第19話.水中遺跡って結局なによ?
俺たちの拠点こと、家のような場所、水中ダンジョンの謎の遺跡跡。
地上でのクエストを追えて水中へ帰って来たはいいものの。
遺跡の祭壇をブチ抜いて広がっている巨大な大穴に、俺は唖然としていた。
何が起こったんだっけこれ。
======回想======
『主様!!! おかえりなさいませ!!』
『うわ危な!?』
ケルピィが飛びかかってきて。次いで、激しい衝突。
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……うん。回想終わり。というか回想に入るまでもなかったな。
普通に俺が帰ってきた事にテンションが上がったケルピィが突っ込んできて、床に激突しただけだ。
祭壇の下が崩れ、そこには重油が詰まった様な真っ黒な穴が大きく広がっている。
『なになにー!? ここから中に入れるの?』
『ブモ……』
シーシャが、好奇心を湛えた尻尾をぴこぴこ揺らしながら近づいてくる。
『い、いやいや!? 中がどうなってるか分からないんだから危ないって……!』
『? 洞窟じゃないの?』
『なんで、遺跡の中に洞窟が……?』
『じゃあお部屋?』
『キュ?』
俺は遺跡に出来た穴をまじまじ見た。
不思議な遺跡だと思っていたけど、この先に何かがあるんだろうか。
ちなみに、いま遺跡跡にあるものと言えば、崩れた祭壇に円卓、ダンジョン用の簡易調理キット。
ワカメの雑魚寝スペースとネブクロガイの寝具。
以上だ。
もともと家具にこだわらない生活をしてた人間と、ダンジョンに棲みついてた生き物で住んだらそりゃこうなるよな、と言わんばかりの必要最低限のラインナップ。
『主様……我が穴の様子を見て来ようか……?』
穴を出現させたキッカケになったケルピィがおずおずと言う。
気にするなとたてがみを撫でながら、俺はシーシャ達を振り向いた。
『うーん……ツルギちゃんは探知能力で危険なものがわかるんだよな? 危険がないか、一応調べて欲しい』
『ブモ~』
シーシャの腕の中に居たツルギちゃんが答える。ツノを淡く光らせながら、シーシャと俺を交互に見た。
『えっ、なあにツルギちゃん? ……ミズキは大丈夫だけど、私たちはだめなの? なんで~!?』
『俺だけ大丈夫ってどういう状況なんだ……? まあいいか、それならちょっと見て来る』
『ピキュ~!』
好奇心旺盛なシーシャ達がこのまま穴をスルー出来るとも思えないから、ここで取る行動は調べる一択だ。
俺的にも、拠点に謎の穴が開いたままなのも落ち着かないし。
『……むう』
『主様、お気をつけて!』
真っ黒な穴からは、行き先の情報が何もわからない。
ダンジョンのボーナスフロアに通じる入り口に少し似てるかもと思った。
『うわ……っ!?』
『ピキューッ!』
穴をくぐると、どうやらそこは滝だった。というのも、物凄い勢いで上からの水流に押されているからだ。
深い滝壺へ落下して、やっぱり滝じゃんと確信する。
水中には何もなさそうだったから、水面へ上がってみる。
……ん?
「……水面がある! っていうことは水の外……? なんで、水中遺跡に水の外みたいな環境があるんだ……?」
「キュ~?」
「というかここ、どこだ?」
水中活動スキルが発動していない。なら、ここは地上と同じような環境で間違いない。
どこか別の場所にワープしてしまったんだろうか? でも、壁を這う水草や床を覆う苔は、水中遺跡で見たものと全く同じだ。
水草や苔に覆われた石畳の道の先は、どこかに繋がっているようだった。
この先も気になるけど、その前に元に戻れるかの方が気になる。
「ちなみに、帰り道って……」
滝の傍に梯子があったので、それを登って落ちて来た場所まで戻る。
……すると。
『おお? 戻って来れた』
『キュイ!』
『わ! ミズキおかえり、どうだった?』
シーシャとツルギちゃん、ケルピィがそこに待っていた。
俺は穴の中にはなぜか、水がないことを説明する。
『そっか……ミズキと一緒に行けない場所なんだ』
『キュ……』
『ミズキと、ぜんぜん一緒に行動出来てない……さみしい……』
シーシャがしおしおと元気をなくしている。
落ち込んでるのはかわいそうだし申し訳なさはある、けど、か、かわいい。
『……そ! そうだ! シーシャは水のない空間を作る結界を張れただろ?』
『うん』
『あれの逆で、水のある空間の結界で自分を包めば、水のない場所を進むことって……出来たりしないか?』
『んん~……それなら普通に結界を張れば、出来るのかなあ?』
シーシャは自分の周りにシャボン玉の結界を作り上げた。
『えいっ。このまま進んでみたらいけるかも、ってことだよね?』
『ああ。でも、無理はしないでくれ』
滝壺という水場があるから、万が一失敗しても即死ではないだろうと思っての事だ。
『ケルピィちゃんも一緒に行く?』
『ふむ……中に危険が無いのなら、我は片付けをして待っていようかと!』
ケルピィは自分の突進で散らかしてしまった石片を見て言う。
『いいのか? ありがとうなケルピィ』
『ふふん、シーシャ殿は主様と早く会いたがっていたからな。水入らずな時間を過ごして来たら良いぞ! 水のない空間だけに!』
どこで覚えて来たのかもわからない言葉を、ケルピィは得意げに言い放った。
『うわ~!? ほんとうだ! ここ、水がないよ!?』
「キュッキュィ」
結界とともに大穴に降り立ったシーシャは、瞳を見開いて辺りをきょろきょろと見渡した。
その腕にツルギちゃんの姿はない。今回はケルピィと留守番に回ることにしたようだ。
「うん。結界も大丈夫そうだな」
俺からは、シャボン玉に包まれたシーシャがふわふわ浮いているように見える。
このまま道の先を探索してみようかとシーシャに声を掛けたが、シーシャは不思議そうに首を傾げるばかりだ。
『え~いっ』
「うわ!? シ、シーシャ!?」
シーシャはシャボンの結界ごと俺に飛びついて来た。たちまち体が発光して、シャボン玉の中に取り込まれていく。
気付けば球体の水に囚われた空間で、俺はシーシャに抱き着かれていた。
『え!!???』
『もー、ミズキの声が聞こえないんだもん。だから結界の中に呼んじゃった』
『はい!?』
『良かったあ、これでお喋りできるね。一緒に探検しよ?』
ぴったりとくっ付いてくるシーシャの髪が頬をくすぐる。
『探検……はいいんだけど、ちか、近くないか!? ……うわわっ!?』
『ミズキ!?』
「キュ~~……」
密着してくるシーシャの腕に驚きすぎて悲しくも反射的に距離を取ろうとしてしまい、その瞬間。
俺は結果の外、遺跡の床にひっくり返っていた。
『も~っ、結界の中は不安定なんだから、じっとしてなきゃだめだよ』
シーシャがシャボンの中、白く美しい手をこちらに差し伸べている。
『あ……ハ、ハイ』
『ちゃんと掴まっててね』
動揺のあまりカタコトしか発せなくなっている俺に、シーシャは優しく微笑む。
柔らかい手指を握ると結界の中へ戻された。
シーシャの距離が、近い……!! 物理的にものすごく。
もしかして、このまま遺跡内部を探索する流れ……?




