毒を流す
リーブロ商会とは、ゲンナル商会と取引している商品以外の高級品のみ取引することで契約が成立した。
会長代理ショルズの言葉を借りれば贅沢品を購入するのは道楽である。
ならば使い道などほとんどない高級品のみ取引するという条件でも商会側に不利益はなかった。
ショルズの言葉を用いてリーブロ商会に利益をもたらすことを約束したヴァーゴは「食えない男だ」と評された。
ヴァーゴは内心で(食われてたまるか)と言い返した。
『相棒、こいつは危ない橋を渡るってやつじゃねーのか?』
「この程度は危ないうちに入らねえよ。それに、計画っつーのは限りなく成功率をあげるためにできることはすべてやっておくもんだ」
『どっかの誰かさんに似てきたな』
「笑えねえ冗談だぜ」
深夜、ヴァーゴは腰元に魔剣デルフィンをさげ、港の倉庫地区に来ていた。
旅をしていたときの服装に頭まですっぽり覆える黒色のマント、口元を隠すフェイスカバーまで完備している。
今のヴァーゴはどこからどう見ても闇にまぎれる盗賊のような装いだった。
ヴァーゴが考えた計画は歓楽都市エクサリドで行ったものに似ている。
一点の裂け目もない盤石な岩を砕くのは難しい。
だが、岩に亀裂が入っていれば話は別だ。
治安と秩序が維持されているブルーカフスでは些細な荒事が目立ちやすい。
それならば人工的に亀裂を作り出してやればいい、それがヴァーゴの作戦だった。
倉庫の屋根の上からリーブロ商会の歩哨の状況を確認した。
警備員は四人。
リーブロ商会の所有する倉庫すべてを見張っているように見えて、ある倉庫を中心にして順繰りに歩いて警備している。
悪事を働く者がもっとも警備を手厚くしているということは、逆に言えばそこにもっとも重要なものが隠されているという証拠。
哨兵たちが見回っている中心の倉庫に麻薬があると見て間違いない。
ヴァーゴは倉庫前で見張る二人に見つからないよう静かに地面に降り立った。
足音を抑えながら見回っている一人の背後に近づく。
後ろから片手で口をふさぎ、デルフィンで喉をかっさばいた。
続いてもう一人の歩哨も殺し、倉庫の壁面にへばりついた。
(バレてねえな)
ひとつ深呼吸をし、倉庫前の見張りに飛びかかった。
声を上げる間もなく男の首が刎ねられた。
視界の端に動きを察知した最後の見張りが仲間のいたほうを振り向いた。
「あ?」
それが最期の言葉だった。
肩から反対側の腰元まで力任せに切り裂かれ、血と臓物を撒き散らして絶命した。
「……よし」
『お前さん、暗殺者としても食っていけるな』
「こそこそするのは性に合わねえよ」
デルフィンの軽口をいなし、ヴァーゴは倉庫の扉を交差する形に大きく切り裂いた。
切り跡を足で折り曲げ、侵入する。
倉庫内には大量の木箱、木樽で埋め尽くされていた。
「まさかこれ全部がブツってんじゃねえだろうな」
『大陸中にばら撒くってんならありえねー量じゃねえぜ』
「グッドマンなら火を放っていたかもな」
『違いねーな』
悪を憎む、かの男ならきっとそうしただろう。
だがヴァーゴの目的は違う。
近くの木箱のフタを開け、大量に収まっている革袋の中身を確かめた。
「アタリだ」
木箱だけでなく木樽にも大量の粉が収納されていた。
ヴァーゴは可能なかぎり『アイテムボックス』に収め、現場を後にした。
ヴァーゴの『アイテムボックス』はグッドマンから見よう見まねで習得したスキルであるため、その収納できる量には限界がある。
それでも倉庫内の半分以上を奪うことに成功した。
翌日、冒険者ギルドで人相の悪いならず者たちに片っ端から儲け話を持ち掛けた。
商船団が帰還した今となっては冒険者たちは手持ち無沙汰だ。
後日、開催される遠洋祭を楽しんだらほとんどの者はこのブルーカフスから出て行くだろう。
それを利用するのがヴァーゴの計画だった。
また、リーブロ商会に対して恨みを持つ商会の中でも二度以上、刺客を送り込んでいる商会の勝手口に木箱や木樽を置いて回った。
今回の商船団からの仕入れが値上げによって困難だったことも追い風になった。
金を稼いだら姿を消すならず者、リーブロ商会に並々ならぬ恨みを持つ商会。
ヴァーゴが用意した毒は数日も経たずに港湾都市ブルーカフスを侵食していった。




