前倒し
宿にもどったヴァーゴは仰向けにベッドに身を投げ出した。
天井の一点を見るでもなく見つめ、思考する。
『んで、どうすんだい、相棒?』
「俺の考えてることはわかってんだろ?」
『思考は共有できるがむやみに覗きはしねーさ』
「……計画を前倒しする」
ヴァーゴはポツリとつぶやいた。
重大な決断であるその言葉を、何気ないことのように。
『ま、そうなるかと思ったぜ』
「状況が整いすぎてる。逆に今を逃したらこれ以上の好機はないんじゃねえかってくらいにな」
ヴァーゴは片手を天井に伸ばし、握りコブシを作った。
「奴のスキルについて、あれ以上の情報はもう手に入らねえだろう。あれは奴の側近でもなきゃ知りえねえもんだ。そして二人が作ってくれたとびきりの魔導具。汚染されていく街に混乱してるだろう奴の商会。過去にないレベルで強力な刺客を送り込む話。どう考えても今しかねえ」
リブラの“厳重”という二つ名はまだしも、直接スキルに関わりそうな“未来が見える”というウワサは極めて貴重な情報だ。
さらにラッセルとビジーがこしらえてくれた特別な魔導具。
麻薬に侵されていく街に、その麻薬の出所がおそらくリーブロ商会内部の裏切りによるだろうと考えるしかない規模と速度。
リブラほど用心深い男が身内をも完全に信用できなくなっているであろうこの瞬間。
その上、リーブロ商会に恨みを持つ複数の商会が送り込む、過去一番に強力で人数も多いという襲撃の話。
この機を逃す手はない。
『魔導具の商人として近づく計画がムダになっちまうな』
「仕方ねえさ。野郎のあの眼を見ちまったら、いくら信用を勝ち取って近づこうとも油断する姿が欠片も想像できねえ。あの野郎は、結局のところ真っ正面からぶっ殺す以外になかったってだけだ」
『グッドマンの野郎だったら慎重になれ、とでも言ったかね?』
「いや、あの野郎ならこう言ったはずだ。臨機応変に、チャンスは絶対に逃すな、ってな」
二日後に決行される襲撃のメンバーに加わる予定であるヴァーゴは目を閉じて眠りに落ちた。




