弟子の弟子の少女
宿にもどった二人は取得した情報の擦り合わせを行った。
「女たらしのラッセル、だってよ」
「あのバカモンが……」
ゴランが手のひらで額を押さえた。
「魔導具師としての実力は本物だそうだ。他にも数人の魔導具師がいるようだが、そのバカ弟子はずいぶん腕が良かったらしい」
「だろうな」
「だが一年ほど前から姿を見なくなったってよ。生きてるか死んでるかも分からないらしい。冒険者の間じゃお偉いさんの女に手を出して処刑されたんじゃねえかと言われてる」
「ふむ……、それはありえんな」
「というと?」
「冒険者への依頼書が貼り出されていた掲示板にあやつの関係者からの助けを乞うチラシがあった」
「なんだよ、そんなもんがあるなら処刑されたなんて話にゃならねえだろ?」
「魔力を込めた文字で書かれていたんじゃよ。商品宣伝のチラシにな。あれは魔力を持つ者にしか読めんようになっていた」
「つーと、そのラッセルを助けたい奴がいる、と素直に考えていいのか?」
「罠ではないだろう。ラッセルと親しくなければ師匠のわしが助けに来るとは考えん。わしもそこに『ゾルン 宿の二階奥』と魔力文字で残しておいた。しばらくはその何者かを待つことになるな」
「また待ちかよ。まあ、いいかげん慣れたけどな」
ヴァーゴはめんどくさそうに、ベッドに仰向けに倒れ込んだ。
数日後、夜に扉をノックする音が響いた。
警戒するヴァーゴを手で制し、ゴランが扉の向こうの来訪者にたずねた。
「誰だ?」
「今日の雨はよくない」
「……製品が錆びちまう」
「手入れをするならオイルが必要」
どこかで聞いた文句を記憶の海から拾い上げたヴァーゴは、それがゴランの工房の合言葉であることを思い出した。
ゴランが戸を開くと年端もいかない銀髪の少女が立っていた。
部屋の外に誰もいないのを確認し、ゴランは少女を部屋に招き入れた。
銀髪の少女は十歳ほどだろうか。
長い髪を首後ろにまとめ、派手ではないがちゃんとした衣服をまとっている。
どこか表情がうつろに見えるのは元からの性格か、ラッセルが消えたせいか。
「嬢ちゃん──」
「ビジー」
「ビジーという名か。あのバカモンとはどういう関係だ?」
「女たらしの不肖クズ師匠の弟子です」
「おい、こいつ師匠のことをクズって言ったぞ」
「事実だからしょうがあるまい」
思わずツッコんでしまったヴァーゴにゴランがため息をついた。
ラッセルの弟子ということはゴランから見れば孫弟子ということか。
「ラッセルの弟子で間違いないんだな?」
「はい。ゴラン師匠」
「わしのことはどこまで知ってる?」
「クズ師匠いわく、頭の固い頑固ジジイ、魔導具オタクの変態ドワーフと」
「……あのバカモンは」
今度こそ部屋の天井を仰いだゴランは目を手で覆った。




