第20話.旧楽園のプルウィア
遺跡内部をどうやって進んで来たか、記憶がない。
ぴったりと隣で手を引くシーシャの髪も指も柔らかくて、周囲の水が茹ってお湯になるんじゃないかと心配するくらい顔が熱い。
そんな浮かれた頭も、ある部屋に辿り着いた途端、驚いて徐々に理性を取り戻していく。
『な、なんだここ……?』
『キュイ……!』
そこはディストピア未来都市に出てきそうな、現実味と幻想が混じり合った場所だった。
苔と錆のにおいがする。よくわからない機械がびっしりと部屋中に張り巡らされている。
機械はとっくに錆びつき朽ちた見た目をしていた。千切れ、残骸となったコードが虚しく天上から垂れ下がっている。
『すごい……見たことないものがいっぱい。これが水の外の世界?』
『いや、これは俺も見たことない……』
遺跡内部が、どうしてこんな場所に繋がっているんだろう。
これは何の機械なんだ?
『あ! ねえミズキ、何かチカチカしてるよ』
『え?』
シーシャが指差す方を見る。俺たちの入室に反応したのだろうか、機械の一部が緑色に点滅していた。
同時に、部屋の中央にあったモニターが明るく点灯する。
表示されたのは文字だろうか? 見たこともない言語だ。読めない。
『うーん、むずかしい言葉だね。われ、われ……? のらくえんを……?』
『シーシャ、読めるのか!?』
『へんな言葉が混じってて、よくわかんないよ~』
シーシャは画面の文字と真剣に向き合っている。
『えっとねえ……ここには昔、べつの生き物が住んでたんだって』
『別の生き物って?』
『譌ァ莠コ鬘�、だよ』
いつもと変わらない無邪気な口調で、シーシャは言う。
『……えっと。ごめん、シーシャ。何て言ったんだ?』
『あのね、譌ァ莠コ鬘�』
世界で一番有名な塔の話みたいに、神様が急に言葉を通じないようにしたのかと思った。
『……ミズキ?』
不思議そうに俺の瞳を覗き込んで来るシーシャ。
人間離れした虹彩と視線がぶつかる。背筋に冷たいものが流れる感覚があった。
『……キュ!』
『え!? 何か動いてる……!?』
ういろうに呼ばれて振り返ると、朽ちて積み重なった機械の部品が音を立てて崩れるのを見た。
幾重にも重なった電気コードの隙間から、何かが生えた。
青白い、腕だった。
『うわーーーーっ!?』
『ミズキ、大丈夫!?』
俺の叫び声にビックリしたのか、シーシャもつられて叫ぶ。
大丈夫と答えつつも、俺の視線は固まって”現れた腕”に張り付いていた。
腕が瓦礫を掻き分ける。
そうして機械の間から起き上がったのは、人の姿をした何か、だった。
何かと称したのは服を着ていないその姿が、人間と認識するには違和感があったからだ。
胸元に碧い核のようなものが埋められており、髪と肌は真っ白……を通り越して青く透き通っている。
『……気配を察知。……プルウィア、起動する』
人型の”何か”は、機械的な動きで俺たちを振り向いた。
『命令を。プルウィア、次、何作る?』
命令、って何だ?
今のところ敵意はなさそうだけど……モンスターなのか?
警戒しつつ念のためアプリで解析してみる。
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【モンスター情報】
登録名:ウォーターゴーレム
危険度:E
ゴーレム種のうち、水を媒体に作られたものを指す。
人工精霊ゴーレムについては「ゴーレム」の項目を参照のこと。
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『……人工精霊?』
『そうだ。プルウィアは建築用に作られた人工精霊だ。命令をどうぞ』
『いや、命令って言われても……』
遺跡のことが分かるばかりか、謎が増えるばかりで頭が混乱している。
『プルウィアっていうのは、君の名前?』
『その通りだ。プルウィアはプルウィアだ』
『君を作ったのは誰で、そもそもここは……いったい何なんだ?』
『プルウィアにはわからない。その情報は与えられていない』
『ええ!?』
『命令をどうぞ』
プルウィアと名乗ったウォーターゴーレムはその言葉を繰り返すだけだ。
『命令を……どう、ぞ』
『ミズキ……? その子、なんだか様子がおかしいよ……』
『命、令……、を……』
動きを止め、その場に崩れ落ちてしまうウォーターゴーレム。
『ピキュ!』
『わ、大変!』
急いで近づくと、プルウィアは眠っているかのように見えた。
『ねえミズキ、もしかしたらお腹が空いてるんじゃないかな?』
『キュ!』
『きっと、ずっと寝てたんだもん。ご飯を食べたら元気になるかも』
『そうなのかな……?』
シーシャがそう言うなら、ご飯の力に頼ってみるか。
こうして、わけがわからないまま、プルウィアを拠点に連れ帰ることとなった。
『……ここは……?』
『あ! プルちゃん目を覚ましたよ!』
俺たちはプルウィアに食事を与え、彼女(?)に事情を聞くことにした。
『もぐ……これは何だ……? 身体中に力が漲る』
『魔素入りのキャンディだよ。食えそうならシチューもあるから、そっちも食ってくれ』
俺の水中料理スキルは、作った料理が水中でも食べられるようになるという謎スキルだ。
スキルを使って作ったシチューを、シーシャが運んでくる。
『ケルピィちゃんが採ってきてくれた水キクラゲで作った、キノコスープだよ』
『うむ……水キクラゲというものは美味いな』
キクラゲの水バージョンってそれはもうクラゲでは? ややこしいネーミングだな。
『キュイ~』
『もぐ……もぐ……プルウィアはこれが好きだ』
『ほんと? 良かったねミズキ、プルちゃん動けるようになって』
食事を気に入ってくれたのは俺も嬉しい。
正直、謎だらけなプルウィアのことを、どう受け止めたらいいのかという戸惑いはあるけど。
その後色々話を聞いてみたが、プルウィアは何者かに作られたウォーターゴーレムで、建築の役割を与えられていたということ以外は何もわからなかった。
『プルウィアは……何を作ればいい?』
『建築が出来るんだっけ? 食事が終わったばっかりだし、ゆっくりしてていいよ』
『プルウィアは、建築用として作られた。作られた意義を全うしたい』
『そ、そこまで言うなら……』
人工精霊の少女にじっと見つめられて、俺は拠点を見渡した。
ひび割れた石の円卓が真っ先に目に入る。これまで散々お世話になった団らんの場所だ。
『じゃあ、試しにこの円卓を修繕するとか……出来るか?』
『お安いご用』
プルウィアの両手が緑色に発光する。ボロボロの円卓も同じ色に包まれ、光が消えた時には、そこには見違えた姿の円卓があった。
見た目は石……のようで、見た事もないような材質をしている。
『え!? プルちゃんが作ったの!? すごーーい!』
『キューーイ!』
まるで古代の王様のお城にでもあったんじゃないかってくらい、豪華な円卓だ。
今の一瞬でこんなに大掛かりな円卓のクラフトを……!?
ますます何者なんだ、プルウィア……??




