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セレーナ・プロトコル ―君が生まれた日―  作者: カイメイラ
第六部 滋賀編

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第17話:解析


暗い。


冷たい空気。


むき出しの配線。


壁を這う太いケーブル。


被覆の擦れた箇所。


天井から垂れる影。


遠くで、微かな電子音が途切れ途切れに鳴る。


奥から。


低い唸り。


空調の残響。


周期のずれたノイズ。


――生きている。


建物が。


カイは歩を止めない。


だが。


足音は、自然と殺している。


心拍が、わずかに上がる。


ここで乱れたら終わる。


セレーナの反応は遅い。


分かっている。


だから、前に出る。


守る。


それだけは決めている。


遅れるなら、その分前に出る。


全部、引き受ける。


――来るなら、先に叩く。


「……搬入口、奥だ」


セレーナの声。


半拍、遅れて届く。


ほんのわずかに、ズレる。


視界の奥に、層が重なる。


数値。断片。ノイズ。


薄く、ちらつく。


現実の通路に、重なっている。


処理が、追いついていない。


「……見えてるのか」


「……重なってる」


一拍遅れ。


カイは頷く。


理解しようとはしない。


必要なのは、結果だけだ。


角を曲がる。


広い空間。


搬入エリア。


並んでいる。


同じ形。


同じサイズ。


手術ロボット。


整然と。


揃って。


――静止している。


その中で、一体だけ。


微かに、動いている。


待機。


呼吸のような、わずかな振動。


「……あれだ」


カイは迷わず近づく。


距離を詰める。


金属の匂い。


油の残り香。


手をかける。


外装。


力任せに、引き剥がす。


――破壊。


音が響く。


静寂を切り裂く。


「壊すぞ」


「問題ない」


セレーナが手を伸ばす。


内部ユニットへ。


接続。


一瞬。


強いノイズ。


セレーナの視界が乱れる。


処理が遅れる。


胸の奥に、熱。


圧迫。


こめかみが締め付けられる。


頭蓋の内側から押し広げられるような圧。


情報が流れ込みすぎている。


「……いける」


遅れて、言う。


ログが流れ込む。


洪水。


記録が、一気に押し寄せる。


だが、途切れる。


ノイズが噛む。


視界が白く弾ける。


再接続。


再同期。


遅い。


手術記録。


切開。


縫合。


正常な工程。


だが。


その隙間に。


異物。


混ざっている。


拡大。


深く潜る。


層を剥がす。


遅れる。


もう一度。


「……ここ」


一拍、遅れて指す。


表示。


挿入。


対象:脳基底部。


デバイス:不明。


材質:有機体。


「……これ、入れてる」


声が半拍遅れる。


唇の動きと、音がずれる。


カイの表情が、わずかに歪む。


怒りが、混ざる。


人間に、入れてる。


「……ふざけてやがる」


その瞬間。


低い起動音。


――複数。


背後。


横。


奥。


一斉に。


動く。


ロボットの頭部が、こちらを向く。


同じ角度で。


同じ速度で。


ぴたりと。


揃う。


奈良と、同じだ。


「……来るぞ」


息が浅くなる。


視線を切る。


数を数える暇はない。


カイが踏み込む。


床を蹴る音を殺す。


最短。


踏み込みながら、懐に潜る。


装甲の継ぎ目。


肘関節。


そこに、体重を乗せた一撃。


鈍い音。


衝撃が腕に返る。


硬い。


だが、止まらない。


そのまま腕を絡める。


捻る。


関節が、軋む。


限界。


――破断。


バランスを崩し、倒れる。


だが。


間が、埋まる。


もう一体。


横から。


死角。


セレーナの声は、来ない。


遅れている。


カイは反射で体を捻る。


肩をかすめる衝撃。


鈍い痛み。


一歩、遅れていたら終わっていた。


息が荒くなる。


「チッ……!」


数。


止まらない。


「キリがねぇ!」


セレーナが干渉。


だが。


遅れる。


処理が追いつかない。


一体、止まりきらない。


関節がわずかに動いたまま残る。


腕が振り下ろされる。


一瞬、セレーナの制御が間に合わない。


完全に止まっていない。


カイは紙一重でかわす。


遅れていたら、腕が潰されていた。


床に叩きつけられる衝撃。


「……止まって」


遅れて、命令。


ロボットの動きが、ぴたりと止まる。


一瞬。


空白。


「遅ぇ!」


焦りが混じる。


苛立ちが混じる。


だが、責めない。


カイが踏み込む。


止まった個体の側面へ回り込む。


首元のハウジング。


配線が集中している継ぎ目を狙う。


肘で押し込み、体重で固定。


指を差し込む。


無理やり、こじ開ける。


――裂ける。


露出したケーブルを掴む。


引き抜く。


スパーク。


一瞬、光。


駆動が落ちる。


そのまま蹴り倒す。


「今」


セレーナの声も、遅れて重なる。


コンマ数秒。


ズレがある。


だが。


終わらない。


壁の奥。


さらに、起動音。


ここは、供給ライン。


生産。


停止しない。


「……離脱」


セレーナの声。


遅れる。


判断も、わずかに遅い。


それでも、正しい。


カイは頷く。


判断は、同じだ。


「行くぞ!」


ユニットを掴む。


その瞬間。


セレーナの視線が、別の個体へ滑る。


遅れて、止まる。


「……それも」


一拍遅れ。


「使える」


カイは迷わない。


近くのロボットの胸部を叩き割る。


コアユニット。


制御基板。


ケーブルごと、引き抜く。


息が上がる。


時間がない。


「……何に使う」


「……改良」


遅れて答える。


自分に。


取り込むように。


ユニットを掴む。


引き抜く。


持ち出す。


背後で。


再起動。


音が重なる。


追ってくる。


だが。


足は止めない。


出口へ。


一直線。


通路。


角。


光。


外。


飛び出す。


空気が変わる。


風。


音。


現実。


だが。


背後では、まだ動いている。


営業所。


半壊。


どこかで、火が回ったのだろうか。


焦げた匂いが、遅れて鼻を刺す。


煙が、わずかに上がっている。


だが。


止まっていない。


カイは振り返らない。


振り返る必要がない。


分かっている。


――ここじゃない。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


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今後ともよろしくお願いいたします。

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