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第十六話


ゼジルさんは私に酷い事をせずに去っていった。

こんな事は初めてだ。

あの人が降りてきて痛めつけられなかった日なんて今まで無かったのに。


それに、行動が謎だった。

私の頭を・・・撫でていた?

触れる事すら汚らわしいって言ってたのに。

もしかして、私が眠っている間に魔法でも掛けたのだろうか。

きっとそうだ。

そうじゃないとおかしい。

だって。


「・・・・・・ぐすっ」


涙が止まらないだもの。

色々な感情がごちゃ混ぜになってよく分からない。

あの人に撫でられている時。

どうして私はあの人をご主人様だと思ってしまったの。

夢にご主人様が出てきたから?

ご主人様と同じ撫で方だったから?

ご主人様と同じ優しさを感じたから?


違う!

ご主人様は私に酷い事しない。

ご主人様をあんな人と一緒にしないで。


一瞬でもあの人をご主人様と思ってしまった自分に怒りが沸いてくる。

なのに。

どうして。


悔しいのに。

憎いのに。


嬉しい?

悲しい?


なんで私はそう思ったの?

分からない。


嫌いだ。

私はあの人が大嫌いだ。











誰かの泣き声が聞こえて目が覚める。

いつの間にか寝てしまっていたようだ。


この泣き声は・・・もしかしてランちゃん?

もしかしてあの人が。

ランちゃんがいる牢屋に目を向けると、鉄格子の扉が開いていて、近くに見慣れた袋がある。

やっぱり。

ランちゃんが泣くまでやるなんて。

でも・・・私には何も出来ない。

以前、ランちゃんがあの人に酷い事をされている時に、ランちゃんの苦しそうな声に耐え切れず私はやめて、と叫んだ。

するとあの人は邪魔をするなと言い、ランちゃんをさらに痛めつけた。

そしてその日はランちゃんだけで満足したのか、私はほとんど痛めつけられなかった。

私が代わりになろうと思っていたのに、逆効果だったんだ。

私はランちゃんに謝った。

ランちゃんは平気だからと言って許してくれたけど・・・。


それからは、ただ耳を塞いで私の番が回ってくるのを待つだけ。

何も出来ない自分が悔しい。

無力感に苛まれる。


ごめんね・・・ランちゃん・・・。











ランちゃんの泣く声が聞こえなくなったと思ったら、リラーフさんも降りてきていた。

リラーフさんが微笑ましそうにランちゃんの居る牢屋の方を見ている。


そ、そんな。

もしかしてリラーフさんもあの人と同じ趣味なの?

信じてたのに・・・。

私を治してくれたのはその為・・・?

もしそうだったら、私は何も信じれなくなってしまう。


「リ、リラーフさん」


「・・・リラーフさん、こんにちは」


「こんにちは、ランちゃん。楽しそうだね」


ゼジルさんとランちゃんはリラーフさんが居た事に気付いてなかったみたい。

それより、ランちゃんの声色がいつもと違った。

リラーフさんの言う通り、楽しそう。

どうして?

さっきまで酷い事されてたんじゃ・・・。

頭が混乱してくる。


「リ、リラーフさん!ここ開けとくからランの包帯を交換してやってくれ!」


ゼジルさんは焦った様子でリラーフさんに袋を預けると、すごい早さで階段を上っていった。

ど、どういうことだろう。

ますます頭が混乱してくる。

包帯を交換?

包帯って多分、目の事だよね。

ランちゃんの心配をしてるのかな。

でも、ゼジルさんがそんな事するわけないし。

なら、交換しないといけないような事が?

大丈夫かな。

聞いてみよう。


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