ゲンナル貿易商会 2
「はじめまして、レオ・ヴァンドールさん。会長のゲンナルです。お話によると我が商会を通して魔導具の商売をしたいとか……?」
「はじめまして。はい、おっしゃる通りでございます」
会長室に案内されたヴァーゴは『礼儀作法』による笑顔を貼り付け、会長のゲンナルを観察した。
やや老齢に差し掛かった男で頭はスキンヘッド、顔に刻まれた深いシワはここまで商会を大きくしてきた苦労がうかがえた。
目は開いているのか閉じているのか分からないほど細く、その風貌だけ見ると修行僧とでも言われたほうがしっくりくる。
そばに立っている中年の男は副会長だろうか。
「ヴァンドールさんはこの街の魔導具の流通についてはご存じで?」
「簡単にですが調べました。どうやらあまり盛んに取引されていないようで……」
「残念ながら、おっしゃる通りですな」
ゲンナルは湯吞みのお茶を一口すすり、
「しかし、流通がないというのは裏返せばチャンスでもあります。とりわけ、魔導具に関して精通した者がいるのなら、これほどの商機はない」
「私もそう思います」
「問題はその“魔導具に精通した者”がめったにいないということです」
ゲンナルは片目を開いてジッとヴァーゴを見つめた。
ヴァーゴは暗に言いたいことを理解した。
お前は本当に魔導具についての知識と目利きができるのか、と。
「つまり、私がその“魔導具に精通した者”であることを証明すればいいわけですね?」
「失礼ながら、そういうことになりますな」
「いえいえ、当然の発想です。もし私が詐欺師であったなら御商会に損失を与えることになってしまいますからね」
「ご理解いただけるなら話が早い」
ゲンナルはそばに控えていた中年の男に指示を出した。
男は部屋から出て、商品の載った台車を押して戻ってきた。
「試すようで心苦しいですが……」
「実力を証明しなければ信用されない、当然のことですからお気遣いなく」
ヴァーゴはソファから立ち上がって台車の上に載せられた商品に視線を落とした。
魔導具は三つ。
さっそく手前のものを手に取った。
「どのような効果を持つ魔導具か、販売するなら適正価格はいくらか、鑑定してもらえますかな?」
「もちろんです」
一つ目の魔導具は加工を施されたランプだ。
生活用品として金持ちのあいだに出回っているもので間違いない。
『魔導具の知識』に照らし合わせて、その価値を計算していく。
「これは魔導具師によって加工されたランプですね。効果は通常のものより油の持ちがよくなるというもの。ただ……、これは加工が雑ですね。おそらく効果は通常より二割増しで長持ちするという程度でしょう。販売価格は金貨一枚か、銀貨五枚がせいぜいですね」
「ふむ……」
ヴァーゴの正確な鑑定にゲンナルはうなった。
続いて二つ目の魔導具を手に取る。
冒険者向けの革鎧だ。
「これは……加工ではなく純粋な魔導具ですね。魔力を持つ者が魔力を流さないとただの革鎧となんら変わりません。ちゃんと魔力を流して使えれば、防具としての性能は三倍以上でしょうか。これほどのものなら金貨十枚でも高くはありません。利益を見込むなら金貨十五枚から二十枚といったところでしょう」
最後に三つ目の魔導具を手に取った。
それは銀製の綺麗に磨かれたフォークだった。
一見して高級なのがわかる。
「これは……ただのフォークですね。魔導具ですらない。最後にひっかけを持ってくるとは面白い試験です」
「……うむ、お見事だ」
ヴァーゴはソファに座り、中年の男が台車を片付けた。
「ヴァンドールさん、あなたの知識と目利きは本物のようですね」
「信じていただけてよかったです」
ヴァーゴは安心したように胸をなでおろして見せた。
満足そうに表情をゆるめていたゲンナルは、唐突に緊迫した表情をつくった。
「最後に質問です。ヴァンドールさんほどの腕を持つ商人が、なぜうちをたずねてきたのですか?」
「…………」
ヴァーゴは貼り付けた笑顔のまま固まった。
まさか本当の目的を話すわけにはいかない。
だが、ゲンナルを納得させるだけの理由を告げなくては信用を勝ち取れない。
張り詰めた空気の中、ゲンナルもそば仕えの男も微動だにせずヴァーゴの返答を待っている。
ヴァーゴはもごもごと言いにくそうに言い淀み、
「……この街ではリーブロ商会がもっとも権力を持ち、資金も販路も他の商会の追随を許さないほどであることは知っています」
「あなたほどの商人ならリーブロ商会でも受け入れられたでしょう。そこに違和感を覚えますな」
「包み隠さずお話するなら、すでに大成功を収めている商会と成長途中の商会、どちらのほうが重宝されるかを考えました」
「なるほど……。ですがリーブロ商会でも十分な報酬と地位は約束されたと思いますが?」
ヴァーゴは片手で頭を掻き、ため息をついた。
「正直に申しましょう。大きな組織でこき使われるのが嫌いなのです。私は流れの商人ですから、人の下について命令されるのが苦手なのですよ。性に合わない、としか言えませんね。ハハハ……」
困り顔で本音をさらしたふりをするヴァーゴに、ゲンナルは笑みをこぼした。
「なるほど、それなら合点がいきました。おっしゃる通り、うちではあなたを重宝します。立場は対等に、誠実にお付き合いすることをお約束しましょう」
「ありがとうございます」
ゲンナルが差し出した手を握り返した。
欠点のないように見える者が見せる感情的な一面、これほど人間味を感じさせるものはない。
ヴァーゴは自分のことながら、このような演技ができたことに驚きを覚えていた。




