第6話.水中グルメを食べよう
俺とういろう、シーシャとツルギちゃんは、水中に広がる森林へと足を踏み入れる。
クジラ、人魚、サメと……足と呼べるものが生えてるのは俺だけなんだけど。
『なんか、不思議な感じだな、水の中に森があるなんて』
『キュイッ』
生えている木はまさに異世界って感じだった。
シルエットは地上にある木そのものなのに、幹や枝の部分は岩っぽいし、葉の部分は海藻っぽい。
『あっ、ミズキ。あれが泡イチゴだよ』
シーシャが指差した方向を見ると、そこには植物の茂みのようなものがあった。
茂みには、ピンクに透き通った実が生っている。形状はイチゴとは似ておらず、いびつな楕円形をしていた。
『さっそく食べられるもの発見~!』
『モーン』
シーシャとツルギちゃんは、指先とツノを合わせてハイタッチをしている。
『おお~、これが泡イチゴかあ』
『ピキュイ』
探索者アプリを使って、さっそく謎の実の情報を確認してみる。
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【システムメッセージ】
該当する情報が見つかりません。
恐れ入りますが、もう一度お試しください。
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『あれ?』
何度か試したが、表示されるメッセージは変わらなかった。
ってことは、これまで発見されてなかった植物ってことか!?
ダンジョン署に申請したら俺が第一発見者になれる!?
『すごいぞ、シーシャ。これは地上にはない食べ物だ』
『ほんと?』
『ところで、なんで泡イチゴっていうんだ?』
『えーと。形が泡っぽいから! あと、味が酸っぱくて甘いから。ドウガではそういう食べ物のことをイチゴって言ってたから、覚えやすいようにそう呼んでたんだ』
なるほど。シーシャがダンジョン動画を見て覚えた知識と自分の感覚を混ぜて名付けた呼び方ってことか。
『すごく美味しいんだよ。ミズキも食べてみる?』
『ピキュ』
『うーん、俺が食べても大丈夫なのかな』
シーシャに食べられるものが、人間の俺にも食べられるとは限らない。
アプリを毒性解析モードにして、もう一度泡イチゴを調べてみる。
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【毒性解析】
結果:毒性なし
毒性は検出されませんでした。
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お? 大丈夫そうだ。
それなら、ものは試し。
『いただきます』
一粒採って齧ると、甘い香りがして酸味が口いっぱいに広がった。
地上のイチゴとは味も触感も全く別物だ。でもクセがあって美味しい。
食感は外側は飴でコーティングされたようにパリッとしていて、中は温めた林檎のようにふにゃっとした歯ごたえ。味は酸っぱくて、香りは甘くてフルーティー。
食べたことのない感覚だから、例えるべき食べ物が浮かばない。
強いて言えばこういう飴菓子もありそうじゃない? としか言えない。
『ういろう、お前も食べられるか?』
『キューイ!』
ういろうはつんつんと額を実に何度か触れさせた。
そうやって食べられるかを判断しているのだろうか。
『ピッキュ!』
『おお、食べた!』
気に入ったのか、茂みの泡イチゴを次々にぱくつき始めた。
泡イチゴの茂みはまだまだ沢山あるみたいだから、満足するまで食べさせてあげよう。
『泡イチゴ、このままでも美味いから、料理の必要はなさそうだけど……』
地上のイチゴは砂糖で煮ればジャムになると聞いたことがあるけど、泡イチゴはどうだろう?
とりあえず、地上への持ち帰り用と料理用とで持てるだけ採取しておくとしよう。
タッパーに泡イチゴを詰める。その間、シーシャとツルギちゃんが「あった!」と次の食材の場所を教えてくれる。
アプリで解析して、安全そうな植物なら採取する。泡イチゴ以外に未知の植物は見つからなかったものの、見つけた植物はすべて料理に使えそうな食材だった。
煮て香草スープにしたら、美味しく食べられるかなあ。
俺は作るなら煮込み料理が好きだ。熱加減が多少あいまいでも美味しくできるからだ。
熱加減……と考えているうちにふと思い当たった。
……水中で、煮込み料理が作れるのか?
地上での料理と同じく、料理用ヒーターの要領で熱を起こせば可能かもしれないが……。
いけるのか? 水中で?
今更な疑問に思い当たってしまった俺は、背景に稲妻でも落ちそうな表情で固まる。盲点だった。
『シーシャ、ちょっと……』
『なあに?』
『いや、俺の知っている料理の方法は、水の外でないと出来ないかもしれないんだ』
『水の外?』
シーシャは少しだけ考え込む素振りを見せた。
『んー……水の外みたいな場所を作ればいいんだよね? 私、出来るかも』
『ほんとか?』
『やってみる。まずは結界を張ってと』
シーシャが両手を掲げると、占いの水晶玉くらいの大きさのシャボン玉が生まれる。
シャボン玉に見えるけど、これが結界なのだろう。
『そしたら、――結界【排水の陣】』
『シーシャ? これは何をしてるんだ?』
『えへへー、もうちょっと』
そう言われても見たところシャボン玉に特に変化はない。
『はい、そしたら次は』
『ん? え? え?』
『じっとしててね』
ふいに、シーシャが細い手指で俺の両手を包み込んだ。その行為もだが、何より柔らかさに動揺する。
いや、指ってこんな柔らかいの!?!? 指だぞ!?
指なら俺にもついているハズなのに、この違いは何なんだ……!?
衝撃に意識を数秒飛ばしている間に、俺の手は淡く光り輝いていた。
『これでよし!』
『あの……これは?』
『ミズキの腕だけ、結界を通れるようにしたよ。結界の中を触ってみて』
言われて俺は、シャボン玉に手を突っ込んでみる。ホントだ、するんと通り抜ける。
そして中は……これ、空気じゃないか?
『どう? 結界の中だけ、水を抜いてみたよ。これで水の外と同じような感じになるんじゃないかなあ?』
『そんな事ができるのか!? すごい、これならいけそうだ!』
『キュッキューイ!』
調理器具の周りに結界を張ってもらって、地上みたいな環境にして……。
そこで煮込んだら水棲香草スープが作れそうだぞ!
ちなみに簡易的な調理器具なら、持ってきた探索セットに入っている。
世の中には水中で料理をするもっといい方法があるかもしれないが、俺が今持ってる道具と知識でやろうとしたらこの方法、シーシャの結界術が不可欠だ。
『ありがとう、シーシャ』
『ふふ、料理楽しみだねえ』
そうだ、彼女が楽しみにしているのは地上の料理。
たくさん食材も取れたし、遺跡に帰ってさっそく調理を試してみよう。
ん……? でも待てよ、疑似的な地上環境で料理を作れたとしても、食べるのは水中でだよな?
水中でスープって食べれるのか……!?
わからん! 食べる方法は作ってから考えればいいか!
『俺たちも楽しみだ。な、ういろう』
『キュッキュッ』
『ツルギちゃんも、ありがとな』
『ブモモーン』
さあ帰るぞという雰囲気になった時、突然、周囲の木々が激しく揺れ始めた。
『な、なんだ!?』
『キュウウウーイ!!』
ういろうが一瞬で臨戦態勢に入る。
目の前の木が、轟音を立てて崩れ落ちていく。
水中の木々をなぎ倒して現れたのは、巨大なバッファローのようなモンスターだった。
今更ですがツルギちゃんのモデルはミツクリザメです。
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