第8話 最初の仕事
荷物が届く。
倉庫のシャッターの前に、無機質な箱が積み上がっていく。
番号。ラベル。封印。
必要なものと、そうでないものが混ざっている。
金属が擦れる音。
遠くで、機械音が低く唸っている。
冷却ファンの細い回転音が、耳の奥で続く。
工具に残る油の匂い。
潮の匂いが、わずかに流れ込む。
「……多すぎる」
カイは、小さく呟く。
セレーナは箱を開けている。
中身を一つずつ取り出し、並べていく。
整然と。
だが、どこか楽しそうに。
医療パック。
高性能部品。
そして――過剰なもの。
指先で、それを確かめる。
少し遅れて、満足したようにうなずく。
「……はぁ」
カイはため息をつく。
だが、止めない。
作業台を組む。
床の位置を決める。
配線。
電源。
手は迷わない。
簡易メンテナンス。
ケーブル接続。
ログを流す。
数値は安定。
だが、応答に遅延。
わずかに。
ほんの、わずかに。
カイは眉を寄せる。
――触れてから、返るまでに“間”がある。
この差が、命取りになる。
「調整だ」
呟くように。
閾値を触る。
ノイズを削る。
強くは触れない。
触れれば、壊れる。
「……くすぐったい」
セレーナが小さく言う。
カイの手が、ほんの一瞬止まる。
その軽さを、思い出す。
――軽すぎる。
「動くな」
声は、少しだけ柔らかい。
ログが整う。
応答遅延、わずかに改善。
だが、完全ではない。
「……これで当面は持つ」
セレーナは、うなずく。
少し遅れて。
端末が光る。
匿名の依頼。
データ回収。
場所。
時間。
報酬。
「……来たな」
カイは短く言う。
セレーナは、画面を覗き込む。
少し遅れて、理解する。
事前調査。
施設構造。
警備。
侵入ルート。
最短。
最小。
無駄を削る。
夜。
施設。
灯りは規則的。
風はない。
音だけが、均一に流れている。
侵入。
ロック解除。
死角を抜ける。
足音はない。
呼吸も、浅い。
背後。
セレーナがついてくる。
わずかに。
遅れて。
――一拍、遅い。
センサーの反応が、一瞬だけ揺れる。
カイの視線が動く。
今、止めれば間に合う。
だが、止めない。
この遅れは、切り捨てられない。
警備ドローン。
起動。
赤い光。
回転。
視線がこちらをなぞる。
カイは迷わない。
一歩。
間合い。
――その瞬間。
背後で、わずかな遅れ。
センサーが再度、揺れる。
ロック音が、半拍だけ早まる。
露見する。
カイは踏み込む。
一撃。
外装が裂け、火花。
沈黙。
だが。
わずかに、回転音が残る。
警報へ繋がる“線”が、細く伸びる。
カイはそれを断つ。
セレーナが、それを見る。
考える。
少しだけ遅れて。
サーバー。
接続。
抽出。
データが流れる。
価値が、形を変える。
数字になる。
警報の兆候。
わずか。
まだ鳴らない。
だが――時間はない。
切断。
離脱。
振り返らない。
倉庫。
静かだ。
残高が変わる。
数字が増える。
「お金って、なに?」
セレーナが言う。
カイは、少しだけ考える。
言葉を選ぶ。
「……選べるようになるものだ」
短く。
だが、声はわずかに重い。
それ以上は言わない。
セレーナは考える。
長く。
そして――止まる。
理解できないことを、初めて受け入れるように。
「……さっきの」
少し間。
「壊さなくても、よかった?」
カイは答えない。
ドローンの残骸が、頭をよぎる。
必要だった。
だが。
それだけでは、足りない。
静かだ。
だが――
まだ、答えはない。
第8話、最初の仕事でした。
生きるための行動と、セレーナの「どうして?」がぶつかり始めます。
次話、答えのない選択へ。




