第23話.緊急事態と簡単な対処法
遺跡内部の、謎の機械室の調査が始まった。
ルリカさんは記録用カメラや翻訳スキャナー等、色々なアイテムを展開して辺りを調べまくっている。
「キュッ」
「ういろう、色々慌ただしかったけど疲れてないか?」
「ピキュ!」
ういろうを撫でつつ、ルリカさんと機械を見守る。
スイレンさんから連絡があって、こうして調査が始まるまでのスピード感が凄かったから、疲れているのはむしろ俺の方かもしれない。
つぶらな瞳で見つめてくるかわいい相棒を撫でて、癒しを得る。
「キュキュ~」
そうしながら、ルリカさんが言っていた事をぼんやり思い出した。
ダンジョンが、滅びた異世界の残骸かあ……。
機械に残されていた文字のようなもの。シーシャがむずかしいと評し、目の前で解読AIによって暴かれようとしている何か。
それは何者かが残した記録のように思える。
たしかに、”言語”なんてものが残ってるって事は、ダンジョンって文明があったのか?
元はどこか、ここではない遠い世界だった?
考えてもわからないので、大人しく機械が解析を終えるのを待つことにした。
「え…………!?」
ふいに、ルリカさんが短い呟きの後に息を呑んだ。
「どうしたんですか、ルリカさん」
「あ、いや……大丈夫……」
そう告げるルリカさんの顔色は、先ほどとは明らかに異なっていた。
機械はルリカさんが管理しているから、俺からは文字は見えない。
「何が書いてあったんですか?」
「え!? ……んあ~、それが全然、何も。そもそもこれ、文字でも何でもない、ただの模様っぽい? 肩透かし食らっちゃったな~」
機械に残されていたのは文字じゃない……??
うーん? シーシャには多少読めていたように見えたけどな。
「あはは、せっかく調査に付き合ってもらったのに申し訳な……」
「ルリカさん、何か隠してません?」
「ドキッ!」
ルリカさんの顔が強張ると同時に、端末からけたたましい音量のアラートが鳴った。
「ピキュ~!?」
「な、なんだ!?」
ルリカさんは一瞬で表情を引き締め、己の端末に視線を落とした。
「探索者ミズキ! すぐにここを離れるぞ!」
「え、え!? どうしてですか!?」
「―反乱が来る!!」
けたたましく鳴るアラートに背中を押されて、ルリカさんの後に続いて走り出す。
それは本当に、何の前触れもなく訪れた。
ダンジョンの反乱。ダンジョンに潜る際の危険なイレギュラーとして、聞いたことがある。
ダンジョンにはモンスターの侵食を防ぐための、封印がかけられている。
その封印を破ろうとダンジョンが活性化するのが、反乱周期だ。
魔素の暴走や、凶悪なモンスターの出現等、何が起こるかわからない危険が普段以上の凶悪さで襲いかかることとなる。
「で、でもなんで……? あれは深層以下でしか起こらないって聞きましたけど……!?」
「原因究明はあとだ、アラートが出た以上、早くダンジョンの外に向かうぞ!」
反乱はダンジョンの中でしか起こらない。
そしていくら反乱を起こそうとも、これまでに封印が破られた前例はない。
反乱が起きたら、速やかにダンジョン外に退避すべし。
それが探索者に広く周知されている注意喚起だった。
A級探索者であるルリカさんも、真っ先に退避行動を取っている。
「待ってください! なら、みんなも連れていかないと!」
「……! だけど、あの子たちは……」
ルリカさんの言葉が途切れる。俺と同じ事を懸念しているのだろう。
緊急事態なら、みんなをダンジョン外に連れていきたいけど、でもどうやって!?
シーシャの結界があれば、しばらくは水が無くても平気だろうか?
いや、シーシャが魔素の少ないダンジョン外でも結界を張れる確証がないし、そもそも彼女が封印を通れるか不明だ。
ダンジョンの封印を通れるのは探索者か、テイムしたモンスターだけ。
俺の認識している限りでは、シーシャはどちらにも該当しない。
『うわっ……!?』
『キュ!!』
激しい振動で目の前の景色が揺れる。滝壺の水が龍にでも化したかのように溢れ返る。
天地がひっくり返るような衝撃があって、俺たちは遺跡の外、水中に投げ出されていた。
『探索者ミズキ!?』
視界が回る。激しい泡が渦を巻き、自分の身体と共に上昇している。
全身の自由が利かない。押し流される恐ろしさで、頭が真っ白になる。
『主様!!』
視界いっぱいに、青い鬣が靡いて、銀の玉の様な泡粒が舞った。
生存本能でしがみ付いた鬣はフワフワと手足を包み込む。
逞しい尻尾が水を打つ。嘶きと共に渦の外へ飛び出すシルエットを仮に誰かが見ていたら、どこからどう見ても雄々しい駿馬に見えただろう。
視界がクリアに開け、遺跡と宮殿が眼下に見えた。
『主様、無事か!?』
『ケルピィ……!? ありがとう、ほんとに助かったよ……!!』
『ふふん、主様のためなら火の中でも雷の中でも!』
『キュイイ~!!』
飛びついて来たういろうを抱きかかえ、ケルピィの背から周囲の様子を見下ろす。
『急にあちこちで渦が巻いて、危険な輩が現れたのだ!』
『だれも怪我はないか!?』
『ない! だがシーシャ殿の結界がいつまで保つかどうか……』
見れば、ゾンビのように身体の一部が腐った魚たちが、宮殿の周りを取り囲もうとしていた。
全身の皮膚が総毛立つ。ふいに宮殿前で、何かが激しく光った。
魔方陣の光だった。
『探索者ミズキ、巻き込まれないようにこっちへ! 【魔術】ケイモーンの接吻』
いつの間にか宮殿前に立ち塞がっていたルリカさんが、集まったモンスターを一体一体、的確に氷の矢で射抜いていく。
『……万が一に備えて、ヒメにいっぱいスキル借りといて良かったな!』
『ルリカさん!』
退避を提言したルリカさんがなぜ、そこにいるのかと驚く。
そんな俺の疑問などお見通しだというように、ウインクが飛んでくる。
『反乱時、ダンジョンの外に出れない状況だったらどうしたら良いか知ってるか?』
ルリカさんはその手に魔法銃を構えて、豪快に笑った。
『反乱が終わるまで耐久すればいいのさ、簡単だろ?』
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