表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水中世界のデレリクト  作者: 雪峰
2ダイブ目
PR
28/29

第26話.真珠の薬

『……キュ』


 呆然と画面を見つめる俺の傍に、いつの間にかういろうが寄り添っていた。


『ういろう……? そうだ、皆はどうなって……!』

『キュイ……』

『……ういろう?』


 ういろうは泣いていた。

 泣く、という表現が正しいかは分からない。

 体を震わせ、嗚咽を漏らすかのように鳴き声を漏らす姿が、俺にはそう見えた。


『大丈夫か、どこか痛いのか……!?』

『ピ、ッ……キュイ、……ッキュ、イ……』


 震える背を、ゆっくり撫でる。

 落ち着くまで、何度も。


 ういろうの瞳と視線がぶつかる。小さな小さな瞳の奥に、深い哀しみを見た。

 ういろうは、今何を思っている?


 目の前にいる相手の言葉を、心を知ることが出来ないのがもどかしくて、喉の奥が苦しくなる。

 その時、入り口の方から激しい衝突音がした。


『……っぐあああ!』

『あの声は!? ルリカさん!?』


 ういろうを連れて結界の入り口に戻ると、ルリカさんが瓦礫を吹き飛ばして立ち上がるのが見えた。


『平気ですか!?』

『ははっ、これくらいはまだ余裕。それより、調査は順調?』

『……それが』

『あいつの正体。手がかりは見つかった?』


 濁った水の奥に湧き出でる怨霊めいた襲撃者たちを見る。


 彼らはきっと、かつて水中都市を造り、そこで生きようとした人々の成れの果て。

 理想が叶わなかった無念を纏って、水の底にたゆたう存在。


『……ここは、あの人たちのものだったんですね』


 俺が勝手に棲みついて、家だと執着していたものは。

 きっと彼らの楽園になるはずだった場所で、夢の残骸だ。


『この場所で、かつて何があったのか、記録を読みました』


 俺が話を始めると、モンスターたちの動きが少しだけ鈍くなる。


『あなたたちは、元は人間……と言っていいのかわからないけど、それに近い種族だったはず』

『……!』


 ルリカさんが顔色を変える。

 俺は視線を別の場所に向ける。

 そこには、折り重なるように眠るシーシャ、ツルギちゃん、ケルピィがいた。


『そして、たぶん……水中で出会った皆が、そう』

『……ミズキ、それはつまり……』

『ああ。シーシャも、ツルギちゃんも、ケルピィも。真珠の薬を服薬した者だと……思う』


 ルリカさんは困惑の瞳で俺を見た。

 俺は傍にいるういろうの背を撫でて言う。


『ういろう……お前も、そうか?』

『ピキュ……』


 ういろうの身体から、淡い白色の光が溢れる。

 何度か見ていたから、何が起きるかは分かっていた。

 優雅な(ひれ)の生えたドラゴンが、俺の目の前に現れた。


 途端に、成れ果てたちが異質な叫び声を上げる。

 それは呪いの言葉のようであり、口々に責め立てる罵声のように聞こえた。


【おもい だした】


 ういろうから放たれる光の中で、脳裏に言葉が響く。

 直感でわかった。ういろうの言葉だ。


【まもれ なくて ごめん なさい】


 ドラゴンの姿をしたういろうの身体から、虹色の光の波が放たれる。

 広がる波は押し寄せる成れ果てたちを包み、水中を遥か先まで照らす。


 不気味に濁った水が少しづつ澄んでいき、見慣れた景色を取り戻すまで、ういろうは静かに涙を流すかのように光を放ち続けていた。


 その理由は、残りの解析記録からその後明らかになった。



===============

計画の成就を祈願して、都市の礎となる子を生ける神とし祀る

対象の子供は選別済み


この子が守護神となり都市を守ってくれるであろう

我らが新たな地に繁栄あれ

===============


『……これって、要は生贄ってこと!? 水中に都市を造れるほどの文明が、なんでそんな悪しき伝習に逆戻りしちゃったかねえ……』


 記録を読んだルリカさんは、そう言った後しばらく絶句していた。


 ういろう本人は、反乱(リベリオン)中の出来事をまったく覚えていないようで、元気いっぱいになって俺の手から魔素キャンディーを食べている。

 その方がういろうにとって笑顔になれるなら、それでいいのかもな。


『いやー、それにしても、大発見をしちゃったなあ』

『……ルリカさん』

『ん?』

『これから、ここはどうなるんでしょうか』


 ルリカさんは大袈裟に飛び上がると、俺にずいっと顔を近づけた。


『そりゃ、タダでは済まないよ! これがどれだけ貴重な発見かわかってる!? ダンジョン学会、いや、世界中がひっくり返っちゃうよ!』

『あはは……大変ですね』

『なにを他人事みたいに!』


 今回の件がどれほど重大なものかを熱弁した後、ルリカさんは我に返って小さな声で呟いた。


『……ごめん。君の心配事はわかってるよ。ミズキは、ここを家だと言ったよね。家がなくなることを、恐れているんだね』

『……はい。正直に言うと、そこが一番心配です』


 勝手なことを言ってるのはわかってる。

 それでも、あの場所は、俺にとっても大切で。


『その気持ち、無視するわけにはいかないよ。アタシと美々は、幼い頃に両親と家を失ったことがあるから、同じ思いにさせたくないんだ』


 ルリカさんは瞳を細め、そして言った。


『アタシ、考えたんだ。あの遺跡を引き続き国が調査するにしろ、案内役は必要だよね。水中で活動できる、ね』

『ん……?』

『アタシも君のスキルを借りないとここに来れないし、アタシ個人としても長期契約を結びたいくらいだし、まあ、それは追々として』

『ん、ん?』

『水中にダンジョン署を作れるように、提案しちゃおっかな! もちろん署長はミズキ、キミね!』


 なんだって?

 人生でこれ以上驚くことはないと思っていた。


『大丈夫! アタシもミズキも、世界をひっくり返す大発見をした偉人だから!』


 甘かった。ルリカさんの言ったことが実現した時、もっと驚いたのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ