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厳重のリブラ

 中庭に立つリブラを囲うように散らばっていた刺客たちは地面に突っ伏していた。


「な……!?」


 リブラが長剣を振り下ろした瞬間、景色が歪んだのをヴァーゴは見逃さなかった。

 リブラ以外の物、人に通常の何倍もの重力の負荷がのしかかっていた。

 足元の草はぺしゃんこに潰れ、刺客たちは何が起きたかもわからず身動きが取れずにいた。


「ほぉ、そこのお前、これに耐えるか」


 リブラはゆっくり刺客に近づき、長剣で首を切断した。

 悠然と歩いて一人、また一人と刺客の首を刎ねていく。

 雑草を駆除するように淡々と、無感情に。


「厳重のリブラ……!」

「その呼び名を知っているか。なに、大した由来じゃない。見ての通り、重力を操るというだけの話だ」


 六人目の刺客を亡き骸に変えたリブラは唯一の生き残りであるヴァーゴに向き直った。

“厳重”とは情報統制をしているなどという理由ではなかった。

 ただ単純に“厳しい重さ”で敵を無力化するスキルの使い手というだけの話だった。


「種が割れりゃあ、つまらねえ二つ名だ」

「真実とは往々にしてそんなものだ。そして二つ名は再び由来不明になる」

「気がはええ奴は早死にするぜ。それは俺を殺せたらの話だ」

「殺せるさ。俺は強くなりすぎた」


 ヴァーゴに近寄り、振り上げた長剣を振り下ろした。


(十年!!)


 スキル『命取り』で寿命を消費したヴァーゴは全身の筋力を強化し重力の負荷に抗った。

 立ち上がりざまデルフィンで斬り上げ、リブラの剣を受け止めた。


「お前、やはりただの刺客ではないな。何者だ?」

「答えたところでてめえは覚えてんのか?」

「わからんだろうな。数えきれないほどの人間を殺した。掃いて捨てるほど恨みを買っている」

「てめえは名前も知らない男に殺される。それで十分だ」


 ヴァーゴの前蹴りを膝で受け止めて後ろに飛んだリブラは改めてヴァーゴをじっと観察した。


「強い怒り、深い恨み、それでいて乱れぬ感情。よほど醸成してきたか」

「雇われの暗殺者とは年季がちげえんだよ」

「なるほど……。これは楽しめそうだ」


 リブラは姿勢を正し、重力のスキルを解除した。

 ヴァーゴは不意に軽くなった体が浮かないように地面を斜めに蹴って体勢を維持した。

 月光に照らされ、感情のなかった表情が笑みの形に歪んだ。


「俺は人間を殺すのが好きだ。生まれつき生き物を殺すのが好きだった。抵抗する人間は殺しがいがあった。だが俺のスキルが成長するにつれ、殺しがいのある人間がいなくなった」

「自己紹介は終わりか? なら死ね」


 一足飛びに斬りかかったヴァーゴの一太刀を受け止め、つばぜり合いながらリブラは言葉を続けた。


「生きるか死ぬかの瀬戸際をくぐり抜ける。これほどの快楽はない」

「じゃあギリギリで死ぬ快楽を味わわせてやるよ!」


 デルフィンに魔力を流し、上向きの力を発生させて弾き上げた。

 長剣ごと両腕を持っていかれたリブラの胸に横薙ぎの一撃を見舞う。


「──!?」


 だが、リブラはまるで攻撃を予想していたかのように後方に飛びながら体をくの字に曲げて回避した。

 デルフィンを振り抜いたヴァーゴにカウンターの突きが襲い掛かる。

 体をひねって腋に浅い傷を負う。

 ヴァーゴは飛びのき、いったん距離を取った。


「すまん、言い忘れていた。俺は未来が見えるんだ」


 ハッタリだと分かっていても目の前で行動を読まれると動揺しそうになる。


「俺も言い忘れていたぜ。軽い傷なら回復しちまうんだ」


 流血した腋の傷はすでにスキルで向上した自然治癒力で傷口がふさがっていた。

 リブラはうっすら笑いながらヴァーゴの言葉を否定した。


「嘘は良くないな。お前の能力はあくまで身体能力の向上。だが代償が大きいようじゃないか。そしてお前の得物、それは魔剣だな?」

「…………」


 驚きが顔に出ないようにリブラを睨みつけた。


(やばいぜ相棒! こいつ──)

(わかってる。ギャアギャア喚くな)


“未来が見える”というのが大袈裟なのは想定通りだった。

 しかし、あくまで嗅覚や聴覚が極端に鋭いだけだろうと仮定していたヴァーゴの仮説は最悪の形で覆された。

 厳重のリブラは人の思考が読める。

 人を殺すことを楽しむリブラにとってこれほど強力で、リブラを殺そうとする者にとってこれほど厄介な能力はなかった。

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