第25話.防衛戦2
暴走するクラーケンを倒し、勝利に喜びの声を上げたのも束の間。
水中一帯が禍々しい黒に包まれていく。
不気味な漆黒は濁った水の中にあっという間に広がり、俺たちの視界を塞ぐ。
『なにも見えないよ!?』
『主様ー!? いずこに!?』
両脇からシーシャとケルピィが飛びついてくる。俺はここだと主張する声に重なって、前線で戦っているルリカさんの声が響いた。
『みんな、結界の外には絶対に出ちゃダメだからね!』
『ルリカさん! これもダンジョンの反乱の影響ですか!?』
『いや……アタシの勘だけど、モンスターのスキルの気配を感じる』
黒い視界はモンスターが原因なのか?
隣にいるはずのシーシャの顔すら見えないほどの不自然な闇だ、かなり厄介そうだ。
『こういう時は、元凶のモンスターをさっさと叩きたいんだけど……マズいな。アタシは細かい探知はあんまり得意じゃないんだよなあ』
ルリカさんがそう呟くと、ブモ、と近くで声がする。
『あ! ツルギちゃん!?』
続けてシーシャの声。おそらくシーシャの傍にいたツルギちゃんが、ルリカさんを加勢しに飛び出していったのだろう。
『そうか、探知スキルを持つツルギちゃんなら……!』
目くらましの暗闇など、無いも同然だ。
それにしても、辺りが黒に染まってから妙に頭痛がする。
なんだか、少し気持ち悪い……。
『キュキュ……』
『ういろう……大丈夫か?』
光のない黒の中で、ういろうが手に頭を擦り寄せてくる。
その声はどこか苦しそうで、元気がない。
『これはなに……? すごく、悲しくて、胸のここが……痛い……』
『わ、我もだ……頭がぼうっとする……』
『プルウィア、皆の不調を確認。非常に心配』
奇妙な心地になっているのは俺だけではないようだ。
この感覚は、いったい何だろうか?
暗闇に閃光が走る。恐らく、ルリカさんの攻撃だろう。
墨色が少しずつ薄くなり、視界を取り戻していく。
『おい、どうした!? 大丈夫か!? ……もう、何が起きてるんだよ!?』
すぐにルリカさんが異変を察知し戻ってくる。腕の中にぐったりとしたツルギちゃんを抱えて。
シーシャとケルピィは意識を失ったかのように目を閉じている。
ういろうは、弱々しく俺の手のひらに身を寄せており、プルウィアとルリカさんだけが何ともなく困惑を滲ませた目で俺たちを見ていた。
『しっかりしなって、』
叫んだルリカさんの瞳が大きく見開かれる。
同時に、ひどく禍々しい気配を感じて、全身に鳥肌が立った。
闇が晴れた奥に、黒く歪な”何か”が形を成そうとしていた。
咄嗟にルリカさんが振り向いて雷撃を放つ、
しかし、真っ黒な蛆あるいは霧のようなそれは、激しい閃光に散ることなく、収縮し凝固し深く結びついて、存在をより強めた。
『ミズキ!!』
名を呼ばれ、弾かれたように全身がそちらを向く。
ルリカさんが必死の形相で俺に何かを伝えようとしていた。
『アタシの装置の、解析結果を見てほしい! この状況の手がかりがないか、少しでも情報を探すんだ!』
『それって、遺跡内部の機械から得た情報ですか!? あそこには一体何が……』
『反乱のおかげで、少ししか目を通すことができなかった……! でも、わかったことは、ここにはかつて文明が在ったんだ』
『え?』
『いや、”在ろうとしていた”が正しいのか……? とにかく、それ以上は解析結果を! こっちは全部アタシが引き受けるから!』
『わ、わかりました……!』
何が何だかわからぬまま、思考を置き去りにし身体を動かし、俺は家の中へと向かう。
解析装置の置き場所はすぐに分かったが、見知らぬ機械のためうまく操作できるかは自信がなかった。
『とはいえ起動して中身を見るくらいなら……俺でも何とか……!』
画面上に緑の文字が踊り、安堵する。
しかし、書かれていた内容を読み進めていくうちに、安堵は困惑に変わった。
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【Project:RYUGU】
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『なんだ、これ……? 何かの計画なのか……?』
保存された記録を、目で追っていく。
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もはやこの地上に人類の住める場所はない
我々は水の底へ最後の希望と安寧を求める
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そこに記されていたのは、水中都市への大規模な移住計画だった。
地上の環境の変化、そこから生じる土地の奪い合い、飢え、病……。
これを記録した”彼ら”がなぜ滅亡を迎えたのか、
どうやって、わずかな生存者が生きられる場所を求めてこの水中の地へ降り立ったのか、
そういったことが、淡々と記録されていた。
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水の世界は我々を歓迎しない、我々は水中で生きることが出来ない
なら、我々の方を作り変えてしまえばいい
『真珠の薬』によって
Archive:真珠の薬
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続けて、真珠の薬にまつわる記述を読んだ時、俺は言葉を失っていた。
そこには、薬の力で水中に適応する生き物となったこと、その後の暮らしと崩壊について書かれており、後半の記録は文章が支離滅裂になっていた。
薬を飲んだ者全員に、副作用が訪れたらしい。
それは、知性を失った異形となる作用で、何人とも逃れることは出来なかった薬の過ちである――と、隣人、家族、友人らが異形の姿に変容していく苦悩の記録が事細かに綴られていた。
最後の記録は、
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からだが とける
わた■ だ■だ ね
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『異形……って、まさか』
俺たちがダンジョンで戦ってきた、そして今まさに戦っているモンスターなのか……?
再開までお時間を頂戴しており大変申し訳ございません。
再び読んで頂けた方、ここから読むよという方、また不在にしていた間に閲覧頂いた方やリアクション等を送っていただいた方、本当にありがとうございます。
最終話まで一気に更新をさせていただきます。




