ゲンナル貿易商会
再びラッセルと会食した際にヴァーゴはある依頼をした。
この港湾都市ブルーカフスを拠点とする商人で、かつドクヘビの息が掛かっていない者の中で成功している商人の情報。
ラッセルは依頼を快諾し、別れ際に小さな笛の魔導具をくれた。
表向き商人に扮することで会合しても不自然ではなくなったため、ビジーからの伝書鳩だけでは情報の共有に手間がかかる。
そこで特定の個人の魔力の波長に合わせた音が鳴る犬笛、それが笛の魔導具の正体だった。
この都市には魔導具師もいるため、そもそも存在自体が希少な魔法使いのビジーの魔力に波長を合わせているようだ。
犬笛を吹くとビジーにだけ音が聞こえ、ビジーから伝書鳩が届く仕組みだ。
最後にラッセルは犬笛を使う際の注意事項を伝えた。
「よっぽどの急用なら別だが、基本的に夜は吹かないでほしい」
「それはなぜですか?」
「簡単だよ。晩ごはんを食べるとビジーは眠くなってしまうのさ」
思えばビジーはまだ子供だった。
ラッセルは冗談っぽく笑って去っていった。
数日とかからず、ビジーから伝書鳩がとどいた。
メモ書きには「ゲンナル貿易商会」とだけ書かれていた。
さっそくヴァーゴは商人風の服を身にまとい、見せかけのカバンをさげてゲンナル貿易商会をおとずれた。
商会の建物はマーカス商会やターンウッド商会ほど立派なものではなかった。
「すみません、ゲンナル貿易商会でよろしいでしょうか?」
「どのようなご用件でしょうか?」
「私は旅の商人のレオ・ヴァンドールと申します。この度、ブルーカフスで商売をしたいと思いまして、もしよろしければ御商会様と懇意にしていただければと伺った次第です」
受付の事務員はヴァーゴの頭のてっぺんから足の先までじろりと観察し、
「申し訳ありませんが現在、当商会では商人の募集をしておりません」
「おっと、言い忘れました」
ヴァーゴは大げさに片手で頭を押さえ、
「私は魔導具専門の商人をしております。魔導具の知識と目利きには自信がございます」
「魔導具、ですか……」
事務員は指をくちびるに当て、すこし考え込んでから返答した。
「少々、お待ちください」
「はい」
事務員は席を立ち、奥へ引っ込んだ。
待っているあいだ、ヴァーゴは商会の内部を観察した。
事務員たちが机に向かって書類相手に格闘している。
その光景がマーカス商会での日々を思い出させ、猫背でやる気のなさそうな先輩の顔が脳裏に浮かんだ。
ビリーは街を出たのだろうか。
あるいは事件と同時に失踪した後輩のことを気に掛けず、今もマーカス商会で働いているのだろうか。
ヴァーゴのめずらしい物思いは帰ってきた事務員の声によって中断された。
「レオ・ヴァンドールさん、会長のゲンナルがお会いしたいと申しております。こちらに来ていただけますか?」
「それはありがたいです! ぜひ、喜んで!」
事務員の案内に従ってヴァーゴは奥へ入っていった。




