のように助けてくれたから、皆同様に助けてくれるものだと思い込んでしまったのだ。
「すまない、気分を害したなら謝る」
「う~ん? 謝ってくれるならいいよぉ、じゃあこのまま進んでも良いぃ?」
「待ってくれ! その、私が泳ぐとしたらどのくらいの距離になるんだ?」
「そうだなぁ~、君の大きさだと10㎞ぐらいかなぁ?」
「10㎞!?」
「ネッシー、私にはとてもそんな距離泳ぐ事は出来ない、私の身体が沈まない程度に迂回してくれないか?」
「う~ん、真っ直ぐの方が速いけどなぁ」
「頼む!」
「まぁ、いいけど…時間かかるよ」
「時間は掛かっても大丈夫だ、それで頼む」
「ぼくも暇じゃないんだけどなぁ」
この言葉に私はまた自分都合で話を進めていたと気付かさせる。
「じゃあ進んでいる間は私が話をしよう、こう見えて私は人間の中でも偉い立場でね。時間を忘れられるぐらい興味深い話をしてあげられるぞ!」
ネッシーは「ふ~ん」と興味などなさそうであったがジョンは自分の経歴など様々な話をした。
向こう岸へ降りた頃には話し疲れて、喉は枯れている。
「そういえばぁ~、なんで、渡りたかったのぉ~」
首を伸ばして会話するネッシーの声は相変わらず伸びて聞こえる。
「分からない、ただ進まなきゃと思ってるだけだ」
「う~ん? 変なのぉ~」
「自分でもそう思うよ…」
「そうなんだぁ~」
ジョンの様子が気になったのかネッシーは首を下ろして話をする。
「ぼくはねぇ最初、君の事を自分勝手で嫌な奴だと思ったよぉ、けどすぐに直してくれて途中からもしかしたら良い奴なのかも知れないと思ったんだぁ、話は面白くなかったけどね!」
あれだけ喋った話は面白くなかったという余計な情報をくれたが、ネッシーが初めて見せた最後の笑顔を見て、ジョンは話せて良かったと思えた。
「また運んでほしかったら~、ぼくを呼んでねぇ~」
ジョンはネッシーの言葉に手を振り湖を後にした。




