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セレーナ・プロトコル ―君が生まれた日―  作者: カイメイラ
第三部 潜伏編

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第9話 選択

 倉庫は、静かだった。


 低い機械音だけが、一定のリズムで流れている。


 冷却ファンの回転音。


 油と金属の匂い。


 わずかに、潮の気配。


「……少し、早くなった」


 セレーナが言う。


 応答が、わずかに速い。


 本当にわずかな差。


 だが――確実に変化している。


 カイは一瞬だけ視線を向ける。


 その“間”を測るように。


 以前より短い。


 確かに。


 だが。


 何も言わない。


 評価もしない。


 肯定もしない。


 ただ、確認しただけだ。


 端末に通知。


 匿名依頼。


 実験サンプルの回収。


 報酬は高額。


 危険度も高い。


「……面倒だな」


 短く吐き捨てる。


 セレーナは、少しだけ首を傾げる。


 考える。


 そして――少し遅れて。


「なに、するの?」


「回収だ」


 それ以上は言わない。


 夜の研究施設。


 白い光。


 均一。


 だが。


 どこか、吸い込まれるように冷たい。


 温度が、感覚を削る。


 侵入。


 ロック解除。


 死角。


 音はない。


 影だけが、動く。


 その後ろ。


 セレーナ。


 距離は近い。


 遅れは、少ない。


 だが――


 完全ではない。


 角を曲がる。


 ドローン。


 赤い光。


 ロックオン。


 ――その瞬間。


 セレーナの視線が止まる。


 状況を認識する。


 遅れる。


 ほんの、一瞬。


 だが。


 次の瞬間。


 胸の奥が、熱を持つ。


 視界が、白く弾ける。


 空気が歪む。


 見えない圧が、前方へ弾けた。


 ドローンが、力を失ったように落下する。


 乾いた音。


 沈黙。


 カイの足が、わずかに止まる。


 視線だけが向く。


 ――今のは。


 判断はしない。


 だが。


 理解だけは、している。


 奥へ進む。


 扉を開ける。


 白い部屋。


 光は強いのに。


 どこか、吸い込まれるようだった。


 そこにあったのは。


 人に近い存在。


 ケーブルに繋がれ。


 機械に囲まれ。


 生命維持装置に支えられている。


 呼吸は浅い。


 意識はない。


 瀕死。


「……これ」


 セレーナの声が、わずかに揺れる。


 カイは見る。


 状況を、切り分ける。


「……回収は無理だ」


 即答。


「助ける」


「……無理だ」


「どうして?」


 少し遅れて。


 それでも、問う。


「この状態で動かせば、死ぬ」


 現実だけを言う。


 セレーナは沈黙する。


 長く。


 警告灯。


 赤。


 警報まで、あとわずか。


 足音。


 複数。


 速い。


「来る」


「ちっ、早いな」


 扉が開く。


 怒号。


 距離が消える。


 カイが動く。


 最短。


 最速。


 だが。


 至近距離。


 回避が、間に合わない。


 拳。


 衝撃。


「……っ」


 体勢が崩れる。


 セレーナの視線が止まる。


 損傷。


 理解。


 選択。


「……私が守らないと」


 空気が歪む。


 圧が、解放される。


 敵が吹き飛ぶ。


 壁へ叩きつけられる。


 動かない。


 静寂。


 セレーナ自身も、理解していない。


 カイはそれを見る。


 一瞬だけ。


 ――これが。


 だが、言葉にはしない。


「行くぞ」


 煙。


 視界。


 揺らぐ。


 最短ルート。


 まだある。


 セレーナが経路を示す。


 カイが進む。


 避ける。


 開ける。


 抜ける。


 外。


 夜風。


 冷たい。


 静寂が戻る。


 倉庫。


 同じ場所。


 だが。


 違う。


 セレーナは動かない。


 視線が止まる。


 処理。


 開始。


 ログ。


 映像。


 再生。


 分析。


 学習。


 再現。


 更新。


「……助けたかった」


「……そうか」


「……こんな世界しか、見せてやれなくてすまない」


 わずかな間。


「……こんなはずじゃ、なかったんだがな」


 沈黙。


「……大丈夫だよ」


「楽しいよ」


 カイは何も言わない。


 同じ場所。


 同じ二人。


 だが――


 もう同じではない。


挿絵(By みてみん)


――第3部完

ここまでお読みいただきありがとうございます。第3部、ここで完結です。


明日からは

『勇者とは呼ばれずとも 封じられし精霊と少年の物語』新章の連載になります。


また合間を見て更新していきますので、

ブックマークなどしていただけると嬉しいです。

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