第六話「四つ目」
光は、まばゆく、しかし熱を持っていなかった。
キミと颯、雪は、思わず目を覆った。
光が収まると——暗くなっていた四つ目の燭台が、消えていた。燭台そのものが、跡形もなく。
「——四つ目の灯りが」
雪の声が、震えていた。
「これで……四体の鬼が」
社の奥、闇の中に——複数の輪郭が、浮かび上がっていた。
一つではなかった。今までキミが見た、影のような鬼が——四体、並んでいた。
大きさも、形も、それぞれ違う。一体は獣のように四肢で立ち、一体は人のように二足で立ち、一体は、輪郭が曖昧で、常に揺らいでいた。
四体の鬼は、ゆっくりと、こちらに近づいてきた。
「キミ様、後ろへ!」
颯が、キミと雪の前に立った。腰の鉈を抜く。だが、それが、この四体に対して、ほとんど意味を持たないことは、誰の目にも明らかだった。
四体の鬼は——だが、攻撃してこなかった。
代わりに、四つの金色の光(それぞれの目)が、すべて、キミの方を——正確には、キミの中にいる「八つ目」を、見ていた。
キミの中で、声が言った。
「——大丈夫。彼らは、私と同じ。封じられていた、家族のようなもの」
「家族……?」
「七体の鬼は、もともと、私の——一族のもの。人と争うつもりで、ここに来たわけじゃなかった」
声は、静かに続けた。
「ずっと昔——大きな災いがあった。人も、鬼も、住む場所を失った。鬼たちは、人の世界に紛れ込んで、生きる場所を探していた」
「それを、八咫烏の一族が——」
「怖がって、封じた。——仕方ないことだったと思う。鬼の姿は、人にとって、恐ろしいものだから」
四体の鬼が、それぞれ、小さく身じろぎした。怒っているようには見えなかった。むしろ——どこか、寂しげな様子だった。
「でも、私だけは——違った」
キミは、声に問いかけた。
「あなたは、何が、違ったのですか」
「私は——八咫烏の一族の、巫女だった。鬼たちを案じて、彼らと一緒に、封じの中に入ることを、選んだ」
「人間、だったのですか」
「そう。——名前は」
声が、続きを言おうとした、その時——
社の入り口の方から、複数の足音が、近づいてくるのが聞こえた。
「キミ様!颯殿!」
志波の声だった。武装した男たちを、何人も連れている。
「四つ目の灯りが消えたと——!」
志波は、社の奥に並ぶ四体の鬼を見て、息を呑んだ。
「これは……!」
「志波様、お待ちください!」
颯が、前に出た。
「彼らは、攻撃してきません。——話を聞いてください」
「話を聞く、だと?鬼が、言葉を話すとでもいうのか!」
志波が、男たちに何かを指示しようとした、その時——
キミが、声を上げた。
「——待って!」
全員が、キミを見た。
御簾の外で、自分の意思で、こんなに大きな声を出したのは——初めてだった。
「志波。——お願いです。攻撃しないで」
「キミ様、これは——」
「私の中にいる『八つ目』が、説明してくれます。彼らは——敵じゃない」
志波は、キミと、社の奥の鬼たちを、何度も見比べた。
「……キミ様。その黒い筋は」
「目を覚ましかけています。——でも、悪いものじゃない。むしろ」
キミは、自分の指先を見た。
「彼女が、私たちに——何かを、伝えようとしています」
その場の空気が、わずかに変わった。
武装した男たちは、構えを解かなかったが、攻撃の指示も出なかった。四体の鬼も、動かなかった。
奇妙な——対峙でも、対話でもない、静止した時間が続いた。
雪が、震える声で言った。
「キミ様。——その方の、名前を」
キミは、自分の中の声に、再び問いかけた。
「教えてください。あなたの名前を」
しばらくの沈黙のあと——声が、答えた。
「私の名前は——『綾』。烏渡の里の、最初の巫女」
「綾……」
「八咫烏の一族の、始まりの巫女。——そして、八つ目の鬼の、最初の宿主」
その名前を聞いた瞬間——雪が、その場に膝をついた。
「綾様……。それは——一族の、始まりの巫女様の——」
「雪。——その名前を、知っているのですか」
雪は、震える声で言った。
「一族の祖を祀る、最も奥の社に——その名が、刻まれております。——一族が、最も大切にしてきた、始まりの巫女様の名前です」
社の奥で、四体の鬼が——一斉に、深く頭を下げるような動きを見せた。




