第7話.みんなで食べるご飯が一番美味しいんだ
水中森林で食材を採っていた俺たちの前に、巨大なバッファローの姿をしたモンスターが現れた。
『グガガガガァァ!!』
『うわああああっ!?』
バッファローの突進で近くの木が薙ぎ倒される。
俺たちは慌てて距離を取った。
よく見たらバッファローが纏っているものは毛皮ではなく赤い鱗だった。
鱗の生えたバッファローが再び雄叫びを上げた。また突進が来るかもしれない。
『ういろう、頼めるか!?』
『キュイッ!』
飛び出したういろうが数発、閃光のブレスを吐く。
ブレスを喰らった鱗バッファローは動きを止めたが、すぐに方向転換する。
そして、次はういろうをターゲットに定め水中突進を始めた。
『よ、避けろ!』
『キュウウウウッ!』
ういろうが間一髪で突進をかわす。目標を失った鱗バッファローは木にぶつかるまで突進し続け、やがて大きな衝突音が響いた。
『今のうちにドラゴンになって、あいつを一掃できないか?』
『キュウ……』
『どうしたんだ、ういろう?』
ういろうは困ったように首を振る。
茂みに身を潜めたシーシャが俺に向かって何か叫んでいた。
『ミズキ! その子、体内の魔素が少なくなってるみたいだよ』
『え?』
魔素が少なくなると……モンスターが本来の力を出せなくなるんだっけ。
そう言えばそんな風に説明を受けた気がする!
ういろうの今の力で、鱗バッファローを倒せるのか!?
『キュイ! キュイ!』
『グガガガガガガ!!』
突進を繰り返すバッファローと、それを避けながらブレスを放つういろう。
魔素が少ないういろうが心配だ。このままではジリ貧の戦いになってしまう。
『そうだ! シーシャ! さっきの結界を試せないか?』
『さっきの……って、結界の中を水を抜くの?』
『ああ、なるべくあの鱗バッファローを包むように、大きい結界を作ってくれ』
『わかった! やってみる』
シーシャの結界は、発動までに時間がかかる。
でも、ういろうがバッファローを釘付けにしてくれてる今なら。
『――結界【排水の陣】!!』
戦っている二匹の周囲に、シャボン玉の膜が現れた。
鱗バッファローの巨体をギリギリ包めるくらいの大きさの結界が、水中に生まれる。
『ごめん、この大きさが精一杯だよ……!』
『充分すぎるよ! シーシャ、そのまま鱗バッファローを結界内に留めておくことはできるか!?』
『がんばる! うおおおおおおおーーっ!!』
シーシャは結界を操作しようと気合の雄叫びを上げるが、鱗バッファローが暴れるためシャボンの外にはみ出てきてしまう。
『キュイ! キュイ! キュイ!』
暴走する鱗バッファローの動きを止めようと、ういろうが連続してブレスを放つ。
『ブモモーーン!』
『ツルギちゃん!』
ツルギちゃんはシーシャの頭の上に乗って、大きく吠えた。するとういろうの身体が光り輝く。
ういろうのブレスが一回り大きく、強化される。
『わ! モンスターの動きが鈍くなってきた!?』
『いいぞ! 弱ってるみたいだ』
『キュイ!』
『ブモモォォ』
シーシャは、水から出たら自分は死んでしまうと言っていた。水中の生き物にそれが当てはまるなら、メルヘンチックなシャボン玉の結界も、水棲生物にとっては死の結界だ。
シーシャの作った疑似地上結界で、水のない空間に鱗バッファローを留めておけるなら……!
『グガ……ガガガァァ……』
やがて、鱗バッファローは完全に沈黙し動きを止めた。
『や、やったーーっ!?』
『うわ!? シ……シーシャ!?』
『キュウ~~ッ!』
『ういろうも……!! よく頑張ったな!』
シーシャとういろうが、それぞれ両側から俺に飛びついてくる。
『すごい、すごいよ。あんなにおっきいモンスターを倒しちゃった! 私にこんなことができるなんて思わなかった。ミズキの指示のおかげだよ』
『キュイイイイ~~ッ!』
『ミズキのういろうちゃんも、助けてくれてありがとう』
『ピキュ!』
『モン』
ひとかたまりにくっつく俺たちを見て、ツルギちゃんがうんうんと頷くように身体を上下させている。
モンスターが倒れた安心感と脱力感、それに加えて脳の処理能力を超えるシチュエーションに、俺はその場にドサっとひっくり返った。
『わ!? ミズキ、大丈夫ーー!?』
『キュ~~~~~!!』
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【モンスター情報】
登録名:スイスイギュウ
危険度:S~C
ダンジョン深部、水のある場所に生息。
水中でしか生命活動できないため、水場に入らない限りは危険はない。
ただし一度水中で獲物を見つけたら、弱るまで鋭い突進を繰り返し完全に獲物の動きが止まったところで捕食する。
なお、水の外に引き上げてしまえば討伐は容易だが、SS級のパワーを持つことから通常の方法を使って水から出すのは困難である。
…
食用:可
充分に加熱しての調理が推奨される。
また、臭みが強いため臭み消しの処理は必須。
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【レベルアップ通知】
おめでとうございます!
あなたの探索者レベルが上がりました。
Lv.55→Lv.61
スキル:水中活動Lv.2→Lv.3
パッシブ『水中料理』を獲得しました。
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『いっただきまーす!』
『ピキュ!』
『モン』
無事に遺跡に帰った俺たちは、みんなで円卓を囲んでいた。
鱗バッファロー(実際はスイスイギュウという呼び方があるらしい)を倒したことで嬉しい収穫が二つあった。
ひとつは、スイスイギュウの肉がゲットできたこと。
そしてもう一つは、水中料理のスキルを覚えたことだ。
なんとこのスキルがあれば水中でも地上と変わらない手順で料理が出来るし、出来た料理も水中で食べられる食事になるというびっくりスキルだ。
このスキルがあればシーシャに疑似地上結界を作ってもらう必要もなくなる。
魔力を消耗したばかりのシーシャに、負担をかけなくて済んだのもありがたい。
結界発動の時にまた手を握ってもらえるかもって、期待してなかったと言えば嘘になるけど……。
とにかく、水中料理のスキルを使ってみんなで作ったのが、このスイスイギュウ入り香草鍋だ!
採取した植物のひとつに強い臭み消し効果があったから、スイスイギュウの肉もどーんとぶち込むことにしたのだ。
色とりどりの水中植物の中に浮かぶ真っ赤な肉は、なかなかインパクトがある。
さて、味は……。
『お、おいしーい!?』
『美味い……!』
『ピッキュ!!』
『ブモーーン!!』
臭みの充分に取れたスイスイギュウ肉は口の中でほろりと崩れ、やわらかい。
香草から立ち昇るスパイシーな匂いも肉の風味を引き立てる! 肉汁と香草スープが口内で混じり合えば旨味が何倍にも倍増されて、この上ない絶品だ。
『すごい……これが、料理……!』
シーシャは慣れないフォークとスプーンを使って夢中で食べている。
ツルギちゃんがその様子を満足げに眺めながら優雅に肉を噛み締めていた。
『キュウ、キュイ~!』
『はは、まじで美味いな、ういろう』
ういろうもご機嫌な声を上げてスープを啜っている。
いっぱい食べて、体も魔素もゆっくり回復してくれるといいな。
『今日もありがとう。本当に助かったよ、お疲れさま』
『キュッキュキュ~ッ!』
温かいスープを口に運びながらふと思う。
そういえば、こうやって誰かと一緒に食事した経験なんてほとんどなかった。
「同じ釜の飯を食う」って言葉が世の中にある意味、ちょっとわかった気がする。
誰かと同じ場所で同じものを食べるって、こんなに安心できることだったんだな。
ふと目線が合う。
瞳を輝かせて真っ直ぐに俺を見るシーシャが、花のような満面の笑みを浮かべた。
『ミズキ! こんなに素敵なことを教えてくれて、ありがとう』
『キュ~イ!』
『また一緒に料理しようね。もちろん他の色んなことも!』
また、一緒に。
心臓のあたりがギュッと震える感覚がした。
何度も何度も就職先に採用されなくて。俺はどこからも必要されていないと思っていた。
そんな俺が、誰かに「また」って、言ってもらえるなんて。
『ピキュ~ッ』
『……ありがとう。もちろん』
喉が詰まりそうになるくらい嬉しいその言葉の暖かさを、スープと一緒に飲み下した。
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