表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水中世界のデレリクト  作者: 雪峰
2ダイブ目
PR
29/29

第27話.エピローグ:楽園に寄せて

【あるダンジョン庁新人職員の報告】


 はい、行ってきましたっ! 水中ダンジョン署!

 いやー、本当に不思議なところでしたね!


 まず建物の外観が自由過ぎて……いや内観もですけど、ぶっ飛んでますよね。

 職員の人魚さんの趣味? えー羨ましい。うちでもあんな感じに……冗談ですって!


 あと、食べ物が美味しいですねー! え? 御馳走になったのかって?

 固いこと言いっこなしですよ。署長さん直々の手料理、本当に美味しかったです!

 あれを地上でも出したら、水中の食料がもっと人気になるんじゃないでしょうか!


 最終的に職員さんみんなで食卓を囲んで食べたんですよね。

 サメの方とか水棲馬の方とかゴーレムの方とか、色んな方がいて、賑やかでした。


 あと、なんと言っても……ういろうちゃん! やっと実物を見れて感動しました!

 ほんとに署長さんと仲良しですよね、微笑ましくて寿命三年は伸びましたよ!

 

 え? 趣旨から逸れた報告ばかりって……やだなー! 遊んでたわけじゃないですよ!

 その証拠に報告書をめちゃくちゃ丁寧にまとめて来たんで! 詳しくはこれをどうぞ!


 では、休憩入りまーす!





東雲 瑠璃佳(しののめ るりか)の執務室】


「あはは、今年の新人研修レポート、面白いのがあるじゃないか」


 PC画面に映る文字列を見て、ルリカは小さく笑い声を漏らした。


「どうなるかと思ったけど、上手く回ってるみたいだ。それに、」


 ルリカは署長となったばかりの男に抱負を尋ねた時、返ってきた言葉を思い出す。


 ――俺たちは変わりませんよ。


「本当に、変わらず楽しそうな生活をしているんだね」


 ルリカも家族が無性に恋しくなって、メッセージアプリで妹の宛先をタップした。





【水中ダンジョンのとある場所にて】


 花を手向ける男の後ろ姿に、少女の声がかけられる。


『ミズキ! ここにいたんだ!』

『シーシャ。お疲れ様』

『もうすぐご飯の時間だよ、今日は一緒に何を作る? あ、それとね、ミッチさんとヒナナちゃんのところから貰ったお菓子もあるし、あとね、チョーの人からもらったチョコ? っていうも気になるなあ』

『え、庁の人? 誰から貰ったんだ?』

『たまに来る眼鏡の人。今日は、ドーガの撮り方を教えてもらったんだ』

『そ、そうなのか』

『うん! ……どうしたのミズキ、おでこがキュってなってるよ?』


 男の眉間の皺を、細い指がそっと撫でる。


『あ……い、いや、ごめん。その……』

『ん~?』

『……ほら、水中にたくさん人が来るようになっただろ。それでシーシャも、俺以外に色んな人と話すようになって……俺が教えなくても、色んなことを知るようになって、それで、それが……なんか……』


 美しい顔にぱあっと花の笑顔が浮かぶ。


『わかった! ミズキ、”さみしい”んだ!』

『え、ちょ、そんなハッキリ言われると恥ずかしいというか……』

『私も、ミズキが他の人といて一緒にいられなかった時、さみしかった。だから、おんなじ気持ち、うれしい』

『本当に?』

『もちろん!』


 そう言うと男の両手を取って、指同士を軽く絡める。


『わたし、うれしいよ』


 男の顔が炎のように赤く燃え上がり、しばしの沈黙の後に、躊躇いがちに言葉が零れる。


『……シーシャは、』

『うん』

『たくさんの人に会って、俺以外の人といる方が良い、って思うことはないのか?』


 穏やかな笑みと共に、優しい声が紡がれる。


『あのね、私がミズキと一緒にいたいのは、ミズキが初めて会った人間だからじゃないよ』

『え……』

『ミズキが何番目に会った人間でも、きっと私はミズキといちばん一緒にいたいって思うようになってた。一緒にいたいの。他のどんな人よりも、ミズキと』

『あ、は、はい……俺も、よろしく、お願いします……』


 火で炙られた鉄のように赤面しながら、男が確かにその手を握り返す。


『あのね、人間には、こういう時のための言葉があるんだよね』

『ん……?』

『一緒にいたい、って気持ちがぎゅーって高まった時に、言う言葉。スイレンさんが教えてくれたの。でも、なんて言葉かは教えてくれなかった。ミズキに直接聞くのがいいんだって』

『スイレンさんと何話したの!? じゃなくて、えーっと……?』

『なあに?』


 男が耳打ちすると、少女の顔もたちまち桜色に染まった。


『そ、そうなんだ……? わー、また教えてもらっちゃった! なんか、顔、あついね、あはは……』

『シーシャは?』

『え、え?』

『言ってくれないのか? それを言うために、聞いたのかと』


 赤面する顔が至近距離に二つ。


『な、なんだろ? 急にあつくて、恥ずかしくなってきちゃった……!? なんで……!?』


 戸惑う少女に対し、男は愛おしい存在の初めて見る表情を堪能するかのように視線を注ぎ続けている。


『うう……ミズキ、大好き……!』





 遥か地上からは光が降り注いでいる。

 銀の泡がエメラルドの水面を滑り、水底は静かに世界を包んでたゆたう。

 ゆらゆらと、あらゆる心を、絆を、これまでとこれからを内包して、そこに在る。



 <END>

お読みいただきありがとうございました。諸事情で完結までお時間をいただく作品となってしまったばかりに、ここまで読んでいただいたこと、感謝してもしきれません。本当にありがとうございました。

この作品で少しでもお楽しみいただけましたら作者冥利に尽きます。重ねて深くお礼申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ