2.
「もうすぐ夏期休暇だな!」
「家に帰るのめんどいわー。学園にいられたらいいのに」
「ほんとだよな。うちの侍従たちも、屋敷で執務を少しずつ覚えろってうるさくてさ……」
「執務なんて出来るやつらがやればいいのにな。侍従がそのままやっとけよ!」
「人間の複製を作れる魔法があるんだから、父上の複製でも作って働かせておけばいいよな?」
「だよなー。俺らが働く必要なんてないっての。金だけ貰いたいわ」
「おいおい、あの魔法は実体がないだろ?」
「まあ……そうだけどさあ……。魔法も、もっと便利だったらいいのにな」
「ま、今でも魔法は結構便利だと思うけどね」
「ライカはいいよなー。魔法が得意で。おまえならそのうち実体のある複製も作れそうだけど」
「ライカは何体も複製を出せるもんな」
「しかもこの間なんて、複製体を動かしてたぜ?」
「まあね。ちょっと動かしてみるのも面白そうだったから」
「え。あれって動かせるのか?……いや、流石に複製体が動くのはきもくね?」
「そう!そうなんだよ!歩いてただけだけどさ、お化けみたいでびびったわ!」
「ははっ、おまえ今でもお化けが怖いのかよ!びびりだな!」
「いやマジで怖かったぜ?そんなに言うならカイラも一度見てみろよ!」
「ふーん……。ライカ、今度見せてくれよ」
「ああ。次の魔法の授業で見せてあげるよ。魔法は規定の授業中以外では使えないからね」
(チッ。魔法で複製体を出すのは、水と光の魔法だろ?両方扱うだけですげー疲れるのに、組み合わせるなんて……。大体、光の魔法は俺にはまだ上手く扱えないのに……本当になんだよあいつ……。インチキだろ?魔道具でも使ってんのか?)
カイラがイラつく材料はそれこそいくらでもあった。1つだけでもライカに勝ちたいのに、何故かライカは全てを上回っていく。
(大体……火、水、風、土、闇、光。この中の1つだけでも扱えたら昔は貴族扱いだったって父上も言ってたぞ。全部を扱うとどれも中途半端になるから、昔は1つを極めてから別の属性を学んでたって……。同時に覚えなきゃいけないから器用貧乏になるんだって……)
確かに、1つの知識に特化している者は、その知識の習得のためだけに相当な時間を割いているため、他の分野は疎かになっていることも多い。
……そう、普通なら。
(昔の賢者様も土属性に特化してて、それでも他の属性にも自身の魔力を応用できるようになったとか、他の属性の修練を高めていったら魔法の幅が増えたから、全てを満遍なく学ぶように教育が変わったとか……。そのせいで俺らが苦労してんだが?器用貧乏を増やしたいのか?ほんと迷惑な賢者様だな!)
「せっかく貴族に産まれたのになあ。大人たちはうるさすぎるわ」
「俺も昔みたいに戦争で火魔法をバーン!と撃つだけで敵をなぎ倒して勲章を貰いたいなあ」
「あれいいよな!俺も敵と戦いたい!これが昔の貴族の血ってやつなのかな!」
「この国はもう100年も戦争してないからな」
「まだラザール国の周囲は戦争してるらしいぜ?」
「でも、俺らがそこに行っても俺らの功績にはならないだろ?」
「まあな……。行っても移民みたいな扱いだろ?」
「それじゃ意味ねーよなー」
「しかも、ラザール国だと移民は見た目が悪いってかなり蔑まれるらしいぜ」
「えええ?どう考えても俺らの方が見た目がいいだろ?」
「あっちじゃそうじゃないらしい。俺らからするとあいつらは目が細いし鼻も低いけどな……?でも、外交官の父上が言ってたから間違いないぜ!」
「おまえの父親って王宮勤めだったのかよ!すげー!」
「まーな!俺も将来は王宮に勤めるんだ!」
「でも、王宮に入る試験って難しいんだろ……?」
「父上が貴族学園で10位に入ってればなれるだろうって!」
「10位はきついなー……」
「ここで10位以内って、おまえと……ライカと……カイラぐらいか?」
「そうだね」
「ライカはマジで成績いいもんな。なんであんなに間違えないんだ?毎回満点で1位だろ?」
「……チッ。魔法でズルしてんだろ?」
「おいおい、カイラ!言いがかりはやめとけよ?」
「……そんなんじゃねえよ!でも、間違えない人間なんて……おかしいだろ?カンニングしてるだろ!」
「誰をカンニングしたら満点になるんだよ。ライカか?」
「ライカがライカをカンニング?」
「ははははは……!そりゃライカが満点になるわな」
「カイラさー……。面白いけど、冗談もそれぐらいにしとけよ」
(なんで皆、ライカを変だって思わないんだよ!あいつどう考えても変だろ!何でも出来すぎる!)
「ま、カイラは僕のことが好きだからね。それぐらいにしといてやってよ」
「はー?」
「まあライカがそう言うならいいけどさ……」
どんなにカイラが突っかかっても、いつもライカは面白そうに躱すのだ。それが更にカイラの苛つきを生んでいた。
「そうだ、夏期休暇の話だけど、俺は家族皆で海の近くの別荘に行くんだよ!」
「タリムの家は船の事業をしてるもんな!その関係か?」
「そうなんだよ!小型ボートに乗って釣りもしようかって話をしててさ」
「おまえ、家からよく手紙が来てるもんな!」
「俺は今度の夏期休暇で湖畔の別荘に行くんだぜ」
「カイラの家は観光に力を入れてる領地だもんなー!いいなー!」
「そういう地域は治安が悪くなりやすいのに、ノーランダ地方はみんな武力に優れてるからかなり治安がいいって聞いたぞ!」
「おまえ詳しいな!そうなんだよ!護衛なんて頼まなくてもそこらの住人が悪人を捕縛してくれるからな!俺らは地域の繋がりが深いから」
「すげー!」
「でもよ、それって間違えて捕縛したらどうなるんだ?」
「そりゃ勿論、現行犯逮捕でも多数証人がいなきゃダメさ!じゃないと冤罪が起こりっぱなしで逆に犯罪だらけになるだろ?」
「やっぱノーランダ地方はすげえな!」
「まあな!」
(ふっ、これはライカにも勝ったな。観光地でうちの領地に勝ってるのはタイラーンド地域だけだからな)
カイラはご満悦だった。それなのに。
「ライカは夏期休暇はどうすんだ?」
「ん?僕?僕はタイラーンド地域の別荘に行くよ」
「タイラーンド地域の別荘!?タイラーンド地域って、めちゃくちゃ家賃とか地価高いんだろ!?」
「ライカすげー!」
「いいなー!俺もその別荘に行っていいか?」
「んー……。うちはちょっと特殊でさ。別荘自体には呼べないけど、近くの宿泊施設には便宜を図れるよ。ちょっとした伝手があるからね」
「マジー!?俺、親に聞いてみるわ!」
「俺も聞いてみる!タイラーンド地域に出来た巨大噴水公園が人気らしい!」
「俺もそれ聞いたわ!水の滑り台があるんだろ!?」
「ああ、あるね。僕の家も少しその公園に出資してて……」
「流石ライカ!」
「おまえの家すげーな!」
カイラは口の端をムッと下げて机を睨んだ。
(なんだよこいつの家。タイラーンド地域なんて……王家の庭って言われてる領地じゃねえか。そんなとこに伝手なんてあるわけねーだろ!皆バカみたいに騙されて!大体、その別荘に呼べない時点でそんな別荘あるわけない!よし、領地に帰ったらあいつの家についてとことん調べてやる!)
カイラの高まりすぎた嫉妬心は、ただの同級生であるライカの個人情報を暴く方向に向かっていた。
貴族が自身の情報収集能力を悪用すればいつでも他家の個人情報は収集できるのだ。この王国では。
でも、それを悪用しないというのが貴族たちの間での不文律だった。
相手の事実であっても拡散した場合は名誉毀損として裁判で不利になったし、自分が貴族の力を使って知ることになった情報を渡した相手が闇組織と繋がっていた場合は、無自覚に他家を陥れることに加担したと判断されてしまうからだ。
「カイラ様。準備が整いました。屋敷へ向かいましょう。馬車へお乗りください」
「ん?この馬車はなんだ?いつもと違うような……」
「最近発明された、魔法で振動を極力抑えることに成功した馬車ですよ。高価な魔石が使われていて、長旅でも快適との噂です」
「ふーん……。どこの家が出したんだ?」
「王家ですよ」
「やっぱり王家はすごいな!優秀な発明家でも抱えているのかもな……!」
「いずれカイラ様もそのような方々とお近づきになれるかもしれませんね」
「そうかもな!」
こうして、カイラは快適な馬車旅でノーランダ地方へ帰ったのだった。




