赤錆の街テアーズ
ゴランの弟子がいるという街は城壁も通用門もなかった。
街の建物はすべて石造りのもので、外から見ただけでは赤錆の街と呼ばれるような見た目はしていなかった。
「なんで赤錆なんだ?」
「海から吹く潮風が山間を通ってくるせいで鉄が錆びるんだ。だからこの街じゃ鉄は使われない」
『まさか俺様も錆びたりしないよな?』
「お前さんなら大丈夫だろう。わしの見立てだが、お前さんは状態変化の一切を防ぐ加護が施されておる。その証拠に刃こぼれ一つなかろう?」
『たしかに! さっすが俺様!』
「切れ味が落ちねえとは思ってたが、そんなからくりがあったのか」
えっへん!と自慢気なデルフィンの柄頭をこづいたヴァーゴはゴランにたずねた。
「で、あんたは偽名を使うんだったか?」
「ゾルンで頼む」
「めんどくせえな、ちくしょう」
「ゴランと名乗ったらバカ弟子の件で来ました、と自己紹介するようなもんだ」
「それほど有名な魔導具師の弟子と知っていて、わざわざそのバカ弟子に手を出した奴がいるってことだろ。厄介なニオイがプンプンしてきたぜ」
「そこまではわからん。あいつもあいつで問題があるからな。詳しくはお前さんに冒険者ギルドで情報収集をしてもらいたい。老いぼれが聞くよりガタイのいいお前さんが聞いたほうが都合がいいだろうからな」
「どいつもこいつも人をアゴで使いやがって……」
ゲンナリしたヴァーゴはゾルンと名乗る老人の後に続いて街へ足を踏み入れた。
赤錆の街テアーズはその規模に反して活気があった。
目抜き通りの露店はにぎわっており、客寄せの声が飛び交っている。
「これほど栄えているとは……」
「以前にも来たことがあるような口ぶりだな」
「昔はもっとさびれていた。何十年も前の話だがな」
その言葉にゴランがドワーフ族であることを思い出した。
それだけの年月があれば街が様変わりするには十分だ。
通りすがりの宿で部屋を取り、二人は冒険者ギルドをおとずれた。
ギルドの受付には女性の事務員が座っており、冒険者らしき者たちが手続きをしているようだ。
併設された酒場では昼間から酒盛りをしている冒険者パーティもいた。
見たところ、冒険者が世間一般にならず者と呼ばれて避けられているような粗野な雰囲気は感じられない。
「ずいぶん治安がいいんだな」
「逆だ。冒険者が食いぶちに困らないってことは街の近辺に野盗やモンスターが頻繁に出るということだ」
ゴランは冒険者と目を合わさないように真っすぐ依頼書の貼り出されている掲示板に向かった。
ヴァーゴは酒盛りをしている男たちのテーブルに近寄った。
「ちょっといいか?」
「ああん? なんだい兄ちゃん?」
「剣を加工してくれる魔導具師を探してるんだが……」
「そうか、見つかるといいな! ハッハッハ!」
ヴァーゴは近くの給仕の男に「人数分のエールを頼む」と注文した。
「ここだと鉄の剣は錆びちまうって聞いたもんでよ。エールをおごるから教えてくれよ」
「ほぉ、わかってるじゃねえか兄ちゃん! 座れ座れ!」
ヴァーゴは内心、人の扱いが上手くなっている自分に驚きと呆れを覚えた。




