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厳重のリブラ 2

 人はスキルを持って生まれる。

 その種類は様々だが原則として一人一つのスキルしか扱えない。

 だが何事にも例外がある。

 ヴァーゴのように見よう見まねで他人のスキルの劣化版を使えるようになる者もいる。

 目の前のリブラのように、強力なスキルを複数扱える者もいる。

 広い中庭で対峙するヴァーゴとリブラ。

 今この時において、リブラの他者の思考を読み取るスキルは面倒きわまりないものだった。


「手の内をバラす傲慢さは命取りだぜ」

「これは余裕だ。何も知らずにあっさり死んでもらっては困る。お前ほどの強者と死闘を繰り広げた上で勝つ、その極上の快楽に浸りたいんだ」


 リブラは感情のない瞳はそのまま、口の端を上げて笑った。

 ヴァーゴは内心で叫びながら斬りかかった。


(それを傲慢と言うんだぜ!)


 デルフィンの剣撃を受け止める瞬間、ヴァーゴの体が軽くなった。


「──!?」

「気を付けないと死ぬぞ?」


 軽くなった一撃を無視し、大振りの攻撃がヴァーゴの首をねらった。

 とっさに引いたデルフィンで受けつつも肩に食い込んだ長剣の勢いのまま飛ばされ、身をくるりと回転させて足裏で二本の轍をつくった。

 出血した肩の傷はすぐに自然治癒した。


 重力を操るスキルは負荷を掛けて重くするだけでなく、通常の重力を相殺して軽くすることもできるようだった。

 リブラが殺しを楽しむ変質者であったのが幸いした。

 経験を積み、タダでは死なない覚悟を持っているとはいえ、強者との戦闘では一瞬の隙で命が刈られる。

 以前のヴァーゴであればナメられたことに激昂していただろうが、今は殺人狂の傲慢さに感謝の気持ちさえ覚えた。

 身のこなしも剣捌きも研ぎ澄まされている上に思考まで読まれては勝ち目がない。

 ヴァーゴは全身に力を込めて駆け出した。


(二十年!!)


 スキルでさらに強化した肉体が一瞬でリブラの懐に潜り込む。

 速度と重みを伴う下からの斬撃を長剣で受け流され、腹に膝蹴りをもらった。

 肺の空気が吐き出されるも、間髪入れずに追撃を斬り込む。

 思考を読み取っていたリブラは軽々と避け、加重した長剣の一撃をヴァーゴの胸に刻んだ。


 噴き出す血を気にも留めず、さらに力任せの剣撃を打ち込んでいった。

 思考が読まれたとて、高速の太刀筋すべてをいなせるはずがない。

 ヴァーゴの猛攻を受け止めれば隙が生まれる。

 リブラは回避と受け流しに徹し、殴打に蹴撃を混ぜながら反撃を繰り返した。

 ヴァーゴの読み通り、防御に徹するリブラに剣撃を放つ暇はない。


 そう確信した次の瞬間、重力負荷がヴァーゴの体を襲い、両脚に深い傷を負った。


「クソがッ!!」

「弱い弱い弱い弱い!」


 ヴァーゴの猛攻から一転、リブラの緩急おり交ぜた剣撃のラッシュが襲い掛かった。

 一方的な攻撃が続けば勝機が生まれる。

 だが、戦い慣れたリブラはもっとも効果的なタイミングで重力スキルを組み込んでヴァーゴのリズムを崩した。

 速度のある重撃だけでは限界があることを悟ったヴァーゴは攻撃に一手を加えることにした。

 なるべく無心に、体が覚えている動きの隙間にそれを紛れ込ませる。


 リブラが斬撃を受け流した瞬間、ヴァーゴの手元に突如、落ちてきた魔法拳銃が握りしめられ魔法弾を撃ち放った。

 とっさに回避したリブラの肩の上辺を撃ち抜き、青白い魔法弾は宙に消えた。


「いいぞ! 今のはいい!」


 魔法拳銃を滑り落として『アイテムボックス』にしまったヴァーゴはデルフィンで攻撃を受け止めた。

 殺し合いに愉悦を覚え始めたリブラに頭の中が澄んでいくのを感じた。

 流血しては再生し、攻撃しては防御し。

 過熱していく剣撃の嵐の中、まるでダンスを踊っているかのような錯覚さえ覚えた。

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