第21話 終端
どん、と床を蹴る音が響く。黒い髪のリヴェリアが一直線に踏み込む。反射でカイが撃つ。
発砲。
弾丸が頬をかすめ、人工皮膚が薄く裂けるだけ。止まらない。次の瞬間、蹴りが入る。
重い衝撃がカイの胸を打ち、身体が浮いて床へ叩きつけられる。
「……っ」
息が抜ける。
リヴェリアは一歩、間合いを詰める。
「お父さんは……邪魔。」
空気が裂ける。
「リヴェリアの邪魔は……しないで。」
同じ顔、同じ声。だが温度が違う。
セレーナが前に出る。
「……お姉ちゃん」
リヴェリアの動きが止まる、ほんの一瞬。
「……破壊するね」
無機質な声。セレーナの瞳が揺れる。
「……あなたを止める」
その言葉と同時に、二人が踏み込む。
衝突。
一撃で終わらない。押し合う。骨格が軋み、関節の継ぎ目から細い火花が散る。
力ではない。軌道の奪い合い。
セレーナの拳が肩口から斜めに振り抜かれる。
リヴェリアが同じ角度で合わせ、拳同士が擦れ合う。火花が散る。
打ち消され、反転。
肘打ちが入り、頬が歪む。人工皮膚が裂け、薄い破片が弾ける。
距離が開く。
再び踏み込む。
同時。同じ動き。
だが――僅かにズレる。
セレーナの拳が鎖骨をかすめて滑り込み、内部フレームを打つ。鈍い音。
肩が抉れる。だが止まらない。
回転。蹴り上げ。腹部へ直撃。
セレーナの身体が浮き、天井に叩きつけられ、落下して床に激突。
空気が抜ける。
「……っ」
視界が揺れる。
それでも、立つ。
リヴェリアが再び踏み込む。
速い。さっきより。学習している。
「……違う」
リヴェリアの声が揺れ、ズレる。初めて、崩れる。
声がわずかに歪み、身体の動きと発声が噛み合わない。
カイが踏み込む。
銃声。
直撃。
今度は外れない。
リヴェリアの動きが一瞬止まる。
「……どうして」
わずかな隙。理解できない、という揺らぎ。
その瞬間――
これは、私?
まさか……でも、私じゃない。
守るために、戦うしかない。
セレーナが踏み込み、拳を叩き込む。
内部へ。
電磁の衝撃が走り、ノイズが弾ける。
身体が跳ね、白目をむく。
関節部から火花が散り、亀裂の走った人工皮膚の隙間から火が噴き出す。
制御が焼き切れ、力が抜け、そのまま後方へ弾かれる。
壁に叩きつけられ、崩れ落ちる。
動かない。
沈黙。
「……止まったか」
カイが低く呟く。
セレーナは動けない。
視線だけが、その“もう一人”を捉えている。
次の瞬間、壁面のモニターが点灯する。
ノイズ。歪んだ映像。
そこに映るのは黒い髪、整った顔。
だが年齢が違う、少しだけ大人びた“リヴェリア”。
「あーあ。もう壊してくれちゃってー」
軽い声。
カイの視線が上がる。
アメリアがわずかに息を呑む。
「次はちゃんとするから……ね?」
一瞬、アメリアの表情が揺れる。
「……待ちなさい、それは」
理解が追いつかない。
目が見開かれ、半歩退く――言い終わる前に。
「せっかくあげたのに」
「その程度の仕事もこなせないなら、もういらない」
次の瞬間、破裂音。
アメリアの頭部が弾け、血と破片が床に散る。
カイの動きが止まる。
セレーナの処理が凍る。
モニターの中のリヴェリアがこちらを見る。
「そのタワーも」
わずかに首を傾ける。
「もう用済みだから、破壊するね」
警報が鳴る。
遅れて。
重く。
低く。
振動が、床を伝う。
「逃げられたらいいね――お父さん」
通信が切れる。
沈黙。
その直後、塔全体が軋む。
「……走るぞ」
カイが言う。
セレーナは遅れない。
「……うん」
二人は同時に動き出す。
崩壊が始まる。
天井が軋み、壁に亀裂が入る。
落下する破片。粉じん。
時間がない。
「……上だ」
カイが叫び、階段を駆け上がる。
振動が増し、一段ごとに崩壊が近づく。
屋上。
風が強く叩きつけ、都市が眼下に広がる。
躊躇はない。
カイが縁へ向かい、手すりを蹴る。
「……行くぞ」
セレーナの手を掴み、そのまま踏み出す。
セレーナの指が強く握り返す。
落下。
風圧が身体を叩き、視界が流れる。
カイが背中の装置を引く。
展開、グライダー。
空気を掴み、落下が滑空へ変わる。
背後で塔が爆ぜ、遅れて重い爆音が追いかけてくる。
セレーナがわずかに振り返る。
崩れ落ちる塔の輪郭が、闇に沈んでいく。
二人は夜の冷たい空へ流れ出る。
――第七部完
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