監査役の騎士
ヴァーゴはラッセルから得た情報を頼りに監査役の王国騎士に挨拶へ向かった。
「監査」と一言で言ってもその意味するところは細かく定義されていない。
主に領主に対する牽制が役割だろうが、その都市の治安や商売など幅広い範囲について見張ることが仕事と考えられる。
逆説的にこの街で商売をする商人が手土産を持って挨拶したところで不思議はない。
見張り役の騎士とねんごろになっておいて損はないからだ。
領主の屋敷にほど近い高級宿舎をたずねたヴァーゴは会食の予約を取り付けた。
数日後、近くの酒場で食事をすることになった。
「はじめまして。レオ・ヴァンドールと申します」
「商人、でいいんだな? わざわざ面通しをしようだなんて律儀なやつだな」
「最近この街にやってきた流れの商人でして、ここで商売をする上で騎士様にご挨拶しておくべきかと思いました」
「この街が気に入ったのか?」
「ええ、ここはとても素敵な街ですね」
「そうかい。そりゃあ良かった」
短髪に黒髪の騎士は気だるげにエールを煽った。
「ジョー・マネナグだ」
「よろしくお願いします。マネナグ様」
「様なんか付けなくていい。かたっくるしいったらないぜ」
「ではマネナグさんで。この街だとお仕事もやりやすいのではないですか?」
「そうだな、治安もいいし景気もいい。俺みたいなごくつぶしにとっちゃ、願ってもない出向さ」
「ごくつぶし、ですか」
「隠したってしょうがねーか。俺は剣の腕だけを買われて王国騎士団に入ったが、正直に言えばお堅い身分で給金がもらえればどこでも良かったのさ」
「王国騎士団といえば王家のお膝元。さぞや立派にお仕事をこなされていたのでしょう」
「おべっかはいい。あそこは俺みたいなナマケ者が働くには真面目すぎたのさ。人には生まれ持った性分ってやつがあるだろ?」
「ありますねぇ」
「真面目に働くだけじゃない。剣の稽古にお上の護衛任務。無駄に多い式典への参加。礼儀も作法も大嫌いな俺にとっちゃ監獄みたいな場所だったぜ」
ジョーは愚痴を吐きながらも騎士団をけなすような言葉は使わなかった。
騎士の職にかじりつく上で学んだ最低限の作法なのだろう。
「そんな怠惰な俺がこのブルーカフスの監査役に選ばれたのは当然っちゃ当然だ」
「一つの都市を監査する重要な役割ですので仕事熱心な方かと思いました」
「ハハッ、逆だぜ逆」
ジョーは分厚いステーキ肉を口に入れてモグモグと噛みしめ、エールを流し込んだ。
「騎士団だって組織には違いない。組織で足並みを揃えられない人間がいたらどう思う?」
「……厄介、ですかね」
「うまいこと言葉を選んだな。要するにめんどくさい奴は地方都市に飛ばされるって話だ」
「厄介払い、ですか……」
茹でた野菜を咀嚼して飲み込んだジョーは、ヴァーゴに顔を近づけて周囲に聞こえないよう小声で、
「そもそも地方監査ってシステム自体、厄介者を追い出すために作られたって話もある」
「そんな……」
「昔の副団長……今の団長さんが、真面目すぎて融通の利かない野郎を追い出すために作ったってウワサがあるぐらいだ」
「…………」
ヴァーゴは表情こそ崩さなかったが、とっさに返答できなかった。
ジョーは顔を離してステーキ肉を切り分けた。
「……周りがうるさくて聞き取れませんでした」
「それが賢明だ。あんた、きっとうまく稼いでいけるぜ」
「そう願っています。さあ、どんどん召し上がってください。今日は私が支払いますので」
「ありがたくいただくぜ」
ヴァーゴはジョーの機嫌を取りながら王国騎士団の地方監査というシステムのことで頭がいっぱいだった。
地方都市の監査役になった真面目すぎて融通の利かない騎士。
この文言にピッタリ当てはまる人物をヴァーゴは知っている。
グッドマンの復讐は完璧だった。
彼を貶めた元凶をその手で殺せたのだから、満足して逝ったと言っていい。
だが、ジョーの漏らした王国騎士団の過去の経緯の話は、ヴァーゴの頭の中に魚の小骨のように引っかかって取れなかった。




