ラッセル救出作戦
「鉄錆の剣」のアジトは山間の入り口付近にある捨てられた砦だという。
山賊どもが酒を飲んで酔っ払う頃合いが良いだろうとの判断で、ヴァーゴとゴラン、そしてラッセルの位置と無事を確認するためにビジーも同行し、山の砦近辺の森まで来ていた。
あたりは薄暗くなり、日が沈むのを待った。
「ビジー、ラッセルは無事か?」
「うん。アジトのほうに魔力の反応がある」
「そうか。お前さんはここで待っていろ。ラッセルを助けたら一緒に街まで逃げ、そのまま街から出ろ」
「わかった」
コクリとうなずいたビジーは木の陰に身を潜ませた。
日が完全に沈み、砦にたき火の明かりがついてしばらく経ち。
「行くぞ」
「おう」
ヴァーゴとゴランは山賊の砦へ向かった。
砦の入り口前の見張りが近づいてくる二人に気付いて大声をあげた。
「てめえら何者だ!」
「領主マーブルに頼まれて身代金を持ってきた。お前さんらのカシラに会いたい」
「……そこを動くんじゃねえぞ!」
見張りの大声ですでに酒盛りが中断されていたのだろう、見張りはすぐに戻ってきた。
「ゆっくりついてこい! 妙な動きをしたらすぐに殺すからな!」
松明を持った男は警戒しながら砦の中、広場になっている場所までヴァーゴたちを案内した。
大きな広場では酒盛りをしていた跡が残っていた。
だが今は各々の武器を手に、赤ら顔の山賊どもは怪しい侵入者に敵意を向けていた。
「カシラ! 連れてきやした!」
「おう。さがれ」
広場にはざっと百を超える山賊がいた。
敵意の視線は砦の上階ののぞき穴からも突き刺さっており、砦内部にも山賊が飛び道具を構えて潜んでいることがうかがえた。
カシラと呼ばれた大男が大剣を手に立ち上がった。
伸ばし放題の黒髪とヒゲが野卑な人相に似合っていた。
「てめえらが領主様の代理ってか。若いほうは冒険者、ジジイは……魔導具師か? おい、ブツは持ってきてんのか?」
下卑た悪人面だが勘は鋭いようだった。
山賊の集団をまとめているだけのことはあるようだ。
ヴァーゴとゴランの見た目から、その役割と大まかな危険性を測ったのだろう。
「これだ」
ヴァーゴがゴランの前に立ち、懐から深い青色の鉱石を取り出した。
腕利きの魔導具師にしか扱えない魔導具加工のための希少な鉱石。
その頑丈さは剣でも切れず、鉄砲でも砕けない。
ヴァーゴがかざしたプリズマダイトに向かって、山賊の頭領はおもむろに取り出した鉄砲の引き金を引いた。
(『一ヶ月』!)
ヴァーゴはすかさずスキル『命取り』を発動させた。
大男の放った弾丸はプリズマダイトに命中し、ガキィィンと甲高い音を立てた。
弾丸の破片は服を貫通し、ヴァーゴの腕や胸に埋まり、すぐに筋肉の修復に押し返されて地面に落ちた。
「ハッ! どうやら本物みてえだな! おいお前! あの魔導具師を連れてこい!」
命令された山賊は砦の中へ急いで走っていった。
「しかし、急に攻撃されたのに避ける仕草も見せねえか……。男、てめえ何者だ?」
「流れのならず者だ。名乗るほどのもんじゃねえ」
「それだけの腕と度胸があってねえ……。てめえ、いい目をしてやがる。俺らの仲間になれ」
「寝言は寝て言え」
「ハッ! 面白えやつだぜ!」
目的のためには人殺しもいとわないヴァーゴを気に入ったようだ。
ある意味、見る目があるとも言えるだろう。
だがヴァーゴにはやらなければならない目的がある。
性質は似ていても、その残虐性の動機には大きな隔たりがあった。
「連れてきました!」
山賊が連れてきた顔だけはいい優男はゴランの姿を見て思わず口を開けた。
「ッ──!」
「魔導具師ラッセルだな! わしは同じく魔導具師のゾルン! 領主マーブルに依頼されてお前さんを助けに来た!」
「…………」
師匠、と呼ばれる前にゴランは自ら偽名を名乗った。
開きかけた口をそのまま閉じ、ラッセルはゴランの作戦を理解したようだ。
腕のいい魔導具師の師匠ともなれば、その危険性は山賊どもにも伝わってしまう。
事前に聞いていた通り、異性関係にだらしない部分を除けば頭の切れる男だった。




