森
森へ入ると色々なものが目に入る。
特に目立つのはキノコや木の実などの食べ物だ。
その香りから味を想像し、ぐぅ~とお腹が鳴る。そこら辺のものを一つ摘まみ、食べてしまおうかとジョンは考えてしまう。
(いかん、いかん、あんな訳のわからないものを食べては、ここは我慢だ)
そう思いながら薄暗い森を歩いていると様々な果物が置いてあり、泳いでいる魚が見える程透き通った泉のある場所へと出た。
【楽園】その言葉に相応しいこの場所は空腹を満たすのにもってこいの場所であり、既に腹の限界を向かえていたジョンは我慢などせず、そこにあるものをたいらげていく。
「なんだったら蜂蜜も食べる?」
夢中になって食べていると後ろから毛むくじゃらの手で壺いっぱいの蜂蜜を差し出してくる。
振り返るとそこには2m近くまである大きな熊が立っているではないか。
ここはこの熊の縄張り、この食料は熊の物であったと直感し、ジョンは死を覚悟した。
「顔色悪いわね、大丈夫?」
「…」
まただ、ここの生物は当たり前のように話しかけてくる。そしてジョンも慣れたもので当然のように会話を続ける。
「…悪い、これはお前の食料ではないのか」
「私の貯め込んだ食料よ」
「勝手に食われて怒らないのか?」
「お腹が空いてたんでしょ? なら仕方ないんじゃない?」
「お腹が空いていたからって相手の物を奪っても良いと?」
「不思議な事を聞くわね、怒られたいの?」
「いや、そうゆう訳ではないが…」
「じゃあ良いじゃない」
この世界特有のやり取り、姿形が違う生物に対して寛大であり、彼らにとっては助ける事が当たり前で疑わない。
「…ところでお前、名前は?」
「お前なんて呼び方やめてよ、私の名前? 私は見てのとおり熊よ、名前は熊」
「やはりそうか」
「やはりって、あなたは何て言うの?」
「私は…」
「人間かしら?」
今までと違い先んじて言われた事にジョンは驚きを隠せない。その様子を見て熊は話を続ける。
「私は昔、人間に会った事があるから知ってるのよ、仲は良くなかったけどね」
「何かあったのか?」
「かつて私達が使っていた住まいや食料を人間達が持っていっちゃった事があってね。
だから私達もお腹が空いたら人間の住みかにある食料を勝手に食べたわ。
だって持ちつ持たれつが当然だと思ってたから、でも人間の考えは違った。
私達を見るなり攻撃してきた、あの時は私達も頭が悪くて暴力で解決しようとしたわ」
「そして大勢が死んで、学んだ。
見た目や言葉が違うと分かりあえないんだってね。だから私は一生懸命、言葉を覚えたのよ…」
「まぁ、話せるようになった頃には仲間も人間もいなくなってしまったけどね」
重い空気を察してか最後は皮肉っぽく話し、場を取り繕った。
それでもこの場の空気に耐えきれず「ところでお腹は満たされたかしら?」と熊は話題を変える。
「あぁ、ありがとう」
「そういえば、あなたはこんな所で何してるの?」
【何してる】初めて聞かれた言葉にジョンは応えられない。
元の場所に帰る? 何かを探してる?
「分からない、ただ前に進んでいるんだ…」
それが今言える言葉であり、そう応えるので精一杯だった。
「じゃあ頑張って進みなさい! 人間は頭の良い生物なんだから、きっと何とかなるわよ!」
「何とかって…」
熊の言葉にジョンは苦笑いを浮かべ。
「その途中でお腹が空いたらまたいつでも来なさいね!」
その言葉に勇気づけられながらゆっくりと森の更に奥へと進んでいった。




