お人好しが繋ぐもの
スキル『命取り』の強化により、すぐにビジーと合流したヴァーゴは抱えていたラッセルを下ろした。
「師匠!」
「ビジー!」
クズ師匠と罵っていても命を拾われ、育てられた身。
ビジーはラッセルに抱きついて再会の喜びに涙を浮かべた。
「てめえら、テアーズで最低限の荷物をまとめて急いで街を出ろ。港湾都市ブルーカフスの方角へ、だ」
「あんた、師匠の知り合いか? 助けてくれてありがとう!」
「時間がねえ。ビジー、そいつを連れて逃げられるな?」
「うん。師匠、ヴァーゴはいい人。大丈夫」
コクリとうなずいたビジーはラッセルの服のすそを引っ張った。
山賊に負けない悪人面のヴァーゴを信じ切れていないようだったが、ビジーの言葉を信じてラッセルも早足で動き出した。
二人が街へ向かっていくのを確認し、元来た道を振り返ったヴァーゴは砦の方から強い光が瞬いたのを視認した。
戦いが始まっている。
遠距離からの援護射撃でゴランの砲撃の強力さは理解している。
だが、近距離での戦闘でどこまで戦えるのかは不明だ。
ヴァーゴは砦へと続く道を全速力で駆け出した。
ヴァーゴが目的地にたどり着いた時、すでに山賊のアジトは跡形もなかった。
たき火の爆ぜる音が響く中、ゴランは地面に片膝をついていた。
山賊の気配はしなかったが警戒しながらゴランに近づき、
「おいジジイ、死んでんじゃねえだろうな?」
「この程度でくたばるほどヤワじゃないわ」
荒い語気は健在だったが、ヴァーゴを見上げるゴランの額には大量の汗が浮かんでいた。
ゴランは力尽きたかのようにドサリと仰向けに倒れた。
『爺さん!』
「おいジジイ!」
「やかましい……、聞こえとるわい」
「じゃあなんで倒れてやがんだよ」
ゴランは原因となった傷口を見せた。
『相棒、こいつは……』
「この色、毒じゃねえか」
「ヘッ……焼きが回ったわ」
「老体が無理すっからこんなことになんだよ」
「返す言葉もないわい」
いつになく弱気な返答にヴァーゴはすべてを察した。
山賊が使う毒なら眠らせるか殺すためのもの。
戦いで受けた毒なら、それはすなわち致死の毒。
ゴランが治療に動いていないことから対処法がないことも理解した。
つまり、ゴランはここで死ぬ。
「ジジイ……」
「ヴァーゴ、これを付けろ」
『アイテムボックス』から灰色に黒い模様が入った首輪を取り出した。
「なんのつもりだ?」
「急げ。時間がない」
問答無用で押し付けられた首輪を受け取り、ヴァーゴはしぶしぶ首にはめた。
カチリと首輪を閉めた瞬間、それはヴァーゴの首に吸い付くように密着した。
「おい……!」
「隷属化の首輪、これでお前はわしの所有物になった」
「どういうつもりだ!?」
「これも付けろ」
問いかけには答えず、ゴランは再び『アイテムボックス』から指輪を取り出した。
押し付けられた指輪に対し、ヴァーゴの体は意志とは無関係に受け取って指にはめた。
隷属化の首輪という魔導具の力が本物であることを実感した。
「おい、ジジイ」
「黙っとれ」
ゴランはヴァーゴに向かって片腕を上げた。
持ち上げられた指先に青い光が灯り、空中に魔力を込めた文字を書いていった。
指は震え、毒がゴランの全身を侵していることがうかがえた。
文字を書き終えると同時に腕をドサリと地面に落とした。
「それは帰属化の指輪だ。持ち主が所有物に一つだけ自分の属性を付与することができる」
「属性だと……?」
「与えたのはわしの種族だ。これでお前はヒト族であると同時にドワーフ族になった」
ヴァーゴは全身にわずかに力を入れた。
それだけで以前よりもはるかに大きな力が湧き上がってくるのを感じた。
「ドワーフ族の特長は体力、頑丈さ、器用さ、様々あるが……ゴホッ!」
咳き込んだ口から黒く濁った血が吐き出された。
ゴランは口元の血をぬぐうこともせずに続けた。
「お前にとって最も価値のある特長は……寿命だ」
ドワーフ族が長命であることはヴァーゴも知識として知っている。
以前、ゴランから聞いたところによると三百年から四百年ほどだという。
自らの寿命を削って戦うヴァーゴにとって、これ以上ない置き土産だった。
ゴランの首元がうっすらと緑色に変色していた。
「最初は口だけのクソガキだと思った。ウィリアムの人を見る目も曇ったか、とな」
片目を閉じたまま、独り言のようにつぶやいた。
ヴァーゴは黙ってゴランの言葉を聞き入れた。
「だが、お前はウィリアムの復讐を助けた。あやつが往生できたのもお前のおかげだ。その礼とでも思っておけ」
ゴランは開いている片目に力を込め、ヴァーゴを射貫くように見つめた。
「最後の土産だ。わしを殺せ。そして必ず復讐を成し遂げろ。わしとウィリアムの魂に誓って! 必ず、だ……!」
口から濁った血の泡が漏れていた。
ヴァーゴはデルフィンを抜き、ゴランの全生命力を込めた視線を正面から受け止めた。
「……誓うまでもねえ。俺は命を捨ててでも復讐を完遂する」
ヴァーゴはゴランの視線を受け止めながらデルフィンを振り上げた。
「ハッ! それでいい!」
「あばよ……、ゴラン!」
ヴァーゴは全力を込めてゴランの首にデルフィンを振り下ろした。




