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セレーナ・プロトコル ―君が生まれた日―  作者: カイメイラ
第七部 大阪編

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第19話 仮宿


桜は、すでに散っていた。


春の名残だけが、アスファルトの端に薄く張り付いている。


風が吹くたびに、それはかすかに動いた。


大阪。


街は動いている。


だが――どこか静かすぎた。


バンがゆっくりと路肩に滑り込む。


エンジンを切る。


低い振動が止まり、世界が一段静まる。


カイは周囲を確認する。


迷いなく動く。手際に無駄はない。


そのまま後部に回り込み、ナンバープレートを外す。


持ってきたカバーを被せ、簡易的に別車両へ偽装する。


ドアの指紋も布で拭き取る。


「……足は潰しておく」


セレーナの反応がわずかに遅れる。


「……うん」


人影。


視線。


動き。


異常は――ない。


だが、安心はできない。


「……ここで降りる」


セレーナが頷く。


「……うん"


ドアを開ける。


外気が流れ込む。


冷たい。


カイはフードを取り出し、頭にかぶせる。


顔の影を深く落とす。


セレーナにも同じように被せる。


「……目立つな」


「……大丈夫」


わずかにズレた返答。


二人は視線を下げたまま歩き出す。


人の流れに紛れる。


だが。




周囲の動きが、わずかに揃いすぎている。

ほんの半拍遅れで、波のように揃う。


気づかれないように。


“見られないように”。


ケーブルが床を這う。


カイは配電盤のカバーをこじ開ける。


中には、旧式の制御装置。


セレーナの視界がそれを捉える。


内部構造を走査。


異常はない。


負荷は許容範囲。


――使用可能。


「……いける」


セレーナが近づく。


指先が触れる寸前で止まり、わずかに震える。


内部処理。


接続経路を確認。


電圧。


安定性。


負荷。


すべてが、視界の奥で層となって重なる。


「……接続する」


セレーナは配電盤の内部へ手を伸ばす。

露出した端子にケーブルを差し込み、強引にラインを確保する。


一瞬、火花が散る。


「……電源、確保」


「……やれ」

カイは短く頷く。


ケーブルが繋がる。


瞬間。


ノイズ。


視界が白く弾ける。


電流が流れ込む。


情報ではない。


“力”そのもの。


胸の奥に溜まっていた熱が、別の形で膨れ上がる。


処理系が再起動する。


断片だったログが繋がり始める。


遅延が、わずかに縮まる。


「……戻る」


その声が、ほんの一瞬だけカイの呼吸と重なった。


違和感のない“同期”。


だが次の瞬間、わずかにズレる。


完全ではない。


それでも――確実に変化している。


「……時間はない」


カイは短く言う。


「……準備する」


床に並べられる、回収してきたパーツ。


破損した基板。


歪んだ記録媒体。


断片化された戦闘ログ。


すべてが“ゴミ”のようで――


すべてが“意味を持つ”。


セレーナの視界が変わる。


対象を“見る”のではなく、


“分解する”。


識別。


適合。


再構成。


ひとつずつ、内部構造へ組み込まれていく。


カイは低く言う。

「……戦闘は避けられない。ここで上げる」


「……戦闘パターン、統合する」


「負荷、上がる」


わずかに遅れて言葉が届く。


カイは視線を逸らさない。


「……それでもやるんだろ」




「……うん」


統合開始。


過去ログが展開する。


失敗の記憶が、回避の痛みが、損傷の感触が、同時に彼女の中を駆け巡る。


それは記録ではない。


“体験”として流れ込んでくる。


すべてが同時に走る。


処理速度が限界に近づく。


遅延が、逆に広がる。


「……っ」


指先がわずかに痙攣する。


瞳の奥で光が乱れ、焦点が一瞬だけ合わなくなる。


呼吸が止まる。


フレームが飛ぶ。


同じ動作が二重に見える。


思考と出力が噛み合わない。


だが――止めない。


「……続ける」


カイは一瞬だけ視線を外す。現実に引き戻すように。


カイは静かにケースを開く。


中から拳銃を取り出す。


重い。


現実の重さ。


引き金の先にあるものを、知っている。


「……こんなものは持ちたくないが」


スライドを引く。


装填。


「……使う」


統合が進む。


不完全な動き。


歪んだ回避。


だが――


それは“予測不能”になる。


最適ではない。


だから読めない。


「……ズレてる」

内部の軌道が揺らぐ。統合した動きが噛み合わず、わずかな誤差が残る。

「……でも、使える」


静寂。


外では風が流れている。


世界は、少しずつ壊れている。


カイが言う。


「……行くぞ」


セレーナは頷く。


「……うん」


二人は立ち上がる。


天到ネクサス塔へ――


カイは一瞬だけ、セレーナの肩に触れる。


確かめるように。


風が、二人の間をすり抜ける。


街は動いている。


だがどこかで、確実に歪んでいる。


セレーナは口を開く。


「……カイ君」


その声は、今だけはズレていなかった。


それでも――二人は踏み出す。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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