1.
カイラが貴族学園に入ったのに特に深い理由はなかった。貴族学園を卒業しないと貴族として認められないから、ただそれだけである。
「おー!君、黒いねー!」
「ん?」
「ノーランダ地方の出身かい?」
「そうだが?」
「やっぱりなー!あの地方って皆褐色肌だよね!」
「この学園では少ないのか?俺はカイラだ」
「あ、僕ライカ。まあ、それなりにはいると思うよ。僕たち名前が似てるね」
「おまえは白いな。髪も肌も白すぎだろ」
「あー、僕ヤタヌーク地方の出身でさ。あの地方は皆こんな感じ。目の色もこんなんだよ」
「へー。ガラス玉みたいな赤色だな」
「君は髪も目も真っ黒だから鴉みたいだねえ」
「黒は高貴な色だからな。しかも俺は伯爵家の長男だぜ?」
「へー。あの地方の伯爵家ってことは……タカミリズ家?」
「そうだ!おまえは?」
「僕はライラリグ家だよ」
「……?それは下級貴族か?聞いたことないな」
「あれ?あまり知られてないかな?まあ、ちょっと変わった貴族だからね」
「ふーん……。ま、別にいいや。おまえ面白そうだな!これからよろしく!」
「ああ、こちらこそよろしく」
こうしてライカとカイラが握手を交わしたのは学園の入学式初日だった。実は衣装を見るだけでもライカの方が身分が上だったのだが、カイラはまだ幼く、そんなことには気づかなかった。
身分を気にせずに仲良くなれるのが子どもの良いところである。
「ライカ!今から外で走るってよ!行こうぜ!」
「ふーん。僕、結構足速いんだよね。追いついてこられるー?」
「は?俺だって速いぜ?ノーランダ地方は皆、武に長けてるって知らないのか!?」
「知ってるけど、僕たちの一族は身体能力が高いんだよねー。ヤタヌーク地方では負けたことなくてさ」
「それじゃ、勝負だ!」
「いいねえ。その意気だ!じゃ、行こうか」
こうして始まった勝負だが、勝利したのはライカだった。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
「ライカ速ー!」
「やっぱり僕の勝ちだね」
「クソッ!どんなインチキだよ!おまえ速すぎだろ!」
「だから言っただろ?僕の一族は身体能力が高いんだよ」
ライカは肩をすくめて飄々と答えた。
(そんな一族聞いたことねえぞ?なんだよあいつ!ムカつくな!しかもそのせいで貴族令嬢たちからちょっと揶揄われたじゃねえか!)
カイラはムカついていた。思えばそれは入学初日からだった。ライカは他の誰よりも肌も髪も白いせいか、他の貴族からは一際目立った。
しかも、ライカは貴族令嬢に優しい。とある貴族令嬢が転んで膝を擦りむいた時にもすぐハンカチを差し出して外にある水道の蛇口のところまで連れていって手当てをしていた。
そのせいか、ライカはやたら貴族令嬢にモテた。
「ライカ様……!私、この間お菓子を作りまして……!」
「ライカ様、この折り紙が最近の流行りなのですわ!一緒に作りませんこと?」
「ライカ様!授業のこのところが少し分かりませんの……」
「チッ。皆してライカ、ライカって。なんだよあいつ」
だから、カイラが徐々にライカを目の敵にしていったのも仕方のないことだったのだろう。
「カイラ!ボール蹴りしようぜ!」
「ああ!」
「ライカも誘っといてくれよ!」
「……チッ。ライカを呼びたかったら自分で呼べよ!」
「ええ……。おまえら仲良くなかったか?まあいいけど。ライカー!ボール蹴り行こうぜ!」
「お!行く行く」
ライカは本当に身体能力が高かった。だから、多くの貴族子息が、外で遊ぶときはライカを仲間にしたがったのだ。
(ちぇっ。なんだよあいつ。ノーランダ地方出身でもないくせに)
カイラはもう気付いていた。
(しかも、たぶんあいつ、あれでもまだ本気を出しちゃいない。駆けっこの時もそうだった。他のやつらを置いていかないように気にしてる感じがした)
カイラはやっぱりムカついて地面の石を思いっきり蹴り飛ばした。石はコロコロと転がって近くの壁にぶつかって止まった。
(いや、身体能力が高いってことは……、あいつ、勉強はダメかもしれないな?ちょっと授業の予習をして、あいつより出来るところを貴族令嬢たちに見せつけてやるのはどうだ?)
カイラはそう思って漸く溜飲を下げ、ボール蹴りに興じることができた。
でも、残念ながら、どんなにカイラが予習しても、ライカに勝てた気はしなかった。カイラが正しく答えられたところで、ライカが聞かれた時に間違えることもないからである。
(あいつなんだ?ズルしてるんじゃねえのか?教師に答えをもらってるとか)
精神的に幼いと、有能な者には案外ムカつくものである。努力したところで越えられない壁があるというのはなんとなく分かるのだ。
(クソッ。勉強なんてしたって無駄だな。大体、別に将来使うわけでもないし、こんなことしなくたって俺は伯爵家の跡継ぎだ!ライカなんて田舎の隅の変な家で一生を過ごしてりゃいい)
そうは思ったが、このまま負け続けるのも癪である。
(……でも、もしかしたらある日急にライカが間違えて、俺だけが褒められる日もくるかもしれないしな。それに、貴族令嬢の受けも良くなってきたしな……。チッ。ほんとあいつはムカつくやつだな!)
こうして、カイラは子どもながらにライカにライバル心を抱き、その執着を次第に強めていったのである。




